ヘッドライトの当て方:「水面を照らすな」の根拠を調べてみた

夜釣りでよく言われる「水面を照らすな」。調べてみると、魚への影響は経験則の域を出ない一方で、自分の目が暗闇に慣れるまでに20〜30分かかることははっきりしていました。赤色ライトの意味と、光を用途で分ける考え方をまとめます。

夜の釣り場には、いくつもの光があります。常夜灯、月、対岸の街明かり、通る車のライト。どれも自分では動かせません。

そのなかで唯一、自分で完全に決められる光があります。ヘッドライトです

「水面を照らすな」は夜釣りでよく聞く話ですが、実際どこまで根拠があるのかが気になって調べてみました。

「魚が逃げる」のほうは、経験則の域を出ないようです

まず、よく語られている理由から。

暗闇のなかに急に光が入ると魚が警戒する、という説明が一般的でした。TSURINEWS の記事では、影響を受けやすいのはもともと警戒心の高い魚だとされていて、表層のメバルやシーバスが名指しされています。何度も釣られている個体ほど影響が強いとも書かれていました。加えて、足元がそのまま水面になっているような場所ほど影響が出やすいという指摘もあります。

魚が学習するという点は、叩かれ尽くしたスポットの記事で扱ったマダイの実験とも重なります。ただしあの実験が扱っていたのは仕掛けについたラインで、光ではありません。

ただ、調べた範囲では、光そのものの影響を実験で確かめた例は見つけられませんでした。複数のアングラーに聞き取りをしたTSURI HACK の記事も、記事の末尾で、これは各人の感覚の共有であって釣れなくなるかどうかの真偽を確定するものではない、と断っています。

つまり現状は、広く共有されている経験則という位置づけになりそうです。私もこれを否定する材料は持っていないので、以下では「そう言われている」という前提で進めます。

逆に、光に突っ込んでくる魚もいます

魚が逃げるかどうかとは別に、はっきりした実害が確認できたものがあります。ダツです。

環境省のせとうちネットには、こう書かれています。

光に集まる習性があり、特に夜間は光源に向かって突進してきます。毎年ダツに刺されて怪我をする事故が起こっているため、夜間の潜水では注意が必要です。

同じページによれば、水面に浮上したときにライトへ突進し、首筋などに突き刺さって出血多量で死亡した例もあるとのことです。刺さった場合は血管を損傷している可能性があるため、無理に抜かずに医師の治療を受けることが重要、とも書かれています。

ダツは上下のあごが鋭く尖った細長い魚で、沿岸の表層にいます。私は河川の中流域で釣ったことがあり(そのときの記録)、思っていたより広い範囲にいるようです。

潜水中の事故が中心なので、岸から釣る場合にそのまま当てはまるわけではありません。ただ、水面をライトで照らすことに、魚が逃げる以外の理由があるというのは知っておいて損はないと思います。「なんとなくマナーだから」よりも、行動を決めやすくなります。

常夜灯はよくて、ヘッドライトは駄目なのか(ここは推測です)

読んでいて引っかかったのが、これです。常夜灯の下で釣るのは定石なのに、なぜヘッドライトの光だけが嫌われるのか。

ここからは私の推測ですが、リアクションバイトの記事で扱った順応と脱慣化のしくみが、そのまま当てはまるのかもしれません。

  • 常夜灯はずっとそこにある光です。魚にとっては変化のない背景で、順応の対象になります
  • ヘッドライトは突然入って、すぐ消える光です。背景に対する際立った変化になります

リアクションバイトの記事では、この「際立った変化」が捕食の引き金になる可能性を書きました。だとすれば同じ仕組みが、逃げる方向に働くこともあり得ると思います。変化が捕食の合図になるか、危険の合図になるかは、変化の中身によるはずです。上から差し込む強い光は、後者になりやすいのではないでしょうか。

繰り返しますが、これは思いつきの域を出ません。

はっきりしているのは、自分の目のほうです

魚への影響が経験則どまりである一方で、確実に分かっていることが一つあります。それは自分の目です。

暗い場所で働くのは、網膜にある桿体細胞という視細胞です。この細胞のなかではロドプシンという物質が光を受けて分解され、暗い場所ではそれが再び合成されて感度が戻ります。暗順応の説明によると、明るい場所から暗い場所へ移ったときに時間がかかるのは、合成のほうが分解より時間を要するからだそうです。

