ハゼとエビはなぜ6月から入れ替わるのか:流れの中から、壁際へ

6月に、捕食の起きる場所が変わります。潮の流れの中から、人工構造物や障害物のまわりへ。マハゼの当歳魚が着底して浅場に出てくる時期と重なっていました。食い方も、咥えて沈むものからひったくるものへ変わります。記録が残っている6月と7月のルアーと操作も並べます。

この記事の見出し

バチはなぜ流れてくるのかで、4月と5月は流れに乗せて流す釣りだったと書きました。

6月に、これが変わります。

調べて書いた記事です。攻め方についても、記録が残っている調査に基づいて書きます。

変わるのは、ルアーより先に場所です

山田 (2011)に、短い一文があります。

6月以降の摂餌行動は、潮の流れの中よりも人工構造物や障害物周辺で行われることが多かった。

バチの時期は、流れの中に定位したスズキが、流れてくる虫を吸い込む釣りでした。6月からは、立つ場所そのものが変わります。

時期捕食が起きていた場所
4月・5月潮の流れの中。橋の下などの明暗の境目
6月以降人工構造物や障害物のまわり

この違いは、ルアーを替えるより前の話です。

なぜ6月なのか:ハゼの暦

理由は、餌の側の暦にありました。マハゼの当歳魚が、着底して浅場に出てくる時期です。

東京都島しょ農林水産総合センターの解説から、東京湾でのマハゼの1年を書き出します。

時期マハゼの状態
冬から春産卵期。親は砂泥底に長さ数メートルにおよぶトンネルを掘り、その天井に卵を産みつけて孵化まで守る
2月から4月体長1センチから2センチの仔魚が大量に採集される。海中を漂ってプランクトンを食べる
初夏体長3センチから4センチに育った稚魚が海底に着底し、ゴカイなどの底生生物を食べるようになる
6月から7月水深数十センチの波打ち際で、6センチから7センチに育った小型魚が釣れる。釣り人が言うデキハゼ

山田が6月に確認した吐瀉物は4センチから5センチのハゼとエビでした。着底したばかりの当歳魚のサイズに、ほぼ重なります。

そして、マハゼは基本的に1年で死にます。産卵後は雄も雌も死ぬ、と複数の資料にあります。夏の個体群は、その年生まれの個体が主体ということになります。

浮いていたものが底に降り、浅い場所に出てくる。だから、スズキの捕食も底と際に移った。これは私の解釈ですが、時期とサイズの一致は偶然にしては良すぎると思います。

食い方も変わります

山田は、食い方の違いをはっきり書いています。

意識している餌捕食のしかた
イソメ類ルアーを咥えてゆっくり沈下する。定位したまま吸い込むように食べ、定位置に戻る
小魚やエビ非常に激しい。突然ひったくるように攻撃してくる

同じ魚が、餌によって食い方を変えています。バチの時期に「食ったのに乗らない」と言われるのと、夏に「ひったくられる」と言われるのは、別の行動を見ていることになります。

攻め方:6月と7月の記録

この2か月も、吐瀉物で餌が確認されています。6月は4センチから5センチのハゼとエビ、7月まではハゼとエビ。餌が独立に分かったうえでの記録です。

6月は、2つに割れました

項目6月の記録
捕食を得た回数7回
バイブレーション2回
10 cm未満のシンキングミノー2回
シンキングペンシル3回

操作も割れています。一定の速さで引くノーマルリトリーブが3回、瞬間的に強く引くジャーキングが4回。山田は、この月を日によって「静」と「動」にパターンが分かれたと書いています。

そして、静の側で食った個体の吐瀉物はイソメ類でした。動きの小さいシンキングペンシルを水面直下でごく低速で引いたときに、静かに食っています。

6月は移行期です。同じ月に、まだ虫を見ている魚と、もう小魚とエビを見ている魚が混ざっています。どちらかに決めつけると外します。

7月は、一つに寄りました

7月の捕食は24回でした。同じ24回を、ルアーの種類で分けた場合と、操作で分けた場合の2通りで示します。

分け方内訳
ルアーの種類バイブレーション21回 / 10 cm未満のシンキングミノー2回 / 10 cm未満のフローティングミノー1回
操作ジャーキング21回 / ノーマルリトリーブ2回 / スラッキング1回

