河川河口

落ちアユ:産卵に下る魚を、どこで待つのか

アユの産卵場は、水深10から60センチ、底層流速20から85センチ毎秒、礫の径5から30ミリと数字で決まっています。そして海水の影響がない区間にあります。落ちアユは、そこへ向かって下ってきます。つまり待つ区間は、汽水域の上端と最下流の産卵場のあいだに挟まれます。那珂川の公開データも並べます。

この記事の見出し

コノシロと同じ秋のパターンですが、場所がまったく違います。

落ちアユは、産卵のために川を下ってくるアユのことです。海から来るのではなく、上流から降りてきます。

調べて書いた記事です。

アユは1年で死にます

アユは年魚と呼ばれます。1年で一生を終えます。

茨城県水産試験場内水面支場のマニュアルから、1年を書き出します。

時期アユ
秋海水の影響が無い中流から下流域の、小砂利のある瀬で産卵する
産卵からおよそ2週間後孵化して海へ下る
冬沿海で動物プランクトンなどを食べて成長する
春上流を目指して遡上を始める
夏付着藻類を食べ、縄張りを作る

産卵して、それで終わりです。

だから落ちアユの時期には、産卵に向かう個体と、産卵を終えて弱った個体が、同じ川を下っていきます。

産卵場の条件が、数字で決まっています

アユは海では産卵しません。産卵するのは川の下流の瀬で、生まれた仔アユが海へ下ります。

ここがこのベイトの特徴です。アユがどこで産卵するかは、具体的な数字で書かれています。

岡山県のマニュアルが、水産庁の資料 (2009年、2010年) を引いて整理しています。

項目アユの産卵に適した条件
場所川の下流域の、淵に流れ込む手前の早瀬
水深10 cmから60 cm
底層の流速20 cmから85 cm毎秒
礫の径5 mmから30 mm
河床の状態浮き石。礫に泥や藻類の付着が少ない

茨城県のマニュアルには、久慈川で実際に調べた結果も載っています。産卵は水通しの良い瀬であり、膝丈程度の水深、浮き石状態の河床がある場所に多い。

膝丈です。立ち込む釣りをする人なら、体で分かる深さです。

だから、待つ区間が挟まれます

産卵場の条件に、海水の影響が無いという一項があります。

いっぽう岡山県のマニュアルには、産卵場を作るときの考え方が書かれています。仔アユは海に流下するため、できる限り海に近い自然産卵場付近で候補地を探す。そして各河川で確認されている最下流の自然産卵場を目安にする、と。

つまり、最下流の産卵場という位置が、川ごとに存在します。

ここから、落ちアユが下る区間の上下が決まります。

境目何で決まるか
上の端個体がいた場所。夏の縄張りは中流から上流
下の端最下流の産卵場。海水の影響が届く手前

落ちアユは、この2つのあいだを下ります。汽水域まで降りてくるわけではありません。産卵場で止まります。

シーバスがこの区間にいるのかどうかは、私は確かめられていません。シーバスは何を食べているのかで使った2つの調査は、どちらも河川の中を扱っていません。播磨灘は沿岸、東京湾奥は運河と湾奥でした。汽水域より上でスズキが何を食べているかを測ったデータを、私は見つけられていません。

淡水域まで入ります。成魚もです

水産庁がまとめた主要対象生物の発育段階の生態的知見の収集・整理のスズキの項に、若狭湾の稚魚について、6月から7月に内湾・汽水・淡水域に分布し、体長50ミリ以上で遡上を始めるという記述があります。

成魚については、Yamashita ら (2026) が耳石で調べています。仙台湾、丹後湾、別府湾とそこに注ぐ川のスズキ206個体について、耳石のストロンチウムとカルシウムの比から、一生のあいだにいた水の塩分を復元したものです。

  • 一度でも川を使った152個体のうち66個体 (43%) が、汽水域を越えて淡水域まで入っていた
  • 3歳以上まで追えた魚の中に、毎年淡水域を使っていた個体が9個体いた。9歳のメス (標準体長634 mm) は、一生のあいだ毎年淡水域へ入っていた
  • 川の魚は、丹後湾に注ぐ川では3月から11月、仙台湾に注ぐ川では6月から10月にルアー釣りで採られていた。川で採れて性別が分かった199個体のうち182個体がメスだった

川を使う成魚は、11月から1月に海へ下って産卵し、4月以降に川へ戻ります。論文が別の研究を引いて書いている流れです。秋の終わりまでは、成魚も川にいることになります。

ただし、どれも茨城の川ではありません。そして耳石で分かるのはいた水の塩分で、河口から何キロまで上ったかは分かりません。落ちアユの産卵場がある区間まで上っていたかどうかは、これでは分かりません。

茨城では、涸沼で育ったスズキの0年魚が秋にどこへ動くかが、標識放流で調べられています。涸沼のスズキは4か月かけて抜けるに書いたとおり、11月中旬に涸沼川と那珂川の合流点へ移り、12月中旬までに海へ出ます (高瀬 1982)。このころの体長は20センチ前後で、全長160ミリを超えると胃から魚が多く出るようになります (山崎 1997)。

落ちアユが下る10月から12月と、時期は重なります。ただし合流点は河口から約0.5キロの感潮域で (小松・星野 2010 の放流地点の記述から私が計算)、海水の影響が届く手前にある産卵場より下流です。この合流点まで落ちアユが下りてくるかどうかは、私は確かめられていません。

