論文の探し方:DOI、図書館、そして AI翻訳
このサイトでは論文をたくさん引いています。論文は、思われているよりずっと気軽に読める読み物です。探し方、DOI とは何か、無料で読めない論文の読み方 (大学図書館や国立国会図書館)、AI翻訳 で英語の壁を越えるときの注意を、実際のやり方とあわせてまとめました。
この記事の見出し
このサイトの記事には、論文へのリンクがたくさん出てきます。
「論文」と聞くと、専門家が専門家のために書いた、難しくて近寄りがたいものを想像するかもしれません。たしかに専門家向けに書かれてはいますが、読んでみると、意外なほど素直な読み物です。例えば誰かが「スズキは何を食べているのか」を知りたくて、胃袋を何百個も開けて数えた記録などが記述されていたりします。釣り人が知りたいことと、そう離れていません。
番外編として、私がふだんやっている論文の探し方と読み方を書きます。経験に基づく記事で、DOI や図書館の制度など事実の部分は、各機関の案内で確かめました。
先に結論を書きます
- 論文の多くは、Google Scholar や J-STAGE で探せば無料で読めます。魚なら学名で探すと見つかる数が増えます
- DOI は論文1本ごとに付いた番号で、
https://doi.org/の後ろにつなげると、その論文のページに飛べます - 無料で読めない論文も、大学図書館や国立国会図書館に行けば読めることがあります。私は筑波大学の中央図書館の端末をよく使っています
- 英語の壁は、AI翻訳 でほぼ越えられるようになりました。ただし、数字は必ず元の表や図で確かめます
論文とは何か
ここで言う論文は、研究の結果を学術雑誌に載せたものです。多くの雑誌では、載せる前に同じ分野の研究者が中身を確かめます。これを査読と言います。査読を通ったからといって正しいと決まるわけではありませんが、少なくとも誰かが方法と結論のつながりを点検しています。
論文には大きく2つの種類があります。
- 原著論文:自分で調べたり測ったりした結果を報告するもの
- 総説 (レビュー):ある話題について、たくさんの原著論文をまとめて整理したもの
初めての話題なら、総説から読むのがおすすめです。全体の地図が手に入り、どの原著論文を読めばいいかも分かります。
このサイトでは、学術雑誌の論文のほかに、県の水産試験場の研究報告もよく使っています。茨城県水産試験場の報告は、茨城の川や海のスズキを調べたものが多く、県のサイトで無料で読めます。また、査読を経る前の原稿を載せる arXiv のようなサイトもあります。そこにある原稿を使うときは「査読を経た論文ではありません」と書くようにしています。
arXiv は、雑誌に載る前の原稿を公開するためのサイトです。こうした原稿をプレプリントと呼びます。1991年にポール・ギンスパーグが始め、いまは物理学、数学、計算機科学など8つの分野で、300万本を超える論文が置かれています (arXiv の紹介)。読むのは無料で、arXiv 自身は置かれた原稿の査読をしていません。
研究者はなぜ、査読の前に原稿を公開するのか。文部科学省の科学技術・学術政策研究所が2020年に日本の研究者に尋ねた調査では、プレプリントを公開したことのある人の答え (294人、複数回答) で多かったのは、「研究成果を広く認知してもらいたいから」(69.0%)、「研究の先取権を確保するため」(65.3%)、「速報性が高いから」(63.6%) でした (池内・林 2021)。査読を待たずに成果を読んでもらえ、自分が先に見つけたことを公開の日付で示せる、ということです。一方、公開したいと思わない人 (516人) の理由で最も多かったのは「最初に査読誌に投稿したいから」(71.5%) で、どの研究者もプレプリントを出すわけではありません。
探し方
使っている検索サイト
- Google Scholar:論文に絞った Google です。まずここで探します。検索結果の右側に「[PDF]」と出ていれば、無料で読める版がどこかにあります。各結果の下にある「引用元」を押すと、その論文をあとで引いた論文が並びます。古い論文から新しい研究へたどるときに便利です
