ベイトはなぜそこにいるのか
ベイトを探せ、とは書いてきましたが、ベイトの居場所を決めているものについては書いていませんでした。プランクトンを集める水の動きを4つ調べました。生き物が自分で集まっているのではなく、水が集めています。
結局、何を優先すればいいのかで、2位に「魚がいる場所に立つ」を置きました。「何もない場所」の攻め方では、ベイトの気配がいちばん確かな目印だと書きました。
どちらの記事も、ベイトを探せ、で終わっています。ベイトがどこにいるかを決めているものについては、一度も書いていません。
調べて書いた記事です。観察や採集をしたわけではありません。公開されている研究を読んで整理したものです。私の推測が入る部分は、そう分かるように書きます。
先に結論を書きます。ベイトの餌を集めているのは、主に水の動きです。生き物の側がやっているのは、集まった場所から流されないようにすることでした。だから、水の動きが読めれば、ベイトのいる場所は絞り込めます。
その前に:ベイトを一括りにできません
ベイトの居場所を「プランクトンを追っている」の一言で片づけたくなりますが、それは種類とサイズによります。
ボラ (Mugil cephalus) で見てみます。この魚は成長の途中で食べるものが変わります。
デトリタスというのは、生き物の死骸や排泄物、枯れた植物などが細かく砕けた有機物のかけらのことです。水中を漂ったり底に積もったりしていて、表面に細菌や微細な藻類が付いています。底に溜まっている茶色い泥のうち、砂粒でない部分だと思ってください。
| 体長 | 胃の中に砂とデトリタスが入っているか |
|---|---|
| 25 mm未満 | 出てこない |
| 25 mm以上 | 体長が増えるほど割合が上がる |
スリランカの汽水湖で20から55ミリの個体を調べた研究は、25ミリより小さい個体の胃からは砂もデトリタスも出てこず、体長が増えるほどその割合が上がったと報告しています。
釣り人の言葉に直すと、ハクとイナッコでは食べているものが違います。ハクは水の中に浮いているものを食べ、イナッコは底をなめている。同じ「ボラのベイト」でも、集まる理由が違うことになります。
なぜ切り替わるのかは、この研究からは分かりません。胃の中身を数えた報告であって、理由を測ったものではないからです。
理由の候補はあります。大きくなったボラは、胃の幽門部がそろばん玉の形に肥厚していて、飲み込んだ砂で藻類を擂り潰します。この器官がなければ、砂ごと食べる食べ方はできません。ただし、器官がいつ発達するのかを測った資料は確認していません。事実と結びつけた私の推測です。
以下で扱うのは、水中に浮いているものを食べる側の話です。底をなめる側には、そのまま当てはまりません。
集める仕組みは、水のほうにあります
プランクトンも泳ぎます。ただし横方向に流れへ逆らい続けられるほどの速さはありません。だから、どこに濃く溜まるかは水の動きが決めます。
調べた範囲で、はっきり書かれている仕組みは4つでした。はじめの3つは水の側の話、4つめは生き物の側の話です。順に見ます。
1. 流れがぶつかって、片方が沈み込む線
いちばん分かりやすいのがこれです。性質の違う2つの水がぶつかると、境目で片方が下に潜り込みます。水は下へ抜けていきますが、浮く性質のものは一緒に沈めません。運ばれてきたぶんだけ、その線に取り残されて溜まっていきます。
河口では、これが規模の大きな形で起きます。コロンビア川の河口域をまとめた総説は、軽い淡水が重い海水に乗り上げ、その先端に収束帯ができて、動物プランクトン・仔魚・そしてそれらの捕食者が集まると述べています(Grimes and Kingsford, 1996)。
釣り人が「潮目」と呼んでいるものの一部が、これです。水色が変わる線、泡やゴミが並ぶ線は、その下で水が沈み込んでいる印になります。
2. 風が水面に作る筋
風が吹くと、水面のすぐ下に風向きと平行な、回転の向きが交互に入れ替わる渦の列ができます。ラングミュア循環と呼ばれるものです。
渦と渦のあいだには、水が集まって沈み込む線と、水が湧き上がって広がる線が交互に並びます。沈み込む線に、浮かぶものが集められます。泡やゴミが風向きに沿って何本もの筋になるのは、これが理由です。
ラングミュア循環の解説をまとめたページは、この筋が生き物も汚染物質も同じように濃縮する仕組みとして働くと述べています。
発生する条件も書かれています。一般に風速3メートル毎秒より大きいときにのみ起きる、と。ただし同じページに、閾値は絶対的なものではなく、うねり、風が吹き続けた時間、風が水面を吹き渡った距離、風が吹く前からあった流れが関係するとも書かれています。
