なぜ夏の大潮は夜に潮が動かないのか:1日1回潮のしくみ
同じ大潮なのに、夏は1日に1回しか大きく動かず、秋は2回動く。この違いは月の赤緯で説明できます。大洗の潮位データで検証したところ、夏の大潮は夜間の潮の動きが昼の半分しかないことが分かりました。
夏のあいだ潮見表を眺めていて、気になっていたことがあります。大潮なのに、1日に1回しか大きく動かないのです。上げて下げて、それで終わり。
ところが秋の潮見表を見ると、同じ大潮でも1日に2回きっちり動いています。上げ下げが4回。同じ「大潮」という名前なのに、様子がまるで違う。
調べてみたら、これには名前も理由もありました。しかも大洗の潮位データで確かめてみると、夜釣りにとってかなり重要な結論が出てきました。
まず、実際の数字を見る
2026年の大洗で、夏の満月と秋の満月を並べてみます。
右端の欄は、ひとつ前の干潮(満潮)からその時刻までに潮位が何cm動いたかです。前日の最後の干潮も参考に載せています。
2026年7月29日(満月)
| 時刻 | 潮位 | 前の干満からの変化 | |
|---|---|---|---|
| (前日)7/28 21:47 | 干潮 | 100.8 cm | — |
| 02:43 | 満潮 | 138.3 cm | +37.5 cm |
| 10:05 | 干潮 | 17.0 cm | −121.4 cm |
| 17:18 | 満潮 | 133.4 cm | +116.5 cm |
| 22:15 | 干潮 | 94.8 cm | −38.7 cm |
大きく動いたのは真ん中の2回だけです。1日に4回ある干満のうち、2回は40cm前後しか動いていません。特に22:15の「干潮」は94.8cmもあって、干潮と呼ぶのがためらわれる高さです。
2026年9月27日(満月)
| 時刻 | 潮位 | 前の干満からの変化 | |
|---|---|---|---|
| (前日)9/26 21:57 | 干潮 | 50.0 cm | — |
| 04:02 | 満潮 | 146.0 cm | +96.0 cm |
| 10:10 | 干潮 | 51.8 cm | −94.2 cm |
| 16:11 | 満潮 | 144.2 cm | +92.4 cm |
| 22:30 | 干潮 | 37.2 cm | −107.0 cm |
こちらは4回とも90〜110cmで揃っています。
同じ満月・同じ場所でも、まったく違う形をしています。
この現象には名前があります
2つの満潮どうし、あるいは干潮どうしの差を日潮不等といいます。そして日潮不等が大きくなると、低い満潮と高い干潮の差がなくなって、1日に1回しか満潮と干潮がないような状態になります。これを1日1回潮と呼ぶそうです。
7月29日のデータは、まさにこれです。02:43と17:18の満潮はどちらも同じくらいですが、10:05の干潮(17cm)と22:15の干潮(94.8cm)は78cmも違います。片方の干潮が「干潮になりきれていない」わけです。
原因は月の赤緯
なぜ日潮不等が起きるのか。国立天文台の解説が分かりやすかったので、それをもとに整理します。
潮の膨らみは、月がある側と、その反対側の2か所にできます(干満差ランキングの記事で書いたとおりです)。地球が1回転する間に、私たちはこの2つの膨らみを1つずつ通り過ぎる。だから1日に2回の満潮が来ます。
ここで効いてくるのが、月が赤道からどれだけ離れているか(赤緯)です。
月が赤道の真上にいるとき(分点潮)。2つの膨らみはどちらも赤道上にできます。観測者から見ると、月の側でも反対側でも同じくらい引き伸ばされるので、2回の満潮は同じ大きさになります。日潮不等は小さい。
月が赤道から離れているとき(回帰潮)。膨らみは北と南にずれます。北半球にいる観測者は、北側の膨らみの近くを通り、南側の膨らみからは遠いところを通る。だから片方の満潮は大きく、もう片方は小さくなります。日潮不等が大きい。