- J-STAGE:科学技術振興機構 (JST) が運営する、日本の学会誌などを載せたサイトです。JST の発表によれば、載っている雑誌は2024年5月に4,000誌に達しました。日本水産学会誌のような日本語の論文の多くは、ここで無料で読めます
- CiNii Research:国立情報学研究所 (NII) が運営する、日本の論文や本、研究データをまとめて探せるサイトです。J-STAGE にない紀要や報告書も見つかります
検索のこつ
- 魚の名前は学名でも探します。スズキなら Lateolabrax japonicus です。英語の論文はたいてい学名を題名か要旨に入れているので、「seabass」で探すより取りこぼしが減ります
- 日本語と英語の両方で探します。日本の研究者が、日本の川のスズキについて英語で書いていることはよくあります
- よい論文を1本見つけたら、その論文の参考文献の欄と、Google Scholar の「引用元」の両方をたどります。前と後ろに芋づる式に広がります
DOI とは何か
DOI (Digital Object Identifier) は、論文1本ごとに付いた番号です。本の ISBN に近いものだと思ってください。
たとえば、このサイトの1月の組み立てで引いている、丹後湾のスズキの耳石を調べた Fuji ら (2016) の DOI は次のとおりです。
10.1111/fog.12164
斜線の前 (10.1111) は登録した出版社などを表す部分、後ろ (fog.12164) はその中で論文ごとに付けた部分です。これを https://doi.org/ の後ろにつなげて https://doi.org/10.1111/fog.12164 とすると、出版社の論文のページに飛びます。
DOI のよいところは、出版社のサイトの作りが変わってページの住所 (URL) が変わっても、DOI からのリンクは新しい住所に付け替えられて、切れにくいことです。DOI のしくみは DOI Foundation が管理していて、国際規格 (ISO 26324) にもなっています。日本ではジャパンリンクセンター (JaLC) が DOI を登録する機関で、J-STAGE の論文の多くにも DOI が付いています。
このサイトで出典のリンクに DOI を優先して使っているのは、このためです。また、論文の名前を書き写すと1文字違いで別の論文になることがありますが、DOI ならその心配がありません。古い論文や県の報告書には DOI が付いていないものもあるので、そのときは PDF の住所を書いています。
無料で読めるかを確かめる
論文には、誰でも無料で読めるもの (オープンアクセス) と、購読料を払った人や機関しか読めないものがあります。DOI から出版社のページに飛ぶと、無料なら「Open Access」や「Free access」の表示があり、PDF がそのまま開けます。
購読が必要な論文でも、無料で読める版が別の場所に置かれていることがあります。
- 著者が所属する大学のリポジトリ (大学が論文を公開する場所)
- 米国の国立医学図書館が運営する PubMed Central (医学と生物学の論文)
- 著者が公開している原稿
探すには、Google Scholar の検索結果にある「全 N バージョン」を開くか、ブラウザの拡張機能 Unpaywall を使います。Unpaywall は、論文のページを開くと、DOI をもとに合法的に公開されている版を探して、見つかれば鍵の開いた印を出してくれます。
論文を勝手に載せている海賊版のサイトもありますが、使いません。著作権を侵害しているからです。
無料で読めない論文を読む
大学図書館に行く
大学の図書館は、出版社と契約して電子ジャーナル (ネットで読む学術雑誌) を読めるようにしています。図書館によっては、館内の端末で学外の人もそれを読めます。
私は、筑波大学附属図書館の中央図書館の端末をよく使っています。学外の方の利用案内によれば、資料の閲覧は誰でもでき、事前の連絡は要りません (貴重書など一部の資料を除く)。各図書館の受付で氏名・住所・連絡先を書き、職員の指示に従って使います。館内の検索用パソコンは、蔵書の検索と、電子ジャーナル・データベースの閲覧に使えます。印刷は有料でできます。読みたい論文の DOI を控えておき、端末で開くだけです。
