着水の音で魚は散るのか:水しぶきの物理と、確かめられていること
ルアーが着水したときの音は、ぶつかる音より、水に引き込んだ空気の穴が閉じて泡が震える音が主です。ふつうのキャストの着水は秒速15〜20 m で、空気の穴ができる速さを大きく超えます。ルアーのキャストで魚が散るかを分けて調べた研究は1本だけで、船の影響への上乗せは見つかりませんでした。スズキで調べた研究はありません。
この記事の見出し
体高のあるファット系のルアーを投げると、着水のときに「ボチャン」と大きな音を立てて、水しぶきが上がることがあります。あれで魚が散っていないかが気になって調べました。
調べて書いた記事です。着水時の速さと泡の音の高さは、論文の式と飛跡シミュレーターの計算を使って私が出しました。
先に結論を4つ書きます。
- 着水の音の主な出どころは、ルアーがぶつかる瞬間ではなく、ルアーが水の中に引き込んだ空気の穴が閉じて、泡が震える音です。固い球と雨粒の実験で確かめられています
- 空気の穴ができるのは、着水時の速さがある値を超えたときです。水になじむ表面なら、その値は秒速7 m ほどです。ふつうのキャストの着水は秒速15〜20 m と計算され、大きく超えます
- ルアーのキャストで魚が散るかを分けて調べた研究は、湖の魚で1本だけでした。船を動かした影響に、キャストを足しても反応は増えませんでした。ただし著者ら自身が、船の影響に隠れて釣りの影響が見えなかった可能性を書いています
- スズキで、着水の音への反応を調べた研究は見つけられませんでした
着水すると、何が起きるか
物体が水に飛び込むときのことは、流体力学で100年以上調べられてきました。砲弾の着水や、船体が波に打ちつける問題とつながっているからです。Truscott ら (2014) の総説から、順を追って並べます。
| 着水してからの順番 | 起きること |
|---|---|
| 1. ぶつかった直後 (1ミリ秒もない) | 着水点から横へ、細い水の噴流が飛ぶ。速さは着水時の速さの最大30倍 |
| 2. 続いて | 王冠のような形の水しぶきが立ち上がる。目に見える「水しぶき」はこれ |
| 3. 物体が沈むあいだ | 物体の後ろに、空気の穴が水の中へ引き込まれる |
| 4. 穴が閉じる | 水しぶきが上にかぶさって水面で閉じるか、水の圧力で深いところでくびれて閉じる |
| 5. 閉じたあと | 閉じたところから、上と下へ水の噴流が出る |
空気の穴ができない着水もあります。そのときは、物体のまわりを水の膜が這い上がって頭の上で閉じ、空気の穴はできません (Duez ら 2007)。
音を出しているのは、泡です
着水の音が何から出ているかは、雨の研究で詳しく調べられました。Prosperetti and Oguz (1993) の総説によれば、次のことが分かっています。
- 水面に落ちるのが水滴でも固い球でも、同じ種類の音が出る (Mallock 1919)
- 水滴を落として水中マイクで録ると、その実験の感度では、ぶつかった瞬間の信号は機械の雑音と見分けられなかった。強い音を出していたのは、水滴が引き込んだ泡だった
- 屋外の水槽に降る雨の音は、泡ができるのを邪魔する薬 (界面活性剤) を少し入れると、ほとんど消えた
泡は、できた瞬間に震えて音を出します。その音の高さは泡の大きさで決まり、大きい泡ほど低い音になります (Minnaert の式)。雨の水中の音は14〜15 kHz あたりに山がありますが、これは直径1 mm ほどの雨粒が作る小さな泡の音です。数リットルの水をまとめて落としたときは、大きな泡ができて、数十 Hz の低い音が出たと報告されています。
固い物体でも同じことが確かめられています。Duez ら (2007) は、表面の薄い膜だけが違うガラス球を、同じ速さ (秒速5 m) で水に落としました。水をはじく球は大きな空気の穴を引き込んで「スプラッシュ」と大きく鳴り、水になじむ球は小さく「プロップ」と鳴っただけでした。音は、空気の穴が急に閉じるときに出ていました。この実験の音は、着水点から10 cm ほどの空気中のマイクで録ったものです。
空気の穴は、速さで決まる
Duez ら (2007) によれば、空気の穴ができるのは、着水時の速さがある値を超えたときです。
