「月明かりカレンダー」を公開しました:今夜どれだけ明るいのか

全国239地点で、夜のどの時間帯にどれだけ月明かりがあるかを計算するツールを作りました。月の明るさが満ち欠けに比例しない理由、夏と冬で満月の明るさが倍違う理由、そして月明かりが魚の捕食に与える影響について調べたことをまとめます。

月明かりカレンダーを公開しました。全国239地点について、夜のどの時間帯にどれだけ月明かりがあるかを計算するツールです。

きっかけは単純で、月齢だけを見ても夜の明るさは分からないと気づいたことでした。満月でも沈んでいれば足元は真っ暗ですし、半月でも真上にあれば水面ははっきり光ります。「今日は月齢15だから明るい」は、半分しか当たっていません。

できること

  • 今夜の推移: 日没から日の出まで、明るさの目安と月の高さをグラフで表示
  • カレンダー: 30日分の夜を並べたヒートマップ。濃いほど暗い夜で、月明かりの少ない日を探せます
  • : その夜に月が出ている時間帯、最大の明るさとその時刻、月明かりのない時間の長さ

明るさは、満月が真上に来たときを100とした相対値で表しています。地点は潮見アプリと共通で、現在地から探すこともできます。

月の明るさは、満ち欠けに比例しない

作りながら一番おもしろかったのがこれです。

半月は、光っている面積が満月の半分です。だから明るさも半分——ではありません。半月の明るさは満月の1割弱しかありません。

理由は月面のでこぼこです。半月のときは太陽の光が斜めから当たるため、クレーターや山が長い影を作り、その影のぶんだけ反射光が減ります。逆に満月のときは太陽がほぼ真後ろから当たるので影がほとんど見えず、不釣り合いに明るくなります。

この計算には、位相角(太陽と地球が月から見てなす角)から月の視等級を求める経験式を使いました。満月を-12.73等とすると、半月にあたる位相角90度では-10.13等になります。等級の差2.6は明るさの比にして約9%で、公表されている「満月の約8%」という値とよく合います。

夏の満月と冬の満月では、明るさが2倍以上違う

もうひとつ、計算してみるまで意識していなかったことです。

満月は太陽の反対側に来ます。ということは、太陽が高く昇る夏には満月は低く、太陽が低い冬には満月は高くなります。夏至と冬至の関係が、そのまま裏返しになるわけです。

大洗で計算すると、こうなりました。

満月の夜夜のあいだの明るさの最大(満月が真上のときを100とした値)
2026年7月29日(夏)39
2026年12月24日(冬)89

2倍以上の差です。同じ「満月」でも、夏は思ったほど明るくならない。逆に冬の満月の夜は、真上から水面を照らされることになります。「満月だから」と身構える前に、その満月がどこまで昇るのかを見たほうが実態に近いはずです。

なお、この差は高さだけでなく、大気による減光も効いています。低い月ほど厚い大気を通るので、そのぶん暗くなります。計算にはこの効果も入れました。

月の出が毎日約50分遅れる理由

カレンダーを眺めていると、明るい帯が毎日少しずつ右にずれていくのが見えます。月の出は1日あたりおよそ50分遅れるためです。

月は地球のまわりを約27.3日かけて公転しているので、1日に約13度進みます。地球の自転は1時間で15度ですから、月が進んだぶんを追いかけるのに 13 ÷ 15 × 60 ≒ 52分かかる。これが「毎日約50分遅れ」の正体です。

同じ理由で、潮の時刻も毎日約50分ずつ遅れていきます。潮見アプリと月明かりカレンダーで似たようなずれ方をするのは、どちらも月に支配されているからです。

月明かりは、シーバスに影響するのか

ここが本題です。調べてみると、釣り人のあいだでも見解が割れていました

「満月は明るすぎて釣れない」という声がある一方で、月明かりを利用してエサを探す魚にとっては明るいほうが好都合で、スズキもそこに含まれる、という解説もあります。アジやメバルでは「満月だと常夜灯に集まっていたベイトが散ってしまう」という説明もよく見かけました。

そこで研究を探してみたところ、光の強さと捕食の関係を数値で示したものがありました。

実験が「月明かり」と呼んだ明るさは、本物の満月ではありませんでした

オオクチバスを使った実験で、光の強さを変えて捕食の成功率を測ったものです(McMahon & Holanov, 1995)。結果はこうでした。

論文が条件に付けた名前実験で設定した水平面照度捕食の成功率
弱い昼光243 lx95%以上
月明かり0.003 lx95%以上
星明かりのみ0.0002 lx62%
完全な暗闇0 lxほぼ0%