どれくらいかかるのか。眼科の暗順応検査の解説によれば、10分ほど経つと桿体細胞が本格的に働き始め、20〜30分で感度が限界に達するとのことでした。

ここが大事なところだと思います。20〜30分かけて積み上げたものを、数秒の点灯で崩せるわけです。

魚が逃げたかどうかは確かめようがありませんが、自分の目が効かなくなることは自分で分かります。目が暗さに慣れていれば、明暗の境界も、水面のざらつきも、何もない場所の記事で書いたモジリの波紋も見えます。慣れていなければ見えません。魚への影響を脇に置いても、水面を照らさない理由としては十分だと思いました。

赤色ライトはどこまで意味があるか

多くの釣り用ヘッドライトに赤色モードが付いています。これも二つに分けて考えたほうがよさそうでした。

自分の目に対しては、はっきり効きます。天体観測や夜間の行軍で赤色光の照明が使われるのは、桿体細胞は赤い光に対する感度が低いためです。赤で照らせば桿体を飽和させずに済み、色を見分ける錐体細胞のほうで手元を確認できる、という理屈になります(出典は先ほどと同じ暗順応の解説)。

魚に対しては、話がもう少し込み入ります。よく挙げられる根拠は、赤い光が水中で吸収されやすいという性質です。実際、水中では波長の長い光から先に減衰するため、赤・橙・黄は浅いところで吸収され、青や紫が深くまで届きます。赤色光は水深10メートルではほぼ失われるという記述も見つかりました(水中における情報伝達)。

ただ、ここで注意したいのは尺度です。10メートルという話であって、シーバスを狙うのはたいてい水面直下から1メートル弱です。この深さなら赤はまだかなり残っているはずというのが私の理解ですが、ここは自分で確かめたわけではないので推測として書いておきます。少なくとも「赤なら魚に見えない」と言い切れる根拠は、見つけられませんでした。

なので赤色モードは、魚のためというより自分の目のためと考えておくのが確かなところだと思いました。副次的に、周りのアングラーへ配慮の意思表示になるという見方も紹介されていました。

光を、用途で三つに分ける

ここまでを踏まえると、「照らす・照らさない」の二択ではなく、何のための光かで分けるのが実際的だと思います。

1. 足元と移動のための光。これは惜しまず使う。暗い堤防やゴロタで足元を照らさずに歩くのは危険です。移動時に使うのは当然のこととして紹介されていました。安全に関わる部分をマナーのために削るのは、順序が逆になります。

2. 手元の作業のための光。水辺から離れて使う。ノットを組む、ルアーを替える、フックをチェックする。このときは水際から数メートル下がって、水面に背を向けてから点けるという方法が紹介されていました。首から下げるネックライトが、足元と手元のどちらにも向けやすくて具合がいいそうです。

3. 水面を見るための光。原則として使わない。例外はあります。ランディングのときや、追ってきた魚がいないか確認したいときは、それで得られるものが失うものを上回る場面がある、という話も出ていました。要は、照らすなら理由を決めて照らすということだと思います。

人に向けない

もう一つ、はっきりしている決まりごとです。

  • 他のアングラーの顔付近を照らさない。ライトは下向きにして足元を照らす、というのが基本形として紹介されていました
  • 先に入っている人に合わせる。暗くして静かに釣っている人がいる場所では、光も音も控えるのが筋になります
  • 挨拶や確認で振り向くとき、頭ごと動くヘッドライトは意図せず人の顔を照らします。ここでもネックライトのほうが扱いやすいかもしれません

なお、ウェーディングでの装備や安全については遠浅の記事で扱ったので、ここでは繰り返しません。

まとめ

  • 「水面を照らすと魚が逃げる」は広く共有された経験則で、実験で確かめられたものは見つからなかった
  • 一方、自分の目が暗さに慣れるには20〜30分かかり、数秒の点灯でそれが崩れることははっきりしている
  • 赤色ライトは自分の目には確実に効く。魚に見えにくいかどうかは、シーバスのレンジでは期待しすぎないほうがよさそう
  • ダツは光に向かって突進する。潜水中の事故が中心だが、水面を照らさない理由として実害の裏づけがある
  • 足元と移動には惜しまず使い、手元の作業は水辺から離れて、水面は理由があるときだけ

夜の釣り場で唯一こちらが決められる光なので、決め方だけ先に持っておくと迷わないと思います。

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