常夜灯の下、水中はどれだけ明るいのか

明暗を釣る、とは書いてきましたが、その明るさが何ルクスなのかは書いていませんでした。街灯の光束から水面照度を計算し、水中でどこまで届くかを出しました。暗部は真っ暗ではありません。満月の3.7倍あります。

ナイトゲーム入門で、常夜灯の明暗を釣る話を書きました。明るい側に投げて暗い側へ流す。魚は暗い側から明るい側を見上げている。

書いたあとで気づいたことがあります。明るさの量を、私は一度も書いていませんでした。明るい、暗いとだけ書いて、それが何ルクスなのかを調べていない。

そこで計算しました。

調べて計算して書いた記事です。照度計で測ったわけではありません。街灯の公表光束と、公開されている光学の関係式から出した数値です。仮定を置いた箇所は、そのつど書きます。

まず、比べる相手を決めます

数字を出す前に、比較の基準を並べます。すべて屋外の地表または水面での水平面照度です。

場面地表または水面の水平面照度 (lx)出どころ
弱い昼光 (実験室で設定した条件)243McMahon and Holanov (1995)
防犯灯クラスAの路面平均 (規格値)5日本防犯設備協会 SES E1901-4
防犯灯クラスBの路面平均 (規格値)3同上
満月が真上・晴天のときの上限約0.3Kyba et al. (2017)
満月、温帯の典型的な値0.05〜0.1同上
オオクチバスの捕食成功率が95%以上を保つ下限0.003McMahon and Holanov (1995)
星と大気光だけの夜ミリルクスの桁 (0.001〜0.009)Kyba et al. (2017)
同じ実験で捕食成功率が62%まで落ちた明るさ0.0002McMahon and Holanov (1995)

この表だけで、いくつか分かることがあります。

防犯灯の規格値は、満月の30倍から60倍です。クラスBの3ルクスに対して、満月は0.05から0.1ルクス。常夜灯のある場所とない場所は、同じ「夜」という言葉でくくれる明るさではありません。

捕食の実験で使われた「月明かり」は、本物の月明かりではありませんでした月明かりカレンダーの記事で引いたMcMahon and Holanov (1995) は、0.003ルクスを月明かりの条件としています。いっぽうKyba, Mohar and Posch (2017)は、温帯の満月はおよそ0.05から0.1ルクスだと述べ、文献で使われている満月の照度の値がしばしば誤っていると指摘しています。実験の条件は、本物の満月より1桁以上暗いことになります。

同じことが星明かりにも当てはまります。実験の0.0002ルクスに対して、Kybaらは星と大気光による明るさをミリルクスの桁としています。実験でいちばん暗かった条件は、実際の月のない晴れた夜より暗いわけです。

読み替えると、こうなります。月のない晴れた夜の水面は、捕食成功率95%の下限である0.003ルクスと同じ桁にあります。満月の夜は、そこを1桁以上うわまわります

常夜灯の水面照度を計算する

ここからが本題です。

街灯を1点から光る光源とみなします。高さ h に光源があり、水面上で光源の真下から水平に d だけ離れた点を考えます。そこでの水平面照度は次の形になります。

E = I × h / (h² + d²)^(3/2)

I は光源の光度 (カンデラ) です。分母が距離の3乗になっているのは、逆二乗則の分と、光が斜めから当たることで面積あたりの量が減る分を掛け合わせたためです。

使った数値

項目出どころ
器具光束730 lmパナソニックのLED防犯灯 NNY20333 LE1 (10VA、昼白色) の公表値
設置高さ4.5 m防犯灯の設計例として使われる高さ
光度116 cd光束が下半分の空間へ一様に出るとした場合の値 (730 ÷ 2π)