那珂川では、数字が公開されています

茨城県と栃木県が、毎年アユの調査結果を公表しています。

那珂川は日本釣振興会が選んだ天然アユがのぼる100名川で、那珂川北部漁業協同組合によれば平成10年度以降はアユの漁獲高が全国一位を続けているとされています。

栃木県水産試験場の令和6年度の報告に、落ちアユの時期に直接関わる記述があります。

那珂川においてアユの産卵・仔魚の降下に影響を与える河川流量として、10月から12月の河川総流量が使われています。この総流量は、翌年の遡上群数と正の相関が認められているとされています (石嶋, 2011)。

産卵と仔魚の降下が主に起きているのは、10月から12月ということになります。ただし中村・糟谷 (2004) によれば、那珂川では仔魚の降下が例年9月中旬に始まります。

同じ報告には、2023年10月から12月の総流量が38.2×10⁶立方メートルで、平年値 (65.2×10⁶立方メートル) の6割弱と渇水状態だったことも書かれています。年によって大きく違います。

調査地点の位置も出ています。

地点河口からの距離
千代橋 (茨城県、遡上調査の定点)約30 km
茂木町小深 (栃木県)49 km
茂木町大畑 (栃木県)56 km

遡上の観察が河口から30キロより上で行われていることになります。産卵場がどこにあるかは、この報告には書かれていません。

茨城県は、11年前から産卵場造成に取り組んでいるとも公表しています。

攻め方:記録がありません

コノシロと同じ制約です。

山田 (2011) の調査地は東京湾奥の運河と湾奥で、アユは出てきません。宮原ら (1995) が播磨灘で同定した魚類14種にも、アユは入っていません。吐瀉物で裏を取ったルアーの記録が、このベイトには存在しません。

アユが餌として挙がっている資料は見つかりました

上と同じ水産庁の資料のスズキの項に、成魚期の餌料生物として次の名前が並んでいます。

アユ、カタクチイワシ、マアジ、マイワシ、マサバ、ヒラメ、クルマエビ、サヨリ。

先頭がアユです。この記事を最初に書いたときには、スズキがアユを食べるという記述すら見つけられていませんでした。

ただし、書かれているのはそれだけです。

  • 落ちアユなのか稚アユなのかは区別されていません
  • どの海域の、どの調査に基づく記述なのかも書かれていません。この資料は多数の文献をまとめたもので、個々の記載の出典が特定できません
  • どのルアーで食ったかという記録は、依然としてありません

書けるのは、釣り場で共有されている整理だけです。

釣り人向けの解説サイトがまとめた一覧では、落ちアユパターンについて次のように整理されています。

項目整理されている内容
ルアーの種類トップウォーター、フローティングミノー、シンキングミノー
ルアーの大きさ12 cmから17 cm程度
狙う時間帯夜
狙うポイント流れの緩い所、堰下、瀬など
狙うレンジ表層から中層
動かし方デッドスローからスローリトリーブ、ドリフト

これは釣り人のあいだで共有されている整理であって、調査の結果ではありません。

ただし、アユの生態と向きが合う部分はあります。産卵を終えた個体は弱ります。年魚なので、そのまま死にます。弱って流下する魚を、流れに乗せて演出する釣りになる、という説明は筋が通ります。

これは私の解釈で、確かめたものではありません。バチのときと同じ「流す釣り」ですが、バチには生殖群泳と流下という一次資料がありました。落ちアユには、それに当たるものをこの記事では示せていません。

分かっていないこと

落ちアユの体長を測った数字を見つけられませんでした。上の整理では10センチから30センチとされていますが、秋に下る個体の実測を私は確認していません。ルアーの大きさを決める根拠として使うには足りません。

シーバスがアユを食べるという記述は見つかりましたが、胃内容物調査の実数は確認していません。水産庁の資料に餌料生物として挙がっているだけで、何尾の胃から何個体出たのかという数字はありません。落ちアユと稚アユの区別もついていません。

那珂川の産卵場がどこにあるかは、この記事では書けません。公表されている調査地点は遡上のためのもので、産卵場の位置は含まれていませんでした。

スズキの成魚が淡水域まで入ることは、仙台湾、丹後湾、別府湾に注ぐ川では分かりました (本文の「淡水域まで入ります。成魚もです」)。茨城の川で調べた資料はありません。耳石で分かるのはいた水の塩分で、河口から何キロまで上ったかは分かりません。那珂川で、落ちアユの下る区間と秋のスズキのいる区間が重なるのかどうかは、この記事の一番の空白のままです。

年による差が大きいことは分かりました。2023年の秋は平年の6割弱の流量でした。流量が変われば産卵と降下も変わります。

続けて読むなら

アユの記事は2本あります。

記事つながり
稚アユ同じ魚が、春には逆向きに動きます。そして春のほうは、県が12年分のデータを公表しています
コノシロ同じ秋ですが、場所がまったく違います。コノシロは海側にいます
バチはなぜ流れてくるのか同じ流す釣りです。バチには生殖群泳と流下という一次資料がありました
サヨリ資料の厚さの対比になります。落ちアユは県の報告が厚く、サヨリは国の資料が知見不足と書いています

そして、10本すべてを1枚にまとめたベイトの見当をつけるがあります。時期・大きさ・層・攻め方の一覧です。

使ったもの・参考文献