ウォブリングとローリングは、別の動きではありませんでした

店頭のルアーには「ハイピッチウォブンロール」「タイトローリング」と書かれています。この呼び分けが何を測った値なのかを調べたところ、区別して観測することはできなかった、と書いた論文に行き当たりました。

1985年に、北海道大学水産学部の研究者が、この記事で扱う問題をすでに書いていました

ルアーの振動を計測した論文の冒頭です。ルアーの分類はその目的・運動・形態の違いから商品としてすでに確立しているが、それをそのまま漁具の機能分類と考えることの是非については問題が残る。ここでは暫定的に認めて実験を行ない、結論は考察に譲る——という趣旨のことが書かれています。

そして私が読む限り、考察でこの問題に答えていません。実験は音と振動の測定に進み、分類の是非には戻ってきません。

40年前に立てられて、答えの出ないまま使われ続けている問いです。この記事では、そこから先に進めるかどうかを調べます。

調べて書いた記事です。実験も測定もしていません。読んだのは査読論文5本と講究録2本で、末尾に挙げます。

店頭の言葉は、3種類が混ざっています

パッケージやカタログに並ぶ言葉を並べ直すと、指しているものが3つに分かれます。

呼び名の例実際に指しているもの
ミノー、シャッド、クランクベイト形と用途
フローティング、シンキング、サスペンド浮力
ウォブリング、ローリング、ウォブンロール動き
S字スラローム、I字通る道すじ

基準がそろっていません。「フローティングミノー」は形と浮力をつないだ言葉ですし、「バイブレーション」に至っては形ではなく動き方が名前になっています。

この記事で扱うのは、動きを指している呼び名です。ウォブリング、ローリング、ウォブンロール。この呼び分けは、何を測った値なのか

姿勢の変化は、3つの回転に分けられます

まず土台を作ります。剛体の姿勢は、直交する3つの軸まわりの回転で表せます。ルアーに当てはめると、こうなります。

回転見え方
ローリング前後方向の軸body が左右に傾く
ヨーイング上下方向の軸頭と尾が左右に振れる
ピッチング左右方向の軸頭が上下する

釣りで言うウォブリングは、ヨーイングにあたります

これは言い換えではありません。東京電機大学の高橋直也氏らは、回流水槽でルアーの運動を計測した報告で、Rapala CD-11 の頭部金具・リップ先端・リップ根元・重心・尾・尾の金具の6点にマーカーを付け、底面と側面から毎秒300コマで撮影して、姿勢をこの3要素に分解しています。測れる量として定義されています。

なお、ピッチングには釣り用語がありません。ローリングとヨーイングには「ローリング」「ウォブリング」という呼び名があるのに、縦の首振りにだけ名前がない。理由は分かりません。

体高だけを変えた実験があります

ここからが本題です。

三木智宏氏らが2001年に報告した実験は、ボディの体高だけを変えて、ほかをすべてそろえています

  • ボディの平面図は同じ長方形。全長 65 mm、幅 15 mm で固定
  • 側面は楕円で、その短軸(体高)だけを10段階に変えた
  • リップは全個体で同一。タイドアイの位置も Ct = 0.25 で固定
  • バルサ材の削り出し。表面はセルロースセメントを5回塗り、#1200 の耐水ペーパーで研磨
  • 比重は 0.73〜0.79 にそろえた

体高比を κ = 体高 ÷ ボディ全長 として、次の10段階です。

体高比 κ (= 体高 ÷ ボディ全長65 mm)体高 (mm)空中重量 (g)
0.2013.08.2
0.2516.39.4
0.2818.211.4
0.3321.512.0
0.4126.716.9
0.5032.518.7
0.6240.323.8
0.7548.825.1
0.8253.327.5
1.0065.030.5

