大潮の日は風が強いのか:30年分の観測では、小潮の日と変わらなかった

サーフでは、大潮の日に風が強いと感じることがあります。気象庁の観測値30年分 (銚子・水戸) を潮回りで分けて比べたところ、大潮の日と小潮の日の平均風速の差は0.1 m/s 未満で、偶然の範囲でした。月が空気を引っぱる力は重力の約890万分の1で、月が空気に起こす潮は、太陽の熱が起こす1日の変化よりひと桁小さいとされています。

この記事の見出し

サーフに立っていると、大潮の日は風が強い、と感じることがあります。潮がよく動く日に限って、横風でラインがふくらみ、波も立っている。大潮と風には関係があるのでしょうか。

調べて書いた記事です。風と潮の数値は、気象庁の観測値と潮位表から私が計算しました。

先に結論を書きます

  1. 気象庁の30年分の観測では、大潮の日と小潮の日で、風の強さは変わりませんでした。銚子の日平均風速は大潮の日が5.71 m/s、小潮の日が5.61 m/s で、この差は偶然の範囲です。内陸の水戸では差がもっと小さくなりました
  2. 月は海だけでなく空気も引っぱっています。ただ、その力は重力の約890万分の1です。月が空気に起こす潮は、太陽の熱が起こす1日の変化よりひと桁小さいとされています
  3. 大洗では、大潮の日の昼の干潮は10時台、小潮の日は15時ごろに来ます。どちらも海風が吹く時間帯で、干潮の時刻に吹いていた風に差はありませんでした
  4. それでも大潮の日に風の印象が残る理由は、確かめられていません。考えられるものを最後に挙げます

大潮と小潮で、潮はどれだけ違うか

先に、比べる「潮回り」を確かめておきます。大潮・中潮・小潮・長潮・若潮は、月と太陽の位置の関係で決まる呼び名です。この記事では、潮見アプリと同じく、その日の0時の月と太陽の向きの差から決めました。

大洗の潮位表 (2023〜2025年、1時間ごとの推算値) で、潮回りごとの1日の干満差を出すと、次のようになります。

潮回り日数1日の干満差の平均 (その日の最高潮位 − 最低潮位、cm)その日の最高潮位の平均 (潮位表の基準面から、cm)
大潮297128.0137.7
中潮439107.4129.6
小潮21179.0122.0
長潮7773.3118.9
若潮7280.1120.1

大潮の日の干満差は、小潮の日の約1.6倍です。潮の動きにはこれだけの差があります。では、風にも差があるのかを見ます。

30年分の風を、潮回りで分ける

気象庁の過去の気象データから、1996年から2025年までの30年分の日ごとの値を取りました。観測所は2つです。

  • 銚子地方気象台:太平洋に突き出た半島の先にあり、海から吹く風を受けやすい場所です。サーフの風に近い値として使いました
  • 水戸地方気象台:海から10 km あまり内陸にあります。地形や建物で風が弱まるので、値は銚子の半分以下です

日ごとの値を、その日の潮回りで分けて平均しました。日最大風速は、その日のうち10分間の平均風速がいちばん大きかった値です。

銚子 (1996〜2025年)

潮回り日数日平均風速の平均 (m/s)日最大風速の平均 (m/s)日最大風速が10 m/s 以上の日の割合
大潮2,9675.719.9944.4%
中潮4,3975.609.8744.8%
小潮2,1245.619.8644.1%
長潮7395.659.9943.8%
若潮7245.629.9244.6%

水戸 (1996〜2025年)

潮回り日数日平均風速の平均 (m/s)日最大風速の平均 (m/s)日最大風速が10 m/s 以上の日の割合
大潮2,9662.305.091.5%
中潮4,3962.275.051.8%
小潮2,1192.305.111.7%
長潮7382.275.092.0%
若潮7222.285.101.1%

銚子では大潮の日がわずかに高く出ていますが、中潮・小潮・長潮・若潮との差は0.1 m/s ほどです。強い風の日 (日最大風速10 m/s 以上) の割合は、大潮の日が44.4%、小潮の日が44.1%でした。