この記事を最初に公開したとき、私は0.003ルクスを「満月ほどの明るさ」と書きました。誤りだったので直します

満月の照度を実測から見直したKyba, Mohar and Posch (2017)によれば、温帯での満月はおよそ0.05から0.1ルクスです。満月が真上に来て空が澄んでいるときの上限でも0.3ルクス程度。同じ論文は、文献で使われている満月の照度の値がしばしば誤っていることを名指しで指摘しています。

0.003ルクスは、本物の満月より1桁以上暗い値です。 同じことが星明かりにも当てはまります。Kybaらは星と大気光による夜の明るさをミリルクスの桁(0.001から0.009)としているので、実験の0.0002ルクスはそれよりさらに暗いことになります。

条件に付いた名前ではなく、数値のほうで読み直すとこうなります。

夜の状態水面の水平面照度上の実験のどこに当たるか
満月(温帯の典型)0.05〜0.1 lx95%以上を保つ下限を、1桁以上うわまわる
月のない晴れた夜0.001〜0.009 lx95%を保つ下限(0.003 lx)と同じ範囲に入る

分かれ目にあるのは、満月ではありませんでした。月のない夜のほうです

満月の夜の水面は、余裕をもって95%の側にいます。では月明かりは何に効くのか。深さです。 同じ論文は、満月の夜に捕食できる深さの上限を、透明度0.5メートルで1.6メートル、透明度4.0メートルで13メートルと計算しています。明るさが足りなくなるのは水面ではなく、水中です

この計算をたどり直した結果と、常夜灯がある場合との比較は常夜灯の下、水中はどれだけ明るいのかに書きました。

ただし、この実験はオオクチバスであってシーバスではありません。同じ視覚に頼る肉食魚ではありますが、そのまま当てはめるのは乱暴です。

ただし、逆向きの力も働く

捕食者に有利な光は、被食者にとっては危険な光でもあります。明るい夜には小魚の側が物陰に隠れたり、活動を控えたりする、という指摘は複数の資料に出てきます。捕食者の効率が上がっても、狙われる側が出てこなければ、結果として捕食の機会は増えません。

この2つは逆を向いているので、どちらが勝つかは状況次第ということになります。実際、オーストラリアの大会記録を使って月齢と釣果の関係を調べた研究(Lowry, Williams & Metti, 2007)では、満月と新月の両方で釣果が上がる傾向が見られたものの、魚の反応が複雑で予測は難しい、と結論されていました。

そして厄介なのは、潮と切り離せないこと

もうひとつ見落とせないのが、月明かりと潮は連動しているという点です。大潮は新月と満月に起こります。つまり「満月の夜は月明かりが強い」と「満月の夜は潮が大きく動く」は、常にセットでやってきます。

「満月の日は釣れた」という経験があったとして、それが月明かりのおかげなのか、大潮で潮が動いたおかげなのかは、簡単には切り分けられません。逆に新月も同じで、暗いことが効いたのか潮が動いたことが効いたのかが分かりません。

この2つを分けて考えるには、月明かりの強さと潮の動きを別々の数字として見るしかないと思います。月明かりカレンダーと潮見アプリを並べて使うと、たとえば「潮はよく動くのに月明かりはほとんどない夜」や、その逆の夜が具体的に見つかります。そういう夜の釣果を覚えておけば、自分のフィールドではどちらが効いているのか、少しずつ見当がついてくるかもしれません。

結局どう使えばいいのか

正直なところ、月明かりが多いほうがいいのか少ないほうがいいのかは、私には言えません。調べた範囲でも一律の答えは出ていませんでした。

ただ、はっきりしたこともあります。月齢という1つの数字では、夜の明るさを表せないということです。同じ月齢でも時間帯で全然違いますし、同じ満月でも夏と冬で倍以上違う。だとすれば、「今夜の何時から何時まで、どれくらい明るいのか」を具体的に見られる道具には意味があると思います。

明るい夜が得意な人も、暗い夜が好きな人も、まず自分のフィールドで明るさと釣果を並べて記録するところからだと思います。その材料として使ってもらえたら嬉しいです。

計算について

太陽と月の位置は、選んだ地点の緯度経度から計算しています。考え方は潮見アプリの解説記事に書いたものと同じで、外部のサーバーには問い合わせず、すべてブラウザの中で計算しています。

明るさの目安は、位相角から求めた月の視等級に、月の高さと大気による減光、そして地球からの距離を掛け合わせた相対値です。満月の日付は国立天文台の公表値と、2026年の13回すべてで一致することを確認しました。

限界もあります。実際の見え方は雲の量や周囲の照明に大きく左右されますし、水面がどれだけ光るかは風による波立ちでも変わります。絶対値ではなく、夜どうし・時間帯どうしの比較に使ってください。

参考にした資料