ボラは底をなめる:ハクとイナッコは食べるものが違う

体長25ミリを境に、ボラは水中に浮いているものを食べる側から、底をなめる側へ変わります。だから居場所の決まり方も変わります。河川で育った当歳魚が20センチほどになって河口へ降りるのが秋。ただしこの記事は、他のベイト記事より根拠が弱いことを先に書きます。

この記事の見出し

調べて書いた記事です。

カタクチイワシまで、山田 (2011)の記録では11月にボラの稚魚が主なベイトになります。

ハクは、体長2〜3センチのボラの稚魚です(東京都島しょ農林水産総合センターの解説)。この記事では、それより大きく育った若魚をイナッコと呼びます。2つは食べているものが違います。ハクは水中に浮いているものを食べます。体長25ミリを超えたあたりから底のものを食べはじめ、イナッコになると、底に生えているものを砂泥ごと食べます。

先に書いておくことがあります。この記事は、これまでの4本より根拠が弱いです。

なぜ弱いのか

シーバスは何を食べているのかで書いたとおり、山田の調査では3月から10月は吐瀉物で餌が確認されていますが、11月と12月はルアーへの反応からの推定です。

つまり、ボラの稚魚を意識しているという判断そのものが、どのルアーに食ったかから出ています。そのうえで「だからこのルアーが効く」と説明すると、独立した確認になりません。

アミ、バチ、ハゼとエビ、カタクチイワシの4本では、この問題がありませんでした。この記事だけは違います。攻め方の節は、そのつもりで読んでください。

いっぽうボラ自体の生態は、公開された資料で調べられます。そちらから始めます。

ハクとイナッコの違いは、食べるもの

関東周辺での呼び名を、東京都島しょ農林水産総合センターの解説から書き出します。

呼び名体長
ハク2 cmから3 cm
オボコ、スバシリ3 cmから15 cm
イナ15 cmから30 cm
ボラ30 cmから50 cm
トド50 cm以上

ベイトはなぜそこにいるのかで、スリランカの汽水湖での研究を引きました。体長25ミリより小さい個体の胃からは砂もデトリタスも出てこず、体長が増えるほどその割合が上がる、という結果です。

25ミリは、ハクの下限あたりです。

大きくなった個体が何を食べているかは、はっきりしています。底に沈積または付着した微生物、デトリタス、珪藻類などを、砂泥とともに食べる。飲み込んだ砂泥は、珪藻類などを粉砕するのに役立ちます。そのため胃の幽門部がそろばん玉の形に肥厚していて、噛み砕くのを助けています。

つまり、ハクは水中に浮いているものを食べ、イナッコは底をなめています。

同じ「ボラのベイト」でも、餌の在りかが違うことになります。

ただし、これは食性の話です。分布の話ではありません。この区別は、下の「表層にいるイナッコをどう考えるか」で扱います。

だから、これまでの4本とは仕組みが違います

これまでのベイトを並べ直します。

ベイト居場所を決めているもの
アミ塩分と地形。夜は照度が下がると分布層が広がる
バチ (多毛類)底に住み、大潮の夜の満潮直後に泳ぎ出て流下する
ハゼ着底して底と際に着く
カタクチイワシプランクトン食。水が集める仕組みが効く
イナッコ底に生えているもの。砂泥ごと食べる

ベイトはなぜそこにいるのかで挙げた4つの仕組み、収束線・風の筋・低塩分域の濁りの帯・上下移動は、どれも水中に浮いているものを集める話でした。底をなめる側には、そのまま当てはまりません。

イナッコの居場所を決めるのは、底に何が生えているかになります。付着藻類が光合成する以上、光の届く浅い砂泥底に多いという筋は通ります。ただしこれは私の推測で、確かめた資料は見つけられませんでした。

