ルアーの重心移動システムについて:ウェイトを戻すべきかそうでないか
重心移動システムの仕組みと、メーカーごとの違いを調べました。あおる必要があるルアーとないルアーの見分け方、そして手持ちのルアーを調べた結果です。
キャストして着水、糸ふけをとったあとロッドを一度軽くあおる。そのあとに巻き始める。
シーバスゲームをやっている人なら、一連の動作で自然にやっている方も多いかと思います。重心移動システムを採用しているルアーの中のオモリ(ウェイト)が後ろに移動しているから、それを前に戻すためです。
ただ、ロッドをあおらずに直水後すぐ巻いても本来の泳ぎ出しをする製品もあります。ルアーごとにあおる必要があるか否か覚えるのがいいのか。それとも全部とりあえずあおっておけばいいのか…。
重心移動システムはメーカーごとに名前が付いていて、しかも設計思想がはっきり違う。この記事はその調査の記録です。
そもそも、なぜオモリが動くのか
ルアーを遠くに飛ばしたいとき、いちばん困るのは飛行中に姿勢が乱れることです。空中でくるくる回ってしまうと、空気抵抗を受けて失速します。全長129mm・直径20mmのルアーで計算すると、横を向いたときに受ける力は頭から進むときの16倍ほどになります。姿勢を変えると飛跡がどう変わるかは、飛跡シミュレーターのスライダーを動かすと見られます。
これを防ぐには、重心を後ろに置くのがいい。矢の後ろに羽根が付いているのと同じ理屈で、重い部分が後ろにあると、そちらが後方に向いた姿勢で安定します。
ところが困ったことに、泳ぐときには重心が後ろにあると都合が悪い。ルアーは頭を下げて水を受けることでアクションを起こすので、尻が重いと尻下がりになり、本来の泳ぎをしません。
飛ぶときは後ろ、泳ぐときは前。この矛盾を解決するために生まれたのが重心移動システムです。ボディの中でオモリが前後に動く。キャストの瞬間には遠心力で後ろへ、泳ぎ出すときには前へ。
シマノの解説が、この問題を端的に説明していました。着水時にオモリが後方にあると、すぐに巻き始めてもアクションが起きない。リップの付いたミノーは巻き始めると頭を下げてオモリが前に移動しますが、少し遅れる。そしてリップのないシンキングペンシルや、移動させるオモリが重いルアーは、姿勢が変わってもオモリが前に戻らず、不自然な泳ぎになることがある、と。
私たちが着水後にロッドをあおるのは、まさにこの「戻らない」を強制的に解決する動作です。
メーカーごとに、戻し方がまったく違う
ここからが面白いところでした。オモリを前に戻す方法が、メーカーによって別々の発想になっています。
タックルハウス — すべての原型
順番として、まずここから触れるべきでした。重心移動システムを世界で初めて実用化したのは、タックルハウスの「K-TENシステム」です。
公式によれば、K-TENシステムを搭載したルアーが誕生したのは1987年。キャスト時には重心をテールへ、着水後のリトリーブ時には重心をヘッド側に移動させ、磁石でそのウェイトを固定する。この基本の仕組みは、今も変わっていないとのことです。
同社は自らこれを「全自動重心移動」と呼んでいます。あおらなくても戻るというのが、そもそもの出発点だったわけです。
同じページに、この機構がその後どう発展したかも書かれています。搭載アイテムが増えるごとに、ウェイトの材質、数、ウェイトルームの形状、ウェイトとウェイトルームのすき間などを調整することで、単純に「飛び」だけではない付加機能を持たせてきた、と。
これはこの記事全体の要約にもなっています。同じ「オモリが動く」という仕組みが、飛距離のためだけでなく、いろいろな目的に使い分けられてきた。以下に見ていくメーカーごとの違いは、この40年ほどの分岐の結果ということになります。
シマノ — バネで押し戻す
シマノの機構は「AR-C」、現在は「ジェットブースト」という名前です。公式の解説によると、オモリは貫通シャフトとバネで支えられています。
キャスト時には遠心力でオモリが後ろへ動いてバネを縮め、初速を高める。そして飛行中に、縮んだバネの力でオモリが前へ自動的に戻る。
つまり着水した時点で、すでにオモリは前に戻っている。あおる必要がありません。しかもリトリーブ中はバネがオモリを押さえるので、余計な音も出ないとのことです。
アイマ — 磁石の反発で弾き返す
アイマの「MRD」は、Magnetic Rebound Driving の頭文字です。公式の解説記事で、開発に関わったプロスタッフが仕組みを説明しています。
