カタクチイワシ:群れは食べにくい。ただし違う個体は狙われる
8尾以上の群れになると、捕食の成功率は1〜2割に落ちます。オオクチバスの実験では、単独の小魚は100%獲られるのに、15尾の群れになると11%。ただし群れの中で1尾だけ見た目が違う個体は、高い率で狙われます。イワシの接岸に暦がないことと、9月・10月の攻め方の記録も並べます。
この記事の見出し
ハゼとエビはなぜ6月から入れ替わるのかで、6月から7月は障害物まわりの釣りだったと書きました。
9月に、また変わります。山田 (2011)の記録では、9月以降はハゼの姿が吐瀉物から消え、カタクチイワシを中心とする小魚が主体になります。播磨灘でも、胃から出た魚類の湿重量のうちカタクチイワシが24.2パーセントを占めていました。
調べて書いた記事です。攻め方についても、記録が残っている調査に基づいて書きます。
カタクチイワシは、暦を持っていません
これまでのベイトには、暦がありました。バチは大潮の夜の満潮直後。ハゼは初夏に着底して浅場へ。イワシには、それがありません。
千葉県の三番瀬自然環境データベースに、東京湾での観測結果がまとまっています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 生息環境 | 沿岸から沖合の表層を群泳する |
| 食性 | 橈脚類などのプランクトン |
| 産卵 | 孵化後1年未満で成熟。産卵期は周年にわたるが、春と秋が盛期 |
| 出現個体数 | 4月から11月にかけて多く、12月から3月にかけて少ない |
| 卵の出現 | 4月から5月、および8月から10月。沖合域で多い |
| 幼魚の出現 | 4月から12月。とくに5月と7月に多い |
産卵期が周年に及びます。だから、いつどのサイズの群れが入ってくるかが決まりません。
山田も同じことを書いています。東京湾奥におけるイワシの接岸は秋以降に不定期にあることが知られており、2010年もやはりその傾向があった。
イワシパターンが読みにくいのは、暦がないからです。バチのように潮回りから逆算することができません。
なお、カタクチイワシはプランクトン食です。体長40ミリから120ミリの個体は、主に動物プランクトンを食べていたと同じデータベースにあります。だとすれば、ベイトはなぜそこにいるのかで挙げた水がプランクトンを集める4つの仕組みが、そのまま効く相手ということになります。ここは食性からの推測で、確かめていません。
8尾以上の群れでは、捕食成功率は1〜2割に落ちます
ここからが本題です。
群れをつくることが、捕食者にとってどれだけ厄介なのかを測った実験があります。Landeau and Terborgh (1986) は、平均の長さが13センチほどのオオクチバスに、平均の長さが7センチほどの小魚 (Hybognathus nuchalis) を襲わせました。
| 群れの大きさ(尾) | 5分の試行のうち、バスが1尾を捕らえられた割合 | 1尾を捕らえるまでにかかった攻撃の回数 |
|---|---|---|
| 1 | 100% | 1.5 |
| 2 | 100% | 3.3 |
| 4 | 88% | 7.7 |
| 8 | 17% | 33 |
| 15 | 11% | 58 |
8尾以上になると、バスはほとんど獲れなくなりました。1尾だけのときと比べて、成功率は1〜2割に落ちています。
理由は、捕食者が群れの中の1尾に狙いを定められなくなることだと説明されています。混乱効果と呼ばれています。
ここまでは、餌の側が有利な話です。
ただし、違って見える個体は狙われます
同じ実験に、続きがあります。
8尾のうち1尾だけを青く染めて混ぜたところ、その1尾に攻撃が集まりました。8尾に1尾なら攻撃の12.5%が向かうはずのところ、実際は36%です。4尾ずつ青と、染めていない元の茶色に分けたときには、この偏りは起きませんでした。
もう1つ、見落とせない結果があります。違う個体が混ざると、まわりの普通の個体も獲られやすくなりました。違う個体が混ざった群れで捕らえられた魚のうち、49%は普通の色の個体でした。一方、同じバスに色の揃った8尾の群れを見せ直すと、やはり獲れませんでした。15尾の群れでは、違う個体を混ぜても効果が消えています。
大きさでも同じことが起きます。Theodorakis (1989) は、群れの中で少数派のサイズの個体が、より多く狙われたと報告しています。
群れの中で目立つ個体は、混乱効果の外に出てしまう。この現象は oddity effect と呼ばれています。
そして、ルアーは群れの中では必ず違う個体になります。色も、動きも、大きさも。
ルアーカラーは効くのかでは、色そのものの効果と「変えたこと」の効果を分けて考えました。この実験は、3つめの筋道を示しています。群れの中で違って見えること自体に効果がある、という筋です。
Landeau and Terborgh (1986) は、オオクチバスの実験で、シーバスではありません。
攻め方:記録が残っている9月と10月
山田の記録に戻ります。9月以降は吐瀉物でカタクチイワシが確認され、10月に小型のカタクチイワシの群れが接岸した際には吐瀉物が100%イワシでした。餌が独立に分かったうえでの記録になります。
| 項目 | 9月 | 10月 |
|---|---|---|
| 捕食を得た回数 | 5回 | 15回 |
| 10 cm未満のシンキングミノーが占めた割合 | 100% | 86.7% |
| ジャーキングが占めた割合 | 100% | 33.3% |
| ジャーキングとリトリーブを組み合わせた操作が占めた割合 | 0% | 60.0% |
10月に、操作の中身が変わっています。
