サヨリ:国の資料が「知見が非常に少ない」と書く魚

水産庁がまとめた資料は、スズキ成魚の餌としてサヨリを挙げています。同じ資料が、サヨリについては卵から成魚まで生息環境の知見が非常に少ないとも書いています。それでも、月ごとの体長と、水面から離れない習性と、体長の5倍以上を跳んで逃げる行動は分かりました。

この記事の見出し

このシリーズで、コノシロ以降ずっと同じことを書いてきました。シーバスがそのベイトを食べたという一次資料を確認できていない、と。

サヨリについては、それが確認できました。

調べて書いた記事です。

水産庁の主要対象生物の発育段階の生態的知見の収集・整理は、55種の重要魚種について発育段階ごとの生態をまとめた資料です。そのスズキの項で、成魚期の餌料生物として次の名前が挙がっています。

アユ、カタクチイワシ、マアジ、マイワシ、マサバ、ヒラメ、クルマエビ、サヨリ。

国の資料が、知見不足を明記しています

同じ資料のサヨリの項に、こう書かれています。

このサヨリの生態等については、卵から成魚にいたる生息環境に関する知見が非常に少ない。

この資料は、知見が不足している部分を明らかにすることを目的の一つに掲げてまとめられたものです。その上での記述になります。

稚アユでは、県が12年分の遡上日と全長を公表していました。同じ「ベイトパターン」でも、確かめられる度合いはまったく違います。

なお、この資料はサヨリの学名を Hemiramphus sajyori と記していますが、現在使われている学名は Hyporhamphus sajori です。資料が古い表記のままである点は、そのまま書いておきます。

月ごとに、体長が決まります

それでも、使える数字はあります。南関東沿岸での成長です。

時期全長
6月約5 cm
8月約14 cm
10月約18 cm
翌年4月から5月約25 cm
翌年9月約30 cm

寿命は2年です。

読み取れることを書きます。

夏に急に伸びます。6月から8月の2か月で、5センチから14センチ。3倍近くになります。この時期は1か月に4センチ以上のペースです。8月から10月は1か月あたり2センチで、ペースが落ちます。

秋のサヨリは18センチ前後、春は25センチ前後。同じサヨリでも、時期でこれだけ違います。

愛媛での測定では1歳で全長19センチから20センチ、2歳で24センチから25センチとされていて、南関東の数字とおおむね揃います。

成熟する大きさも書かれています。全長で雌32センチ (2歳)、雄25センチ (1歳から2歳)。

表層から離れません

生息環境の欄は、どの発育段階もほぼ同じ言葉が並びます。

発育段階生息する場所
卵浅瀬、表層の漂流物、流れ藻
稚魚期沿岸、河口域の表層
未成魚期表層、漂流物に付随
成魚期表層

一生を表層で過ごします。流れ藻への依存も、稚魚期から成魚期まで一貫して「流れ藻に寄る」「流れ藻に付随する」と書かれています。

ベイトはなぜそこにいるのかで、水面に浮くものが収束線に集められる話を書きました。流れ藻が集まる線には、サヨリも集まるという筋になります。ただしこれは私の推測で、確かめていません。

体長の5倍以上を跳んで逃げます

行動特性の欄に、逃避についての記述があります。

典型的な半月状の弧を描いて跳躍し、空中に逃避する。1回の跳躍で体長の5倍以上の距離を飛ぶ。

体長を上の表に当てはめると、こうなります。

時期の全長1回の跳躍で飛ぶ距離
秋、約18 cm90 cm以上
春、約25 cm125 cm以上
大きい個体、約30 cm150 cm以上

追われたサヨリは、1メートル前後を空中で移動します。水面が割れて何かが跳ぶのを見たとき、その正体の候補になります。

ただし、跳ねを見て種を判別する方法は書かれていません。ボラは底をなめるでも同じことを書きました。ボラも盛んに跳ねます。

産卵は、流れ藻に卵を絡めます

産卵の様子が具体的に書かれています。

沿岸のホンダワラ類 (アカモク、イソモク、ヤツマタモク等) やアマモ類、流れ藻、漂流物に産卵する。時には水面を覆う藻の塊の上に体を横たえて産卵することもある。

産卵行動も記述があります。産卵期には各地の沿岸の藻場に10尾から20尾ずつの群れを作り来遊する。群れの先頭には体の大きい雌がいて、その後に体の小さい雄が従う。そして毎日産卵します。

