コノシロ:胃の中で1位なのに、記録には出てこない

播磨灘で1017尾の胃を開けた調査では、コノシロが魚類の湿重量の24.9%で1位でした。ところが東京湾奥で105個体の捕食を記録した調査には、一度も出てきません。この食い違いから始めます。コノシロはスズキとほぼ同じ季節移動をし、そして大きい魚です。

この記事の見出し

シーバスは何を食べているのかで使った2つの調査が、この魚については食い違います。

調査コノシロの扱い
宮原ら (1995)、播磨灘、1017尾の胃内容物胃から出た魚類の湿重量の24.9%で1位。出現個体数213
山田 (2011)、東京湾奥、105個体の捕食記録一度も出てこない

カタクチイワシ (24.2%) より上です。それが、もう片方の調査には影も形もありません。

調べて書いた記事です。

食い違いの理由を、確かめられていません

考えられることを並べます。どれも推測で、確かめられていません。

採集の方法が違います。宮原らは刺網、一本釣り、小型定置網、投網を使っています。網は魚を選びません。いっぽう山田はルアー釣りで、サンプルは「ルアーに食った個体」に限られます。シーバスは何を食べているのかでも書いた、この調査の弱点です。

場所が違います。宮原らは明石市地先と高砂市地先、つまり播磨灘に面した沿岸です。山田は隅田川の影響を受ける運河と湾奥の3地点でした。

海域が違います。瀬戸内海と東京湾です。

そして、もう一つ効いていそうな理由があります。コノシロは大きい。

大きい魚です

東京都島しょ農林水産総合センターの解説から、成長を書き出します。

年齢体長
生後1年10 cm前後
2年約15 cm
3年約20 cm

満1歳で成熟して産卵に参加します。

山田は、スズキが対象にしているのを体長1センチから20センチの動物と推定していました。コノシロは、その上限に張りつく大きさです。

宮原らの調査に、実際の捕食例があります。尾叉長627ミリのスズキが、コノシロ2尾、合わせて236.4グラムを飲んでいました。この2尾で自分の体重の9%にあたります。1尾あたりでは約118グラムです。

大きいルアーは大きい魚を釣るのかで、はっきりした結論が出ませんでした。シーバスは何を食べているのかでは、宮原らの説明を引いて大きなスズキにとって上限サイズの餌になり得るのは、1個体あたりの重量が大きい魚類だと書きました。

コノシロは、まさにその位置にいる餌です。

スズキと同じ動きをします

ここが、このベイトのいちばんの特徴です。同じ解説にこうあります。

スズキと同様、春季から秋季には河口付近および河川内の浅所に生息するが、冬季には外洋に近い湾口部の比較的深部に移動する。

そして、大規模な回遊は行わず、一生を通して生息域を大きく変えることはないとされています。有機物の多い内湾での定着性が比較的強い魚です。

これはカタクチイワシと正反対です。イワシは産卵期が周年に及び、接岸が不定期で、暦を持っていませんでした。コノシロは、もともとそこにいます。

だとすれば、コノシロパターンは「入ってきた」ではなく「そこにいるものを食べている」状態ということになります。ただしこれは分布の記述からの読み取りで、確かめたものではありません。

生息する水深も書かれています。15メートル付近よりも浅い沿岸や河口の汽水域。東京湾では夏季に多摩川や江戸川などの下流部でよく見られるとされています。

食べているものはプランクトンです

雑食性で、植物および動物プランクトンなどを食べると書かれています。

だとすれば、ベイトはなぜそこにいるのかで挙げた水がプランクトンを集める4つの仕組みが効く相手ということになります。収束線、風の筋、低塩分域の濁りの帯、上下移動。アミやカタクチイワシと同じ側です。