では、なぜ季節で変わるのか
ここが本題です。月の赤緯は約27日周期で変わるので、それだけでは季節性の説明になりません。
鍵は、大潮が新月と満月に起きることです。
- 新月のとき、月は太陽と同じ方向にあります。つまり月の赤緯は太陽の赤緯とほぼ同じ
- 満月のとき、月は太陽の反対側です。つまり月の赤緯は太陽の赤緯とほぼ逆
どちらの場合も、月の赤緯の大きさは太陽の赤緯の大きさとほぼ等しくなります。
そして太陽の赤緯は、季節そのものです。
- 夏至・冬至のころ、太陽は赤道から最も離れます(±23.4度)。だから大潮の月も赤道から大きく離れる → 日潮不等が大きい → 1日1回潮になりやすい
- 春分・秋分のころ、太陽は赤道上にあります。だから大潮の月も赤道の近く → 日潮不等が小さい → 1日2回きれいに動く
これで説明がつきます。夏の大潮が1回しか動かず、秋の大潮が2回動くのは、季節によって大潮のときの月の位置が違うからでした。
ここまでの話は言葉だけだと像を結びにくいので、潮汐シミュレーターを作りました。日付と月齢を動かすと、潮の膨らみの傾きと潮位カーブの形が連動して変わります。「夏至の大潮」と「秋分の大潮」のボタンを押し比べてみると、ここで書いたことがそのまま図になります。
データで確かめる
2026年の大洗の潮位データで、大潮と判定された103日を月ごとに集計してみました。「大きな動き」は、その日の最大の動きの50%以上あるものを数えています(この定義は当サイト独自のものです)。
| 月 | 大潮の日の月の赤緯(絶対値・日平均) | 1日あたりの大きな動きの回数 |
|---|---|---|
| 1 | 19.9° | 1.89 |
| 2 | 11.3° | 3.00 |
| 3 | 8.4° | 3.88 |
| 4 | 16.0° | 3.22 |
| 5 | 24.4° | 2.11 |
| 6 | 27.3° | 2.00 |
| 7 | 19.5° | 2.00 |
| 8 | 8.2° | 3.44 |
| 9 | 7.8° | 3.88 |
| 10 | 18.9° | 3.00 |
| 11 | 24.7° | 2.00 |
| 12 | 25.8° | 1.88 |
きれいに対応しています。月の赤緯が大きい6月と12月は2回前後、赤緯が小さい3月と9月は3.88回。大潮の日について、月の赤緯の大きさと動きの回数の相関係数は-0.799(103日分)でした。
反対の予測も確かめる
この説明が正しいなら、小潮では逆のことが起きるはずです。
上弦・下弦の月は、太陽から90度離れた方向にあります。だから太陽の赤緯が大きい夏至・冬至には、上弦・下弦の月は赤道の近くにいる。つまり夏の小潮は日潮不等が小さく、1日2回きれいに動くはずです。
これは直感に反します。「大潮のほうがよく動く」というのが常識ですが、動く回数については夏は小潮のほうが多いという予測になります。
確かめてみました。
| 季節 | 大潮の日の1日あたりの大きな動きの回数 | 小潮の日の1日あたりの大きな動きの回数 |
|---|---|---|
| 春分ごろ(3-4月) | 3.53 | 1.82 |
| 夏至ごろ(6-7月) | 2.00 | 2.82 |
| 秋分ごろ(9-10月) | 3.44 | 2.00 |
| 冬至ごろ(12-1月) | 1.88 | 2.69 |
予測どおり、夏と冬は小潮のほうが回数が多くなっていました。逆転しています。理屈から導いた予測が、実データで確かめられた形です。
この逆転もシミュレーターで確認できます。「夏至の小潮」と「秋分の小潮」を押し比べると、大潮のときとちょうど逆の形になります。
夜釣りにとっての結論
ここからが本題です。1日1回潮のとき、その1回はいつ来るのか。
