橋脚の後ろに何ができているのか:渦の周期と、掘れている穴の大きさを計算する

橋脚の裏には渦ができて、川底には穴が掘れています。渦が1つ離れる間隔はストローハル数から、穴の深さは国土交通省の調査結果から出せます。ただし実際の橋脚は、ストローハル数が0.2だと言える範囲の外にいました。

この記事の見出し

橋の明暗についてはナイトゲーム入門で書きましたが、扱ったのは光と流れだけです。橋脚そのものが水に何をしているかは書いていませんでした。

水の中に太い柱が立っていれば、後ろに渦ができ、川底が掘れます。どちらも大きさを計算できます。

調べて書いた記事です。使ったのは公開されている調査結果と論文、そして自分の計算です。

橋脚のまわりで起きていること

国土交通省道路局の水中部の状態把握に関する参考資料が、過去の被災事例の調査から流れの構造を整理しています。橋の点検のための資料なので釣りの話は出てきませんが、書いてあるのは橋脚まわりの水の動きそのものです。

同資料によれば、橋脚のまわりの流れは2つに分かれます。

  1. 左右に分かれる流れ。橋脚の壁に沿って曲がり、両側面で流れが集中して速くなります
  2. まっすぐ下へ降りる流れ。これが川底にぶつかり、砂や小石を巻き上げる渦を作ります

2つめが、この節の主役です。橋脚にぶつかった水は、逃げ場を探して下へ潜ります。潜った先は川底です。そこで水は行き止まりになり、その場で回りはじめます。その回転が、砂を掘り返します。

そして巻き上げられた土砂は、左右に分かれた流れに乗って橋脚の後ろへ運ばれます。

川底を掘っているのは、後ろの渦ではありません。前面を降りてくる流れです。同資料は「洗掘は構造物の上流側に発生することが多い」とも書いています。橋脚の裏ではなく、表側に穴が開くということです。

この渦は、橋脚の前から両側へ回り込んで馬の蹄のような形になるので馬蹄形渦と呼ばれています。大本照憲・張浩・濵砂翔による導流工を適用した橋脚の局所洗掘の対策工に関する実験的検討は、橋脚下部の強い下降流を伴う馬蹄形の3次元的剥離渦が局所洗掘の主因である、と書いています。

全体像は、1枚の図になっています

国土技術政策総合研究所の道路橋の維持管理における洗掘に関する予備知識に、国土技術研究センターの手引きから引いた「橋脚により生じる水理現象」という図が載っています。橋脚1本のまわりに、次のものが書き込まれています。

  • 流れの加速と偏向、水位上昇、水面の跳ね上がり
  • 前面の下降流、川底の馬蹄型渦、そして洗掘域
  • 橋脚側方の速い流れ
  • 背面の上昇流(表層回転流)
  • 後方のカルマン渦と、橋脚背面部の低速流域とのせん断渦
  • 運ばれた土砂の堆積域

橋脚の後ろにカルマン渦ができることは、橋を点検する側では前提として扱われています。この記事の後半は、その渦の周期を計算する話です。

掘れている穴の大きさ

同じ資料が、穴の寸法の目安を2つ挙げています。

項目目安
洗掘の深さ橋脚の幅の約2倍に及ぶ場合がある
洗掘の範囲洗掘の深さの約2倍、つまり橋脚の幅の約4倍に及ぶ場合がある

同資料は、橋脚の軸と流れの向きがずれている場合は深さが大きくなる傾向があるとも書いています。

国土技術政策総合研究所の資料は、この「幅」が流れを阻害する方向の幅であること、そして河床材料の粒径が小さいほど洗掘深が深くなる傾向があることを付け加えています。

幅2メートルの橋脚なら、深さ4メートル、広がり8メートルということになります。川底に、そのくらいの穴が開いている可能性があります。

水路実験では、穴の形まで測られています

上に挙げた大本らの論文は、直径30ミリの円柱を水路に立て、河床が平衡状態に達したあとの形をレーザー距離計で1センチ間隔で測っています。対策工の効果を調べた研究ですが、対策をしない条件の測定値が、そのまま橋脚まわりの地形になります。

項目柱の直径を1としたときの値
洗掘の深さ1.71
洗掘孔の流下方向の長さ6.3
洗掘孔の横断方向の幅6.0
下流の堆積の流下方向の長さ15.7
下流の堆積の横断方向の幅6.0
下流の堆積の最大の厚さ0.64

