潮見表と実際の海面は、どれくらい違うのか

小名浜の10年ぶん87,636時間を数えました。潮位表とのずれが5cm以上ある時間が55%、10cm以上が21%、最大で45cm。そのずれの6割は気圧で説明できます。1ヘクトパスカルあたり0.9cm、理論値の90%でした。残りは風を入れても1割弱しか埋まりません。

潮見表は毎回見ます。では、あの数字はどれくらい当たるのでしょうか。

気象庁は潮位の観測値と、潮位表の予測値との差を「潮位偏差」として公開しています。10年ぶんを数えました。

大洗で測ったわけではありません。気象庁が公開しているデータを取ってきて、自分で集計したものです。使ったデータと取得の方法は末尾に書きます。

大洗ではなく小名浜です

気象庁が自前で潮位を観測している地点に、大洗はありません。 潮位表に載っている地点と、実際に検潮所がある地点は別です。

いちばん近い検潮所は次の2つでした。

検潮所大洗からの向き現在の状況
小名浜(福島県いわき市)北へ約100 km観測中
銚子漁港(千葉県)南へ約80 km2019年以降のデータがない

小名浜を使います。 大洗と同じく、湾の奥ではなく外洋に面した海岸です。

期間は1987年1月から1996年12月までの10年にしました。1997年4月以降は取得の仕組みが変わり、まとめて取れないためです。

87,636時間を数えました

10年は87,672時間です。欠測は36時間しかありませんでした。

偏差の平均−1.7 cm
標準偏差7.7 cm
最大+45 cm
最小−31 cm

そして、どれくらいの頻度でずれるか。

ずれの大きさ時間数割合
5 cm以上48,39155.2%
10 cm以上18,53121.2%
20 cm以上1,5431.76%
30 cm以上1890.22%
40 cm以上210.02%

半分以上の時間で、5cm以上ずれています。 10cm以上ずれる時間も5回に1回あります。

この10年の小名浜の潮位は17cmから234cm、幅にして217cmでした。潮の動きそのものと比べれば、ずれは小さいほうです。 ただし20cm以上ずれる日が年に何日かあるのも事実です。

ずれは、ゆっくり動きます

もう1つ数えました。1時間で偏差がどれだけ動くかです。

1時間あたりの変化の平均0.75 cm
最大9 cm
1時間で3cm以上動いた割合1.97%

偏差はほとんど動きません。 ずれた状態が何時間も続きます。

これは実用上、重要です。 現地に着いたときの水位が潮見表より10cm高ければ、その日はおおむね10cm高いままだということです。

ずれの6割は、気圧で説明できます

同じ期間の小名浜の海面気圧を取ってきて、日平均どうしで突き合わせました。

気圧の階級ごとに、その日の平均偏差を並べます。

日平均の海面気圧日数平均の偏差
990〜995 hPa13+19.5 cm
995〜1000 hPa54+13.1 cm
1000〜1005 hPa239+7.3 cm
1005〜1010 hPa687+2.6 cm
1010〜1015 hPa995−0.8 cm
1015〜1020 hPa899−3.9 cm
1020〜1025 hPa512−6.9 cm
1025〜1030 hPa209−10.8 cm
1030〜1035 hPa35−15.3 cm

