雨と台風で釣れるようになるのか:効くのは気圧ではなく、水が変わること

雨の前、雨の中、雨の直後、台風の前、台風通過後。釣果に有利な状況があるのかを研究で調べました。気圧の変化と降水量は、13年分の釣獲記録の解析で重要な要因に入りませんでした。いっぽう台風の前後には、魚が大きく場所を変えた追跡の記録があります。川のスヌークの追跡では、気圧と川の水位の組み合わせが動きをいちばんよく説明し、水位のほうが説明力が高めでした。

この記事の見出し

今年は雨と台風が多いと感じた年でした。雨や台風の前後に、釣りに有利な状況はあるのかを調べました。

調べて書いた記事です。

先に結論を書きます。

状況釣果に有利という研究分かったこと
雨の前 (気圧が下がる)見つからない釣獲記録の解析で、気圧の変化は重要な要因に入らなかった
雨の中見つからない降水量も重要な要因に入らなかった
雨の直後 (濁り・増水)見つからないスズキは濁りに強い。増水の大きい年ほど、秋に川のスヌークが増えた
台風の前見つからないサメは上陸の5時間半前から湾を出はじめた。スヌークは通過の8時間後までに半数が動いた
台風通過後見つからない大雨のあと、下流域の1区間でホワイトパーチが2週間で11倍になった例がある

釣れる数を直接比べた研究で、雨や気圧が効いたものは見つかりませんでした。台風については、釣果ではなく魚がどこへ動いたかの研究しかありません。

スズキそのものを対象にした研究は見つかりませんでした。以下は、北米の湖の魚、フロリダの河口の魚、北米の河口の魚食魚ストライプドバスの話です。

雨の前と雨の中:気圧も降水量も、重要な要因に入らなかった

13年分の釣獲記録

気圧と雨を釣果と突き合わせた研究は、ほとんど見つかりませんでした。見つかったのは Shaw ら (2021) です。論文自身も、前線の通過と釣果の関係については、発表された研究が見当たらないと書いています。

米国ウィスコンシン州の研究用の湖 (119ヘクタール) では、釣り人は入湖時と帰りに必ず申告することになっています。この記録の2003年から2015年を使い、ウォールアイ (2,005回の釣行) とマスキー (2,771回の釣行) について、釣れたかどうかと1時間あたりの釣獲数を解析しました。

調べた要因は次のとおりです。

分類要因
釣り人ガイドを雇ったか、生き餌かルアーか、その日の釣行の密度 (湖1ヘクタールあたりの釣行の数。1釣行は1隻のボートの全員)
魚資源の密度、その年すでに釣られた割合
光と気温時間帯、日射量、気温
月月齢、月が真上か真下か
天気1日の気圧の変化、1時間あたりの降水量、風速、風向

結果は、気圧の変化と降水量は、どの解析でも重要な要因に入りませんでした。論文は、大きな気圧の変化と降水は前線の天気に伴うものなのに、これらの要因は重みを持たなかったと書いています。4つの解析のうち、ウォールアイの釣行の成功では気圧の変化の重みが0.69 とほかより高めでしたが、効果は有意ではありませんでした (p = 0.122)。

いちばん効いたのは釣り人の側の要因でした。

条件ウォールアイ釣行の成功率 (1尾以上釣れた釣行の割合)
ガイドなし60%
ガイドあり91%
ルアーのみ39%
生き餌66%

上の表の天気の欄で効いたのは風向と風速ですが、効果の大きさはどれも非常に小さいとされています。マスキーは、風の弱い日のほうが釣獲率が高く、前線が来ると釣れるという言い伝えとは逆向きでした。

この研究の限界

  • 淡水の湖の魚です。河口や海のスズキではありません
  • この湖は夜釣りが禁止されていて、昼と朝夕の釣りしか入っていません
  • 気圧は1日2回の測定から出した1日の変化量です。数時間の急な変化は見ていません

気圧の変化は、潮の変化よりずっと小さい

数字で確かめられることがあります。気圧の1 hPaは、水深でいえば約1センチ分の水圧です。海水の密度から私が計算しました。潮の満ち引きで水位が1メートル動けば、それだけで約100 hPa分になります。

同じ計算を、実際に論文がやっています。次の節で出てくる Heupel ら (2003) は、表I で、水深3メートルの湾の潮の満ち引きによる底の水圧の差を約101 hPaと計算しています。いっぽう熱帯低気圧による低下は、同じ表I で約17 hPa (ふだんの気圧1013.2 hPa と嵐の最低値996.0 hPa の差) です。論文の本文は、最後の1尾が湾を出るまでに気圧が13 hPa下がったと書いていて、表と本文で値が違います。

