港湾

イカ:名前は挙がっているのに、胃からは出てきません

このシリーズで唯一、書けるか分からないまま残していたベイトです。水産庁の資料はスズキが興味を示すものにイカを挙げていますが、同じ資料の餌料生物の一覧には入っていません。播磨灘の1017尾の胃からも、軟体動物は1個体も出ていません。そして釣り場で言われている種名も、条件と噛み合いませんでした。

この記事の見出し

「ベイトを知る」の最後です。アミからサヨリまで9本を書いてきて、イカだけを最後まで残していました。

理由は単純で、書けるかどうか分からなかったからです。

調べて書いた記事です。そして結論から書くと、はっきりしないまま終わります。

名前は挙がっています。1行だけ

水産庁がまとめた主要対象生物の発育段階の生態的知見の収集・整理のスズキの項、摂食行動の欄にこうあります。

視覚で小魚やエビ・イカ等、特に動く餌に強い興味を示す。

イカが名指しされています。

ところが、同じ資料の成魚期の餌料生物の欄には、イカが入っていません。

アユ、カタクチイワシ、マアジ、マイワシ、マサバ、ヒラメ、クルマエビ、サヨリ。

同じ資料の中で食い違っています。この資料は多数の文献をまとめたもので、個々の記載の出典が書かれていないため、どちらがどの調査に基づくのかを追えません。

播磨灘の1017尾からは、1個体も出ていません

シーバスは何を食べているのかで使った宮原らの調査です。1017尾の胃を開けて中身を数えたもので、餌として出てきた生物は6つの動物門にわたっていました。

胃から出た餌生物の動物門
紐形動物門
袋形動物門
環形動物門
節足動物門
棘皮動物門
脊椎動物門

軟体動物門が入っていません。イカもタコも貝も、1個体も出ていないことになります。

ただし、食べないという証拠にはなりません。宮原らの採集は明石市地先と高砂市地先で、漁法は刺網、一本釣り、小型定置網、投網です。イカがいる場所と時期に当たっていない可能性があります。

釣り場で言われている種名も、条件と噛み合いません

釣り人向けの解説サイトがまとめた一覧では、イカパターンについてこう整理されています。

項目整理されている内容
ベイトの種類スルメイカなど
ベイトの大きさ数センチから10センチ程度
発生するフィールド港湾部

スルメイカの実際を調べると、噛み合いません。

項目スルメイカ
大きさ外套長27センチから30センチ
棲んでいる場所外洋の表層から中層を回遊する。水深30メートルから100メートル
移動東シナ海から暖流に乗って北上し、秋に南下する季節的な南北回遊

サイズも場所も合いません。港湾部で数センチから10センチという条件は、外洋を大回遊する外套長30センチの種とは別のものです。

なお、春に外套長2センチから3センチの個体が獲れることもあるとされていますが、それも外洋の話です。

ジンドウイカなら、条件が合います

港湾部にいる小型のイカを探すと、ジンドウイカが出てきます。釣り場ではヒイカ、コイカと呼ばれています。

Honda釣り倶楽部の釣魚図鑑から書き出します。

項目ジンドウイカ (Loliolus japonica)
分布北海道南部から九州南岸までの沿岸域、瀬戸内海、東シナ海大陸棚域
大きさ最大で胴長12センチ
棲んでいる場所日中は水深50メートル以浅の砂泥底の中層と底層。夜間は表層にも浮上する
産卵春から夏。水深10メートル以浅の内湾の砂質の海底に卵嚢を産みつける
稚イカの餌アミ類などの小型甲殻類、シラス類
寿命1年
移動穏やかな内湾を好み、大規模な回遊は行わないと考えられている

サイズも場所も合います。

そして3つ、このシリーズの他の記事とつながる点があります。

1つめ。夜に表層へ浮上します。アミはどこにいるのかで書いた構造と同じです。昼は底、夜は上に出てくる。

2つめ。大規模な回遊をしません。コノシロと同じ性格です。入ってくるのではなく、もともとそこにいる。

3つめ。稚イカがアミ類とシラス類を食べます。ベイトのベイトが、このシリーズで扱った生き物です。

釣期には地域差があります。東京湾や三浦半島では11月から2月の低水温期が最盛期で、九州北部では7月から8月の高水温期が最盛期とされています。同じ種で、真逆の季節になります。