なお、ボラの食性は雑食とされていて、動物プランクトンや底生小動物も食べます。底だけを見ていればいいわけでもありません。

表層にいるイナッコをどう考えるか

秋に、水面でイナッコが跳ね、シーバスがそれを追う場面があります。底をなめる魚が、なぜ表層にいるのか。

底のものを食べる魚が、常に底にいるとは限りません。食べるときに底にいる、というだけです。

秋は、移動している時期です

下の暦の表に、答えの一部が入っています。その年の秋に20センチほどになり、河口付近に降りる。

イナッコパターンの時期は、この降海の最中にあたります。移動している魚は、底をなめていません。群れて泳いでいます。

追い上げられている、という読み方

水面は、逃げ場のない壁です。上には抜けられません。捕食者が下から追い上げれば、そこで密集します。

魚の群れが水面に押しつけられて密集する現象は、ベイトボールとして知られています。百科事典的な記述によれば、捕食者が突進や威嚇で群れを水面へ追い上げ、上を水面に塞がれ周囲を囲まれた魚が、揃った動きをやめて混乱する、という順序で起きます。

ただし出典が弱いです。これは査読された研究ではありません。そして記述されているのは、イルカ・サメ・マグロ・海鳥が協調して追い上げる場面です。シーバスが同じことをするかは、確かめられません。

順序が逆の可能性もあります

2つの状況を、水面からは区別できません。

状況ボイルが始まる前のイナッコの位置
追い上げられたもともと中層か底にいた
もともと表層にいた移動中の群れが、下から襲われた

上の「秋は降海の移動期」を採るなら、後者になります。

分ける方法はあります。ボイルが始まる前に、イナッコが表層で見えていたかどうかです。見えていれば、もともと表層にいた。見えていなければ、追い上げられた可能性が残ります。釣り場で観察できることです。

底の貧酸素は、秋にも起きています

汽水湖は、塩分と水温による成層で底層の溶存酸素が下がりやすいとされています。底が貧酸素なら、そこにいられません。

夏の現象だと思っていましたが、涸沼で1年間測った信岡ら (2005)では違いました。湖の中央の観測点で、溶存酸素が低くなる割合がいちばん高かったのは秋でした。ただし別の観測点では春がいちばん高く、著者らはこの違いが何を意味するかは明確でないとしています。2004年11月には、塩水が入ってから約4日で、湖底から20センチの溶存酸素が1 mg/Lまで下がっています。夏はむしろ那珂川の流量が増えて塩水が入りにくく、低くなる割合は春や秋より少なかったとされています。冬は塩分が高くても、湖底の微生物の活動が弱く、酸素は下がりにくいとされています。

ただ、測っているのは湖底から20センチの値で、そのときイナッコがどの層にいたかは分かりません。底が貧酸素になった日にイナッコが表層へ上がるのかは、確かめられていません。

弱った個体は、群れから離れて浮きます

ここまでは、群れがどこにいるかの話でした。もう1つ、個体の話があります。

静岡県水産・海洋技術研究所浜名湖分場の魚病情報に、ミズカビ病について病魚は衰弱して群から離れ、表層に浮上することが多いという記述があります。底にいるはずの魚が、単独で表層を漂う状態です。アユについて書かれたもので、ボラの記述ではありません。

涸沼では秋に、体表に白いものが付いたボラが大量に現れ、それをシーバスが襲う現象が知られています。カビボラと呼ばれています。カビボラは白点病なのかで、その正体を調べました。釣り人の説明にある「白点病」は、症状とも水温とも合いませんでした。

ただし、上の3つとは性格が違います。移動も追い上げも貧酸素も群れ全体の話ですが、こちらは弱った個体が群れから外れる話です。群れごと表層にいるのと、1尾だけ浮いているのとでは、見えている光景が違います。

暦:秋に、河口へ降りてきます

ボラの1年を、資料から書き出します。

時期ボラの当歳魚
10月から1月親が外海へ出て産卵する
1月から4月数センチの稚魚が群れをなして海から河川に入る
春から夏河川内で成長する
その年の秋20センチほどになり、河口付近に降りる
翌春ふたたび遡上する

産卵海域については、黒潮の影響を受ける外海、具体的には薩南、日向灘、土佐湾、熊野灘という報告が徳島県の技術士による整理に挙げられています。

山田が11月に「20センチ近いボラの稚魚」を挙げているのは、この降海の時期と重なります。河川で育った当歳魚が、河口に集まってくる。

ただしサイズについては、資料で食い違いがあります。

資料その年の秋のサイズ
大阪府立環境農林水産総合研究所20 cmくらいで河口付近に降りる
東京都島しょ農林水産総合センター生後1年で体長20 cm
日本大百科全書全長10 cmから15 cmに成長し、秋に海へ下る