それでも、魚は反応しました。論文はここで、大きさではなくふだんのリズムからの外れ方を持ち出しています。魚は潮の水圧の周期に体内のリズムを合わせていて、次に来る変化を予測している (論文が引く先行研究は、浮き袋のない硬骨魚のもの)。気圧の低下はその予測された変化を狂わせるので、合図になりうる、という筋です。

つまり、気圧の効き方を「何hPa下がったか」だけで測るのは足りない、ということになります。

雨の直後:スズキは濁りに強い

濁り50 ppmまでは、摂餌に大きな影響がない

雨のあとに変わるのは、濁りと塩分と流れです。

水産庁の関連資料である主要対象生物の発育段階の生態的知見の収集・整理のスズキの項に、濁りが50 ppm以下では成長と摂餌量に大きな影響は見られないという記述があります。どの発育段階の話かは書かれていません。

同じ資料で、ブリの項には20 ppm以上で摂餌不良とあります。こちらも発育段階は書かれていません。スズキは、ブリより濁りに強い魚だということになります。

ただし、雨のあとの河口がどれくらいの濁りになるかは調べていません。

雨が、稚魚を汽水湖に運んだ

茨城の例もあります。小松・星野 (2010) は、2004年に涸沼と那珂川でスズキの稚魚を調べ、5月下旬に那珂川の上流で雨が降って濁りが上がり、涸沼の塩分が下がったとき、那珂川から涸沼へ稚魚が運ばれていたと読んでいます。

同じ論文は、川の流量の変動が河口域の稚魚を海へ流し出す方向にも働くと書いています。雨は、魚を運ぶ。どちらへ運ぶかは、流れの向きしだいです。

増水の大きい年ほど、秋にスヌークが増えた

増水と魚の量を結びつけた研究があります。Blewett ら (2017) は、フロリダの川で2005年と2007年から2013年に、スヌーク (河口と川を行き来する魚食魚。主に全長35センチから100センチ) を電気ショッカーで採集しました。夏 (増水期) と秋 (減水期) に分けて数と太り具合を測っています。

年夏から秋にかけての変化
流量が平年並み以上の年スヌークの数が最大3倍に増えた (論文の要旨)
増水の大きかった2005年と2013年数が3倍を超えた (論文の結果の本文)
干ばつの2007年数も太り具合も増えなかった

要旨の「最大3倍」と本文の「3倍を超えた」は、論文の中で食い違っています。太り具合は、夏から秋にかけて平均8%上がりました。論文の要旨には1.2倍とあります。年ごとの平均の数は、年平均の流量とよく一致していました (決定係数0.88)。太り具合は、川の水位が1.8メートルを超えた日数といちばんよく合いました (決定係数0.70)。

論文は、仕組みを次のように推論しています。餌の量や魚の移動を測ったわけではありません。増水で氾濫原が水に浸かっているあいだに、そこで小魚やザリガニが増える。水が引くときに、その餌が乾いていく氾濫原から川の本流へ押し出されて集まる。それを食べに、河口からスヌークが上ってくる。

干ばつだった2007年は、氾濫原がほとんど浸からず、川に入ったスヌークは少なく、餌は主に小さなグラスシュリンプ (テナガエビ科の小エビ、平均全長15ミリ) と、少しのサンフィッシュでした。太り具合もこの調査でいちばん低い値でした。

論文は、後背地の水路が本流に流れ込む場所が、餌を待ち伏せる場所になりうるとも書いています。これは著者の見立てで、確かめられてはいません。

時間の尺度に注意が要ります。これは熱帯・亜熱帯の川の、季節単位の増水と減水の話です。1回の雨の翌日に釣れるかどうかとは、別の話です。

台風の前:サメは逃げ、スヌークは通過の8時間後までに半数が動いた

サメは上陸の5時間半前から湾を出はじめ、上陸前に全個体が出た

Heupel ら (2003) は、フロリダの湾で41尾のカマストガリザメ (1歳未満) を発信器で追っていました。2001年9月14日、熱帯低気圧ガブリエルが52キロ南に上陸します。

このとき湾内にいた13尾すべてが、上陸の前に湾を出ました。動き始めは午前1時30分、最後の1尾が出たのが午前5時20分、上陸は午前7時です。上陸の5時間半前に出はじめ、1時間40分前には全部が出ていました。

何が引き金だったのかを、論文は1つずつ潰しています。

候補論文の判断
雨すべてのサメが、いちばん激しい雨の前に出ていた。雨音や塩分低下が引き金だったとは考えにくい
風13尾のうち10尾は、風速が時速40キロに達する前に出た。時速45キロの夏の雷雨は珍しくないが、そのときサメは逃げたことがない
潮ふだんの範囲内だった
気圧最初の1尾が出たとき1008 hPa、最後の1尾が出たとき999 hPa。この地域の夏は1009 hPaを下回ることがまずない