どちらも21対2対1で、同じ分かれ方をしています。

この月がいちばん偏っています。調査した9か月の中で、単一のカテゴリと単一の操作にここまで集中した月は他にありません。

21回と21回は、たぶん同じ21回です

注意が要ります。上の2つは、別々の事実ではありません。同じ24回の捕食を、2通りに数え直したものです。

そして論文は、月ごとの合計しか出していません。ルアーの種類と操作を組み合わせた表がないので、バイブレーションの21回とジャーキングの21回が、同じ21回なのかを直接は確認できません。

同じである可能性が高いと思います。内訳が21対2対1で完全に一致しているので、バイブレーションをジャーキングで使った21回と読むのが自然です。

6月と比べると、はっきりします。

月ルアーの種類での分かれ方操作での分かれ方一致するか
6月3対2対24対3しない
7月21対2対121対2対1する

6月は分かれ方が違うので、ルアーと操作が1対1に対応していません。同じシンキングペンシルをノーマルリトリーブでもジャーキングでも使った、ということになります。7月にはそのずれがありません。

ただし、これは表の形からの推測で、論文にそう書かれているわけではありません。

使われたルアー

論文の分類で「バイブレーション」に含まれるのは4種類です。

論文の表記読み
Slight edgeスライトエッジ
Bay slagベイスラッグ
Range vibレンジバイブ
Slideスライド

カタカナは論文の英字表記をそのまま読んだものです。メーカー名や、いま販売されているかは確認していません。2010年の調査です。

6月に使われた他のカテゴリも挙げます。

カテゴリ含まれるルアー
シンキングペンシルMarib、Rolling bait、Yore yore
シンキングペンシル (細身)Yarukiba、Wonder slim70、Manic、Rise、Grasshopper、Yaruki stick
フローティングミノー (10 cm超)TKLM、Komomo counter、KomomoⅡ、Sardina107
フローティングミノー (10 cm未満)Komomo slim、Komomo slim tuned、SasukeSF95
シンキングミノー (10 cm未満)Brast、Brast65、X80SW、Pintail tune6、Su-san

なぜバイブレーションをジャーキングなのか

山田が理由を書いています。これらのルアーは、泳がせれば小魚を模し、障害物まわりでジャーキングをすると、壁際から跳ね逃げるエビやハゼを演出することもできる。

1つのルアーで2つの餌を兼ねられる、という説明です。6月以降の場所が障害物まわりに移ったこととも噛み合います。

なお、足元で鉛直方向に跳ね上げて落とす操作 (論文ではスラッキング) での捕食も記録されていますが、いずれも障害物際で陰になっているなど、条件の重なった限定的なエリアに定位していた個体でした。連続して捕食が得られることはなく、単独で障害物に着いていた個体が反応したものと山田は見ています。

播磨灘では、ハゼは重量の上位に入っていません

ここで、もう一つの調査と突き合わせます。

宮原らの播磨灘の調査で、胃から出た魚類は14種が同定されました。そのうち5種がハゼ科です。

胃から出たハゼ科の魚
スジハゼ Acentrogobius pflaumi
アカオビシマハゼ Tridentiger trigonocephalus
ヒメハゼ Favonigobius gymnauchen
マハゼ Acanthogobius flavimanus
コモチジャコ Amblychaeturichthys sciistius

種数ではハゼ科が最も多いグループです。

ところが、シーバスは何を食べているのかで見たとおり、湿重量の上位は浮魚が占めています。コノシロ24.9%、カタクチイワシ24.2%、マイワシ10.2%、イカナゴ10.1%。ハゼは入っていません。

いっぽう、平均尾叉長170ミリの当歳魚を採った室津の調査では、カタクチイワシとスジハゼなどの魚類の出現個体数が最も多かったと書かれています。

ハゼは、小さいスズキの餌としては主役に近く、大きくなるほど重量の比率が下がる、という形になります。

エビは、種が分かりません

山田の論文には「エビ」としか書かれていません。種は特定されていません。

宮原らのほうは、播磨灘で出現個体数の多かった甲殻類を挙げています。

種調査全体での出現個体数
ソコシラエビ Leptochela gracilis484
ニホンスナモグリ Callianassa japonicus278
マルソコシラエビ Leptochela sydniensis194