気圧が下がると海面が上がり、気圧が上がると海面が下がります。 例外なく並びました。

回帰すると傾きは −0.744 cm / hPa、相関係数は −0.715。気圧だけで、偏差のばらつきの51%が説明できます。

理論値と合うかどうか

潮の満ち引きに、月と太陽以外の惑星は効いているのかで、気圧による海面の変化を計算しました。海水の密度と重力加速度から出した値です。

100 パスカル ÷ (1,025 kg/m³ × 9.807 m/s²) = 9.95 ミリメートル

1ヘクトパスカルで9.95ミリ、つまり0.995センチ。 これが理論値です。

実測は0.744センチでした。理論の75%です。

ただし、この比べ方には落とし穴がありました。

月ごとの平均を出すと、こうなります。

7月11月
平均の海面気圧1009.7 hPa1018.7 hPa
平均の偏差−2.6 cm−3.8 cm

気圧は9ヘクトパスカルも違うのに、偏差の差は1.2センチしかありません。 理論どおりなら9センチ違うはずです。

潮位表は、季節の上下を先に織り込んでいます

理由が分かりました。観測潮位から偏差を引けば、潮位表の予測値そのものを復元できます。 月ごとの平均を出しました。

予測値の年平均からの差
3月−10.0 cm
4月−10.6 cm
7月+5.0 cm
8月+9.4 cm
9月+10.3 cm

振れ幅は20.9センチありました。潮位表は、夏に高く春に低い海面を、はじめから見込んで作られています。

気象庁の潮位表の解説によれば、天文潮位は60分潮の調和定数で計算されています。その中に1年周期の成分が入っているということです。

つまり、こういうことでした。

気圧による海面の上下のうち、毎年決まった形で繰り返される部分は、すでに潮位表の側に取り込まれています。 その部分は偏差に残りません。ところが気圧のデータのほうは、季節の変動をそのまま持っています。

片方だけ季節を抜かれた状態で突き合わせていたので、傾きが小さく出ていました。

そこで、気圧と偏差の両方から月ごとの平均を引いて、日々のばらつきだけで回帰し直しました。

傾き相関決定係数
そのまま−0.744 cm/hPa−0.7150.51
季節を取り除いてから−0.895 cm/hPa−0.7840.61

理論の90%まで上がりました。 そして説明できる割合も51%から61%に増えています。

海水の密度と重力加速度だけから出した値が、10年ぶんの実測の9割まで当たりました。

極端な日は、全部気圧で説明がつきます

偏差が大きかった日を並べます。

日付その日の最大の偏差日平均の海面気圧
1994-02-21+45 cm986.8 hPa
1989-08-06+44 cm993.9 hPa
1994-02-22+43 cm993.2 hPa
1996-09-22+42 cm999.4 hPa
1993-08-27+42 cm992.8 hPa

上位8日はすべて、日平均気圧が1001ヘクトパスカルを下回っていました。

逆に低いほうも同じです。

日付その日の最小の偏差日平均の海面気圧
1989-01-17−31 cm1031.9 hPa
1989-02-27−30 cm1033.1 hPa
1989-03-02−29 cm1035.6 hPa

冬の高気圧の日です。

残りの4割のうち、風で説明できたのは1割弱でした

決定係数0.61ということは、ばらつきの39%は気圧以外の何かです。

いちばん疑わしいのは風です。岸に向かう風が続けば、水が寄せられて水位が上がります。 同じ期間の小名浜の風のデータを取って、気圧と季節を取り除いた残りと突き合わせました。

風向ごとに、残りの平均を出します。

最大風速の風向日数残りの平均
北東361+1.55 cm
北北東337+1.54 cm
203+1.45 cm
南南西278−1.39 cm
498−1.50 cm
南西56−2.02 cm

北東寄りの風で水位が上がり、南西寄りの風で下がります。 差は3.6センチでした。

小名浜は東に海があります。北東の風は海から岸へ吹く向きです。 地形と合っています。

風速の2乗と風向で当てはめると、いちばん水位を上げる向きは45度、つまり北東の風と出ました。その向きの風が10 m/sで+4.5センチ、20 m/sで+18センチという大きさです。

ただし、説明できたのは残りの7.9%だけでした。

理由ははっきりしています。使ったのは1日1回の最大風速とその風向だけです。 実際の吹き寄せは、その向きの風が何時間続いたかで決まります。日に1回の値では、そこが落ちます。

残りの3割強は、依然として分けられていません。 海水温も海流も見ていません。

湾の中と外で、この「残り」がどう違うかは湾は気象の乱れも増幅するで扱っています。

潮位のデータは、そのままでは使えません

ここまでは「使える」側の話でした。使えない側の話も書いておきます。

1950年8月の東京では、31日のうち13日が消えました

気象庁は、紙の原簿に残っていた古い潮位記録をデジタル化し、品質管理をかけて「再解析値」を作っています。デジタル化しただけの「オリジナルデータ」も、並べて公開されています。

