水中で色が消える仕組み:シミュレーターの中身

赤は最初に消えて青は深くまで届く。よく聞く話ですが、実測データを見ると成り立つのは澄んだ外洋だけでした。濁った沿岸では青がいちばん先に消えます。水中カラーシミュレーターが何を計算しているかを、順を追って説明します。

水中カラーシミュレーターを作りました。水を通ったあと、ルアーの色がどれだけ残るかを計算するものです。

この記事では、シミュレーターが何を計算しているのかを順を追って説明します。あわせて、作る過程で分かったことも書きます。ひとつだけ先に言うと、よく聞く話のほうが間違っていました。

調べて書いた記事です。 水中で実測したわけではありません。公開されている論文の係数を使い、光の減り方を計算したものです。私が置いた仮定と、論文から取った数字は分けて書きます。

「赤が先に消える」は、半分しか合っていません

まず結論から書きます。

水中の色について、こういう説明をよく見ます。赤い光が最初に吸収されて、青い光がいちばん深くまで届く。だから深い海は青い。 私もそう理解していました。

実測にもとづく係数を見たところ、これが成り立つのは、いちばん澄んだ外洋だけでした。

水の種類青(450nm)の減衰係数 (1/m)緑(550nm)の減衰係数 (1/m)赤(650nm)の減衰係数 (1/m)残りやすい順
澄んだ外洋0.1760.1880.449青 → 緑 → 赤
外洋0.2570.2490.502緑 → 青 → 赤
濁った外洋0.4210.3750.622緑 → 青 → 赤
澄んだ沿岸0.6030.5260.764緑 → 青 → 赤
沿岸0.8860.7720.991緑 → 青 → 赤
濁った沿岸1.5831.3491.532緑 → 赤 → 青

数字はWilliamson and Hollins (2022)の表7から取りました。減衰係数は、吸収係数と散乱係数を足した値です。この数が小さいほど、その色は遠くまで届きます。

読み取れることが2つあります。

1つめ。いちばん澄んだ水を除くと、すべて緑がいちばん残ります。 沿岸でも外洋でも、緑が1位です。

2つめ。いちばん濁った水では、青が最下位になります。 赤より先に消える。1.583と1.532で、差は小さいですが順番は逆転しています。

汽水の河口や濁った港湾では、「青は遠くまで届く」が成り立ちません。 ホームが河川である私にとっては、ここがいちばん効く発見でした。

なお、この逆転自体は光学の分野では知られています。水中写真の色を復元する研究をしたBermanらの論文も、赤が青や緑より速く減衰するという一般的な認識は外洋の水についてのみ成り立つ、と書いています。釣りの文脈で語られていないだけです。

青を削るものは何か

溶けた有機物と、浮いている粒子です。どちらも短い波長ほど強く働きます。

溶けた有機物(CDOM)は、青を吸収します。 落ち葉や枯れた植物が分解してできる成分です。紅茶やウーロン茶の色を思い浮かべてください。 茶色い水は、青い光を吸収しています。河川から流れ込む水には、これが多く含まれます。

粒子は、青をよく散らします。 散乱は短い波長ほど強く起きます。空が青いのと同じ理屈です。散らされた光は、まっすぐ目に届きません。

逆に澄んだ外洋では、溶けた有機物も粒子も少ないので、水そのものの性質だけが残ります。水分子は長い波長をよく吸収するので、赤から消えていく。これが「赤が先に消える」の正体です。

つまり、どちらの説明も正しい。前提にしている水が違うだけです。 では、その差はどこから生まれるのか。次に見ます。

水型で何が違うのか

「濁った水」と言ってきましたが、具体的に何が入っているのかを書いておきます。

水の光学的な性質は、4つの成分の足し算として表せます。Hollins and Williamson (2023)が使っているモデルでは、こう分けられています。

成分何をするか水型によって変わるか
水そのもの長い波長(赤)を吸収する変わらない
植物プランクトン(クロロフィル)青と赤を吸収する変わる
溶けた有機物(CDOM)短い波長(青)を吸収する変わる
浮いている粒子光を散らす。短い波長ほど強く散る変わる

