潮汐データで時合いを予測する:大洗の潮位から「潮が動く時間帯」を計算する
「潮が動く時間に釣れる」を、感覚ではなく数値で扱えるようにする試み。気象庁が公開する大洗の潮位データから潮位の変化速度を計算し、夜間の時合い候補と「釣行すべき夜」をランキングします。
ナイトゲーム入門の記事で、「時合いは時計ではなく潮で決まる」「潮止まりは反応が薄く、潮が動き出すと急にバイトが出る」という話をしました。今回はこれを一歩進めて、気象庁が公開している潮位データから「潮が動く時間帯」を計算で割り出してみます。使うのは当サイトのホームである大洗の実データです。
タイドグラフを眺めて「このへんが動きそう」と読むのは経験者なら普通にやっていることですが、数値にしておくと (1) 釣行前の計画が具体的になる、(2) 後で釣果ログと突き合わせて検証できる、という2つのメリットがあります。本サイトのデータ分析シリーズの土台になる分析です。
考え方:潮位の「変化速度」を時合いの代理指標にする
潮位そのもの(いま何cmか)よりも、単位時間あたりにどれだけ潮位が変わっているか(cm/h)の方が、流れの強さ、ひいてはベイトとシーバスの活性に効いていそうだ、というのが出発点です。
- 満潮・干潮の前後 → 潮位変化がほぼゼロ = 潮止まり
- 満潮と干潮のあいだ → 潮位変化が最大 = 潮がよく動く時間帯
潮位の時系列データがあれば、変化速度は数値微分で簡単に計算できます。これを夜間(ナイトゲームの時間帯)に絞ってランキングすれば、「今夜どの時間に釣り場に立つべきか」の候補が出せるわけです。
データの入手:気象庁の潮位表テキストデータ
潮位データは気象庁が無料で公開しています。「気象庁 潮位表」で検索して出てくる潮位表のページから地点を選ぶと、**テキストデータ版(毎時潮位、満潮・干潮の時刻と潮位)**が年単位でダウンロードできます。大洗は地点記号「D3」で、1年分・8760時間の毎時潮位が1ファイルに収まっています。
テキストは1行=1日の固定長フォーマットで、公式のフォーマット説明によると構造は次の通りです。
| カラム位置 | 内容 |
|---|---|
| 1〜72 | 毎時潮位 [cm] 3桁×24時間(0〜23時) |
| 73〜78 | 年月日(西暦下2桁・月・日 各2桁) |
| 79〜80 | 地点記号 |
| 81〜136 | 満潮・干潮の時刻と潮位(今回は未使用) |
このフォーマットを読むパーサーもスクリプトに含めてあります。核になるのはこれだけです。
yy = int(line[72:74]); mm = int(line[74:76]); dd = int(line[76:78])
date = datetime(2000 + yy, mm, dd)
for h in range(24):
level = int(line[h * 3 : h * 3 + 3]) # 3桁×24時間分を切り出す
計算:数値微分で変化速度を出す
潮位の変化速度は中央差分(numpy.gradient)で計算します。
import numpy as np
df["rate_cm_h"] = np.gradient(df["level_cm"].to_numpy(), hours)
df["abs_rate"] = df["rate_cm_h"].abs()
# 夜間(18時〜翌4時)に絞って、変化速度の大きい順にランキング
night = df[df["datetime"].dt.hour.isin(NIGHT_HOURS)]
ranking = night.sort_values("abs_rate", ascending=False).head(8)
結果1:今週、いつ潮が動くか
2026年7月22日からの4日間を解析した結果がこちらです。
上段が潮位、下段がその変化速度、網掛け部分が夜間(18時〜翌4時)です。まず夜間の時合い候補ランキングから。
== 夜間(18時〜翌4時)で潮がよく動く時間帯 TOP8 ==
07/22 (水) 00:00 潮位 94.0 cm ↓下げ 15.0 cm/h
07/25 (土) 03:00 潮位 87.0 cm ↓下げ 15.0 cm/h
07/23 (木) 01:00 潮位 90.0 cm ↓下げ 14.5 cm/h
07/23 (木) 00:00 潮位 105.0 cm ↓下げ 14.5 cm/h
07/25 (土) 04:00 潮位 72.0 cm ↓下げ 14.5 cm/h
07/24 (金) 02:00 潮位 88.0 cm ↓下げ 14.0 cm/h
07/22 (水) 01:00 潮位 79.0 cm ↓下げ 14.0 cm/h