深さの1.71倍は、国土交通省の「2倍程度」とよく合っています。同論文が挙げている2つの予測式は、Breusers ら (1977) が1.84、Richardson and Davis (2001) が1.77で、どちらも実測より大きめに出ました。

そして、穴だけではありません。掘られた土砂は、橋脚の下流に帯状に堆積します。長さが柱の直径の15.7倍、厚さが0.64倍。穴の下流に、細長い盛り上がりができるということです。

ただし、この比をそのまま実河川に拡大することはできません。実験は直径30ミリの柱、水深6.9センチ、平均流速が秒速24.9センチ。粒径0.77ミリの珪砂を敷いた河床で、上流からの給砂はありません。

模型で実物を再現するには、大きさを縮めるだけでは足りません。流れの性質も揃える必要があります。川のような浅い流れでそれを見るのがフルード数です。

フルード数 = 流れの速さ ÷ 水面の波が伝わる速さ

水面の波より流れが遅ければ1より小さく、速ければ1より大きくなります。1より小さい流れでは、波は上流にも伝わっていけます。1を超えると、波は下流へしか進めません。瀬で水面が白く盛り上がるのは、1を超えたあたりです。

同論文の実験はフルード数0.30。水面の波の3割の速さで水が流れている、という状態です。実際の川がその日どうなのかは、水深と流速を測らなければ分かりません。

そして、フルード数を揃えても、レイノルズ数までは揃いません。大きさを縮めると、粘りけの効き方が変わってしまうためです。実河川と相似になるように作られた実験ではないので、比をそのまま拡大することはできません。15.7倍を幅2メートルの橋脚に当てはめれば31メートルになりますが、その掛け算に意味があるかどうかを、私は判断できません。

ここで、国土交通省の数字のほうに戻ります。この目安には条件が3つ付きます。

1つめ。これは出水時に起きることの調査です。平常時のゆるい流れで掘れる話ではありません。増水のたびに掘られ、その形が残っている、という順序になります。

2つめ。「及ぶ場合がある」という書き方です。平均値でも標準的な値でもありません。上限に近い目安として読むほうが実態に合います。

3つめ。埋まることがあります。国土交通省の資料は「洗掘後、上流から流れ着いた土砂の堆積により洗掘部が埋まることがある」と書いています。掘れた穴がそのまま残っているとは限りません。

それでも、橋脚の周りだけ地形が違うという点は動きません。目印のない場所の攻め方でカケアガリを探す話を書きましたが、橋脚は地形の変化が目で見える位置にあるという、めずらしい場所です。上に立っている構造物が、水中の穴の場所を教えてくれます。

後ろの渦には、周期があります

ここから、橋脚の後ろの話です。

太い柱の後ろでは、渦が左右交互にできて流れていきます。右にひとつ、左にひとつ、右にひとつ。カルマン渦列といいます。

なぜ、左右交互になるのか

柱の両側を回り込んだ水は、柱の後ろまで来ると壁から剥がれます。剥がれた流れは、その先で内側に巻き込んで渦になります。

ここで、左右が同時には育ちません。片側の渦が大きくなると、反対側から水を引き寄せます。引き寄せられた流れが、育ったほうの渦を柱から切り離す。切り離されると、今度は反対側が育つ番になります。

これが繰り返されて、左右交互の列ができます。柱の後ろに渦が2つ並んで居座るのではなく、次々に作られては流されていく、というのがカルマン渦列です。

この交互になるしくみと、渦の回る向きは、今回読んだ論文には書かれていません。流体力学の教科書に載っている標準的な説明です。上側で剥がれた流れは上のほうが速いので時計回りに、下側は反対に巻きます。この記事が論文から取っているのは、そのテンポを決める数のほうです。

テンポを決めるのが、ストローハル数です

この「ひとつ、ひとつ」のテンポは、でたらめではありません。柱が太いほどゆっくり、流れが速いほど速くなります。その関係をひとつの数にまとめたものがストローハル数です。記号はSt。

St = f D / U

f が1秒間に出る渦の数、D が柱の幅、U が流れの速さです。

St の意味を言葉にすると、こうなります。柱の幅を、渦が1つ出るあいだに流れが進む距離で割った値です。St が0.2ということは、渦が1つ出るあいだに、流れは柱の幅5つぶんの距離を進むということです。