光度の出し方は仮定です。実際の器具は道路の方向へ光を振っているので、一様ではありません。この仮定がどれだけずれているかは、あとで確かめます。

水平距離ごとの明るさ

光源の真下からの水平距離光が水面に当たる角度 (真上を0°とする)水面上の水平面照度 (lx)水面で跳ね返って入らない割合水面直下の水平面照度 (lx)水面直下の照度 ÷ 満月の夜の水面直下の照度 (0.098 lx)
0 m5.742%5.6257
5 m48°1.723%1.6617.0
10 m66°0.3969%0.3593.7
15 m73°0.13618%0.1111.1
20 m77°0.060727%0.04440.45
30 m81°0.018741%0.01110.11
40 m84°0.0080250%0.003970.04
50 m85°0.0041358%0.001750.02

読み取れることを順に書きます。

光源の真下は、満月の57倍あります。5.6ルクスというのは、月明かりカレンダーで扱ってきた明るさとは桁が違います。

15メートル離れて、ようやく満月と同じになります。常夜灯から10メートル離れた「暗い側」は、真っ暗ではありません。満月の夜の水面直下の3.7倍の明るさがあります

捕食の下限である0.003ルクスを割るのは、40メートル台です。1本の街灯の影響は、思っていたよりずっと広い範囲に及びます。

落ち方の性質

明暗の境目がなぜ急に見えるのかは、式の形から出てきます。光源の高さを基準にして、落ち方を並べます。

光源の真下からの水平距離 (設置高さ4.5 mの何倍か)光源の真下を1とした水面照度の比
1倍 (4.5 m)1/3
2倍 (9 m)1/11
3倍 (13.5 m)1/32
5倍 (22.5 m)1/133
10倍 (45 m)1/1000

設置高さの3倍まで離れると、明るさは32分の1になります。人間の目は明るさの比を対数に近い形で感じるので、この落ち方は「じわじわ暗くなる」ようには見えません。境目があるように見えます。

計算が合っているかを確かめます

一様な配光という仮定を置いたので、規格値と突き合わせます。

防犯灯を20メートル間隔で道路の片側に並べ、道路幅を5メートル、設置高さを4.5メートルとして、路面の平均照度を計算しました。設計で使われる保守率0.63を掛けています。

項目
この計算で出た路面の平均照度1.23 lx
クラスBが求める路面の平均照度3.0 lx
計算値 ÷ 規格値0.41

この計算は、規格値の4割しか出ていません。原因ははっきりしています。実際の防犯灯は反射板とレンズで道路の方向へ光を集めていて、下半分の空間へ一様に出しているわけではないからです。同じ光束でも、必要なところに集めれば路面の照度は上がります。

つまりここまでの数値は低めの見積もりです。実際の常夜灯まわりは、この2倍から3倍明るいと考えられます。ただし倍率を1つに決められるだけの根拠はないので、以降も計算値のまま書きます。

水面で跳ね返る分

上の表に「水面で跳ね返って入らない割合」の列を入れました。これはフレネルの式から出しています。

空気と水の境目では、光の一部が反射して水に入りません。反射する割合は、光が当たる角度で変わります。真上から当たれば2%しか反射しませんが、浅い角度で当たるほど反射が増えます。

光が水面に当たる角度 (真上を0°とする)反射して水に入らない割合
2%
48°3%
66°9%
77°27%
84°50%

屈折率は海水の1.34を使いました。

ここに、遠いほど不利になる理由がもう1つあります。距離が離れると、逆二乗則で光が減るだけでなく、水面での反射も増えます。40メートル先では、届いた光の半分が水に入らずに跳ね返っています。

この計算は水面が平らなときのものです。波が立てば当たる角度が場所ごとに変わるので、この表のとおりにはなりません。

水中でどう減るか

ここで、水中カラーシミュレーターの記事とは別の係数を使う必要があります。

減衰係数 c と Kd の違い

水中で色が消える仕組みで使った減衰係数 c は、まっすぐ進む1本の光線がどれだけ減るかを表す値です。散乱された光は進む向きが変わるので、その光線からは失われたものとして扱われます。ルアーの見え方を計算するときは、これが正しい量です。

いま知りたいのは違います。ある深さに、合計でどれだけの光が届いているかです。散乱された光も、向きが変わっただけで下には進んでいるので、こちらでは失われていません。