待機時、オモリは前方の磁石に吸着している。キャストの慣性でそれが引き剥がされて後方へ動く。そして後方にも磁石が入っていて、同じ極どうしが反発するようにセットされている。この反発力でオモリが前に押し返される、という仕組みです。
ここで私は当初、磁石が入っている=しっかり固定される=あおらないと外れない、と考えていたのですが、磁石を「保持」ではなく「反発」に使う発想があるわけです。
同社の説明によれば、この方式なら通常では戻らないような重いオモリも使えるので、飛距離が伸びるとのこと。
メガバス — 磁界に誘導して固定する
メガバスの「LBO II」も磁石を使いますが、また少し違います。公式の説明では、キャスト時には磁界から離脱するときの慣性が推進力を生み、巻き始めた瞬間にベアリング内蔵のオモリユニットが前方のネオジム磁界に誘導固定される、とされています。
タックルハウスが磁石で固定、シマノがバネ、アイマが磁石の反発、メガバスが磁界への誘導固定。同じ「オモリを前に戻す」でも、手段はこれだけ分かれています。
ダイワ — 戻らないこともあると書いている
ダイワだけ、少し性格が違いました。
ダイワの基本形は「サイレントウエイトオシレートシステム」で、ボディ内に通したワイヤーの上をタングステンのオモリが前後します。これに加えて「マグロック」という磁石で固定する仕組みや、「HGS(ホールド・グラビティ・システム)」があります。
まず断っておくと、ダイワのすべてがあおる必要のあるルアーというわけではありません。 たとえばバーティスRの公式説明では、重心移動システムの進化により着水後にジャークや速巻きといった無駄な動作をせず、リーリング直後からアプローチできる、とされています(マグロック+R Ver.S)。むしろ「あおらなくていい」ことを売りにしている製品です。
そのうえで、同じダイワの別の製品には、こう書かれているものがあります。
セットアッパー75Sの公式説明です。キャスト時に後方へ移動したオモリが、着水後にルアーが水をつかむと前方へ移動し、磁力でロックされる——そこまでは他社と同じですが、そのあとにこう書かれています。
ベタ凪時等、ウエイトの戻りが悪い時は1ジャークを推奨。
スイッチヒッターの公式ページにも、同じ趣旨の注記があります。ベタ凪や激流などでオモリが戻りにくい場合は、ロッドを軽くあおると戻りやすくなる、と。
他社が「戻す必要がない」ことを売りにするなかで、ダイワは製品によって「戻らないこともある。そのときはこうしてください」と書いている。使い手にとっては助かる情報です。
そして同時に、答えは「戻る/戻らない」の二択ではなかったことが分かります。基本は自動で戻るが、水の抵抗が足りない状況では戻りきらないことがある。だから条件付きの推奨になっているわけです。
動くけれど、戻す必要がないもの
オモリあえて固定せずに安定させていないのがBlueBlueのスネコンです。
公式の説明には「非安定型重心」とあります。オモリは動くのですが、飛距離のためではなく、アクションを生むために動いている。
同社代表の村岡氏が書いたスネコン130Sの取扱説明書に、はっきりした説明がありました。スネコンのウェイトは左右に動きやすく、決して安定することがない。これまでのほとんどのルアーが重心を安定させる方向で作られてきたのに対し、「重心が安定することが絶対に無い」という点でアンバランス系と呼んでいる、と。
つまりスネコンのオモリは、前後に移動して飛距離を稼ぐものではなく、左右に転がってS字を生むものです。「戻す」という考え方自体が当てはまりません。
ここで注意したいことがあります。スネコンについて「ロッドであおる」という情報も見かけますが、これは別の話です。スネコン180Sの公式ページには、水中でドッグウォークするようロッドで煽って使う方法も効果的で、ジャーキングの幅や強さでアクションが変わる、とあります。オモリを戻すためのあおりではなく、アクションをつけるためのあおりです。同じ動作でも目的がまったく違います。
なお村岡氏は、この機構について、自身がメガバスでX-80SWを開発していた頃から意図してやっていたことであり、邪道のスーサンや自社のBlooowin!にも同じ原理を使っていると書いています。メーカーをまたいで同じ発想が受け継がれているようです。