そしてこの数字は、下限として扱えません。2024年に Journal of Physical Oceanography に載った観測研究は、風速およそ1メートル毎秒を超えたところで発生を確認したと報告しています。
風速3メートルは、釣りをしていて少し風があるなと感じるくらいです。1メートル毎秒なら、頬に感じるかどうかという程度になります。どちらにしても、特別な条件ではありません。
向かい風と追い風、どちらが有利かで、風が表層の水を動かすところまでは書きました。その水がどう筋を作るかまでは書いていませんでした。
3. 河口の、塩分が低いところにできる濁りの帯
ここからは河口と汽水河川の話です。
河口には、上流から来た淡水と下から入ってくる海水がぶつかる場所に、濁りが濃くなる帯ができます。細かい粒子が、そこで行ったり来たりして溜まるためです。
そして、同じ場所にプランクトンの極大も重なります。
サンフランシスコ湾で1972年から1987年の観測をまとめた研究は、カイアシ類とアミ類の個体数の極大、そして透明度板で測った濁りの極大が、いずれも底の塩分が2 psu になる位置の近くにあったと報告しています。塩分でいうと0.5から6 psu の低塩分域です。
psu は塩分の単位です。水がどれだけ電気を通すかから求めた値で、海水1キログラムあたりに溶けている塩のグラム数とほぼ同じ数字になります。外洋の海水がおよそ35、真水が0です。
海水がおよそ35 psu なので、2 psu は海水の6%程度にあたります。かなり上流側です。
この帯は、位置が動きます。川の水が増えれば下流へ押し下げられ、減れば上流へ戻ります。同じ研究チームの続報では、川の流量が7倍違った年に、この低塩分域の位置が28キロメートル沖側にずれていました。
雨のあとにベイトの位置が変わるという経験は、この動きと向きが合っています。ただし28キロというのは大河川の話で、規模の小さい河川で同じだけ動くとは限りません。
なお、この濁りの帯は塩水くさびとは別のものです。塩水くさびは重い海水が淡水の下に入り込む層の話で、濁りの帯は粒子が溜まる場所の話です。近い場所にできますが、同じものではありません。塩水くさびのほうは、まだ記事にしていません。
4. 上下に動いて、流されないようにする
4つめは、生き物の側の動きです。
潮に合わせて上がったり下がったりすれば、その場に留まれます。上げ潮のときに浮いて上流へ運んでもらい、下げ潮のときに底へ沈んで流れをやり過ごす。これを繰り返せば、正味では移動しません。
なぜ底に沈むと流れをやり過ごせるのか。潮の流れは上下どちらにもありますが、速さが違うからです。水が底の上を流れるとき、底に接した部分は動けません。そこから上へ向かって、少しずつ速くなっていきます。同じ潮でも、底の近くは表層よりはっきり遅い。
だから、下げ潮で底に沈めば流される量が少なく、上げ潮で浮けば速い層に乗って上流へよく運ばれます。行きより帰りが少なくなって、正味では上流に残る。
河口にはもう一つ仕組みがあります。軽い淡水が上を海へ向かい、重い海水が下を上流へ入り込む循環です。底層はもともと上流を向いているので、底に沈むことがさらに効きます。
上で引いたサンフランシスコ湾の研究が、この行動を実際に観測しています。ただし、うまくいっている種とそうでない種がありました。
| 生き物 | 潮に合わせた上下移動の効果 |
|---|---|
| アミ類・ヨコエビ類 | 沖へ流される分を打ち消し、正味で上流へ運ばれるだけの効果があった |
| カイアシ類 | 移動はしていたが、沖へ流される分を打ち消すには足りなかった |
著者らは、カイアシ類には別の位置の保ち方があると述べています。何が効いているのかは、この論文では分かっていません。
この仕組みを、実際に音で追いかけた調査があります。メイン州のダマリスコッタ川の河口で、多周波の音響測深機を使って水柱を12.5センチ間隔で測ったものです (Sato and Jumars, 2008)。対象は Neomysis americana というアミで、採集試料の89%以上を占めていました。
秋の観測で、次のことが分かっています。
| 潮の状態 | アミの動き |
|---|---|
| 低い憩流 (流れが止まるとき) の近く | 水柱を速やかに上昇し、表層近くにも達した |
| 上げ潮に近い時間帯 | 出現はするが、底から高くは上がらなかった |
著者らはこう説明しています。低い憩流のときに表層へ上がれば、河口から流し出される危険を抑えたまま、餌の多い水に届く。そのあとの上げ潮で、上流へ運ばれる。底の近くでは、上げ潮を積極的に使って水平に移動しているとも述べています。
これが、この4つめの仕組みの実例です。上下に動くことで、流し出されずに餌にたどり着いている。
もう一つ、速い流れのときの振る舞いが具体的に書かれています。流れが速いときも出てはくるが、高くは上がらない。著者らは、動物が反応する流速の閾値がある可能性を指摘しています。