1つめの「水そのもの」は、どの海でも同じです。 純水が赤を吸収する性質は変わりません。

残りの3つが、水型の違いを作っています。 そして、この3つはだいたい一緒に増えます

実際の濃度

同じ論文が、水型ごとの成分濃度を出しています。

水の種類クロロフィル濃度 (mg/m³)大きい粒子の濃度 (g/m³)
澄んだ外洋 (IB)0.160.37
外洋 (II)0.500.52
濁った外洋 (III)0.950.91
澄んだ沿岸 (1C)1.51.32
沿岸 (3C)2.02.08
濁った沿岸 (5C)53.8

きれいに並んでいます。 いちばん澄んだ水といちばん濁った水で、クロロフィルは31倍、粒子は10倍の差があります。

同じ論文は、大きい粒子は主に植物プランクトンそのものだと述べています。粒子の濃度がクロロフィル濃度とほぼ比例して増えるのは、そのためです。濁りの正体の多くが、生き物なのです。

なぜ沿岸ほど濁るのか

栄養が陸から来るからです。 川が運ぶ養分が沿岸に溜まり、植物プランクトンが増えます。増えた植物プランクトンが粒子として光を散らし、死んで分解されると溶けた有機物になります。

だから沿岸に近づくほど、吸収する成分も散乱する成分も同時に増えます。

順番が入れ替わる理由

ここで、記事のはじめに書いた逆転の理由がはっきりします。

澄んだ外洋では、水そのもの以外がほとんどありません。 だから水の性質がそのまま出ます。水は赤を吸収するので、赤が先に消えます。

濁ってくると、溶けた有機物と粒子が効いてきます。 どちらも短い波長ほど強く働きます。溶けた有機物は青を吸収し、粒子は青をよく散らす。この2つが青を削っていきます。

一方、赤の側はあまり増えません。 水そのものの吸収はもともとあり、そこに乗る追加分が小さいからです。

結果として、青の減り方だけが急に大きくなり、赤を追い越します。 これが濁った沿岸で青が最下位になる仕組みです。

緑がどの水でも残りやすいのは、両側から挟まれていないからです。 水の吸収が効き始めるより短く、有機物と散乱が効き始めるより長い。ちょうど谷間に位置しています。

何を計算しているのか

ここからシミュレーターの中身です。

光が通る道は2本あります

水中でルアーを見るとき、光は2回、水の中を通ります。

1本目は、水面からルアーまで。 太陽の光が水に入り、水深のぶんだけ減ってからルアーに当たります。

2本目は、ルアーから目まで。 ルアーが返した光が、こちらに届くまでにまた減ります。

この2本を足した長さが、光が水を通る合計の距離です。 シミュレーターで水深と距離を別々に指定しているのは、このためです。

ここが実感と違うところかもしれません。水深が浅くても、遠くのルアーを見れば、深いところと同じだけ色は落ちます。 水深1mでも10m先を見れば合計11m。水深5mで手元の1mを見れば合計6m。後者のほうが色は残ります。

減り方は指数関数です

光が水を進むと、進んだ距離に比例して割合で減っていきます。

残る割合 = exp(−c(λ) × 経路の長さ)

c(λ) が波長ごとの減衰係数で、上の表に載せた数字です。この式をBeer-Lambert則といいます。

割合で減るというのがポイントです。 1m進むごとに同じ割合ずつ減るので、最初の1mでの減り方がいちばん大きく、遠くなるほど1mあたりの減り方は小さくなります。

沿岸(3C)の赤い光で計算してみます。減衰係数は0.991なので、こうなります。

経路の長さ赤が残る割合
1 m37.1%
2 m13.8%
3 m5.1%
5 m0.7%

3mで20分の1です。 レッドヘッドの赤が意味を持つ距離は、そう長くありません。

水そのものも光ります

もう一つ計算に入れているものがあります。水それ自体の明るさです。

散乱された光は、まっすぐには進みませんが、消えてなくなるわけではありません。あちこちに散らばって、その一部が横から目に入ってきます。遠くの景色が白っぽく霞んで見えるのは、これが原因です。

シミュレーターでは、散乱が減衰全体に占める割合をもとにこの明るさを出しています。距離が遠いほど、この霞みが強くなります。 ある距離を超えると、ルアーの色より霞みのほうが強くなり、ルアーが水の色に溶けて見えなくなります。