この量を表すのが下向きの拡散減衰係数 Kd です。同じ水でも、Kd は c よりかなり小さくなります。濁った沿岸を例にとると、水中で色が消える仕組みに載せた緑 (550 nm) の c は1.349、いっぽうあとの節で引く実測の Kd は0.28です。5倍近い開きがあります

なお Jerlov の水型は、もともとこの Kd で定義されています。

c をそのまま使うと、深いところが実際よりずっと暗く出ます。ここは分けて考える必要がありました。

透明度から Kd を出す

Kd は透明度板 (セッキー板) で測った透明度から見積もれます。

Kd = 1.44 ÷ 透明度 (m)

この関係はPoole and Atkins (1929) が最初に示したもので、係数には1.44、1.7、2.0など複数の提案があります。ここでは1.44を使いました。理由は次の節で書きます。

Jerlov の水型と並べてみると

ここで、水中カラーシミュレーターが扱っている水の範囲がはっきりします。

沿岸の浅場で夜間の水中の明るさを実測したBaráらの報告は、潮位が変わったときの明るさの変化から Kd をおよそ0.28と見積もり、これはJerlov の3Cから5Cにあたると述べています。上の式で透明度に直すと、1.44 ÷ 0.28 でおよそ5メートルです。

水の状態Kd (1/m)上の式で換算した透明度 (m)
Jerlov の濁った沿岸に相当する実測値0.285.1
この記事で扱った濁った汽水2.880.5

桁が1つ違います。Jerlov分類でいちばん濁った沿岸の水でも、透明度に直せば5メートル前後です。汽水の河口や濁った港湾は、その外側にあります。

水中で色が消える仕組みで、汽水域を濁った沿岸 (5C) に当てはめたのは私の判断であって根拠のある対応づけではない、と書きました。この数字を見ると、5Cでもまだ澄みすぎている可能性があります。確かめるには透明度板で測るしかありません。

なお、Baráらの値は500から550ナノメートル付近のもので、透明度から出す Kd は人間の目の感度に近い広い波長域の値です。厳密に同じ量ではないので、桁の比較として読んでください

捕食の下限に達する深さ

水面直下の明るさに exp(−Kd × 深さ) を掛けて、0.003ルクスを割る深さを出します。

この0.003ルクスはオオクチバスの実験値であって、シーバスの値ではありません。シーバスについて同じことを測った資料は見つけられませんでした。

透明度 (m)Kd (1/m)光源の真下で0.003 lxまで落ちる深さ (m)水平10 m地点で同じ深さ (m)水平20 m地点で同じ深さ (m)常夜灯がなく満月だけの夜の同じ深さ (m)
0.52.882.61.70.91.2
1.01.445.23.31.92.4
2.00.7210.56.63.74.8

濁った水 (透明度0.5 m) でも、光源の真下なら2.6メートルまで届きます。水深がこれより浅い場所なら、底まで届いていることになります

満月の夜と比べると、2倍前後の差です。透明度0.5メートルなら、満月の1.2メートルに対して常夜灯の真下は2.6メートル。常夜灯は月明かりの届かない層を作り替えているというより、同じ層をずっと明るくしているというほうが近い数字でした。

深さより水平距離のほうが効きます。透明度1メートルの水で、深さ1メートル下ると明るさはおよそ4分の1になります。いっぽう水平に13.5メートル離れると32分の1です。明暗の境目は水平方向にできていて、深さ方向にはできていません

論文の数字を再現してみました

McMahon and Holanov (1995) は、満月の夜に捕食できる深さの上限を、透明度0.5メートルで1.6メートル、透明度4.0メートルで13メートルと計算しています。

同じ数字が出るかを試したところ、次の2つを置くと一致しました

  • Kd = 1.44 ÷ 透明度
  • 満月の水面照度 = 0.3ルクス
透明度 (m)この式で出た捕食できる深さの上限 (m)論文が示した同じ深さ (m)
0.51.601.6
4.012.7913