10センチから20センチまで幅があります。どれが正しいかを私は判断できません。

そして、東京都の解説には正直な一文があります。東京湾のボラの生態はよく解明されていない。

跳ねます

もう一つ、同じ解説にあります。盛んに水面にジャンプする性質があり、特に夕方はその数が増す。

釣り人が水面の跳ねやモジリを見て判断するのは、この性質を見ています。ただし水面の動きから種を判別できるかは、この資料からは分かりません。ボラが跳ねているのか、他の魚が跳ねているのかを分ける方法は書かれていません。

攻め方:記録が残っている11月と12月

冒頭で書いたとおり、この2か月の餌の判断は推定です。

項目11月12月
捕食を得た回数12回4回
10 cm未満のシンキングミノーが占めた割合75.0%0%
10 cmを超えるフローティングミノーが占めた割合0%50.0%
ジャーキングとリトリーブを組み合わせた操作が占めた割合66.7%0%

12月に、初めて10センチを超えるルアーで捕食が得られています。山田は、捕食対象の小魚が大きくなっていることを理由に挙げています。

ただしこれも推定です。大きいルアーに食ったから対象が大きいのだろう、という推論なので、独立した確認になっていません。12月の捕食は4回しかありません。

11月下旬には、シラスの大群が入っています。カタクチイワシで書いたとおり、この時期はどのルアーでも捕食を誘発するのが難しい状況になりました。同じ11月の中に、20センチのボラの稚魚を狙う魚と、数センチのシラスを狙う魚が混ざっていたことになります。

使われたルアー

論文の分類で「10センチを超えるフローティングミノー」に含まれるのは4種類です。

論文の表記読み
TKLMティーケーエルエム
Komomo counterコモモカウンター
KomomoⅡコモモ2
Sardina107サルディナ107

カタカナは論文の英字表記をそのまま読んだものです。メーカー名や、いま販売されているかは確認していません。2010年の調査です。

分かっていないこと

11月と12月の餌の判断が推定です。この記事でいちばん大きな穴です。吐瀉物でボラの稚魚が確認された記録を、私は見つけられませんでした。

播磨灘の調査にも、ボラは出てきません。胃から同定された魚類14種の中にボラ科は入っていませんでした。瀬戸内海ではボラがスズキの餌になっていないのか、そもそも遭遇していないのかは分かりません。

イナッコの居場所を調べた資料が見つかりませんでした。底に何が生えているかで決まる、というところまでは食性から言えますが、それを実際に測った調査を見つけられていません。アミやバチのような、分布を数えた研究に当たるものがありません。

サイズの資料が食い違います。その年の秋に10センチなのか20センチなのかで、合わせるルアーの大きさが変わります。

茨城のデータではありません。産卵海域は黒潮の影響を受ける外海とされていて、関東の河川に入る個体がどこで生まれたものかは、この記事の範囲では分かりません。

東京湾のボラの生態はよく解明されていないと、東京都自身が書いています。

跳ねから種を見分ける方法は書かれていません。

イナッコがどの層にいるかを測ったデータがありません。上に書いたとおり、食性から底での摂餌は言えますが、1日のうちどれだけの時間を底で過ごすのかを測った調査を見つけられていません。アミについては片山らが層別に数えた調査がありましたが、ボラには当たるものがありません。

ベイトボールの記述は、百科事典から引いたものです。査読された研究ではなく、扱われている捕食者もシーバスではありません。

涸沼の溶存酸素は、湖底から20センチで測った値しか見ていません。イナッコのいる層との関係は分かりません。

続けて読むなら

ボラの、前後の月です。

記事つながり
カタクチイワシ前の月です。9月と10月はカタクチイワシ。11月下旬のシラスの話もこちらにあります
コノシロ12月に大きいルアーへ移る話の、行き先にいる魚です。播磨灘では魚類の湿重量1位でした
サヨリ跳ねから種を見分けられないという話を、こちらでも書いています
ベイトはなぜそこにいるのか水が集める4つの仕組み。イナッコだけは、そこに当てはまりません
カビボラは白点病なのか同じボラが、病気になったときの話です。弱った個体が群れから離れて表層に浮く

そして、ベイト10種を1枚にまとめたベイトの見当をつけるがあります。時期・大きさ・層・攻め方の一覧です。

使ったもの・参考文献