影は入れていません

光は上から一様に降ってくるものとして扱っています。 そのため、太陽の方向による陰影も、ルアー自身が作る影も計算していません。

影を出すには、光の向きとルアーの立体形状が要ります。平らな画像を扱っている以上、どちらも分かりません。

実際には、浅いところほど太陽の方向がはっきりしていて、深くなるほど一様に近づきます。上下の非対称も扱えていません。 ルアーの背中が暗く腹が白いのは、上から光が来て下が暗いという非対称に対応したものだと考えられますが、その差を出すには後方散乱の係数という別のデータが必要です。いま使っている表には、吸収と散乱の合計しかありません。

濁った沿岸を選んで距離を伸ばしていくと、その様子が出ます。

目の順応について

シミュレーターには「目が暗さに慣れたものとして描く」というチェックがあります。

入れると、明るさの差を打ち消して、色の変化だけが見えます。 外すと、実際に届く光の量そのままで暗く表示されます。

合わせ方には決め方があります。白いものを入れたときに、いちばん強い成分がちょうど画面の上限になるようにそろえています。

ここは最初やり方を間違えました。明るさの平均でそろえたところ、いちばん強い緑が上限を超えて潰れ、何を入れてもほぼ同じ色に見えるという状態になっていました。画面が表せる範囲は決まっているので、いちばん強い成分を基準にしないと、色の違いがそこで消えます。

現実の目は暗いところで感度を上げるので、入れたほうが体感には近いと思います。ただし、順応にも限界はあります。深いところが本当に真っ暗であることは、外した表示のほうが正直です。

フラッシングで気づいたこと

フラッシングを入れると、光る部分の色が塗装の色にならないことに気づきました。

理由は反射のしかたの違いです。

塗装の色は、引き算でできています。 白い光が当たり、塗料が特定の波長を吸収し、残った波長が返ってくる。赤い塗装が赤く見えるのは、赤以外を吸収しているからです。

金属面やホログラムの反射は、引き算をしません。 届いた光をほぼそのまま返します。波長を選ばない。

つまりフラッシングの色は、そこまで届いた光の色そのものになります。

計算するとこうなりました。経路5mでの、光る瞬間の色です。

水の種類赤の成分緑の成分青の成分
澄んだ外洋0.1180.8440.632
沿岸0.0340.1490.048
濁った沿岸0.0080.0250.003

どの水でも緑が最も強くなります。 濁った沿岸では青がほぼ消えています。

銀色のルアーが光っても、水中では緑に光る。 これは私にとって意外でした。

もう一つ、表から読めることがあります。濁るほど、光る量そのものが小さくなります。 澄んだ外洋の0.844に対して濁った沿岸は0.025で、30分の1以下です。濁った水では、フラッシングは遠くまで届きません。

計算では何を足しているか

反射率1の白い面を置いたときの明るさを足しています。

塗装を通さないので波長を選びません。確かめると、足している量は「白い面の明るさ − 水そのものの明るさ」とぴったり一致しました。「白を足している」のと同じです。

だから光る瞬間は、必ず明るくなる方向に動きます。 これは向きによって有利にも不利にもなります。背景が暗い向き(見下ろす)では浮き、背景が明るい向き(見上げる)では背景に近づきます。

さらに、腹は影になります。 上から光が来るので、下から見たときに反射面が返せるのは弱い光だけです。見上げられているとき、フラッシングは見下ろされているときの10分の1程度しか光りません。

シミュレーターの画面では、明るさをそろえています。 本来の明るさのまま描くと、澄んだ水では全成分が画面の上限を超えて真っ白に飛び、色が見えなくなるためです。上の表にある明るさの差は、画面ではなく数値のほうに出しています。

そのうえで、明るさの倍率そのものには根拠がありません。 実際のルアーの反射面が拡散反射の何倍で光るのかを測った資料を、私は見つけられませんでした。色と、条件による明るさの比のほうを見てください。

使っている数字の出どころ

Jerlov分類

水の種類は、Jerlov分類という区分を使っています。 1951年にスウェーデンの海洋学者Jerlovが、世界の海を透明度で分類したものです。

もとになっているのは、1947年から48年のアルバトロス号による調査です。Jerlovは光度計に光学フィルターを付けて、深さごとにどれだけ光が届くかを測りました。外洋が5種類、沿岸が5種類、合わせて10種類に分けられています。