ただし、これはアメリカ東海岸の種で、調査地もメイン州です。日本の河口で同じ形になるかは分かりません。この論文の中身はアミはどこにいるのかでもう少し詳しく扱っています。
釣り場で見えるものと、その裏側
ここまでを、目に見えるものの側から並べ直します。
| 釣り場で見えるもの | 水の中で起きていること | どこまで確かめられているか |
|---|---|---|
| 水色が変わる線、泡やゴミが並ぶ線 | 性質の違う水がぶつかり、片方が沈み込んでいる | 河口の大規模なものは観測されている |
| 風向きに沿った何本もの筋 | ラングミュア循環の沈み込む線 | 発生条件と濃縮の働きは確かめられている |
| 濁りが濃い区間 (河口・汽水河川) | 低塩分域に粒子とプランクトンが溜まっている | 大河川で観測されている |
| 常夜灯の光 | 光に集まる性質 | 別記事で明るさを計算した |
共通しているのは、どれも「水が集めている」ことです。生き物が餌を求めて泳いでその場所を選んだ、という説明ではありません。
だとすれば、探すべきものは餌そのものではなく、水が集まる場所になります。目に見える線を探すのは、そのための近道です。
ベイトごとに、当てはまり方が違います
この記事の4つの仕組みは、どれも水中に浮いているものを集める話です。だからベイトによって、当てはまったり当てはまらなかったりします。
1種類ずつ調べた記事が10本あります。この記事の仕組みが効くかどうかで並べ直すと、こうなります。
| ベイト | 記事 | この記事の仕組みが効くか |
|---|---|---|
| アミ | アミはどこにいるのか | 効きます。上下移動の実例そのもの |
| カタクチイワシ | カタクチイワシ | 効く側。プランクトン食 |
| コノシロ | コノシロ | 同上。ただし大規模な回遊をせず、もともとそこにいます |
| 稚アユ | 稚アユ | 海にいるあいだは動物プランクトン食 |
| サヨリ | サヨリ | 一生を表層で過ごし、流れ藻に付随します |
| バチ (多毛類) | バチはなぜ流れてくるのか | 別の仕組み。底に住み、産卵で泳ぎ出て流下する |
| ハゼ、エビ | ハゼとエビはなぜ6月から入れ替わるのか | 別の仕組み。着底して底と際に着く |
| イナッコ、つまりボラ | ボラは底をなめる | 当てはまりません。底に生えているものを食べます |
| 落ちアユ | 落ちアユ | 別の仕組み。産卵のために川を下ります |
| イカ | イカ | 分かりません。根拠が1行しかありません |
効く側に分類した行は、食性からの推測です。実際に測ったわけではありません。確かめられているのはアミだけで、それも別の海の別の種での話を重ねています。
当てはまらない側にも意味があります。ボラのイナッコを探すなら、水が集まる線ではなく底に何が生えているかを見ることになります。探すものが変わります。
これで説明できないこと
ここまでの話には、埋まっていない段差がいくつもあります。
プランクトンが濃い場所に、ベイトが本当にいるのか。ここが最初の段差です。上で引いた研究はプランクトンと仔魚を数えたもので、釣りで相手にするサイズのベイトを数えたものではありません。「餌があるところに魚がいる」は筋が通りますが、確かめた資料を私は見つけられませんでした。
ベイトが濃い場所に、シーバスがいるのか。これが2つめの段差です。同じく、確かめた資料は見つけられませんでした。
どれも大きな河口の研究です。サンフランシスコ湾とコロンビア川。日本の中小河川で同じことが起きるかは分かりません。規模が違えば、帯の幅も動く距離も変わります。
ボラの食性転換は、スリランカの汽水湖で調べられたものです。日本の個体で同じ体長が境になるかは確認していません。1本しか見ていません。
風の筋が、どれくらいの濃さでベイトを集めるのかは分かりません。仕組みは確かめられていますが、釣りで意味が出るほどの差になるかを測った資料は見つけられませんでした。
風速の条件は、解説をまとめたページに載っていた数字です。そのページ自身が、閾値は絶対的なものではないと断っています。河川や港湾のような狭い水面で同じ条件になるかも確認していません。
この箇所は、公開後に訂正しました。当初は3メートル毎秒という数字に3本の論文名を添えていましたが、うち2本を実際に読んだところ、どちらにもこの数字が書かれていませんでした。1本はラングミュア循環に触れてすらいません。孫引き元が並べていた文献名を、引用関係を確かめずに書き写していました。文献名は削除し、数字の出どころを書き直しています。