卵は沈性粘着卵で、径は報告によって1.7ミリから2.4ミリの幅があります。水温14℃から17℃で、孵化までおよそ14日。

産卵期は場所で変わります。南で早く、北に向かい遅くなるとされています。

場所産卵期
静岡 (浜名湖)3月から5月
和歌山県、島根県4月
瀬戸内海5月
若狭湾、笠岡、宇和島5月から6月
新潟県、仙台湾万石浦6月
陸奥湾、香住6月から7月

茨城の記載はありません。仙台湾が6月上旬から下旬、浜名湖が3月から5月なので、そのあいだになりますが、この資料からは決められません。

なお、産卵期の親魚はサヨリの卵も食べると書かれています。同種の卵を食べる記述です。

そしてもう一つ。流れ藻が浜に打ち上げられると卵が死亡し、その減耗割合は30%あまりになる。産卵先を流れ藻に頼ることの代償です。

仔魚には、正の走光性があります

もう一つ、記録しておきたい記述があります。仔魚期に正の走光性がある。光に向かう性質です。

常夜灯は何ルクスかで、常夜灯の真下が満月の57倍の明るさになることを計算しました。

ただし、走光性が書かれているのは仔魚期だけです。孵化直後の全長6.5ミリから8.3ミリ、変態が完了する25日目で22ミリから28ミリという段階の話で、釣りで相手にするサイズのサヨリについては何も書かれていません。

攻め方:記録がありません

コノシロ、落ちアユ、稚アユと同じです。

山田 (2011)の東京湾奥の記録にサヨリは出てきません。宮原ら (1995) が播磨灘で同定した魚類14種にも入っていません。吐瀉物で餌が確認されたうえでのルアーの記録が存在しません。

書けるのは、釣り場で共有されている整理だけです。

項目整理されている内容
ルアーの種類フローティングミノー、シンキングミノー、シンキングペンシル
ルアーの大きさ12 cmから17 cm程度
狙う時間帯昼と夜
狙うレンジ表層
動かし方昼はミディアムリトリーブ、トゥイッチ。夜はスローリトリーブ、ドリフト

これは釣り人のあいだで共有されている整理であって、調査の結果ではありません。

ただし、2点だけは資料と噛み合います。表層を狙うという点は、サヨリが一生を表層で過ごすという記述と一致します。ルアーの大きさ12センチから17センチも、翌年の春から秋にかけての25センチから30センチという体長を考えれば、極端に外れてはいません。

分かっていないこと

国の資料が知見不足と書いています。この記事の前提そのものです。

茨城の産卵期が分かりません。上の一覧に茨城の記載がありません。

接岸の季節を測ったデータが見つかりませんでした。秋から冬が釣期という記述は釣り関係の資料に見られますが、それを測ったデータを私は確認していません。

攻め方の記録がありません。

跳ねから種を見分ける方法は書かれていません。

走光性は仔魚期の記述だけです。成魚が常夜灯に寄るかどうかは分かりません。

スズキの餌料生物としてサヨリが挙がっている根拠を、私は追えていません。この資料は多数の文献をまとめたもので、この記載がどの調査に基づくかは、資料の中では特定できませんでした。

南関東沿岸の成長データも、出典を追えていません。同じ理由です。

続けて読むなら

サヨリの周りの記事です。

記事つながり
イカ根拠の薄さで並ぶ2本です。イカのほうは、播磨灘の胃から1個体も出ていません
稚アユ資料の厚さが正反対です。稚アユは県が12年分を公表しています
ボラは底をなめる跳ねから種を見分けられないという話を、こちらでも書いています
シーバスは何を食べているのか月ごとに何が主になるかの表。サヨリはそこにも出てきません

そして、10本すべてを1枚にまとめたベイトの見当をつけるがあります。時期・大きさ・層・攻め方の一覧です。

使ったもの・参考文献