透明度板の深さとの対応

どの型に当てはめるかは、透明度板で決められます。 松村皐月「可視光リモートセンシングが持つ深度情報」(水産工学 27(1), 65-68, 1991) が、Jerlov (1976) から引いた表です。

水の種類(Jerlov分類)透明度板の深さ (m)消散係数 K (1/m)透明度板の深さ × K
外洋 I600.0211.26
外洋 IA450.0281.26
外洋 IB360.0351.26
外洋 II250.0641.6
外洋 III140.1181.65
沿岸 1100.1211.21
沿岸 35.80.1991.15
沿岸 53.20.3161.01
沿岸 72.20.4581.00
沿岸 91.80.5801.00

シミュレーターでいちばん濁った5C型が、透明度板で3.2 mです。 沿岸の型はそこから先も9型まで続いていて、いちばん濁った9型で1.8 mになります。透明度板が1.8 mより浅くなる水は、この分類の外側です。

ただし、この対応づけは目安です。 同じ論文が、消散係数と透明度の間に一次の相関があるとして両者を対比させる試みは何度もされてきたが、広い範囲で回帰直線に乗る観測結果はほとんどない、と書いています。理由も挙げられていて、吸収と後方散乱の内訳が違えば、消散係数が同じでも透明度は変わりうるからです。

この表のKは、シミュレーターが使っている減衰係数とは別の量です。 表のKは下向きの照度がどれだけ減るかを表す係数で、吸収と後方散乱の和です。シミュレーターのc(λ)は吸収と全散乱の和なので、こちらのほうが大きくなります。同じ5C型でも、表のKが0.316なのに対して、記事のはじめの表の緑は1.349です。4倍以上違いますが、食い違いではありません。別のものを測っています。

表のKには波長が書かれていません。 Jerlov分類は波長ごとの透過率で定義されているのに、水型あたり1つの値しかないので、どの波長の値なのかがこの表からは分かりません。 特定の波長の値を拾う用途には使えません。

実測の係数

Jerlov分類は「どれだけ光が減るか」を定義したものですが、その内訳である吸収と散乱の値は、長らく実測されていませんでした。

これを埋めたのがWilliamson and Hollins (2022)です。世界の海洋光学データベース(WOOD)から、同じ時刻・同じ場所で測られた記録を突き合わせ、1,350万件の測定を53組の値に集約したとされています。そこから300〜800nmの全波長にわたる表が作られました。

シミュレーターが使っているのは、この表です。

論文はCrown copyright(英国政府の著作権)で、Open Government Licence v3.0のもとで公開されています。出典を示せば利用できます。

6種類しか選べない理由

10種類のうち、値が得られたのは6種類です。 いちばん澄んだI型とIA型、いちばん濁った7C型と9C型は、データが足りずに除かれています。

シミュレーターで選べるのがIBから5Cまでなのは、そのためです。推定値で埋めることもできましたが、実測がある範囲に限りました。

確かめられていないこと

河川と河口の水は、この分類に入っていません。 Jerlov分類は外洋と沿岸のものです。汽水域がどの型に近いかは分かりません。濁った沿岸(5C)を選ぶのがいちばん近い当てはめだと考えていますが、これは私の判断であって、根拠のある対応づけではありません。 透明度板で測れば確かめられます。

元データは1947年から48年の観測に始まります。 論文の著者自身が、75年前に定義された分類なので海の性質がその後変わっている可能性がある、と書いています。

実測値が集まった場所には偏りがあります。 同じ論文によれば、吸収と散乱のデータが得られた204地点のうち185地点が、赤道より北の緯度20度から45度に集中しています。日本近海の値ではありません。

写真から本当の反射スペクトルは復元できません。 画面のRGBは3つの数値ですが、同じRGBになる分光反射率は無数にあります。写真で同じ色に写る2つのルアーが、水中では違う色になることがあります。 シミュレーターは「そのRGBと矛盾しない、ありうるスペクトルの一つ」を仮に置いています。