4年間の継続監視で、全個体が同時に湾を出たことは一度もありませんでした。サメは5日から13日後に戻っています。戻りが遅れたのは、雨で湾の塩分が15を下回ったためだと論文は考えています。

前年のハリケーン・ゴードンのときにも、同じことが弱く起きていました。論文の本文の値で、気圧の低下がガブリエルの13 hPaに対してゴードンは5 hPaで、反応も弱く、10尾のうち8尾が出て、多くは7時間から11時間で戻りました。

2回を比べると、気圧の下がり方が大きかったガブリエルのほうが、反応が強く出ています。比べたのはこの2回だけです。

スヌークは、通過の前に動きはじめ、8時間後までに半数が動いた

Massie ら (2020) は、2017年9月10日にフロリダ南西部を通過したハリケーン・イルマの前後に、河川で22尾のスヌークを追いました。目が60キロ西を通過しています。

このとき川で起きていたことです。

項目台風前台風時
気圧 (hPa)1017から1018最低994
上流の水位 (cm)48から4980 (大雨による)
下流の水位 (cm)潮汐で上下いったん-66まで下がり、その後+84

22尾のうち16尾 (73%) が下流へ移りました。内訳は、上流から中間の湾へが12尾、上流から下流へ一気に移り川を出た可能性があるものが4尾、動かなかったものが2尾、判定できなかったものが4尾です。

論文の本文は、動いた魚の多くは通過の前の数時間と嵐のさなかに動いたと書いています。ただ論文の図4 を読むと、通過より前に動いたのは2尾ほどです (私の図の読み取り)。気圧の動きで分けると、次のとおりです。

タイミング尾数
気圧が1008から994へ下がるあいだ7
気圧が最低で止まっているあいだ3
気圧が1004へ戻っていくあいだ6

最初の1尾が動いたのは通過の7時間前、半数が動き終えたのは通過の8時間後、最後は61時間後でした。

そして、何が動きを説明したかです。

モデルの説明変数説明できた割合
1時間あたりの気圧の変化0.04
気圧そのもの0.43
下流の水位0.47
上流の水位0.78
気圧 + 上流の水位0.84

いちばんよく説明したのは、気圧と上流の水位の組み合わせでした。1つずつ見ると、大雨で上がった上流の水位のほうが、気圧より説明する力が大きくなっていました。高潮で動いた下流の水位より、雨で上がった上流の水位のほうが効いています。片方を平均に固定して見ると、モデルでは、上流の水位が64.5センチを超えたところ、気圧が998 hPaを下回ったところで、動く確率が半分を超えました。

サメの論文 (2001年のガブリエル) が合図として挙げたのは気圧でした。スヌークの論文 (2017年のイルマ) の結論は、気圧と川の水位の組み合わせです。別々の嵐で、別々の場所の結果です。

台風通過後:魚は下流に集まる

ストライプドバスは河口から出ていった

いちばん詳しく読めたのが Bailey & Secor (2016) です。ストライプドバスはスズキと同じスズキ目の魚で、河口と沿岸を行き来する魚食魚です。生態はスズキとよく似ていますが、別の科です。

2011年8月28日にハリケーン・アイリーン (上陸時には熱帯低気圧) がニューヨークに来て、その1週間あまり後の9月6日から7日に熱帯低気圧リーが続きました。ハドソン川では記録的な雨になりました。

項目ふだん台風のあと
流量 (8月の平均、立方メートル毎秒)2694,471 (8月29日)
流速の推定 (メートル毎秒)—最大2.0

流量は、ふだんの約17倍になりました。倍率は私が計算しました。下流域では、水温、塩分、溶存酸素がどれも有意に下がりました。

発信器で追えた22尾のストライプドバスは、平均すると南へ動き、多くの魚が河口から沿岸へ出ていきました。前年の同じ時期にも南下はありましたが、台風の年ははるかにはっきりしていて、前年より南まで行っています。嵐の前に川にいた魚は、速く下って沿岸へ出ました。港にいた魚には、港にとどまったものもいます。

3尾は、嵐のあいだずっと同じか近くの受信機で検知されていました。論文は、この流速に逆らって泳ぎ続けるのは体の大きさから見て無理なので、流れの弱い場所に隠れていたと考えています。

