「星見アプリ」を公開しました:満月が高い夜は、暗い海辺でも街なかと同じくらいしか星が見えない
月明かり・薄明・街明かりから、肉眼で何等星まで見えるかを計算する星見アプリを作りました。満月が高く昇った夜は、暗い海辺でも見える星が6分の1ほどに減り、住宅地や市街地の月のない夜と同じくらいになります。水平線の近くの星が暗く見える理由もまとめます。
この記事の見出し
星見アプリを公開しました。この記事は、アプリを作るために論文を読んで調べたことと、アプリで計算した結果をまとめたものです。釣りとは直接関係しません。
夜の釣り場では、空を見上げる時間がけっこうあります。見えている明るい星が何なのか、今夜はどのくらい星が見えるのかを、その場で調べたくて作りました。
できること
- 全国239地点 (潮見アプリと共通) の、選んだ時刻の星空を描きます。現在地から探すこともできます
- 星座線と星座名、明るい星の名前、月と5つの惑星を描きます
- 月明かり・薄明・街明かりから、肉眼で何等星まで見えるかを計算し、見えるはずの星だけを描きます
- 画面を赤くして、暗さに慣れた目を崩しにくくできます
ふつうの星座早見との違いは、3つ目です。星座早見は、空がいちばん暗いときに見える星を全部描きます。実際の空では、月が出ていたり、薄明が残っていたり、街明かりがあったりして、暗い星から見えなくなります。このアプリは、その条件で見えるはずの星だけを残します。
見える星の数は、空の明るさで決まる
星が見えるかどうかは、星の明るさと、その後ろの空の明るさの比べ合いです。昼に星が見えないのは、星が消えたからではなく、空が明るすぎるからです。夜でも同じことが小さな規模で起きています。
アプリでは、空の明るさを3つに分けて足しています。夜空そのものの明るさ (街明かりを含む)、月の光が空気に散らされた明るさ、日没後と日の出前に残る薄明の明るさです。月明かりは Krisciunas and Schaefer (1991)、薄明は Patat ら (2006) の式を使いました。その空で何等星まで見えるかは、Schaefer (1990) の式で出しています。式の中身と、どこまで確かめたかはアプリのページに書きました。
以下の数字は、すべてこのアプリと同じ計算で出したものです。空の澄み具合は「ふつう」(減光の係数0.30) にしています。
街明かりで、見える星は10分の1以下になる
月も薄明もない夜に、真上で見える限界の等級と、地平線より上で見えるはずの星の数を、街明かりの段階ごとに並べます。大洗で、新月に近い2027年1月7日の21時の空です。段階の区切りは、環境省の夜空の明るさ調査が載せている目安に合わせました。
| 街明かり (真上の空の明るさ、等級/平方秒角) | 真上で見える限界 (等) | 見えるはずの星 (個) |
|---|---|---|
| とても暗い (21.3) | 6.2 | 1,667 |
| 山や海の暗さ (20.5) | 5.7 | 880 |
| 郊外 (19.5) | 5.0 | 364 |
| 住宅地 (18.5) | 4.2 | 148 |
| 市街地 (17.5) | 3.9 | 132 |
地平線より上にある6.5等までの星は、この時刻で4,425個です。とても暗い空でも見えるのはその4割弱で、市街地では3%ほどです。とても暗い空と市街地を比べると、見える星の数は市街地のほうが13分の1ほどになります。
市街地の空は住宅地の空より2.5倍明るいのに、見える星は148個から132個にしか減っていません。これは目の仕組みによるものです。Schaefer (1990) の式は、暗いところで働く見え方と、明るいところで働く見え方の2本に分かれています。空が明るくなると、暗いところの見え方は急に効かなくなり、明るいところの見え方に入れ替わります。明るいところの見え方は、背景が少し明るくなっても限界があまり変わらないので、限界は4等前後で下げ止まります。ただし、2本の式をどこで切り替えるかは、論文とアプリで違います (アプリのページの見える限界の等級に書きました)。住宅地の4.2等は、論文の切り替えどおりなら3.9等ほどになります。
満月が高い夜は、暗い海辺でも住宅地なみ
同じ大洗で、満月に近い2027年1月22日の21時の空を計算しました。月は輝面比100%で、高さ49.6°にあります。冬の満月は高く昇るので、月明かりの影響がいちばん大きく出る季節です。
| 街明かり | 月あり: 真上の限界 (等) | 月あり: 見えるはずの星 (個) | 同じ時刻で月を消した場合 (等 / 個) |
|---|---|---|---|
| とても暗い (21.3) | 3.9 | 140 | 6.2 / 1,671 |
| 山や海の暗さ (20.5) | 3.9 | 140 | 5.7 / 890 |
| 郊外 (19.5) | 3.9 | 137 | 5.0 / 365 |
| 住宅地 (18.5) | 3.9 | 133 | 4.2 / 152 |
| 市街地 (17.5) | 3.8 | 127 | 3.9 / 133 |