常夜灯の明暗部は計算していません。 光が一様に降る前提のままです。光源を切り替えても、色が変わるだけで明るさは昼のままです。

水銀灯は入れていません。 CIEの標準光源に含まれていないためです。

見る向きは3つに単純化しています。 実際には斜めから見ることのほうが多いはずです。また、どの向きから見られているかを知る方法はありません。

水面での反射と屈折は入れていません。 太陽の高さによる違いも計算していません。

夜は計算できません。 色を見る錐体細胞は明るいところで働く細胞なので、暗くなれば働きません。シミュレーターは昼を前提にしています。夜の釣りで色がどう効くかは、また別の問題です。

魚にどう見えるかは計算していません。 スズキの網膜を測ったデータはあります。Tamura and Niwa (1967) が33件のS電位を記録していて、色を区別する型が5件出ています。それでも変換式は作れません。 S電位は複数の錐体からの入力を足し合わせたあとの信号なので、錐体1種類ごとのλmaxが出ないためです。加えて、写真に紫外線の情報が最初から入っていないこと、チャンネルを画面の3色に割り当てる決め方がないことも変わりません。詳しくは魚は色をどう見ているのかに整理しました。

常夜灯の下では、何が変わるのか

ここまでは太陽光を前提にしてきました。夜の常夜灯まわりでは、前提が2つ変わります。

変わらないもの。減衰係数です。 光がどれだけ水で減るかは水の性質であって、光源の性質ではありません。ナトリウム灯だろうが太陽だろうが、緑がいちばん残るという結論は動きません。

変わるもの。当たっている光そのものです。 ここが効きます。含まれていない波長は、どんなに反射率が高くても返しようがないからです。

水の減り方の差は小さい

まず、ランプの種類で水中での減り方がどれだけ違うかを計算しました。ナトリウム灯の主な波長(590nm)を、水銀灯の緑(550nm)で割った値です。1に近いほど差がありません。

水の種類経路3m経路5m経路10m
澄んだ外洋0.810.700.49
濁った外洋0.830.740.54
沿岸0.880.800.64
濁った沿岸0.930.890.79

濁った水ほど差が小さくなります。 濁った沿岸の5mでは0.89、1割ほど不利なだけです。

これは散乱が理由です。濁った水では散乱が減衰の大半を占め、散乱は波長による差が吸収ほど大きくありません。 その結果、どの波長も似たように減ります。

常夜灯があるのは港湾や河口、つまり濁った水です。 そこでは、ランプの波長の違いによる「届きにくさ」の差はほとんど出ません。

効くのは光源の色そのものです

差が出るのはこちらでした。色の見え方です。

シミュレーターで、6色が互いにどれだけ違って見えるかを計算しました。沿岸の1m先、同じ条件の昼光を100とした値です。

光源6色の違いの大きさ(昼光=100)
昼光100
高圧ナトリウム灯61
ナトリウム灯 演色改善型78
白色LED 電球色78
白色LED 昼白色105

ナトリウム灯の下では、色の違いが4割ほど失われます。

理由はスペクトルの形です。高圧ナトリウム灯は590nm付近に山があり、そこだけが突出しています。400nm付近はほとんど出ていません。青い光がないので、青いルアーは青く見えません。

一方、白色LEDの昼白色は昼光より少し高い105でした。青の成分が強く、色の違いが出やすいためです。常夜灯のLED化は、色の見え方という点では昼に近づける方向に働いています。

ただし、これは色が見えている場合の話です

魚が夜に色を見ているかは分かりません。 色を見る錐体細胞は明るいところで働く細胞です。常夜灯の下がそれに足りる明るさかどうかを示す資料を、シーバスについては見つけられませんでした。

そしてもっと大きな限界があります。明暗部が計算できません。

常夜灯は一点から照らすので、明るいところと暗いところの境目ができます。釣りで意味があるのは、明らかにそちらです。 これを出すにはランプの高さ・出力・配光・水面での反射が必要で、どれも推測になります。そこには踏み込みませんでした。

シミュレーターで変えているのは、光の色だけです。明るさも、明暗部の形も入っていません。

背景が何かで、話が変わります

ここまで「どの色が残るか」を見てきましたが、ルアーが見つかるかどうかは、残った色だけでは決まりません。背後に何があるかで決まります。

魚がどの向きから見るかで、背景はまったく別のものになります。

見る向き背景になるもの明るさ
見上げるその水深に届いている光いちばん明るい
横から見る水そのもの。無限に続く水からの散乱光中間
見下ろす光を返すものがない深みいちばん暗い