試験期間などは、学生の利用を優先するため学外の人の利用が制限されることがあります。開館時間は図書館のカレンダーで確かめてから行きます。ほかの大学の図書館では、学外の人が使える範囲や手続きが違うので、行く前にその図書館の「学外の方へ」の案内を見てください。
国立国会図書館に行く、または頼む
国立国会図書館も電子ジャーナルを契約しています。「館内限定」と表示されたものは、東京本館や関西館の端末で読めます。来館できなくても、利用者登録をした国内在住の個人なら、論文のコピーを郵送などで頼めます (遠隔複写。JSTOR に入っている雑誌は対象外です)。
近くの公共図書館に相談する
市や町の図書館を通して、ほかの図書館から論文のコピーを取り寄せられることがあります。大学図書館の多くは個人からの依頼を直接は受けていませんが、早稲田大学図書館のように、近くの公共図書館に相談するよう案内しているところがあります。扱いは図書館ごとに違うので、まずはレファレンスのカウンターで聞いてみてください。
著者に頼む
論文の著者にメールで頼むと、PDF を送ってもらえることがあります。研究者にとって、自分の論文が読まれるのはうれしいことです。著者の連絡先は、論文の1ページ目に載っていることが多いです。
読み方
全部を頭から読まない
論文は、だいたい次の順に並んでいます。
| 部分 | 書いてあること |
|---|---|
| 要旨 (Abstract) | 論文全体の要約。数行から数十行 |
| 序論 (Introduction) | なぜこれを調べたのか。それまでに分かっていたこと |
| 方法 (Methods) | どこで、いつ、何を、どう測ったか |
| 結果 (Results) | 測って分かったこと。表と図 |
| 考察 (Discussion) | 結果から何が言えるか。著者の解釈と推測 |
| 参考文献 (References) | 引いた論文の一覧 |
私は、要旨を読んだら、次に表と図を眺めます。結論を支えているのは表と図だからです。気になる値があれば、結果の本文と方法に戻って、何を何尾測った値なのかを確かめます。考察は最後です。
要旨だけでは分からないことがある
要旨は便利ですが、短くまとめるために条件が省かれていることがあります。
たとえば、さきほどの Fuji ら (2016) は、丹後湾で産卵期の親魚107尾の耳石を調べ、稚魚のころに川 (河口) を育つ場所として使っていた魚の割合を出しています。要旨に出てくるのは36%という数字です。ところが結果の本文を読むと、この36%は「体長3センチほどまでの早い時期に川へ入った魚」だけの割合で、それより後に入った魚も含めると、0歳のうちに川へ入った魚は51%でした。要旨だけを読んでいたら、「稚魚期に川を使ったのは3分の1ほど」と受け取っていたかもしれません。
このサイトで「要旨のみ」「該当箇所のみ」と、読んだ範囲をいちいち書いているのはこのためです。要旨しか読んでいないとき、それを書いておかないと、読者にはどこまで確かめた話なのか分かりません。
孫引きに気をつける
ある論文が、別の論文の内容を紹介していることがあります。これを元の論文に当たらずに使うのが孫引きです。紹介する側が、元の論文にない情報を足していたり、条件を省いていたりすることがあります。
たとえば、Jiang ら (2019) は、Fuji ら (2016) と同じ定置網の親魚を使っていて、その定置網の水深は20〜70メートルだったと書いています。この水深は、Fuji ら (2016) の本文には書かれていません。水深の出典として Fuji ら (2016) を挙げると、元の論文にない話を、元の論文の話として書くことになります。気になる話は元の論文に当たり直し、どの論文に書いてあったのかを区別して書きます。
分からない言葉は飛ばしてよい
1回目は、分からない専門語があっても気にせず先へ進みます。表や図を見れば何を言いたいかは分かることが多く、本当に必要な言葉だけを、あとで調べれば足ります。
AI翻訳 で、言語の壁はほぼなくなった