ただし、これは私の当てはめです

胃の中身から確かめたものではありません。

やったのは、釣り場の言い方が示す条件 (港湾部、数センチから10センチ) に合う種を探しただけです。スルメイカは合わず、ジンドウイカは合った。それだけです。

この整理が言う「など」のほうに、ジンドウイカが入っている可能性もあります。その場合、整理のほうは間違っておらず、代表として挙げた種名が実態と離れているだけ、ということになります。

そして、スズキがジンドウイカを食べたという記録を、私は見つけられませんでした。

攻め方:慣習の整理だけです

コノシロ以降の4本と同じで、吐瀉物で餌が確認されたうえでのルアーの記録がありません。山田 (2011)の東京湾奥の記録にも、イカは出てきません。

項目整理されている内容
ルアーの種類フローティングミノー、シンキングミノー、シンキングペンシル
ルアーの大きさ5センチから12センチ程度
狙う時間帯夜
狙うポイント常夜灯周り、明るい場所
狙うレンジ表層から中層
動かし方デッドスローからスローリトリーブ、ストップアンドゴー、リフトアンドフォール、カーブフォール

これは釣り人のあいだで共有されている整理であって、調査の結果ではありません。

ただし、狙う場所と時間帯は、ジンドウイカの生態と噛み合います。夜間に表層へ浮上する種を、夜に表層から中層で狙う。常夜灯周りという指定も、光に集まるものを食べる種であることを考えれば筋は通ります。

なお常夜灯は何ルクスかで計算したとおり、常夜灯の真下は満月の57倍の明るさです。ただし、ジンドウイカが常夜灯に集まるかどうかを調べた資料は見つけられませんでした。

分かっていないこと

種が特定できていません。この記事でいちばん大きな穴です。条件から当てはめただけで、胃の中身から確かめたものではありません。

スズキがイカを食べた記録が、1行しかありません。水産庁の資料の摂食行動の欄です。しかも同じ資料の餌料生物の一覧には入っていません。

播磨灘の1017尾から軟体動物門が出ていません。食べないという証拠にはなりませんが、このシリーズで唯一、明確な不在が記録されているベイトです。

ジンドウイカの生態は、釣魚図鑑から引きました。査読された研究ではありません。産卵期についても、春から夏とする資料と、地域によっては晩秋からとする資料があります。

茨城のデータではありません。釣期の地域差は東京湾、三浦半島、九州北部の話です。

攻め方の記録がありません。

ジンドウイカが常夜灯に集まるかは分かりません。

それでも、1つ言えることがあります

このシリーズで、根拠がいちばん薄いのがイカでした。

10本を並べると、こうなります。

根拠の種類ベイト
吐瀉物で餌が確認されたうえでのルアー記録があるアミ、バチ、ハゼとエビ、カタクチイワシ
分布や生態を数えた調査があるアミ、バチ、稚アユ
スズキが食べたという一次資料があるバチ、サヨリ、アユ
どれもないイカ

釣り場で1つのパターンとして呼ばれていることと、確かめられていることは、別です。イカパターンが存在しないと言っているのではありません。確かめる材料が、いまの私の手元にないというだけです。

続けて読むなら

イカとつながる記事です。

記事つながり
アミはどこにいるのか稚イカが食べる餌です。昼は底、夜は表層という構造も同じでした
コノシロ大規模な回遊をしないという性格が同じです。ただし根拠の厚さはまるで違います
サヨリ根拠の薄さで並ぶ2本です。サヨリのほうは、国の資料が知見不足と明記しています
ベイトはなぜそこにいるのか水が集める4つの仕組み。イカに当てはまるかどうかは、分かりません

そして、10本すべてを1枚にまとめたベイトの見当をつけるがあります。時期・大きさ・層・攻め方の一覧です。

使ったもの・参考文献