- その値は、表面が水にどれだけなじむかで変わる。水をはじく表面ほど遅い速さでも穴ができ、強く水をはじく表面 (超撥水) では、どんな速さでも穴ができる
- 水になじむ表面では、その値はなじみ具合によらず、ほぼ一定になる
- 球の大きさは、その値に影響しない
水になじむ表面のときの値を、論文の式に水の性質の値を入れて出すと、秒速6.6 m になります。
では、ルアーはどのくらいの速さで着水しているのか。飛跡シミュレーターの計算で、着水する直前の速さを出しました。条件は、ふだんの河川用タックルで測った39本に合わせたもの (重いルアーほど飛ぶのか) で、角度は重さごとにいちばん遠くへ飛ぶ角度にしています。
| ルアーの重さ (g) | 飛距離 (m) | 着水する直前の速さ (m/s) | 水面に対する角度 (°) |
|---|---|---|---|
| 7 | 35.3 | 14.8 | 55 |
| 10 | 38.7 | 16.1 | 54 |
| 15 | 42.2 | 17.6 | 52 |
| 20 | 44.3 | 18.5 | 51 |
| 25 | 45.7 | 19.2 | 50 |
| 30 | 46.7 | 19.7 | 49 |
どの重さでも、空気の穴ができる速さ (秒速6.6 m) の2倍以上の速さで水に入っています。
着水時の速さは、飛跡シミュレーターの結果の欄にも「着水時の速さ」として出ます。重さや初速、ルアーの太さを変えて確かめられます。シミュレーターの初期値は初速30 m/s (メーカーの公称値に合わせた値) なので、この表より速く出ます。表と同じ条件にするには、初速を22.5 m/s、ボディの太さを16 mm、リップを「なし」、PEラインを1号、リールとガイドの抵抗を0.5にして、「最も飛ぶ角度にする」を押してください。
この計算には、着水の直前にスプールを指で押さえて糸の出を止める動き (フェザリング) が入っていません。フェザリングをすれば、着水時の速さはこれより遅くなります。どこまで遅くなるかは分かりません。
それでも、ふつうに投げたルアーは、表面の塗装や形によらず、空気の穴を作って水に入っている可能性が高いと私は考えています。Duez ら の実験の「スプラッシュ」と「プロップ」の違いは秒速5 m での話で、着水がその3倍から4倍速いルアーには、そのまま当てはまらないかもしれません。これは推測です。ルアーの表面がどれだけ水をはじくかは、私は測っていません。
速さを落としても、音は小さくならないかもしれない
Duez ら (2007) には、釣り人にとって意外な結果がもう1つあります。空気の穴ができる速さを超えていれば、音の長さと大きさは、着水時の速さによらなかったというのです。著者らはこれを別に確かめたと書いています。
空気の穴が閉じるのは、水の重さで穴が押しつぶされるからです。閉じるまでの時間は物体の大きさで決まり、1センチほどの物体で0.1秒ほどです。着水時の速さではなく、物体の大きさで決まる時間です。
ここから考えると、フェザリングで着水時の速さを落としても、秒速7 m ほどの境目より遅くならない限り、音はあまり変わらないことになります。ただし、これは球を真上から落とした実験の結果で、どの範囲の速さで確かめたかは論文に書かれていません。斜めに入るルアーで同じになるかは分かりません。
形で変わるのは、穴の形
Truscott ら (2014) は、細長い物体の頭の形で、空気の穴の形が変わることを写真で示しています。
| 頭の形 | 空気の穴 |
|---|---|
| 円錐 (とがった頭) | 細い穴 |
| オジーブ (弾丸のような丸い頭) | 大きく開いた穴 |
| 平らな頭 | 円盤を落としたときのように、すぐに上がかぶさる |
円錐の頭では、水しぶきと最初の横への噴流も小さくなる、という著者らの予備的な観察も書かれています。ただし、これは論文になっていない研究です。
斜めに入ると物体は回転し、軌道が曲がります。浅い角度では、水切りのように跳ねることもあります。
体高のあるファット系のルアーは、太く、頭が丸いものが多いです。太い物体ほど大きな空気の穴を引き込み、大きな泡ができて、音の高さが低くなると考えられます。これは上の研究からの私の推測で、ルアーで測った資料は見つけていません。
泡の音は、スズキの仲間に聞こえる高さかもしれない
泡の大きさと音の高さの関係を、Minnaert の式で計算しました。水面近くの泡として、大気圧で計算しています。