この式を並べ替えると、知りたいものが出ます。

渦が1つ出る間隔 = D / (St × U)

St を0.2として、幅2メートルの橋脚に秒速0.4メートルの流れが当たった場合を計算します。

2 ÷ (0.2 × 0.4) = 25

渦は25秒に1つ出ます。

渦と渦の距離も出ます。渦が流れと同じ速さで運ばれるとすれば U ÷ f、式を整理すると D ÷ St です。St が0.2なら柱の幅の5倍、幅2メートルなら10メートルおきになります。さっき言った「幅5つぶん」がそのまま出てきます。

幅2メートルの橋脚の後ろを40メートル引いてくれば、その間に渦の列を4つぶん横切る計算になります。

Stが0.2だと言えるのは、どこまでか

ここまでの計算は、すべて「St = 0.2」に乗っています。St が決まらなければ、渦が25秒に1つ出るのか、10秒に1つなのかも決まりません。

では、なぜ0.2と置けるのか。理由は、Stが広い範囲でほとんど動かないからです。柱の太さも流れの速さも変えているのに、Stだけは0.2のあたりに留まる。だから、幅と流速さえ測れば周期が出せます。

問題は、その「広い範囲」に端があることです。端の外に出ると、Stは0.2から離れていきます。そして実際の橋脚は、その外側にいました。

どこまでかを決めるのが、レイノルズ数です

流れの性質を1つの数で表したものがレイノルズ数です。記号はRe。

Re = U D / ν

U が流れの速さ、D が柱の幅、ν は水の動粘度です。動粘度は、水の粘りけの強さだと思ってください。

この式が比べているのは、勢いと粘りけです。レイノルズ数が小さいと粘りけが勝って、流れは柱をなめらかに回り込みます。大きいと勢いが勝って、後ろが乱れて渦ができます。同じ水でも、太い柱を速い流れが通れば大きくなります。

淡水の動粘度は20℃で1.004×10⁻⁶ m²/s、10℃で1.307×10⁻⁶ m²/s。冷たい水ほど粘りけが強く、同じ流速でもレイノルズ数は小さくなります。20℃と10℃では2割ほど違います。

Stが0.2で一定になる範囲を、亜臨界といいます

滑らかな円柱では、Stがおよそ0.2で一定になる範囲があります。亜臨界と呼ばれる範囲です。

この範囲では、柱の表面をなでる薄い水の層が、まだ乱れていません。剥がれた先の後ろだけが乱れている状態です。剥がれる位置が動かないので、渦の出るテンポも動きません。これが、Stが一定になる理由です。

Ellingsenら (2023)はこの範囲でSt = 0.19から0.20としています。同論文は抗力係数も1.2としています。抗力は水が柱を押す力、抗力係数はその押される強さを大きさと流速で割って比べられるようにした値です。

ただし、亜臨界がどこまでかは資料によって違います。同論文はRe ≲ 2×10⁵としており(ヨーロッパの構造設計基準に拠ったもの)、別の実験報告は300 < Re < 3.0×10⁵としています。この記事では広いほうの3.0×10⁵を上限として扱います。

亜臨界を超えると、テンポが定まらなくなります

表面の薄い層が、剥がれる前に乱れはじめます。乱れた層は柱の表面にしがみつく力が強く、剥がれる位置が後ろへずれます。すると後ろにできる渦の幅が狭くなり、水が柱を押す力が急に下がります。Ellingsenらはこれを抗力の危機と呼び、そのあいだ交互の渦放出が整然としなくなるとしています。

さらにレイノルズ数を上げると、周期的な放出は戻ります。ただしそこでのStは0.19から0.27の範囲にばらついているとされています。0.2の一点ではありません。

同論文が実際に測った範囲が、Re = 8.0×10⁵ から 2.17×10⁶ でした。直径0.5メートルの円柱を風洞に立て、表面の60点で圧力を測っています。そして Re = 2.0×10⁶ のとき、渦放出の周波数が1つではなく2つ見つかりました。Stに直すと0.20と0.25です。論文は、渦放出による揚力の周波数が亜臨界のときよりずっと広い帯に散らばると結論しています。