ただしこれは播磨灘の底で獲られたもので、東京湾奥の運河で6月に食べられていたエビと同じとは限りません。

そして、シーバスは何を食べているのかで書いた数え方の話が、ここでも効きます。尾叉長578ミリのスズキが、ソコシラエビを158個体食べて21.2グラム。自分の体重の1%から3%にしかなりません。

エビは、数を食べないと量になりません。個体数で数えると甲殻類が最も多く出るのに、湿重量では魚類が上回るのは、このためでした。

分かっていないこと

マハゼの暦は東京湾のものです。産卵期は南の地方ほど早いとされているので、茨城でどうずれるかは確認していません。

エビの種が分かりません。攻め方の記録に出てくる「エビ」が何なのかは、この記事の範囲では特定できませんでした。

ハゼも、種が特定されていません。山田の記録は「ハゼ」です。播磨灘では5種が出ていますが、別の海域の話です。

攻め方の根拠は31回の捕食記録です。6月7回と7月24回。1年分、1海域。とくに6月は7回しかなく、静と動に割れたというのも、7回のうちの3対4です。

7月の偏りが、ルアーによるのか操作によるのかは分けられません。上に書いたとおり、21回のバイブレーションと21回のジャーキングは、おそらく同じ21回です。だとすれば、バイブレーションが効いたのか、ジャーキングが効いたのか、その組み合わせが効いたのかを分ける材料がありません。山田も同じルアーでも操作によって演出できる被食者が変わると書いていて、分離はできていません。

そして、同じ21回かどうかも確認できていません。論文にルアーと操作を組み合わせた表がないためです。内訳の一致からの推測です。

場所が障害物まわりに移った理由も、確かめられていません。ハゼが着底したからだ、というのは私の解釈です。エビの側の季節性は調べられていません。

播磨灘でハゼが何月に食べられていたかは、月ごとの値までしか出せません。宮原らの表4で、1歳以上の胃から出た魚類の湿重量に占める割合は、マハゼが1993年7月8.4%、8月9.8%、スジハゼが8月と1994年4月に各1.1%、ほかのハゼ類が8月2.5%、10月2.1%、12月0.3%でした。7月と8月に寄っていて、山田の記録でハゼが出た6〜7月とは7月で重なります。ただし、月ごとの分母が違います。胃から出た魚類の総重量は、7月18.80グラム、8月361.00グラムでした。採集は各月1回で、場所も漁法も月によって違います。

続けて読むなら

6月と7月の、前後の月です。

記事つながり
バチはなぜ流れてくるのか前の月です。4月と5月のイソメ類。6月に混ざっているのは、この虫です
カタクチイワシ次に変わるのは9月です。ハゼが吐瀉物から消えます
ボラは底をなめる食い方の対比の続きです。咥えて沈むのとひったくるのは、別の行動でした
コノシロ播磨灘でハゼが重量の上位に入らなかった話の、反対側にいる魚です

そして、10本すべてを1枚にまとめたベイトの見当をつけるがあります。時期・大きさ・層・攻め方の一覧です。

使ったもの・参考文献

  • 山田暁生「東京湾奥におけるスズキの摂餌対象の周年変化」(國學院高等学校「外苑春秋」第1号, 2011)— 6月以降に捕食の場所が障害物まわりへ移ったこと、6月と7月のルアーと操作の記録、吐瀉物の4センチから5センチのハゼとエビ、食い方の違い。査読誌ではありませんが、方法と限界が具体的に書かれています
  • マハゼ (東京都島しょ農林水産総合センター)— 東京湾での産卵期と産卵孔、2月から4月の仔魚のサイズ、初夏の着底、6月から7月に6センチから7センチで浅場に出ること
  • 宮原一隆・大谷徹也・島本信夫「播磨灘におけるスズキ Lateolabrax japonicus の食性」(兵庫県立水産試験場研究報告 第32号, 1-8, 1995)— 胃から出た魚類14種のうちハゼ科が5種であること、湿重量の上位が浮魚であること、当歳魚でスジハゼが多く出たこと、甲殻類の出現個体数と重量、ハゼ類の月ごとの割合と魚類の総重量 (表4)。