向かい風と追い風、釣りではどちらが有利か

サーフに立つと、昼は向かい風、夜は追い風になりがちです。それには理由があります。風が水の中に何を起こすのかを調べ、投げやすさと釣りやすさが逆を向く場面を整理しました。

この記事の見出し

大洗のサーフに立つと、昼は顔に風が当たり、夜は背中から押されることが多くあります。同じ場所なのに、時間帯で風向きが入れ替わる。

この記事では、海に向かって立ったときに正面から吹いてくる風を向かい風、背中から吹いてくる風を追い風と呼びます。

これには理由があります。そして「投げやすいのはどちらか」と「釣れやすいのはどちらか」は、必ずしも同じ答えになりません。

この記事は調べて書いたものです。私自身が風向と釣果を記録して比べたわけではないので、最後の判断のところは推測として書いています。

なぜ昼と夜で逆になるのか

海陸風という現象です。

陸と海では、暖まりやすさが大きく違います。Wikipediaの解説によれば、海面水温の昼夜の差は平均0.2度ほどなのに対し、地面の温度は昼夜で20度を超える差が出ることもあるとされています。

昼は陸のほうが暖まります。暖まった空気は膨張して軽くなり、上昇する。その抜けた場所を埋めるように、海から空気が流れ込みます。これが海風です。

夜は逆で、陸のほうが早く冷えます。相対的に暖かい海の上で空気が上昇し、陸から海へ空気が流れ出す。これが陸風です。

大洗のサーフは太平洋に面していて、海は東側にあります。だから、

時間帯風の名前風向海に向かって立つと
昼海風海から陸へ(東寄り)向かい風
夜陸風陸から海へ(西寄り)追い風

体感と一致します。

なお、海風のほうが陸風より強くなります。気象の解説では、海風の高さが数百メートルから1000メートル程度、陸風は400メートル程度と、規模そのものが違うとされています。昼の向かい風のほうが強く感じるのは、気のせいではありません。

そして風が入れ替わるときには、一時的に風が止まります。朝の朝凪、夕方の夕凪です。

ただし、海陸風がはっきり出るのはよく晴れて、気圧配置による風が弱い日です。低気圧が近いときや曇りの日は、陸と海の温度差が大きくならないので目立ちません。台風が近い日に「夜なのに向かい風」ということが起きるのは、そのためです。

風は水の中に何を起こすのか

ここからが本題です。風が釣りに関係するのは、投げにくさだけではありません。水の中が変わります。

表層の水が動く

風が水面を吹くと、摩擦で水が引きずられます。これを吹送流と呼びます。

向かい風(海から陸へ)なら、表層の水は岸に向かって運ばれます。追い風(陸から海へ)なら、表層の水は沖へ出ていきます。

このとき見落とせないのが、出ていった水の代わりに、どこかから水が来るということです。

沖向きの風は、冷たい水を連れてくる

表層の水が沖へ運ばれると、その分を埋めるために下層の水が持ち上がってきます。これを湧昇といいます。

同じ太平洋岸の実例があります。千葉県外房の沿岸を調べた報文によると、夏に強い南風が吹くと、翌日はほぼ必ず水温が低下するとのことです。素潜りの海女が海に潜れなくなるほど冷えることもある、と書かれています。夏に発達する成層のもとで、岸に平行な強い風が表層水を沖へ運び、その後に下層から低温の水が補給される、という仕組みです。

これは岸に平行な風の例ですが、表層の水が沖へ出ると、冷たい水が下から来るという構図は同じです。

夏場、追い風が続いた翌日に水温が下がっているとしたら、これが効いている可能性があります。釣り人にとっては「追い風は投げやすい」だけの話ではないということになります。

岸向きの風は、水を寄せる

逆に向かい風は、表層の水を岸に押しつけます。

浮いているものは表層の水と一緒に動きます。プランクトンや、遊泳力の弱い小さな生き物は、風下側に集まりやすくなる。それを食べるベイトが寄れば、シーバスも寄ります。

ただし、ここは私が確かめたわけではありません。「風が当たる面にベイトが溜まる」という話は釣りの世界で広く語られていますが、それを数値で確かめた資料は見つけられませんでした。吹送流の向きから考えて筋は通る、というところまでです。

あとで調べて分かったのは、風が水面に、風向きと平行な筋を何本も作ることです。水面のすぐ下に回転の向きが交互に入れ替わる渦の列ができ、渦と渦のあいだの、水が沈み込む線に浮いているものが集められます。泡やゴミが風向きに沿って並ぶのはこのためです(ベイトの居場所を決めているもの)。集まる先は、岸ではなく風向きに沿った筋です。

