濁りは味方か敵か:濁ると先に困るのは、遠くを見る魚のほう
濁りが入ると釣れる、と言う人もいれば、濁りすぎると釣れない、と言う人もいます。濁りが魚の目にどう効くのかを、魚食魚とプランクトン食の魚を比べた実験から確かめました。
この記事の見出し
「ほどよい濁りが入ると釣れる」。「濁りすぎると食わない」。どちらも釣り人のあいだでよく聞く話です。濁りは味方なのか、敵なのか。
この記事では、濁りが魚の目にどう効くのかを確かめます。雨で水が濁るときに何が起きるかは雨と台風で釣れるようになるのかで、濁った水で色がどう消えるかは水中で色が消える仕組みで書きました。ここでは、濁りそのものが、食べる側と食べられる側にどう効くかに絞ります。
調べて書いた記事です。
先に結論を書きます
- 濁ると、遠くのものから先に見えなくなります。そのため、大きな獲物を遠くから見つける魚食魚のほうが、目の前の小さなプランクトンを食べる魚より、濁りで困ります
- 小魚にとって、濁りは隠れ家になります。プランクトンを食べる小魚は、濁っても餌は見つけられるのに、捕食者からは見つかりにくくなります
- スズキの幼魚は、河口の上流側や川の中で、よく食べてよく育つと報告されています。ただし、それが濁りと関係するかは、私が読んだ範囲では確かめられていません
- 濁りで釣れるかどうかは、確かめられていません。シーバスの成魚で、濁りと食べ方を調べた研究は見つけられませんでした
濁ると、遠くのものから先に消える
霧の日を思い出してください。すぐ近くの人ははっきり見えるのに、少し離れた建物はぼやけて、もっと遠くの山は見えなくなります。
水の濁りも同じです。水の中の細かな泥や藻が、光をあちこちに散らします。その散った光が、見たいものと目のあいだに白いもやのように重なります。遠いものほど、あいだに挟まるもやが厚くなるので、背景との濃淡の差(コントラスト)が消えていきます。
これを、コントラストの低下と呼びます。水中で色が消える仕組みで計算したのは、光が弱くなる話でした。濁りのもうひとつの効き方が、この「もやで見えなくなる」ほうです。
反応できる距離が、急に縮む
魚が獲物に気づいて動き出す距離(反応距離)は、濁りでどう変わるのかが測られています。
濁りの強さは、NTU という単位で表します。水に横から光を当て、濁りの粒で散った光の量を測った値で、数字が大きいほど濁っています。
キングサーモンの若い魚では、濁りが増えるにつれて、プランクトンに気づく距離が対数的に縮みました(Gregory and Northcote 1993)。
魚食魚でも測られています。Vogel and Beauchamp (1999) は、大人のレイクトラウトが、体長5.5〜14センチのマスの仲間に気づく距離を、明るさと濁りを変えて測りました。濁りは、粘土を混ぜて 0.09、3.18、7.40 NTU の3段階にしています。気づく距離は、濁りとともに急に縮み、濁りが増すほど縮み方はゆるやかになる形でした。
どちらも、少しの濁りで見える距離が大きく落ち、それ以上濁っても落ち方は小さくなる、という形です。澄んだ水に濁りが入り始めるときが、いちばん見え方が変わるときだということです。
夜は、濁る前からもう見えていない
Vogel and Beauchamp (1999) は、明るさの影響も測っています。澄んだ水でも、気づく距離は、明るさが17.8ルクスより上ではおよそ1メートルでしたが、0.17ルクスでは25センチ未満まで縮みました。
0.17ルクスは、常夜灯の記事で見た満月の夜の明るさ(0.05〜0.1ルクス)より、少し明るいくらいです。夜の釣りでは、濁りが入る前から、魚食魚が小魚を目で見つけられる距離はとても短い、ということになります。
困るのは、遠くを見る魚のほう
魚食魚とプランクトン食の魚を比べた実験
De Robertis ら (2003) は、コントラストの低下の考え方から、次のように予想しました。濁りは、遠くから見つける物ほど見えにくくする。だから、大きく目立つ獲物を遠くから見つけて食べる魚食魚のほうが、小さなプランクトンを近くで拾って食べる魚より、濁りで餌が食べにくくなるはずだ。
水槽の実験は、その予想どおりでした。濁りは 0 から 40 NTU の範囲で変えています。
- プランクトンを食べるシロザケの若い魚とスケトウダラの若い魚は、濁っても食べる量があまり落ちませんでした。明るいときには少し落ちましたが、暗いときには落ちませんでした