似た考え方は、ダイワのセットアッパー97Sにもありました。公式は、重心保持をあえてゆるく設定することで、オモリの「保持とフリー」を繰り返させ、自動的にバランスを崩して「喰わせの間」を作る、と説明しています。
オモリの移動を、飛距離の道具ではなくアクションの道具として使う。 冒頭でタックルハウスが「単純に飛びだけではない付加機能を持たせてきた」と書いていたのは、まさにこの方向の発展だと思われます。
そして、そもそも動かないもの
一方で、現在でも意外と多いのが固定重心です。
ダイワのガルバ73Sは、公式に「固定ウエイトながらキャスタビリティは秀逸」と書かれています。アイマのソバット80も固定重心です。
固定重心には利点もあります。内部で動くものがないので、挙動が安定する。 ボディを太くしてオモリを多く詰め込めば、重心移動なしでも飛距離は出せる。ガルバの説明はその論理でした。
ただし、重くすることと太くすることは飛距離に逆向きに効きます。空気抵抗への強さは質量を抗力面積で割った値で決まるので、重いほど有利、太いほど不利になります。同じ重さ・同じ投げ方で太さだけを変えた計算では、8.6mの差が出ました。式の立て方はルアーが飛ぶ距離を式で書くにまとめています。
つまり「重心移動が付いているほうが上等」という単純な話ではなく、何を優先するかの選択とも言えます。
実釣でどう見分けるか
ここまで調べて、実際に手元のルアーがどちらなのかを知る方法が気になりました。
アイマの解説に、使える手がかりがありました。MRDは着水前の空中でオモリが戻っているので、ルアーがお腹から落ちる。逆にオモリが後方に残ったままだと、着水時に水中まで入り込んでしまい、鳥が水に飛び込むような音が出る、という説明です。
つまり着水音と着水姿勢が判別の材料になります。
| 着水の様子 | 推定 |
|---|---|
| 腹からポチャッと落ちて水面に留まる | オモリが戻っている |
| テールから突き刺さって一瞬沈む。音が大きい | オモリが後方に残っている |
手元でできる確認もあります。オモリを後端に送った状態からルアーを軽く振り、前に戻るかを見る。ごく軽い動作で外れるなら弱い保持、しっかり振らないと外れないなら強い保持です。あるいは足元で、オモリを後ろに送った状態から巻き始めて、まともに泳ぐかを確かめる。これがいちばん確実だと思います。
そのほか、YouTubeなどにルアーの泳ぎ出しを水中から撮った動画が上がっていることもあるので、参考にするのも良いかと思います。巻き始めた直後から本来の泳ぎになっているか、少し遅れてから泳ぎ出すかが見えます。自分の目で泳ぎを確かめられるという点で、これは信頼できる情報です。
結局、毎回あおるべきなのか
個人的には迷うものは全てあおっておいていいと思います。 理由は損得が釣り合っていないからです。自動で戻るルアーに念のためあおりを入れても、失うものはほとんどありません(デメリットは習慣付くまで毎回の動作で少しめんどくさいという程度でしょうか)。着水直後の一瞬だけです。一方、必要なルアーで省略すると、その1投がまるごと無駄になる。しかもルアーによっては泳ぎが破綻していても手元では気づきにくい。巻き抵抗がわずかに軽い程度で、「今日は反応がないな」で終わってしまいます。
それに、着水後は糸ふけを取ってラインを張り、ルアーの位置と流れを把握する動作が必ず入ります。その過程でロッドを立てるので、意識して「オモリを戻す」というより、動作として分離していないのが実際のところではないでしょうか。
ただし、あおらないほうがいい場面もあります。橋の明暗部で着水点から数メートル流したいとき、着水音を嫌う状況、フォールで食わせたいとき、ピンポイントで狙いたいが流れの上流側からそこへルアーを流し込めないとき。余計な動きは入れたくありません。
アイマの解説に、この点をよく表す一節がありました。他の重心移動のルアーだと着水後にラインを張ってルアーに水を噛ませ、オモリを戻す動作をしなくてはならない——それに対してMRDなら、着水直後からラインスラックを残したままドリフトに入れる、という文脈です。
静かにピンポイントで入れたい場面のために、自動でウェイトの戻るもしくは固定重心のルアーを最低1つは持っておく。 手持ちのカードを増やすことで解決する、という考え方もありそうです。
まとめ
| 系統 | 代表的な機構 | 着水後 |
|---|---|---|
| 磁石で前方に固定(原型) | タックルハウス K-TENシステム | 自動で戻る(「全自動重心移動」) |