つまり、Stを0.2の一点に決められるのは、亜臨界の中だけです。

実際の橋脚は、亜臨界の外にいます

ここが、この記事でいちばん引っかかった点でした。

幅2メートルの橋脚に秒速0.4メートルの流れが当たると、

Re = 0.4 × 2 ÷ 1.004×10⁻⁶ ≒ 8.0 × 10⁵

亜臨界の上限である3.0×10⁵の、2倍以上です。

レイノルズ数は、流れの速さと柱の幅の掛け算で決まります。だから、亜臨界に収まるかどうかも、その掛け算1つで決まります。上限の3.0×10⁵に動粘度を掛け戻すと、掛け算の値が0.30より小さければ亜臨界です。

秒速0.4メートルの流れなら、柱の幅は0.75メートルまで。それより太ければ、外に出ます。

水中の柱幅の目安秒速0.4メートルでのレイノルズ数
橋脚2 m8.0 × 10⁵
細い橋脚・橋台の脚0.8 m3.2 × 10⁵
杭、標識の柱0.3 m1.2 × 10⁵
桟橋の細い脚0.1 m4.0 × 10⁴

杭のような細いものは亜臨界に入りますが、太い橋脚は入りません。上の「25秒に1つ」という値は、St = 0.2 を範囲の外へ持ち出したものです。桁として合っていても、その数字どおりとは言えません。

動かして確かめる

流れの速さと柱の幅を動かすと、レイノルズ数、渦の間隔、洗掘の目安が変わります。魚の体長は、後半で渦の大きさと比べるときに使います。

図の見方

上の図は、上から見た平面図です。左から流れが来て、柱にぶつかり、後ろで渦になります。

  • 渦巻きの線が、渦そのものです。中心から外へ巻いていて、先端の矢印が回る向きを示します。上側の渦は時計回り、下側は反時計回りに巻きます
  • 柱から渦へ伸びる点線が、柱の壁から水が剥がれて渦になるまでの道すじです
  • 薄い灰色の線が流線です。水がどう流れているかを表します。柱を避けて回り込み、後ろで渦をよけながら蛇行します
  • 赤い破線の円が、洗掘の広がりの目安です

上の目盛りが渦と渦の距離です。ここで考えるのは時間と距離のスケールです。渦が何秒に1つ来るか、ルアーを1回通すあいだに何個を横切るか。

図の下半分は、別の話をしています。渦の直径と魚の体長を並べただけの欄で、上の平面図とは縮尺が違います。平面図のままだと魚が小さすぎて見えないので、長いほうが目一杯になるように拡大しています。

ここで見比べるのは、渦の間隔ではなく、渦の直径と魚の大きさです。間隔と体長を比べても意味はありません。渦の直径が魚の体長の0.5倍から1.0倍のときに、魚は姿勢を崩しやすくなります。いちばん下の帯に出る数字がそれで、範囲に入ると色が変わります。理由は後半に書きます。

2枚めの図は、いまの値が亜臨界の中にいるかどうかです。帯の色が変わる境目が、St を0.2と置ける範囲の端です。

なお、亜臨界の外では St が0.2に決まらないので、渦の周期も幅で出しています。平面図のほうは1つの値でしか描けないので、0.2で描いた図です。図の副題にその断りが出ます。

押してみるとこうなります

「杭」を押すと、レイノルズ数が亜臨界に収まります。Stが0.20に決まり、渦は3.7秒に1つ、1.5メートルおきです。下の欄では「泳ぎが妨げられる範囲」と出ます。幅0.3メートルは、体長60センチの魚のちょうど半分だからです。

「太い橋脚」に戻すと、亜臨界の外に出ます。Stが0.19から0.27にばらつくので、渦の間隔は18.5秒から26.3秒という幅になります。0.2で描いた図の25.0秒は、その幅の中の1点です。

「細い橋脚」は幅0.8メートルですが、これでも亜臨界をわずかに超えます。境目はそのくらいの太さにあります。

「増水した日の橋脚」は、レイノルズ数が 2.0×10⁶ になります。流れが速くなったぶん渦は速く出て、間隔は7.4秒から10.5秒。Stの当てはめはさらに怪しくなります。

魚は、この渦を使えるのか

ここからが本題です。結論を先に書くと、橋脚の渦は魚にとって厄介な大きさから外れていました。

渦を使う魚がいることは、測られています。Liao, Beal, Lauder and Triantafyllou (2003)は、水路にD形断面の柱を垂直に立ててカルマン渦列を作り、その中でニジマスを泳がせました。流れの可視化と筋電図を同時に取っています。