- 小魚を食べるギンダラは、5〜10 NTU という軽い濁りだけで、獲物を追いかける回数も、捕まえられる割合も下がりました
論文は、濁った場所はプランクトンを食べる魚にとって得な場所かもしれない、とまとめています。捕食者に食べられにくくなるのに、餌のプランクトンを捕る力はあまり落ちないからです。
小魚にとっては、隠れ家
これを小魚の側から見ると、濁りは得になります。
小魚が、実際に濁りの中でよく食べることを示した結果もあります。Gregory and Northcote (1993) は、キングサーモンの若い魚に、水面の虫、水中のプランクトン、底のミミズを食べさせ、濁りを1 NTU未満から810 NTUまで変えました。どの餌でも、濁りすぎると食べる量は落ちました。ところが、水面と底の餌では、澄んだ水でも食べる量が少なく、いちばんよく食べたのは35〜150 NTUの中くらいの濁りでした。論文は、濁りで捕食者に見つかる危険が下がったと感じて、よく食べるようになったのだろう、と考えています。
濁りには種類がある
Nieman ら (2018) は、北米のエリー湖の魚2種が、どこまで濁ると縞模様を見分けられなくなるかを測りました。泥の濁りと、藻の濁りで比べています。
| 魚 | 見分けられなくなった濁り:泥 (NTU) | 見分けられなくなった濁り:藻 (NTU) |
|---|---|---|
| エメラルドシャイナー(プランクトンを食べる小魚) | 79.7 | 34.4 |
| ウォールアイ(魚食魚) | 100.0 | 40.4 |
どちらの魚も、藻の濁りでは、泥の濁りの半分以下で見分けられなくなりました。同じ NTU でも、泥の濁りと、プランクトンが増えた緑の濁りでは、魚の目への効き方が違うということです。
魚食魚の中にも、濁りで食べる量を増やすものがいる
ただし、話はそう単純でもありません。Nieman ら (2018) は、これまでの研究から、ほどよい濁りで食べる量を増やす魚食魚もいる、と紹介しています。ウォールアイは、昼間に餌を捕るのが、少しから中くらいの濁りの日と結びついているそうです。論文は、ほどよい濁りでは、周りから差し込む光に対して獲物の影が目立つようになるのではないか、という説を挙げています。
濁りで小魚が油断して群れを広げたり、開けた場所に出てきたりすれば、近くまで寄れる捕食者には得になります。遠くから見つけられなくなる損と、近づきやすくなる得の、どちらが大きいか。それが、魚種と濁りの強さで変わるのだと考えられます。ここは私の推測です。
スズキの幼魚は、河口の上流側でよく育つ
スズキについては、幼魚が河口のどこでよく食べているかを調べた研究があります。
スズキの川の使い方を調べたTakai ら (2024) は、序論でこれまでの研究をこうまとめています。筑後川の河口の上流側では、スズキの幼魚の主な餌であるカイアシ類が多く、幼魚はよく食べ、体の状態も下流側より良くなっていた(Islam ら 2006 の一連の研究)。日本海に注ぐ由良川でも、川をさかのぼって川で過ごした幼魚のほうが、沿岸に残った幼魚より体の状態も成長も良かった(Fuji ら 2011、2014)。
このまとめには、濁りの話は出てきません。筑後川の上流側の汽水域が、どれくらい濁っている場所なのかは確かめていません。小さなスズキが濁りを隠れ家にしているかどうかも、ここからは言えません。
釣りにどう効くのか
シーバスの成魚が、濁りでよく食べるようになるのかは、確かめられていません。ここまでの研究から、考えられる筋道を並べます。
- 濁ると、シーバスが小魚を遠くから見つけるのは難しくなる
- 一方で、小魚もシーバスに気づくのが遅れる。近くまで寄れれば、シーバスには得になる
- 目が効かないぶん、シーバスは近くの水の揺れを感じる側線に頼るのかもしれない(暗い中で餌を見つける仕組み)
釣り人の言う「ほどよい濁り」は、小魚が油断するが、シーバスがまだ近くの獲物を見つけられる、その間の濁りなのかもしれません。これは推測です。
ルアーの側でできることは、見える距離が縮むことを前提にすることです。濁った水では、遠くから気づかせるより、魚の近くを通すほうが理にかないます。色については、結局どのカラーを選べばいいのかで、濁った水でのコントラストを計算しました。
確かめられていないこと
シーバスの成魚で、濁りと食べ方を調べた研究は見つけられませんでした。紹介したのは、サケやマス、ギンダラ、北米の湖の魚の研究です。スズキの幼魚の研究は、育つ場所と餌の話で、濁りを測ったものではありません。