この0.1 m/s が偶然かどうかを確かめました。風は低気圧や前線の通過に合わせて数日まとまって強くなるので、1日ずつを独立な標本として扱うと、差を見誤ります。そこで、大潮が始まる日で30年を半月ずつ742回に区切り、半月ごとに「大潮の日の平均 − 小潮の日の平均」を出して、その742個の差を平均しました。

観測所大潮の日 − 小潮の日 (日平均風速、742回の平均)95%信頼区間
銚子+0.066 m/s−0.091〜+0.222 m/s
水戸−0.010 m/s−0.064〜+0.043 m/s

どちらも信頼区間が0をまたいでいて、大潮の日のほうが風が強いとは言えません。仮に銚子の +0.07 m/s が本当の差だとしても、日平均風速5.6 m/s の1%あまりで、立っていて感じ分けられる大きさではありません。

季節で分けても同じでした。銚子の日平均風速は、春 (3〜5月) が大潮6.17 m/s・小潮6.01 m/s、夏 (6〜8月) が5.08 m/s・5.03 m/s、秋 (9〜11月) が5.89 m/s・5.85 m/s、冬 (12〜2月) が5.69 m/s・5.57 m/s です。水戸では、どの季節も大潮と小潮の差が0.04 m/s 以内でした。

月は空気も引っぱっている

大潮は、月と太陽が地球から見て同じ向きか反対の向きに並び、2つの潮を起こす力が重なる時期です。この力は海の水だけでなく、空気にも同じようにはたらきます。

ただし、力そのものはとても小さいものです。潮を起こす力は、地球の月に向いた側と中心とで、月に引かれる強さが違うことから生まれます。その差を見積もると約1.1 × 10⁻⁶ m/s² で、重力の約890万分の1です。太陽の分は、その0.46倍です。

海の満ち引きは、この力で海面が力にそのまま従うだけなら、月と太陽を合わせても1メートル足らずです (平衡潮汐論の記事)。実際の干満差がそれより大きくなる場所があるのは、湾の形で潮が共振して増えるからです (湾の形が潮差を決める)。空気にも月による潮はあり、地上の気圧や、上空の風と気温で測られています。

Sakazaki and Hamilton (2018) によれば、月が空気に起こす潮は、太陽が起こす1日周期・半日周期の変化よりひと桁ほど小さいのがふつうです。太陽の側の変化は、引力ではなく、おもに日射で空気が暖まることで起きています。同じ論文は、熱帯の太平洋と大西洋のブイ38か所の気温を約20年分解析して、月による気温の変化を海の上で初めて取り出しました。その振れ幅は約0.007℃です。同じ解析では、半日周期の気温の変化が、大潮のころに大きく、小潮のころに小さくなっていました。

空気にも大潮と小潮があるのは確かです。ただ、その大きさは、海辺の風を目に見えて変えるようなものではありません。30年分の観測で差が出なかったことと合います。

時刻のずれで説明できるか

風の強さそのものは変わらなくても、大潮の日には「風の強い時刻に潮が動く」のであれば、釣り人の体感としては大潮の日に風が強くなります。これを確かめました。

まず、海辺の風は1日のうちで強さが変わります。銚子の2023〜2025年の1時間ごとの風速を、時刻ごとに平均しました (気象庁の毎時の値は、その時刻までの10分間の平均です)。

時刻平均風速 (m/s、2023〜2025年の1,090〜1,095日)
3時4.31
5時4.30
7時4.46
9時4.92
11時5.21
13時5.41
15時5.27
17時4.84
19時4.60
21時4.52
23時4.39

13時がいちばん強く、明け方より約1.1 m/s 強くなります。昼に陸が暖まって海風が吹くためです (向かい風と追い風の記事で、海陸風のしくみを書きました)。

いっぽう、満潮と干潮の時刻は、潮回りによってほぼ決まっています。月と太陽の並びで潮回りが決まり、その並びで満潮の来る時刻も決まるからです。大洗の潮位表 (2023〜2025年) で、5時から19時のあいだに来た干潮と満潮の時刻を数えました。