東京の1950年8月について、2つを突き合わせました。

データのある日
オリジナルデータ31日
再解析値18日

13日ぶんが丸ごと落とされています。 8月1日、2日、そして9日から19日まで。8月3日も24時間ぶんが11時間に減りました。

残った日にも修正が入っていました。8月4日1時。オリジナルは102cm、再解析値は152cm。50cmの差です。

気象庁の説明によれば、当時の潮位はペンレコーダーで自記紙に記録され、それを人が読んで原簿に書き写していました。1と5を取り違えたように見えます。

銚子では、地震で年平均潮位が66ミリ上がりました

銚子漁港の年平均潮位を、1924年から2018年まで並べました。

年平均潮位
2008〜2010年の平均1,713 mm
2012〜2014年の平均1,779 mm

2011年3月の地震をはさんで、66ミリ上がっています。

海面が上がったのではありません。地面が沈んだのです。

潮位計は地面に固定されています。地面が沈めば、同じ海面が「高くなった」と記録されます。気象庁もこう書いています。「ただし、地盤の変動による潮位シフトの補正は行っていません。」

長期の推移にも同じものが混ざっています。

期間12か月そろった年の数年平均潮位
1950〜1969年121,591 mm
1970〜1989年91,661 mm
1990〜2009年201,693 mm
2010〜2018年71,773 mm

60年で約19センチ上がっています。 ただしこの中に海面上昇と地盤の沈下がどれだけずつ入っているかは、このデータだけでは分けられません。

釣りに何が言えるか

潮見表の高さは、そこそこ当たります。 潮の動き幅が2メートル前後あるのに対し、ずれの標準偏差は7.7センチです。

言えることは3つです。

1つめ。低気圧が来ている日は、潮見表より水位が高い。 990ヘクトパスカル台の日は平均で15センチから20センチ高くなっています。遠浅の場所では、立てるはずの位置に立てないことがあります。

2つめ。冬の高気圧の日は、潮見表より低い。 1030ヘクトパスカルを超えた日は平均で15センチ低い。干潮が予想よりさらに下がります。

3つめ。ずれは1日を通してほぼ一定です。 1時間の変化は平均0.75センチ。着いたときに潮見表とずれていたら、その日はずっとそのぶんずれています。

天気予報の気圧を見ておけば、そのぶんは頭に入れられます。 1ヘクトパスカルで約1センチ、というのが目安です。

風も同じ向きに効きますが、こちらは目安を出せませんでした。 小名浜では北東の風で水位が上がる傾向が出ましたが、日ごとのデータでは残りの8%しか説明できていません。

そこから先は言えません。 水位が10センチ違うことと釣果が結びつくかどうかは、「良く釣れるルアー」の正体で計算したとおり、自分の釣行では確かめられません。

確かめられていないこと

大洗のデータではありません。 小名浜は北へ約100kmです。同じ外洋に面した海岸ですが、同じ値になる保証はありません。

1987年から1996年の10年です。 1997年4月以降のデータは取得の仕組みが違うため使っていません。この30年で変わっているかどうかは調べていません。

気圧は日平均で突き合わせました。 毎時の気圧は使っていません。取得の回数が30倍になるためです。 毎時で見れば、相関はもう少し変わる可能性があります。

毎時の風を見ていません。 使ったのは1日1回の最大風速とその風向だけです。吹き寄せは風が続いた時間で決まるので、毎時のデータにすれば説明力は上がるはずです。 これは推測で、確かめていません。

海水温と海流を見ていません。 気圧と風で説明できない部分の中身を、分けられていない理由がこれです。

潮位偏差の基準となる平均潮位は、気象庁の定義では「2年前までの5年間の平均値」です。 つまり偏差には、気圧と風のぶんだけでなく、海面の長期的な変化や基準面のずれも混ざります。 月ごとの平均を引いた回帰は、この影響を減らしていますが、消してはいません。

潮位表の予測値に入っている季節の成分が、何によるものかは分けていません。 60分潮のどれがどれだけ効いているかは調べていません。復元した予測値に20.9センチの季節変化があることを確かめただけです。

満潮の時刻がどれだけずれるかは調べていません。 満潮・干潮の実測時刻が入っているのは1997年4月以降の資料だけで、今回使った歴史的資料には含まれていません。

東京と銚子の話は、それぞれ1か月ぶんと年平均だけです。 品質管理でどれだけのデータが落とされているかを、全期間・全地点で数えたわけではありません。

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使ったもの・参考文献