下流域の1区間で、ホワイトパーチが11倍になった

同じ論文は、同じ仲間のホワイトパーチの資源量調査も使っています。

下流域の区間 (河口からの距離)8月30日の調査 (1つめの台風の直後)9月12日の調査 (2つめの台風のあと)
河口から0から18キロ81,000尾380,000尾
河口から19から38キロ73,000尾831,000尾

河口から19から38キロの区間では、11倍になりました。上流や支流にいた魚が、増水で下流へ流されてきたと論文は読んでいます。その後、数は下がっていきました。

台風のあとに河口がよく釣れる、という言い伝えがあるなら、それを裏付ける方向の数字です。ただし、これは資源量の推定値 (論文は別の調査の値を使っていて、調べ方は書いていません) で、釣れやすさではありません。増えたのは下流へ流されてきた魚で、その魚が餌を食っているかどうかは分かりません。

戻り方は、魚によってばらばらでした

ストライプドバスは、長く追えた個体が10月下旬から11月にニューヨーク湾へ短く戻り、そのあと冬のあいだ湾にとどまり、一部はハドソン川を上っていきました。論文は、長く追えた上流の群の2尾が港と川に戻ったことから、影響は数か月だったと書いています。同じ箇所で、下流の群の多くは沿岸にとどまったとも書いています。

スヌークは、もっとばらつきました。台風前の平均位置は河口から27.5キロ、台風中は23.1キロ、その後6か月の平均は25.1キロです。移動した16尾のうち、上流へ戻ったのが4尾、中間の湾にとどまったのが1尾、上流と下流を行き来し続けたのが3尾、沿岸の受信機で検知されたまま戻らなかったのが3尾、9月11日から17日を最後に検知されなくなったのが5尾でした。22尾全体では6尾が10か月後まで検知されず (うち1尾は嵐の前日が最後)、論文は死亡、検知されない移出、漁獲のどれもありうるとしています。

カマストガリザメは5日から13日で全個体が戻りました。

戻るまでの時間は、数日から数か月まで幅があります。上流の水位は、イルマのあと11月下旬まで高いままでした。

大洗の釣りに当てはめると

ここまでの研究を並べると、こうなります。

  • 釣れる数に、気圧と雨は効いていなかった (淡水の湖、昼の釣り)
  • 台風の前後には、魚が大きく場所を変える。ただし動くタイミングは、上陸前とは限らない
  • スヌークの動きをいちばんよく説明したのは、気圧と川の水位の組み合わせで、1つずつ見ると水位のほうが説明力が高かった
  • 増水の大きい年ほど、秋に川のスヌークが増えた。餌は氾濫原が浸かっているあいだに増え、水が引くときに本流へ集まる、と論文は推論している

つまり、見るべきは空ではなく水です。雨が降ったかどうかではなく、川の水位がどれだけ上がり、どれだけ長く高いままで、いつ引き始めたかが、魚と餌の居場所に関わっています。

これは向かい風と追い風、釣りではどちらが有利かやベイトはなぜそこにいるのかで書いた、水の動きが魚と餌を集めるという話と同じ方向です。

台風後に河口へ魚が寄るとしても、それが何日続くか、どのくらいの増水で起きるかは、スズキでは調べられていません。

安全のこと

台風の前後は、遠くの台風のうねりが晴れた日に突然届くことがあります。お盆に釣りをしてはいけない、という言い伝えについてで書いた土用波の話です。増水した川では、ストライプドバスの例で、流速が毎秒2メートルに達したと推定されています。魚が動く条件は、人にとっても危ない条件です。

分かっていないこと

スズキについて、雨・気圧・台風と釣果の関係を調べた研究を見つけられませんでした。動きを追った研究も、スズキではありません。

雨の中で釣れるかどうかを直接調べた研究を見つけられませんでした。雨粒の音や水面の乱れ、光の弱まりが魚にどう効くかは、この記事では扱えていません。

雨の直後の那珂川の河口が、どれくらいの濁りになるかを調べていません。スズキの摂餌に影響が出るという50 ppmを超えるのかは分かりません。

台風通過後に魚が河口に集まる状態が、何日続くのかが分かりません。ハドソン川の例では、9月12日の次の調査で数が下がり始めたところまでです。

気圧がどういう仕組みで合図になるのかが分かっていません。Heupel ら (2003) の「潮のリズムからの外れ」は仮説で、本人たちも、この行動が果たす役割は現時点では推測だと書いています。

続けて読むなら

記事つながり
向かい風と追い風、釣りではどちらが有利か風が水と餌を動かす仕組み
ベイトはなぜそこにいるのか水がベイトを集める4つの仕組み
お盆に釣りをしてはいけない、という言い伝えについて遠くの台風のうねりと、大潮が重なる危険

使ったもの・参考文献