潮回り昼の干潮の時刻 (中央値)昼の干潮の時刻 (半分が入る範囲)昼の満潮の時刻 (中央値)
大潮10:4210:09〜11:1516:14
小潮15:0514:11〜16:108:59

大潮の日の昼の干潮は10時台、小潮の日は15時ごろです。

この干潮の時刻と満潮の時刻に、銚子で吹いていた風を比べました。

大潮の日 (m/s)小潮の日 (m/s)差 (大潮 − 小潮)
昼の干潮の時刻の風速5.10 (294回)5.02 (186回)+0.08 m/s
昼の満潮の時刻の風速4.81 (393回)4.63 (212回)+0.18 m/s

どちらの差も、組み合わせを入れ替えて偶然に出る差と比べると、珍しくない大きさでした (並べ替え検定で p = 0.71 と 0.39)。大潮の日の10時台の干潮も、小潮の日の15時ごろの干潮も、どちらも海風が吹いている時間帯に入るからです。同じ3年の9時から17時の平均風速も、大潮の日が5.16 m/s、小潮の日が5.20 m/s で、差はありませんでした。

時刻のずれでも、大潮の日の風は説明できませんでした。

それでも大潮の日に風が強いと感じるのはなぜか

ここからは推測です。データで確かめたものではありません。

1つ目は、行く回数の違いです。大潮の日を選んで海へ行く人は、大潮の日に風の強い日に当たる回数も多くなります。風の強い日の割合が同じでも、回数が多い分だけ「大潮の日に風が強かった」記憶が多く残ります。風の強かった日は、釣りにくかった分、覚えていやすいこともあると思います。

2つ目は、同じ風でも、大潮の日のほうが風の影響が目に入りやすいことです。大洗では、大潮の日の最高潮位は小潮の日より平均で約16 cm 高くなります (137.7 cm と 122.0 cm)。傾きのゆるいサーフでは、水位が少し上がるだけで波打ち際が陸へ寄ります。海からの風で立った波が足元まで来る日は、風が強い日として記憶に残りやすいのかもしれません。

分かっていないこと

  • 使ったのは、銚子と水戸の2か所の観測だけです。どちらも観測所の風速計の値で、波打ち際の風を直接測ったものではありません
  • 1時間ごとの比較は、銚子の3年分 (2023〜2025年) だけです。30年分の日ごとの値と同じ答えでしたが、時刻ごとの差はもっと短い期間では揺れます
  • 風の向きは分けていません。大潮の日に海から吹く風だけが強いのかどうかは見ていません
  • 潮の流れと風が逆向きのときに、波が立ちやすくなるかどうかは調べていません。サーフでは潮の流れは河口や港ほど強くないので、ここでは扱いませんでした

続けて読むなら

使ったもの・参考文献

  • 過去の気象データ検索 (気象庁)— 銚子と水戸の日ごとの平均風速・最大風速 (1996〜2025年)、銚子の1時間ごとの風速 (2023〜2025年)
  • 潮位表 (気象庁)— 大洗の2023〜2025年の1時間ごとの潮位と、満潮・干潮の時刻
  • Sakazaki, T. and Hamilton, K.「Discovery of a lunar air temperature tide over the ocean: a diagnostic of air-sea coupling」(npj Climate and Atmospheric Science 1, 25, 2018)— 月が空気に起こす潮が、太陽の熱による1日周期・半日周期の変化よりひと桁ほど小さいこと、熱帯の海の上のブイ38か所で月による気温の変化 (振れ幅約0.007℃) を取り出したこと。全文を読みました
  • 潮回りごとの干満差と風速の集計、半月ごとの差の信頼区間、並べ替え検定、月と太陽の潮を起こす力の見積もりは、私が計算しました