ボラは底をなめるで書いたイナッコとは、逆の側になります。

ここも食性からの推測で、確かめていません。

産卵期には、汽水域に入ります

産卵期については、資料で少し幅があります。

資料産卵期
東京都島しょ農林水産総合センター春から初夏。産卵場は内湾域
広島大学デジタルミュージアム4月から5月。各個体が明らかに2回以上産卵する

広島大学の記述には、内湾性で、産卵期には汽水域に回遊するとあります。広島県では太田川や芦田川の汽水域に小型の個体が侵入するとも書かれています。

産卵期に汽水域へ寄ってくるという点は、河川や河口で釣る側にとって意味を持ちます。

攻め方:記録がありません

この記事の最大の制約です。

これまでの5本では、山田 (2011) の月ごとの記録を使ってきました。コノシロは、その記録に出てきません。だから、どのルアーのどの操作で食ったかというデータが、この記事にはありません。

代わりに書けるのは、釣り場で共有されている整理だけです。

釣り人向けの解説サイトがまとめた一覧では、コノシロパターンについて次のように整理されています。

項目整理されている内容
ルアーの種類フローティングミノー、シンキングミノー、バイブレーション
ルアーの大きさ12 cmから17 cm程度
狙うレンジ表層から底層
動かし方昼はミディアムリトリーブ、トゥイッチ、ジャーク。夜はスローリトリーブ

これは釣り人のあいだで共有されている整理であって、調査の結果ではありません。私はこの整理の元になったデータを確認していません。

ただし大きさについては、独立した根拠があります。3年で20センチという成長と、1尾118グラムを飲んでいた捕食例。12センチから17センチというルアーサイズは、この魚の実寸と矛盾しません。

そしてカタクチイワシで書いた群れの話は、コノシロにも当てはまる性質のものです。8尾以上の群れになると捕食成功率は1〜2割に落ち、群れの中で違って見える個体は狙われる。ただしコノシロで測った実験を、私は見つけていません。

分かっていないこと

2つの調査の食い違いの理由が分かりません。この記事の出発点であり、答えを出せていない点でもあります。

攻め方の記録がありません。吐瀉物で餌が確認されたうえでのルアーの記録が、コノシロについては存在しません。

茨城のデータではありません。播磨灘は瀬戸内海、東京都の解説は東京湾です。

科の扱いが資料で違います。ニシン科とする資料とコノシロ科とする資料があります。この記事ではニシン目コノシロ属としました。

産卵期に幅があります。春から初夏とする資料と、4月から5月とする資料があります。

スズキがコノシロを狙って動いているのかは分かりません。両者が同じ季節移動をするという記述は、同じ環境を好んでいるという説明でも成り立ちます。餌を追っているのか、たまたま重なっているのかを分けたデータを、私は見つけられませんでした。

播磨灘で何月に食べられていたかは、月ごとの値までしか出せません。宮原らの表4で、1歳以上の胃から出た魚類の湿重量に占めるコノシロの割合は、1993年7月28.7%、8月59.0%、11月25.5%、12月30.2%でした。9月と10月、1994年1月から6月には出ていません。ただし、月ごとの分母が大きく違います。胃から出た魚類の総重量は、7月18.80グラム、8月361.00グラム、11月684.38グラム、12月994.59グラムでした。採集は各月1回で、場所も漁法も月によって違います。夏と初冬に出ていると読めますが、季節の傾向と言えるほどの数ではありません。

続けて読むなら

コノシロの周りにいる魚です。

記事つながり
カタクチイワシ正反対の性格です。イワシは暦を持たず接岸が不定期で、コノシロはもともとそこにいます
落ちアユ同じ秋ですが、場所が真逆です。落ちアユは川を下ってきます
イカ大規模な回遊をしないという性格が同じです。ただし根拠の厚さはまるで違います
ボラは底をなめる底をなめる側との対比。コノシロはプランクトン食で、水が集める側です

そして、10本すべてを1枚にまとめたベイトの見当をつけるがあります。時期・大きさ・層・攻め方の一覧です。

使ったもの・参考文献