山田はこう書いています。10月のイワシの接岸以後は、ジャーキングのみの操作よりも、ジャーキングとリトリーブを合わせた操作への反応が高く、捕食の誘発数でジャーキングを上回るようになった。
この操作は、左右にルアーをスライドさせるジャーキングと、ルアーを食べるための間を与えるリトリーブを複合したものと説明されています。
そして理由の推測が続きます。この時期のスズキは7月から9月と同様に大きな動きに反応する点では変わりないが、動きの速いイワシを意識しているため、より複雑な動きに対して反射的に捕食する傾向がある。
なぜ動きが変わった瞬間に食うのかで扱ったリアクションバイトの話と、同じ方向を向いています。
使われたルアー
論文の分類で「10センチ未満のシンキングミノー」に含まれるのは5種類です。論文の表では、このカテゴリの対応する餌が小魚、主にイワシとされています。
| 論文の表記 | 読み |
|---|---|
| Brast | ブラスト |
| Brast65 | ブラスト65 |
| X80SW | エックス80SW |
| Pintail tune6 | ピンテールチューン6 |
| Su-san | スーサン |
カタカナは論文の英字表記をそのまま読んだものです。メーカー名や、いま販売されているかは確認していません。2010年の調査です。
Pintail tune6 は、3月のアミの時期に唯一捕食を得たルアーでもあります。アミはどこにいるのかで書いたとおり、25種類のうち最も小さいものです。同じルアーが、別の月に別の餌の代わりとして働いていることになります。
11月下旬のシラス:違いすぎると、無視されます
もう一つ、記録があります。
11月下旬にシラスの大群が接岸したとき、どのルアーでも捕食を誘発するのが難しい状況になりました。
複雑な動きを演出して反射的に食わせることはできたものの、ルアーの大きさがスズキの意識している対象と大きく異なるため、なかなか食わない状況だったと書かれています。
上で見た oddity effect は、群れの中で違って見える個体が狙われるという話でした。ところがここでは、違いすぎることで食われなくなっています。
違いには、効く範囲があるということになります。少し違えば狙われ、違いすぎれば無視される。ただしこれは私の解釈で、確かめられたものではありません。マイクロベイトのときに小さいルアーを使うという釣り場の言い方とは向きが合いますが、出典は示せません。
分かっていないこと
群れの実験はオオクチバスです。シーバスで同じ数字になるかは分かりません。シーバスは何を食べているのかで扱った捕食成功率の実験も、同じくオオクチバスでした。シーバスを使った実験を、私はまだ見つけられていません。
Theodorakis (1989) の原論文には当たっていません。総説を経由して読みました。
ルアーが群れの中で「違う個体」として扱われるという部分は、実験されていません。生きた小魚を使った実験の結論を、ルアーに当てはめたのは私です。
攻め方の根拠は20回の捕食記録です。9月5回と10月15回。9月は5回しかありません。
イワシの接岸を予測する方法は出てきません。産卵期が周年に及ぶこと、接岸が不定期であることが分かっただけです。何を見ればイワシが岸に寄る時期を見分けられるのかは、この記事では分かりませんでした。
茨城のデータではありません。三番瀬は東京湾、山田も東京湾奥です。
プランクトンを集める仕組みがイワシの分布を決めている、というのは食性からの推測で、確かめていません。
続けて読むなら
イワシの前後と、群れの話の続きです。
| 記事 | つながり |
|---|---|
| ハゼとエビはなぜ6月から入れ替わるのか | 前の月です。6月と7月はハゼとエビ。障害物まわりの釣りでした |
| ボラは底をなめる | 11月下旬のシラスの話は、こちらに続きます。同じ11月に、20センチのボラの稚魚を狙う魚が混ざっていました |
| コノシロ | 群れの話が、そのまま当てはまる魚です。ただし暦の有無は正反対で、コノシロはもともとそこにいます |
| イカ | oddity effect の裏返しにあたります。根拠がいちばん薄いベイトでもあります |
そして、10本すべてを1枚にまとめたベイトの見当をつけるがあります。時期・大きさ・層・攻め方の一覧です。
使ったもの・参考文献
- 山田暁生「東京湾奥におけるスズキの摂餌対象の周年変化」(國學院高等学校「外苑春秋」第1号, 2011)— 9月以降の吐瀉物、10月に操作がジャーキングから複合操作へ移ったこと、11月下旬のシラスで食わせにくくなったこと、イワシの接岸が不定期であること。査読誌ではありませんが、方法と限界が具体的に書かれています
- カタクチイワシ (三番瀬自然環境データベース、千葉県)— 東京湾での出現時期、産卵期が周年に及ぶこと、卵と幼魚の出現時期、プランクトン食であること
- Landeau, L. and Terborgh, J.「Oddity and the ‘confusion effect’ in predation」(Animal Behaviour 34, 1372–1380, 1986)— 本文を読みました。群れの大きさごとの捕食成功率と攻撃回数、青く染めた個体への攻撃の偏り、違う個体が混ざると普通の個体も獲られやすくなること
- Theodorakis, C. W. (1989)— 群れの中で少数派のサイズの個体が多く狙われること。Frontiers in Ecology and Evolution の総説とThe American Naturalist の論文を経由して読みました
- 宮原一隆・大谷徹也・島本信夫「播磨灘におけるスズキ Lateolabrax japonicus の食性」(兵庫県立水産試験場研究報告 第32号, 1-8, 1995)— カタクチイワシが胃から出た魚類の湿重量の24.2%を占めること。