論文の多くは英語で書かれています。少し前まで、これがいちばん高い壁でした。辞書を引きながら1本読むのに何日もかかり、専門語の訳語が分からずに止まることもよくありました。
いまは、AI に PDF を読ませて日本語に訳してもらったり、「この表の3列目は何の値か」「この式は何を計算しているのか」と質問したりできます。専門語も、その場で平易な言葉に言い換えてもらえます。読むことについても書くことについても、言語の壁はなくなったと言って過言ではありません。
ただし、AI に任せきりにしないために、決めていることがあります。
- 記事に書く数字は、AI の要約からではなく、論文の表や図、結果の本文から取ります。要約は要旨や考察に引っ張られやすく、条件の違いを落とすことがあります
- 考察に書かれた著者の推測を、結果のように書いていないかを見ます。「〜かもしれない (may)」が「〜である」になっていないか、原文の強さと比べます
- AI が挙げた文献は、DOI で開いて、実在するか、言っている内容が本当に書いてあるかを確かめます。AI は、もっともらしい題名と著者名の、存在しない論文を挙げることがあります
- 購読が必要な論文を AI のサービスに読み込ませてよいかは、図書館や出版社の利用条件によります。迷ったら図書館に聞きます
分かっていないこと
- 大学図書館で学外の人が電子ジャーナルを読めるかは、図書館ごとに違います。私が確かめたのは、自分がよく行く筑波大学の図書館だけです。東京大学の柏図書館は、館内のパソコンで電子ジャーナルを読めるのは学内の人だけと案内しています (柏図書館のよくある質問)。ほかの大学で読めるかは分かりません
- このサイトが引いた文献の数は、記事の中の DOI のリンクを数えたもので、DOI の無い報告書や PDF への直接のリンクは入っていません
使ったもの・参考文献
- 科学技術振興機構「J-STAGE の登載誌数が4,000誌に到達」(科学技術振興機構報 第1691号, 2024年5月8日)— J-STAGE の誌数
- DOI Foundation「DOI Handbook」— DOI の定義と、ISO 26324
- ジャパンリンクセンター「JaLC について」— 日本の DOI 登録機関
- 筑波大学附属図書館「来館利用できるサービス」— 学外の人の館内閲覧、検索用パソコン、印刷、利用の制限
- 東京大学柏図書館「よくある質問」— 館内のパソコンで電子ジャーナルを読めるのは学内の人だけ
- arXiv「About arXiv」— 1991年の開始、8分野、300万本を超える論文。「arXiv.org」のトップページに、無料の配布サービスであることと、arXiv は査読をしていないことがある
- 池内有為・林和弘「プレプリントの利活用と認識に関する調査」(科学技術・学術政策研究所 調査資料-301, 2021年2月)— 公開した理由と、公開したいと思わない理由。要旨と3.7節、3.10節の該当箇所を読みました
- 国立国会図書館「電子ジャーナル」— 館内限定の電子ジャーナルと遠隔複写の条件
- 早稲田大学図書館の資料の取り寄せの案内— 学外の個人からの取り寄せは受けず、公共図書館への相談を案内している例
- Unpaywall— 合法的に公開された版を DOI から探す拡張機能
- Fuji, T. ほか「Importance of estuarine nursery areas for the adult population of the temperate seabass Lateolabrax japonicus, as revealed by otolith Sr:Ca ratios」(Fisheries Oceanography 25, 448-456, 2016)— 要旨の36%と、本文の51%の例。全文を読みました
- Jiang, W. ほか「Age determination and growth pattern of temperate seabass Lateolabrax japonicus in Tango Bay and Sendai Bay, Japan」(Fisheries Science 85, 81-98, 2019)— Fuji ら (2016) と同じ試料の定置網の水深。全文を読みました