結果はこうです。ニジマスは柱の1つから2つ体長ぶん下流に定位し、尾びれを振る周期を渦が出る周期に合わせ、渦のあいだをすり抜けるように泳ぎました。そのとき動いていたのは体の前のほうの赤色筋だけで、通常の泳ぎに見られる前から後ろへ伝わる筋活動の波は消えていました。著者らはこれをカルマン歩容と名付けています。ブルックトラウト、アレワイフ、ブルーギル、キイロパーチでも同じ泳ぎ方が見られたと書かれています。

実測された渦の周期と、この記事の計算が合うか

同論文の図には、柱の後ろでの尾びれの振動数が約2.2ヘルツ、自由流中では約6.6ヘルツと出ています。柱の後ろの値は渦の放出周波数に一致します。

この2.2ヘルツを、この記事の St = 0.2 から逆算してみます。同じグループの別報によれば柱は直径2.5センチと5センチなので、

柱の直径St = 0.2 で2.2ヘルツになる流速
2.5 cm秒速0.28 m
5 cm秒速0.55 m

別報の流速は体長の2.5倍と4.5倍毎秒です。魚の体長を10センチと仮定すると、秒速0.25から0.45メートル。0.28はその範囲の中、0.55はすぐ外側です。

式が実測と桁で合っていることは確認できました。ただし柱はD形断面で円柱ではないので、Stが円柱と同じ0.2になる保証はありません。

逆の結果も出ています

乱れが魚の負担になるという報告も、同じくらいあります。

Enders, Boisclair and Roy (2003)は、平均流速を同じにしたまま流れの乱れだけを変えて、タイセイヨウサケの幼魚の酸素消費量を測りました。乱れがあるほうが消費量は増えています。同じ雑誌に出た2004年の報告では、乱れの強いほうが弱いほうより平均で1.4倍でした。

片方は「使える」、もう片方は「負担になる」。どちらも実験室で測られた結果です。

渦の大きさで整理されています

食い違いをどう扱うかについて、複数の論文が同じ量を挙げています。渦の直径を、魚の全長で割った値です。以下これを λ ÷ L と書きます。

この値は、渦と魚の大きさ比べです。1なら渦と魚が同じ大きさ、0.5なら渦は魚の半分、3なら渦は魚の3倍。同じ渦でも、相手が小さい魚か大きい魚かで意味が変わるので、割り算にしてあります。

表に出てくる臨界遊泳速度は、その魚が耐えられるいちばん速い流れのことです。水路の流速を少しずつ上げていって、泳ぎ続けられなくなった速さを記録します。この値が下がったということは、泳ぐのが苦しくなったということです。

研究魚λ ÷ Lそこで起きたこと
Lupandin (2005)ヨーロピアンパーチ 全長30から120 mm0.66臨界流速が下がりはじめる
Tritico and Cotel (2010)クリークチャブ 全長122±9 mm0.76姿勢を崩す「こぼれ」が始まる
Chong, Zhao and Ackerman (2025)ウォールアイの仔魚 全長9から33 mm0.65±0.03臨界遊泳速度が最も落ちる

3つとも、全長の0.65倍から0.76倍のあいだに収まっています。

Tritico and Cotel は、この大きさの渦が水平に回っているとき、クリークチャブが姿勢を崩す「こぼれ」が、230%多くなり、持続時間も24%長くなったと報告しています。臨界遊泳速度は、水平の渦で22%、鉛直の渦で10%下がりました。Lupandin は、渦の周辺部ほど魚を回そうとする力が強くなることを理由に挙げ、魚は胸びれを広げて姿勢を立て直すので、その抵抗のぶん泳ぐ速度が落ちるとしています。

渦が魚より大きくなると、影響は小さくなります

ここが、この記事を書きながら向きが変わったところです。

Chong らは、上の3本を並べてU字型の関係を提案しています。λ ÷ L が0.5から1.0のときに泳ぐ性能が落ち、その範囲の外では落ちないか、影響が小さいという形です。横軸に λ ÷ L、縦軸に泳ぐ性能を取ると、真ん中がへこんだUの字になります。

同論文のウォールアイの仔魚では、λ ÷ L が1.55から2.94のとき、泳ぐ性能は落ちないか、落ち方が小さいという結果でした。理由として、渦が魚よりずっと大きければ、魚はその回転をまっすぐな流れとして受け取るという整理を引いています。そして、Liao のカルマン歩容が使えるのは λ ÷ L が1より十分大きい場合ではないか、とも書いています。