満月が高く昇った夜は、暗い海辺でも見える星が6分の1ほどに減り、住宅地や市街地の月のない夜と同じくらいになります。山や海の暗さの空で、890個が140個です。この夜の月明かりは、真上の空を2,423 nL (ナノランバート、明るさの単位) だけ明るくします。住宅地の夜空そのもの (1,357 nL) より明るく、市街地 (3,408 nL) に近い量です。これが足されるので、もとの空の暗さの差はほとんど消えます。
月明かりのせいで見えなくなるのは、主に4等より暗い星です。1等星や2等星、星座の形を作る明るい星の多くは、満月の夜でも見えます。
夜のどの時間に月が出ていて、どこまで昇るかは、月明かりカレンダーで調べられます。
夕方は、太陽が地平線の下15°まで沈むと暗くなりきる
日が沈んだあとの空は、太陽が沈むにつれて暗くなります。山や海の暗さの空で、月のない夜の、真上で見える限界を太陽の高さごとに出しました。
| 太陽の高さ (度) | 真上で見える限界 (等) |
|---|---|
| −5 | 2.5 |
| −6 | 3.1 |
| −8 | 3.7 |
| −10 | 3.9 |
| −12 | 4.7 |
| −14 | 5.5 |
| −15 | 5.7 |
太陽が地平線の下6°まで沈んだころ (市民薄明の終わり) に、3等星まで見えるようになります。夜の暗さになるのは、太陽が15°ほど沈んだときです。Patat ら (2006) がチリのパラナル天文台で測ったところ、太陽が15〜16°沈んだあたりで、空は夜の明るさに戻りました。天文学で夜の始まりとされる18°より、少し手前です。
ただし、この薄明の式は標高2,600 m の天文台のもので、海辺の値ではありません。アプリでは、論文が報告している標高600 m の観測所との差をもとに、気圧の比 (約1.36倍) で明るくして使っています。この直し方は私の仮定です。
水平線の近くの星は、5°の高さでも2等星が見えにくい
海辺では、空を水平線まで見渡せます。ただ、水平線の近くの星は、同じ星でも真上にあるときより暗く見えます。低い星の光は、空気の中を斜めに長く通ってくるからです。
山や海の暗さの空で、月のない夜に、高さごとの見える限界を出しました。大気路程は、星の光が通る空気の厚さを、真上を1として表したものです。
| 高さ (度) | 大気路程 (真上を1) | 見える限界 (等) |
|---|---|---|
| 90 | 1.00 | 5.7 |
| 60 | 1.15 | 5.6 |
| 30 | 2.00 | 5.1 |
| 20 | 2.92 | 4.6 |
| 10 | 5.64 | 3.6 |
| 5 | 10.34 | 1.9 |
| 2 | 19.26 | −1.3 |
高さ30°では、真上より0.6等見えにくくなる程度です。10°を切ると急に見えにくくなり、5°では2等星が見えるかどうかの境目です。水平線から昇ってくる星は、明るい1等星でも、昇ってすぐには見えないことがあります。
この計算には、地平線の近くで空が明るくなる分も入っていますが、街明かりがどの方角にあるかは入っていません。街のある方角の低い空は、この表よりさらに見えにくくなります。
できないこと
- 雲やもや、湿気は入れていません。空の澄み具合を2段階から選ぶだけです
- 見える限界は、目が暗さに十分慣れたふつうの人の目安です。Schaefer (1990) は、観察との差を0.5等ほどとし、よく星を見ている人はそうでない人より1等以上暗い星まで見えることがある、と書いています
- 計算のほかの限界は、アプリのページにまとめました
使ったもの・参考文献
- Krisciunas, K. and Schaefer, B. E. (1991) A model of the brightness of moonlight. Publications of the Astronomical Society of the Pacific 103, 1033–1039. doi:10.1086/132921
- Schaefer, B. E. (1990) Telescopic limiting magnitudes. Publications of the Astronomical Society of the Pacific 102, 212–229. doi:10.1086/132629
- Patat, F., Ugolnikov, O. S. and Postylyakov, O. V. (2006) UBVRI twilight sky brightness at ESO-Paranal. Astronomy & Astrophysics 455, 385–393. doi:10.1051/0004-6361:20064992 (arXiv 版を読みました)
- 環境省 (2022) 令和3年度 冬の星空観察 デジタルカメラによる夜空の明るさ調査の結果について
- 数値は
scripts/stars_numbers.mjsで、アプリと同じ計算から出しています