一致します。上の節で係数に1.44を選んだのは、これが理由です。論文と同じ計算の上で比べるほうが、値の食い違いを持ち込まずに済みます

そして、ここで1つ分かることがあります。論文が満月に使った0.3ルクスは、Kybaらの言う上限の値です。満月が真上に来て、空が澄んでいるときの数字にあたります。温帯の典型は0.05から0.1ルクスなので、論文が出した夜の深さは、多くの夜については大きめに出ていることになります。

上の表で満月の列に0.1ルクスを使い、透明度0.5メートルで1.2メートルとしたのは、そのためです。論文の1.6メートルとは、この前提の違いだけで説明がつきます。

それで、何が言えるのか

常夜灯のある場所とない場所は、明るさが3桁違います。光源の真下が5.6ルクス、月のない晴れた夜の水面がミリルクスの桁。夜釣りと一言でくくれる差ではありません。

暗部は真っ暗ではありません。常夜灯から10メートル離れた水面でも、満月の夜の3.7倍の明るさがあります。ナイトゲーム入門で「暗い側から明るい側を見上げている」と書きましたが、その暗い側も、視覚が十分に働く明るさでした。魚が暗部にいるのは、見えないからではありません。

明暗の境目は、逆二乗則が作っています。設置高さの3倍離れれば32分の1。境目に見えるものの正体は、この落ち方の急さです。だとすれば、光源が高いほど境目はゆるやかになり、低いほど鋭くなります。橋の照明と、岸壁に低く付いた灯とで明暗の形が違うのは、ここから説明できます。

濁っていても、深さ方向にはよく届きます。透明度0.5メートルの水でも、光源の真下では2.6メートル下まで捕食の下限を上回っています。濁りが効くのは、遠くの餌が見えるかどうかであって、光が下まで届くかどうかではありません。この2つは別の話でした。

そして、これらはすべて明るさの話にとどまります。どの明るさで魚がよく食うのかは、この計算からは出てきません。

確かめられていないこと

実測していません。この記事の数値はすべて計算です。照度計があれば水面の照度は測れますし、防水したものを沈めれば水中も測れます。測れば、この計算のどこがずれているかが分かります。

配光を一様と仮定しました。実際の器具は指向性を持っています。クラスBの規格値と突き合わせると、この計算は規格値の4割しか出ていません。低めの見積もりです

光束730ルーメンは1つの製品の値です。実際の釣り場にどんな器具が付いているかは、見ただけでは分かりません。照度は光束に比例するので、2倍の光束なら全体が2倍になります。

設置高さ4.5メートルも仮定です。照度は高さの2乗に反比例するので、ここがずれると真下の値は大きく動きます。

街灯が1本だけという計算です。実際には複数の灯が重なりますし、周囲の建物や施設の照明も入ります。足し算になるので、実際はこれより明るくなります

斜めに入った光の経路を、深さと同じ長さとして扱っています。実際には斜めに入るぶん水の中を長く進みます。設置高さ4.5メートルで水平20メートルの場合、経路は深さのおよそ1.5倍です。遠い側の数値は甘めに出ています

Kd は透明度からの換算です。係数を1.44としましたが、1.7や2.0を使う文献もあります。2.0を使えば深さは約7割になります。汽水の河口でこの関係が成り立つかは確認していません

0.003ルクスはオオクチバスの値です。シーバスの捕食成功率と明るさの関係を測った資料は見つけられませんでした。視覚に頼る肉食魚という点は共通ですが、そのまま当てはめられるとは限りません

色は扱っていません。ここで計算したのは人間の目の感度で重みをつけた明るさです。ランプの種類で色の見え方がどう変わるかは、水中で色が消える仕組みに書きました。

波と水面の動きを入れていません。水面が平らなものとして反射を計算しています。

プランクトンとベイトがどう集まるかは計算していません。常夜灯にベイトが集まる過程は明るさだけでは決まらないので、この記事の範囲外です。

使ったもの・参考文献