つまり、魚にとっていちばん厄介なのは、自分と同じくらいの大きさの渦です。

橋脚の渦は、大きすぎる側にいます

ここから先は、私の当てはめです。渦の直径を柱の幅と同じと置くと、こうなります。

水中の柱幅体長60センチのシーバスでの λ ÷ L
橋脚2 m3.33
細い橋脚・橋台の脚0.8 m1.33
杭、標識の柱0.3 m0.50
桟橋の細い脚0.1 m0.17

泳ぎが最も妨げられる0.5から1.0の範囲に入るのは、幅30から60センチの柱です。橋脚は3.33で、範囲の上の外側。桟橋の細い脚は0.17で、下の外側です。

ウィジェットの「柱の幅 ÷ 魚の体長」が、この値です。魚の体長を動かすと、どの太さの柱が範囲に入るかが変わります。

ただし、この当てはめには根拠が3つ足りません。

1つめ。渦の直径が柱の幅と同じだと測ったわけではありません。上の3本はどれも渦の大きさを別に測っています。Tritico and Cotel は直径0.4・1.6・8.9センチの円柱列から、95パーセンタイルで直径2.6・4.9・11.2センチの渦を得ていて、渦は柱より大きく出ています。柱の幅をそのまま渦の直径と置くのは、控えめな側への当てはめです。

2つめ。大きさだけでは決まりません。同じ直径でも、ゆっくり回っている渦なら魚は倒されません。Tritico and Cotel の実験でも、大きいけれど回転の遅い渦では姿勢の崩れが起きませんでした。

そこで彼らが判定に使ったのが、渦の角運動量です。回転の勢いを、大きさと回る速さの両方から出した量だと思ってください。実験では30,000 g·cm²/sを超えたときにこぼれが起きました。この量は渦の直径の5乗で効くので、少し大きくなるだけで跳ね上がります。

この記事では角運動量を計算していません。渦がどれくらいの速さで回っているかを知る手がかりがないためです。

3つめ。上の3本が測っているのは臨界遊泳速度と姿勢の安定であって、待ち伏せや捕食ではありません。「泳ぐのが楽な場所」と「魚が着く場所」は、同じとは限りません。

この整理は、Liao の実験と噛み合っていません

書きながら気づいた食い違いを、そのまま置いておきます。

Liao の実験は柱が直径2.5から5センチ、魚の体長が10センチ程度です。柱の幅を渦の直径と置けば λ ÷ L は0.25から0.5、渦が柱より大きめに出ることを見込んでも0.6前後。Chong らの言う「泳ぐ性能が落ちる」範囲の中か、その縁です。

それなのにニジマスは、その渦を使って筋活動を減らしました。

Chong らは、カルマン歩容が効くのは λ ÷ L が1より十分大きい場合ではないか、と書いています。しかし Liao の実験の比は1より小さい側です。ウィジェットの「マスの実験」を押すと、判定が「泳ぎが妨げられる範囲」と出ます。

この2つをどう両立させるのかは、私には分かりませんでした。考えられるのは、渦が整然と並んでいるか、ばらばらかの違いです。Liao の柱は1本で渦が規則正しく並びますが、Chong らと Tritico and Cotel と Lupandin は、格子や円柱列で乱れを作っています。渦の大きさだけでなく、並び方も効いているという説明は立ちますが、それを測った資料には当たっていません。

この記事の当てはめは、その程度のものだと思ってください。

スズキで測られたものは、見つかりませんでした

色覚、匂い、学習に続いて、ここでも同じ壁に当たりました。マルスズキが渦をどう扱うかを測った研究を見つけられていません。上に挙げたのはニジマス、タイセイヨウサケ、ヨーロピアンパーチ、クリークチャブ、ウォールアイです。

数字として使えるものが1つだけあります。水産庁の主要対象生物の発育段階の生態的知見の収集・整理にある、スズキの耐泳速度です。その速さの流れに、何分こらえられるかという値です。30分こらえられるのが秒速65センチ、5分なら秒速70から75センチ。

ウィジェットの流速を秒速0.65メートルより上げると、開けた場所で30分泳ぎ続けられない流れになります。柱の後ろに流れの弱い場所ができること自体は、渦を使えるかどうかとは別に成り立ちます。この記事で言えるのは、そこまでです。