07/24 (金) 01:00 潮位 102.0 cm ↓下げ 13.5 cm/h
この期間の大洗は、深夜0時〜4時の下げ潮が最も潮の動く時間帯で、TOP8がすべて下げ潮で占められました。ナイトゲームの計画に落とすなら「宵の口はポイントの様子見に充て、日付が変わってからの下げを本命の時合いとして釣る」という組み立てになります。
同じ計算を昼間(5時〜17時)にも適用できます。
== 昼間(5時〜17時)で潮がよく動く時間帯 TOP8 ==
07/25 (土) 11:00 潮位 77.0 cm ↑上げ 14.0 cm/h
07/25 (土) 12:00 潮位 91.0 cm ↑上げ 13.5 cm/h
07/25 (土) 10:00 潮位 63.0 cm ↑上げ 13.0 cm/h
07/25 (土) 05:00 潮位 58.0 cm ↓下げ 12.5 cm/h
07/25 (土) 13:00 潮位 104.0 cm ↑上げ 11.0 cm/h
07/22 (水) 17:00 潮位 102.0 cm ↑上げ 10.5 cm/h
07/24 (金) 11:00 潮位 88.0 cm ↑上げ 10.5 cm/h
07/24 (金) 10:00 潮位 77.0 cm ↑上げ 10.5 cm/h
面白いのは、夜は下げ潮・昼は上げ潮が動くという構図がはっきり出たことです。デイゲームなら、この週は土曜(7/25)の午前中〜昼にかけての上げ潮が最有力の時間帯になります。ナイト派・デイ派どちらでも、同じデータと同じ計算で釣行計画が立てられるわけです。
ちなみに、大洗の変化速度は最大でも15cm/h程度でした。瀬戸内海のような潮差の大きい海域では潮差が2〜3mに達するのに対し、太平洋岸の大洗は1m強。「大潮でも思ったほど流れない」という茨城のフィールド感覚が、数字でも裏付けられた格好です。だからこそ、限られた「動く時間」を外さないことが重要になります。
結果2:8月、どの夜に釣行すべきか
同じ計算を1ヶ月分に広げて、「夜間の平均変化速度」で各夜をランキングすると、釣行日選びにも使えます。2026年8月の結果です。
== 2026年8月 潮がよく動く夜 TOP5 ==
8/30 平均 15.4 cm/h
8/31 平均 15.2 cm/h
8/29 平均 14.0 cm/h
8/16 平均 13.1 cm/h
8/15 平均 13.0 cm/h
== 参考: 動かない夜 WORST3 ==
8/22 平均 6.3 cm/h
8/24 平均 5.4 cm/h
8/23 平均 4.8 cm/h
ベストの夜(8/30)とワーストの夜(8/23)では、同じ8月の夜でも潮の動きに約3倍の差があります。これはいわゆる大潮・小潮の違いを数値で見ていることになりますが、「大潮の日」とカレンダーで丸めるのではなく、夜の時間帯に限定した実際の動きで比較できるのがこの方法の利点です。土日しか釣行できない場合でも、候補日の中で相対的に良い夜を選ぶ、という使い方ができます。
この分析の限界(重要)
潮位の変化速度は、あくまで時合いの候補を出すための代理指標です。実際の釣果を保証するものではなく、次のような限界があります。
- 潮位変化と流速は同じではない。特に河川では、河川流量・地形・風の影響で、潮位変化と実際の流れにズレや時間差が生じます。大洗周辺の河川でも、外洋の潮位変化がそのまま川の流れになるわけではありません
- 潮位表は推算値(予測値)。気圧や風による実際の潮位との差(潮位偏差)があります
- 時合いは潮だけでは決まらない。ベイトの有無、水温、濁り、月明かり、釣り人のプレッシャーなど、多くの要因が絡みます
つまりこの分析は「潮が動く時間帯に釣り場に立つ確率を上げる」ためのツールであって、答えを出す水晶玉ではありません。
この分析の使い方
この「時合い候補」はあくまで釣行計画を立てるための参考材料であり、実際に釣れるかどうかを保証するものではありません。釣行のたびに厳密なログを取って検証する、というよりは、タイドグラフ代わりに気軽に眺めて、入り時間の目安にしてもらうくらいの距離感で使ってもらえればと思います。
追記(2026-07-22): この分析を全国の地点で使えるようにした潮見アプリを公開しました。環境構築なしで試したい方はこちらをどうぞ。
スクリプト全体は tide_jiai.py からダウンロードできます(Python 3系、pandas / numpy / plotly が必要です)。気象庁のテキストデータを入手して
python tide_jiai.py --jma D3.txt --start 2026-07-22 --days 4
のように実行すれば、この記事と同じ解析をお好きな地点・期間で再現できます。