水位も動かします

風は、水位も押し上げます。ただ、外洋に面した岸では、その効き方は小さいようです。小名浜で10年分の潮位を調べたところ、潮位表とのずれのばらつきの6割は気圧で説明でき、残り4割のばらつきのうち、風を入れて説明できたのは1割弱でした(潮見表はどれくらい外れるのか)。風向きで水位が大きく変わるのは、東京湾のような湾の奥です。南寄りの風が続く日は、湾奥の水位が高くなります(湾の中と外で潮見表の外れ方を比べた記事)。

波が立つ

向かい風は波を立てます。波が立つと、

  • 水中が濁る。砂が巻き上げられ、視界が悪くなります
  • 水面が乱れる。上から見下ろす鳥や、下から見上げる魚にとって、見え方が変わります
  • 酸素が溶け込む。水面が攪拌されるためです

濁りと水面の乱れは、魚にとって身を隠しやすい条件でもあります。警戒心が下がって、ルアーに口を使いやすくなる。これも広く語られている話です。研究で分かっているのは、濁ると遠くのものから先に見えなくなること、そして小魚にとって濁りは隠れ家になることまでです。シーバスの成魚で、濁りと食べ方を調べた研究は見つかっていません(濁りの記事)。

投げやすさのほうは、計算できます

ここは数字が出せます。飛跡シミュレーターで計算した結果です(26 gのルアー、初速30 m/s、PE1号、スピニングリール)。

風飛距離無風の飛距離に対する割合
追い風 10 m/s77.2 m121%
追い風 5 m/s71.5 m112%
無風63.7 m100%
向かい風 5 m/s54.6 m86%
向かい風 10 m/s44.7 m70%

向かい風10 m/sで無風の70%、追い風10 m/sで121%。同じ風速でも、向かい風で失う量のほうが追い風で得る量より大きくなっています。空気抵抗が相対速度の2乗で効くためです。詳しくはルアーが飛ぶ距離を式で書くに書きました。

飛距離だけを見れば、追い風が有利なのははっきりしています。

有利さの向きが、逆になっている

ここまでを並べると、こうなります。

項目向かい風(昼の海風)追い風(夜の陸風)
飛距離不利(10 m/sで70%)有利(10 m/sで121%)
ラインの扱い手前に押されて操作しにくい送り込みやすい
表層の水岸へ寄る沖へ出る
水温—湧昇で下がることがある
波立つ。濁りと酸素が増える収まる

投げやすさと、水の中の条件が逆を向いています。追い風は投げやすいけれど、水を沖に持っていく。向かい風は投げにくいけれど、水を岸に寄せて波を立てる。

「向かい風の方が有利」と言われることがあるのは、この後者を指しているのだと思います。ただし、飛距離が30%落ちた状態で、寄ってきた魚に届くかどうかは別の問題です。

私の考え

ここからは推測です。

風向きだけで良し悪しは決まらないと考えています。上の表のとおり、効く方向が逆のものが同時に動いているからです。どちらが勝つかは、その場の条件によります。

そのうえで、いくつか言えそうなことがあります。

向かい風のときは、飛距離を捨てる方向に組み立てたほうがよさそうです。30%落ちるのを気合いで取り返そうとするより、重くて細いルアーに替えるか、そもそも足元を丁寧に探る。風で水が寄っているなら、魚は遠くにいない可能性があります。

追い風のときは、飛距離が伸びるぶんを探索に使えます。ただし水が沖に出ているので、岸際が薄い可能性はあります。届く範囲が広がったことを活かして、広く探るのが合っていそうです。

夏の追い風が続いた翌日は、水温の低下を疑ってよさそうです。外房の例のような湧昇が起きていれば、条件が変わっています。

そして、大洗のサーフで夜に釣るなら、多くの日は追い風です。海陸風がそうさせています。つまり「向かい風か追い風か」を選べる場面はあまりなく、その日の風向きに合わせて組み立てを変えるという話になります。

確かめられていないこと

風とベイトの関係を数値で確かめた資料は見つけられませんでした。「風が当たる面にベイトが溜まる」は広く語られていますが、ここで示せたのは、吹送流の向きという間接的な根拠までです。

湧昇の話は、岸に平行な風の実例です。沖向きの風でも同じことが起きるかどうかは、地形によります。大洗のサーフで実際に起きているかは分かりません。

海陸風がどれくらいの割合で出るのかも調べていません。「昼は向かい風、夜は追い風の傾向」は私の体感で、日数を数えたわけではありません。気圧配置が強い日は、この傾向は消えます。

風向きの体感そのものも、当てにならないことがあります。飛距離を測った夜のうち2回は、現場で感じた風向きと、近くの観測所の値から出した風向きが食い違いました(9月24日の河口と9月27日の河川)。

使ったもの・参考文献