実験は、どれも水槽の中のものです。濁りの強さは、泥や粘土を混ぜて作っています。
スズキの幼魚の研究は、Takai ら (2024) の序論のまとめを通して読みました。Islam ら (2006) と Fuji ら (2011、2014) の本文には当たっていません。
濁りの単位 NTU は、測る機械で値が少し変わります。論文どうしの数字は、目安として比べてください。
続けて読むなら
- 雨と台風で釣れるようになるのか:効くのは気圧ではなく、水が変わること— 濁りを連れてくる雨の話
- 水中で色が消える仕組み:シミュレーターの中身— 濁った水で、光と色がどれだけ減るか
- 結局どのカラーを選べばいいのか:計算で出した答え— 濁った水で目立つ色
- 色が消える距離で、魚は何を頼りに餌を見つけているのか— 目が効かないときの側線
- ラトルの音は効くのか:シーバスの耳が聞いている音の高さ— 濁った水で頼られると言われる、音の話
使ったもの・参考文献
- De Robertis, A., Ryer, C. H., Veloza, A. and Brodeur, R. D.「Differential effects of turbidity on prey consumption of piscivorous and planktivorous fish」(Canadian Journal of Fisheries and Aquatic Sciences 60, 1517-1526, 2003)— 本文を読みました。コントラストの低下の考え方による予想、0〜40 NTU の実験、ギンダラは5〜10 NTU で追う回数と捕まえる割合が下がったこと
- Gregory, R. S. and Northcote, T. G.「Surface, planktonic, and benthic foraging by juvenile Chinook salmon (Oncorhynchus tshawytscha) in turbid laboratory conditions」(Canadian Journal of Fisheries and Aquatic Sciences, 1993)— 本文を読みました。反応距離が濁りとともに対数的に縮んだこと、1 NTU未満〜810 NTU で、水面と底の餌では35〜150 NTU でいちばんよく食べたこと
- Vogel, J. L. and Beauchamp, D. A.「Effects of light, prey size, and turbidity on reaction distances of lake trout (Salvelinus namaycush) to salmonid prey」(Canadian Journal of Fisheries and Aquatic Sciences 56, 1293-1297, 1999)— 本文を読みました。濁り3段階と明るさでの気づく距離、17.8ルクス以上で約1 m、0.17ルクスで25 cm未満
- Nieman, C. L., Oppliger, A. L., McElwain, C. C. and Gray, S. M.「Visual detection thresholds in two trophically distinct fishes are compromised in algal compared to sedimentary turbidity」(Conservation Physiology 6, coy044, 2018)— 本文を読みました。泥と藻の濁りで見分けられなくなる値、ほどよい濁りで食べる量を増やす魚食魚がいるという紹介
- Takai, K. ほか「River-sea migration patterns of juvenile Japanese seabass influence migrations in subsequent stages」(Estuarine, Coastal and Shelf Science 307, 108921, 2024)— 本文を読みました。序論の、筑後川の上流側で幼魚の餌が多く体の状態が良いこと(Islam ら 2006)、由良川で川に入った幼魚の成長が良いこと(Fuji ら 2011、2014)のまとめ