確かめられていないこと

現場で流速を測っていません。 ウィジェットのプリセットの流速は、私が置いた値です。レイノルズ数はこの値で桁が動くので、そのまま引用しないでください。

橋脚の幅も測っていません。 表に並べた2メートル・0.8メートル・0.3メートルは、区分を示すために置いた値です。

川底の形を測っていません。 洗掘の目安は国土交通省の資料の数字で、特定の橋脚のものではありません。そして出水時の調査結果です。

洗掘の範囲が直径なのか半径なのかを、資料は書いていません。 図では直径として描いています。

渦の大きさを柱の幅と同じと置いています。 これは私の仮定です。Tritico and Cotel の実験では、直径0.4・1.6・8.9センチの円柱列から、95パーセンタイルで直径2.6・4.9・11.2センチの渦が出ています。渦は柱より大きく出ているので、私の当てはめは控えめな側にずれています。

渦の角運動量を計算していません。 Tritico and Cotel は、大きさだけでは決まらないとして角運動量を判定に使い、30,000 g·cm²/s を超えたときに姿勢の崩れが起きたと報告しています。この量は渦の直径の5乗で効きます。

λ ÷ L が3を超える範囲は、測られていません。 Chong らの実測は2.94までです。幅2メートルの橋脚で体長60センチのシーバスなら3.33で、その外側になります。

渦の並び方の影響を、数字にできていません。 Liao の実験だけが「使える」側の結果で、そこだけ柱が1本です。渦が整然と並ぶかどうかが効いているという説明は立ちますが、それを測った資料には当たっていません。

渦と渦の距離は、渦が流れと同じ速さで運ばれるとして出しています。 実際の移流速度を確かめていません。

平面図は St = 0.2 で描いています。 亜臨界の外では St が0.2に決まらないので、渦の間隔は図に描いた1つの値ではなく、出力に出る幅のほうが実態に近いです。

亜臨界の上限を3.0×10⁵としましたが、2×10⁵とする資料もあります。 どちらを採るかで「細い橋脚」が内側か外側かが変わります。判断する材料を持っていません。

橋脚は円柱ではありません。 ストローハル数の値は滑らかな円柱で測られたものです。小判型や角型の橋脚では違う値になりますが、その値を調べていません。Liao の実験の柱も、円柱ではなくD形断面です。

水面と川底の影響を入れていません。 ストローハル数の測定は、壁から離れた円柱で行われたものです。橋脚は水面を貫き、川底に立っています。壁に近い円柱では渦の出る周波数が1.11倍まで上がるという報告があることが、上に挙げた Ocean Engineering の論文の要旨に書かれています。

流れの向きが変わることを入れていません。 感潮河川では上げと下げで流れが反転するので、渦のできる側も洗掘の穴の位置も変わりますが、その変化を扱った資料を見ていません。

汽水の動粘度を使っていません。 淡水の値です。

Liao らの実験の魚の体長を確認していません。 レイノルズ数を 6.2×10³ から 2.2×10⁴ としたのも、λ ÷ L を0.25から0.5としたのも、体長10センチと仮定した私の計算です。渦の放出周波数2.2ヘルツは、論文の図から読み取った値です。

水路実験の比を、実河川に拡大していません。 大本らの実験は直径30ミリの柱です。相似則を満たしていないので、比をそのまま掛けた値に意味があるかを判断できません。

洗掘の範囲が直径なのか半径なのかを、国土交通省の資料は書いていません。 図では直径として描いています。大本らの実測では、洗掘孔の流下方向の長さが深さの3.7倍でした。国土交通省の「深さの2倍程度」とは合いません。測り方が違うためだと考えられますが、確かめていません。

Liao ら (2003) の Science 論文と、大本らの論文、国土交通省と国土技術政策総合研究所の資料、Ellingsen ら、Lupandin、Tritico and Cotel、Chong らは全文を読みました。一方、Liao らの J. Exp. Biol. の別報、Enders ら (2003)、2004年の報告は要旨のみです。Ocean Engineering の1本は要旨のみで、著者名も確認していません。

渦の周期と釣果の関係は、何も測られていません。 25秒に1つという数字が釣りにどう効くかは、この記事では扱えていません。「良く釣れるルアー」の正体で書いたとおり、この種の差を自分の釣行で確かめるには投数が足りません。

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使ったもの・参考文献