表面の研磨まで条件をそろえてあります。ここまでやってあるので、出てきた差は体高だけによるものだと考えられます。

流速は 40・60・80 cm/s。実用上の巻き取り速度を計測した結果から決めた値だと書かれています。実釣の速度域です。

区別して観測することはできなかった

この実験で、振動の形態がどう変わるかが観察されています

報告はこうです。κ が小さいルアーでは、前後端を結んだ基線を軸とした振動(ローリング)の成分が強い。κ が大きいルアーでは、鉛直軸まわりの左右への振動(ヨーイング)が起きる。

そして次の一文が続きます。

これらの振動形態は κ によって独立したものではなく、κ の増大に伴い連続的に変化していた。したがって、振動の形態を区別して観測することはできなかった

測ろうとした人が、区別できないと書いています

ローリングとヨーイングは、別々の種類ではありません。体高という1本の連続した目盛りの、両端に付けられた呼び名です

「ローリング」「ウォブンロール」「ウォブリング」などというカテゴリは、この目盛りの上の場所を指しています。境目はありません。境目がないものを2つに分けているので、どちらに入れるかは分ける人が決めることになります。

論文はこのあと、ローリングとヨーイングを分けることをやめ、まとめて「ルアーの振動」として扱っています

体高が動かすもの

分けられないとして、では κ は何を動かすのか。同じ実験から、次のことが分かります。

κ を大きくすると (体高を高くすると)どう変わるか
振れ角 β (水平面での左右の振れ)大きくなる
振動周波数小さくなる
ライン張力の変動幅大きくなる
ラインの平均張力ほとんど変わらない
潜行深度浅くなる

平均張力は変わらないのに、変動幅だけが変わります。巻き重り自体は同じでも、手元に伝わるブルブルの強さが変わる、ということです。

κ ≒ 0.28 が折り返し点になっています。それより小さいルアーは定常的な振動をせず、左右への蛇行を示したと書かれています。振動周波数もこの付近で最大です。

数値も出ていますが、本文ではなく図に描かれているものです。流速 80 cm/s で、私が図から読み取ると、振れ角は κ = 0.25 でほぼ0度、κ = 1.00 で約35度。振動周波数は κ = 0.25 で約22 Hz、κ = 1.00 で約11 Hz でした。読み取り値なので、そのつもりで見てください

ここで用語の整理をしておきます。釣りで「波動」と呼ばれているものは、測られている量としては、この振れ角にあたります。波動という言葉は釣り業界の言い方で、物理の定義がありません。この記事ではこれ以降、波動という語を使わず、振れ角と書きます

振れ角が水中でどれだけの水の動きを生むかは、別の話です。そちらは測られていません。ベイトを感じ取る仕組みの記事で扱った側線の話につながりますが、ルアーが出す水の動きを測ったデータは見つけられませんでした。

ラインを結ぶ位置でも、同じことが起きます

体高の話だけなら「ボディの形の問題」で終わります。ところが、同じ移行がもう1つの経路でも起きます

臺田望氏らが同じ2001年に報告した実験は、三木らとは逆に、ボディを共通にしてリップとタイドアイの位置を振っています

  • ボディは高密度ポリスチレンを削って型を取り、ポリウレタン樹脂で外殻2mm。内部に発泡樹脂と鉛。比重0.94、空中重量26.3〜26.9 g
  • リップは面積を等しくして縦横比 λ を 0.3, 0.5, 1.0, 1.5, 2.0 の5種
  • タイドアイの位置を6〜9ポジション動かした

タイドアイの位置は Ct = 先端からタイドアイまでの距離 ÷ 全長 で表します。

結果です。流速 80 cm/s、λ = 0.3 で Ct が 0.3 以上のとき、迎角の増大に伴って、振動がヨーイングからローリングを主体とするものへ変化する様子が確認された

ボディの形は何も変えていません。ラインを結ぶ位置を動かしただけです

同じ論文には、もうひとつ実用的な観察があります。Ct = 0.15 と 0.18 では、映像でも張力でもルアーの振動が認められませんでした。ラインアイを前に付けすぎると、そもそも泳ぎません。