| バネで戻す | シマノ AR-C / ジェットブースト | 飛行中に戻っている |
| 磁石の反発で戻す | アイマ MRD | 着水前に戻っている |
| 磁界に誘導固定 | メガバス LBO II | 巻き始めた瞬間に戻る |
| ワイヤー上を移動 + 磁石や部品で保持 | ダイワ サイレントウエイトオシレート、マグロック、HGS | 製品による。ベタ凪や激流ではあおる指定のものもある |
| アクション用に動く | BlueBlue 非安定型重心 | 戻す対象ではない(左右に動く) |
| 固定重心 | ダイワ ガルバ、アイマ ソバット等 | そもそも動かない |
機構ごとに、公式サイトで搭載が確認できた製品を挙げておきます。あくまで一例で、同じシリーズでもサイズや年式によって搭載機構が違うことがあります。
| 機構 | メーカー | 搭載が確認できた製品 |
|---|---|---|
| K-TENシステム | タックルハウス | K-TEN ブルーオーシャン、M[em]シリーズ、Tuned K-TEN(TKLM、TKRP等) |
| AR-C / ジェットブースト | シマノ | エクスセンス サイレントアサシン 99F・99S・99SP / 120F / 129F・129S / 140F・140S、ウインドリップ 85S・95S |
| MRD | アイマ | コモモ SF-125、コモモ 125カウンター、ソマリ 140、サスケ 裂空シリーズ |
| LBO II | メガバス | カゲロウ 100F、X-80SW LBO |
| サイレントウエイトオシレート(+PLUS) | ダイワ | ショアラインシャイナーZ バーティス、同 セットアッパー、同 ランカーハンター、モアザン シャローアッパー 125F |
| HGS(ホールド・グラビティ・システム) | ダイワ | セットアッパー 97S・125S、セットアッパー S-DR、ランカーハンター、モアザン シャローアッパー 125F |
| マグロック | ダイワ | セットアッパー 75S、モアザン スイッチヒッター 120S |
| 非安定型重心 | BlueBlue | スネコン 90S・130S・150S・180S |
| 固定重心 | — | ダイワ モアザン ガルバ 73S、アイマ ソバット 80 |
ダイワの表を見ると分かりますが、同じ「セットアッパー」でもサイズによって載っている機構が違います。75Sはマグロック、97Sと125SはHGS。しかもS-DRシリーズでは、HGSの保持をあえて弱く設定して、バランスを崩しやすくしているとのこと。シリーズ名だけでは判断できないということになります。
調べてみて印象的だったのは、メーカーによって情報公開の姿勢がかなり違うことでした。シマノとアイマは「戻す必要がない」ことを機構の売りとして詳しく説明します。ダイワは「戻らないこともある、そのときはあおって」と使用上の注意まで書く。一方、小規模のメーカーは機構に言及しないことが多く、主にアクションの独自性が語られている印象があります。
なので、「公式に書かれていない=非搭載」とは限らないので、手持ちのルアーで気になるものがあれば、着水の様子を観察するのが結局いちばん早いのかもしれません。
参考
- K-TEN BLUEOCEAN(タックルハウス)— 1987年に始まった重心移動システムの原型と、その後の発展
- ジェットブースト(シマノ)— バネ式重心制御の仕組みと、重心移動ルアーが抱える泳ぎ出しの問題
- imaの新重心移動システム「MRD」って?(ima)— 磁石の反発を使う発想と、着水姿勢の違い
- ショアラインシャイナーZ バーティスR(ダイワ)— 着水後の無駄な動作を必要としない設計
- ショアラインシャイナーZ セットアッパー S(ダイワ)— マグロックシステムと、ベタ凪時のジャーク推奨
- ショアラインシャイナーZ セットアッパー S-DR(ダイワ)— HGSの仕組みと、保持を弱めた設定の狙い
- モアザン スイッチヒッター(ダイワ)— ウェイトリバースアシスト機能と使用上の注記
- モアザン ガルバ(ダイワ)— 固定ウエイトでの飛距離設計
- KAGELOU 100F(メガバス)— LBO IIの誘導固定
- スネコン製品(BlueBlue)— 非安定型重心という考え方
- スネコン130S 取扱説明書(BlueBlue 村岡昌憲)— ウェイトが左右に動くこと、アンバランス系という位置づけ