夏の大潮を考えます。新月なら月は太陽と同じ側、つまり北寄りにいて、正午ごろ南中します。満月なら月は南寄りにいるので、観測者に近いのは反対側の膨らみで、それが通り過ぎるのはやはり正午ごろ。どちらの場合も、大きいほうの潮は昼に来ることになります。
冬はこの関係が逆転して、大きいほうの潮が夜に来ます。
大洗のデータで、大潮の日の夜(日没から日の出まで)の潮の動きを調べました。
| 季節 | 大潮の日の最大変化速度(日平均) | 同・夜間だけの最大(日平均) | 夜間の最大 ÷ 1日の最大 | 夜間に20cm/h以上あった日の割合(その季節の大潮の日が分母) |
|---|---|---|---|---|
| 夏至ごろ(6-7月) | 28.1 cm/h | 13.1 cm/h | 0.46 | 0% |
| 春分ごろ(3-4月) | 26.8 | 21.7 | 0.81 | 65% |
| 秋分ごろ(9-10月) | 27.2 | 26.4 | 0.97 | 100% |
| 冬至ごろ(12-1月) | 29.0 | 29.0 | 1.00 | 100% |
はっきりしています。夏の大潮は、夜になると潮の動きが昼の半分以下になります。 6月から7月にかけて、大洗の大潮で夜間に20cm/h以上動いた日は、2026年には1日もありませんでした。
一方で冬の大潮は、その日の最大の動きがそのまま夜に来ます。秋も97%とほぼ同じです。
「夏の夜は潮が動かない」というのは、季節と月の位置の関係から必然的にそうなっているわけです。夏に夜釣りで潮が効かないと感じるなら、それは気のせいではないかもしれません。
そして裏を返せば、これから秋にかけて、夜の潮は動くようになります。9月から10月の大洗では、大潮と判定された16日すべてで、夜間に20cm/h以上の動きがありました。
注意点
ここで使った理屈は理想モデルです。 月の赤緯から潮の形が決まるという骨格は潮汐シミュレーターで図として確かめられますが、あれは海が地球を一様に覆っていると仮定した平衡潮汐論による計算で、実際の潮位そのものではありません。その計算の中身は潮の高さを式で書くで開いています。日潮不等が式のどの項から出てくるのかも、そこで扱いました。
地点によって様相が違います。 全国239地点の干満差を比べた記事で見たとおり、潮の性格は場所で大きく変わります。日潮不等の出方も同じで、ここで見たのはあくまで大洗の話です。ご自身の釣り場については、潮見アプリや時合カレンダーで確かめてみてください。時合カレンダーの「潮の動き」の列は、まさにその夜に潮が動くかどうかを見るためのものです。
「大きな動き」の定義は独自のものです。 その日の最大の動きの50%以上、という基準は私が決めたもので、公的な定義ではありません。
大潮・小潮の判定方法によって、数字は多少変わります。 潮名は旧暦の日付で決めるのが伝統的ですが、境界の取り方が資料によって1日ずれることがあります。ここでは日本水路協会 海洋情報研究センターの方式にならい、その日の0時における月と太陽の黄経差から判定しました。当サイトの潮見アプリ・時合カレンダー・潮汐シミュレーターも同じ判定を使っているので、表示が食い違うことはありません。なお表の月の赤緯は、その日の正午(日本時間)の値です。
潮位表は推算値です。 実際の潮位は気圧や風でずれます。
参考にした資料
- 暦Wiki/潮汐/日潮不等(国立天文台暦計算室)— 分点潮と回帰潮、日潮不等の季節変化、1日1回潮
- 潮汐・海面水位の知識 潮汐の仕組み(気象庁)— 起潮力と、1日2回の満干潮
- 潮位表 解説(気象庁)— 場所や時期によっては1日1回になる場合があること
- 科学的な潮名の決め方(日本水路協会 海洋情報研究センター)— 黄経差による潮名の割り当てと、大潮が新月・満月より1日ほど遅れること
- データ: 気象庁 潮位表(2026年の推算値、大洗)