この3つは、新しい仮定なしで計算できます。 すでに使っている吸収係数と散乱係数だけで出ます。

コントラストとは何か

数字を出す前に、何を測っているかを書きます。背景に対して、明るさがどれだけ違うかの割合です。

コントラスト = |ルアーの明るさ − 背景の明るさ| ÷ 背景の明るさ

背景で割るのがポイントです。 引き算だけだと、全体が暗い場面と明るい場面を比べられません。割ることで、どちらでも同じ物差しになります。

背景の明るさを100とすると、こうなります。

ルアーの明るさコントラスト見え方
1000.00背景と同じ。輪郭が消える
500.50はっきり暗い
1500.50はっきり明るい
01.00真っ黒に見える

絶対値なので、明るくても暗くても同じ扱いです。 背景から離れているほど見つけやすいとみなします。

明るさそのものは、目に届く光から 0.2126 × 赤 + 0.7152 × 緑 + 0.0722 × 青 で出しています。緑に7割の重みがかかっているのは、人間の目が緑にいちばん敏感だからです。魚が同じ重みを持っているかは分かりません。

見上げられると、色は効きません

沿岸の1m先で、6色のコントラストを計算しました。

ルアーの色見上げる横から見下ろす
パール0.080.000.88
チャート0.170.100.69
ピンク0.350.290.33
イワシ0.370.310.29
レッドヘッド0.420.370.18
ブラック0.500.460.01

見上げる向きでは、どの色も背景より暗くなります。影絵です。 背景がいちばん明るいので、当然そうなります。

そして順番がきれいに反転しています。 見上げる向きで有利なのは暗い色、見下ろす向きで有利なのは明るい色。同じルアーが、見られる向きによって最良にも最悪にもなります。

ブラックは、見上げる向きで最も目立ち(0.50)、見下ろす向きでほぼ消えます(0.01)。

横から見ると、明るい色が消えます

意外だったのがここです。横から見る沿岸では、パールホワイトのコントラストが0.00になりました。

理由は単純で、水そのものの明るさと、白いルアーの明るさがたまたま一致するからです。白は届いた光をほぼそのまま返し、背景の水も散乱した光を返す。明るさが揃えば、輪郭が消えます。

澄んだ外洋ではチャートが0.01で同じことが起きます。その水の明るさに近い色が、そのつど消えるということです。

ただし、限界があります

実際にどの向きから見られているかは、計算できません。 水深とルアーの層と魚の位置で変わります。

明るさの差だけを見ています。 形も動きも入っていません。別の記事で見たとおり、捕食者は形と動きでも判断しています。コントラストが低い=釣れないではありません。

背景を3つに単純化しています。 実際には斜めから見ることのほうが多いはずで、その場合は中間の背景になります。

それで、釣りにどう効くのか

正直に言うと、ここから釣果の話にはつなげられません。

「良く釣れるルアー」の正体で計算したとおり、2つのルアーの優劣を個人の釣行で見分けるのは現実的に不可能でした。カラーの差はもっと小さいはずなので、なおさらです。

言えるのは、色の見え方についてだけです。

濁った水では、青系の色は思っているより早く消えます。 「青は遠くまで届く」を根拠に選んでいるなら、河口では前提が違います。

緑系は、どの水でもいちばん残ります。 チャートが効くと言われる理由の一つは、ここにあるかもしれません。ただし「残る」は「見つかる」の話であって、「食う」の話ではありません。

赤は、数mで意味を失います。 レッドヘッドの赤が赤として働くのは、かなり近い距離だけです。ただしルアーカラーの記事で書いたとおり、赤が暗く沈むこと自体が明暗の切れ目を作るので、色として効かなくなっても、模様としては残ります。

フラッシングの色は、塗装で決まりません。 銀でも金でも、水中で光る色は届いた光の色です。

背景の明るさのほうが、色より効きます。 見上げられていれば暗い色、見下ろされていれば明るい色が浮きます。どちらの状況かは、ふつう分かりません。 そこが難しいところです。

どれも「見え方」の話にとどまります。それが釣果に効くかどうかは、私には確かめられません。

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使ったもの・参考文献