底をなめる側のベイトは、ここでは扱えていません。イナッコが底の微細藻類を食べているなら、その居場所を決めるのは藻類がどこに生えるかで、水が集める仕組みとは別の話になります。
そして、私はどれも自分では確かめていません。潮目を見つけて釣れた経験も、そうでなかった経験も両方ありますが、それを系統立てて記録したわけではありません。
それでも、使えることが1つあります
目印がないときに、何を探せばいいかが決まります。
「何もない場所」の攻め方では、地形・流れ・ベイトの3つを探すと書きました。このうちベイトは、他の2つの結果として現れます。地形が流れを曲げ、流れが水を集め、集まった場所にプランクトンが溜まる。
だとすれば、ベイトが見えないときに探すべきは、水が集まっている線です。風向きに沿った筋、水色の境目、泡の列。どれも水面を見ていれば分かります。
これは新しい話ではありません。潮目を探すのは、昔から言われていることです。この記事でやったのは、その裏側に何があるのかを確かめただけです。ただ、仕組みが分かると、風が出てきたら筋を探すのように、条件のほうから先に見当がつけられます。
次に読むもの
この記事は、どこにいるかの話です。何を食べているかは別の記事にあります。
シーバスは何を食べているのかに、月ごとに主なベイトが入れ替わる表と、大きさから年齢が読める表を載せました。どの月に何を探せばいいかは、そちらから決まります。
そのうえで、上の表からベイトごとの10本へ進めます。
そして、10本すべてを1枚にまとめたベイトの見当をつけるがあります。時期・大きさ・層・攻め方の一覧です。
使ったもの・参考文献
- Kimmerer, W. J., Burau, J. R. and Bennett, W. A.「Tidally oriented vertical migration and position maintenance of zooplankton in a temperate estuary」(Limnology and Oceanography 43, 1998)— 低塩分域に濁りとプランクトンの極大が重なること。底の塩分2 psu 付近という位置。潮に合わせた上下移動が種によって効いたり効かなかったりすること
- 同上「Persistence of tidally-oriented vertical migration by zooplankton in a temperate estuary」(Estuaries 25, 2002)— 川の流量が7倍違うと低塩分域が28キロ動いたこと
- 「Biotic and abiotic factors influencing forage fish and pelagic nekton community in the Columbia River plume (USA)」(ICES Journal of Marine Science 71, 2014)— 淡水が海水に乗り上げてできる収束帯に、動物プランクトン・仔魚・捕食者が集まること。この記述自体が Grimes and Kingsford (1996) を引いたもので、私は原典に当たっていません
- Sato, M. and Jumars, P. A.「Seasonal and vertical variations in emergence behaviors of Neomysis americana」(Limnology and Oceanography 53(4), 1665-1677, 2008)— 低い憩流で表層へ上がり、上げ潮で上流へ運ばれること。速い流れのときも出現するが高くは上がらないこと
- Langmuir Circulation(ScienceDirect Topics)— 風の筋ができる仕組み、収束線が生き物を濃縮すること、発生する風速の目安とその閾値が絶対的でないこと。教科書の記述を集めたページで、査読を経た論文ではありません
- 「Observations and Numerical Simulations of the Onset and Growth of Langmuir Circulations」(Journal of Physical Oceanography 54(8), 2024)— 風速およそ1メートル毎秒を超えたところで発生を確認したこと。私が読んだのは抄録です
- De Silva, S. S. and Wijeyaratne, M. J. S.「Studies on the biology of young grey mullet, Mugil cephalus L. II. Food and Feeding」(Aquaculture 12, 1977)— 25ミリ未満の個体の胃から砂もデトリタスも出ないこと、体長とともにその割合が上がること