そして Ct が 0.2 から 0.3 へ大きくなるにつれて、張力の最大値と最小値の差が大きくなりました。この範囲での張力の変動周波数は 6.4 Hz 付近だったと書かれています。本文に数値がある、数少ない箇所です

つまり、製品に貼れる属性ではありません

2つの実験を並べると、こうなります。

変えるもの振動形態への効き方出典
ボディの体高高くするとヨーイング寄りへ三木ら 2001
ラインアイの位置後ろへ移すとローリング寄りへ臺田ら 2001
巻き速度速いほど、ラインアイ位置の効き方が強く出る臺田ら 2001

巻き速度でも変わります。臺田らは、流速 40 cm/s ではタイドアイの位置を動かしても振動周波数に大きな変化は見られなかったのに、80 cm/s では後方へ移すほど周波数が高くなった、と報告しています。

つまり「このルアーはウォブンロール」という書き方は、巻き速度を決めないと成立しません。同じルアーが、巻き方によって別の場所に移ります。

なぜそうなるのか

論文が挙げている説明を紹介します。どちらも著者が推察と明示している部分です

流れの中の物体の後方では、両側から交互に渦が発生します。カルマン渦列です。渦が交互に離れると、物体まわりの圧力分布が周期的に変わり、変動する力が横向きに働きます。流水中に固定されていないルアーは、これで振動を起こす、というのが共通の説明です。

そのうえで、臺田らは渦の力がどこに当たるかで回転軸が切り替わると推察しています。

  • タイドアイが前方にあり、流れに対する迎角が小さいとき——リップ前縁とボディ前縁から剥離した流れがボディ側方付近で渦を作り、その変動揚力がボディの後端に働いて、鉛直軸まわりのヨーイングを起こす
  • タイドアイが後方に移り、迎角が大きくなるとき——ボディの底面が流れに対して後方に位置するようになり、底面付近が変動揚力を受けて、前後端を結ぶ軸まわりのローリングを起こす

渦の力が当たる場所が移ることで、回転軸が入れ替わるという筋書きです。論文は「この詳細なメカニズムについては拡大固定模型実験によって解明する必要がある」と結んでいます。

三木らも同じ枠組みで、体高が大きいと流れに対してボディが下流方向に長くなるため、ボディ前縁から剥離したカルマン渦がボディ側方付近で形成され、その変動揚力で左右への振れが大きくなる、と推察しています。

どちらも、渦そのものを可視化した実験ではありません

分かっていないこと

4本ともブラックバス用のクランクベイトが対象です。市販のクランクベイト15種、シャッド15種、ミノー15種の寸法を参考にした模型で、シーバス用ルアーの研究ではありません。傾向がそのまま当てはまるかは分かりません。

フックが付いていません。三木らは、フックがルアーの重心・浮心の位置や潜行姿勢および振動に影響するはずで、その検討が必要だと課題に挙げています。

比重もそろえられていません。同じく課題として明記されています。

振れ角と振動周波数の数値は、私が図から読み取ったものです。本文に書かれていません。

三木らの論文にあるレイノルズ数の記述が、私の計算と合いません。代表長さをボディの平面図上の横幅とすると流速 40〜80 cm/s で 2.9×10³〜5.3×10³ の範囲だった、と書かれていますが、書かれている横幅 15 mm で計算し直すと桁が1つ違います。代表長さの取り方が私の理解と違うのか、別の理由があるのかは判断できませんでした。この記事ではレイノルズ数を使わずに、巻き速度そのもので書いています

シンキングペンシル、バイブレーション、ワームの研究は見つかっていません。リップのないルアーがどう泳ぐかは、この記事では何も言えません。理由については後編で扱います。

どの振動形態が釣れるかは、分かりません。そもそも投げた回数を数えていない、という問題が先にあります。「良く釣れるルアー」の正体に書いたとおりです。

続けて読むなら

使ったもの・参考文献