| 泡の半径 (mm) | 音の高さ・淡水 (Hz) | 音の高さ・海水 (Hz) |
|---|---|---|
| 0.5 | 6566 | 6486 |
| 1 | 3283 | 3243 |
| 2 | 1642 | 1621 |
| 5 | 657 | 649 |
| 10 | 328 | 324 |
| 20 | 164 | 162 |
| 30 | 109 | 108 |
ラトルの音は効くのかで書いたとおり、ヨーロッパスズキがいちばんよく聞こえるのは300 Hz 前後で、聞こえる範囲は100 Hz から1500 Hz とされています。表と並べると、半径2 mm より大きい泡の音が、この範囲に入ります。雨の小さな泡の音 (14〜15 kHz) は、範囲のずっと外です。
ルアーの着水で、どのくらいの大きさの泡ができるのかは分かりません。測った資料を見つけられませんでした。もし半径2 mm より大きい泡ができているなら、その音はスズキの仲間の耳が聞こえる高さに入ります。これは計算と推測を重ねた話です。
音の大きさも分かりません。ルアーの着水の音を水中で測った資料は見つけられませんでした。ヨーロッパスズキが驚いて泳ぎを変えた音の大きさは測られていますが (ラトルの音は効くのか)、比べる相手の着水の音の大きさがありません。
魚は散るのか:キャストを分けて調べた研究
ルアーを投げることそのもので魚が散るかを、野外で調べた研究は1本だけ見つかりました。
Jacobsen ら (2014) は、デンマークの小さな湖 (面積0.9 ha、最大水深8 m 未満) で、ローチ21尾、パーチ23尾、パイク21尾に発信機を付け、湖の中を泳ぐ速さを30秒ごとに記録しました。ローチはコイの仲間の小魚、パーチはヨーロッパの淡水魚 (ペルカ科)、パイクは大型の肉食魚です。
乱し方は2通りです。
- 船だけ:4馬力のエンジン付きの船を1〜2分動かして決めた場所に止め、エンジンを切る。15分ごとに次の場所へ移る。これを9時から13時の4時間
- 船と釣り:同じように船を動かし、止まっているあいだに2人が3.5 g の小さなスピナーを投げる。1か所で20〜30投、着水は船から20 m ほど先
それぞれ5日ずつ行い、前日の何もしない日と比べました。
| 魚 | 最初の1時間の泳ぐ速さ (何もしない日の何倍か。船と釣り) | 同 (船だけ) | 2つの乱し方の差 |
|---|---|---|---|
| ローチ (体長16.6〜24.3 cm) | 5 | 8 | 有意な差なし |
| パーチ (体長16.2〜24.0 cm) | 2 | 4 | 有意な差なし |
| パイク (体長48.9〜99.2 cm) | 有意な変化なし | 有意な変化なし | — |
表の倍率は、1時間ごとの泳ぐ速さの中央値で比べたものです。ローチは4時間ずっと速く泳ぎ、エンジンをかけるたびに反応していました。湖の中央に集まり、船を止めた場所を避けました。パーチは最初の1時間だけで、その後は元に戻りました。パイクは変わりませんでした。
船にキャストを足しても、反応は増えませんでした。論文は、船の影響が大きかった、と結論しています。
ただし、著者ら自身が次のように断っています。
- エンジンを止めたあとも船の影響が続いていて、釣りの影響を隠した可能性がある。この実験の組み方では、釣りだけの影響ははっきり言えない
- それでも、釣りを足して反応が増えなかったことから、釣りの影響があったとしても、船より小さかったと言える
- 小さな湖の1つの研究で、大きく深い湖なら、魚は逃げられるので影響はもっと小さいだろう
この研究から私が読めるのは、3.5 g の小さなスピナーを20 m 先に投げることが、エンジンの音ほど湖の魚を乱すことはなかった、というところまでです。体高のあるルアーの大きな着水音は、試されていません。調べたのは湖の淡水魚で、スズキでもありません。
驚いた魚がどのくらいで元に戻るかについては、ラトルの音は効くのかで書いたヨーロッパスズキの実験があります。大きな音を聞かせると急に泳ぎを変えたものの、すぐに元に戻り、繰り返すと反応は小さくなりました。夜のほうが強く反応しました。
ルアーの着水の音でシーバスが散るかどうかは、確かめた研究がありません。
分かっていないこと
スズキで、着水の音や水しぶきへの反応を調べた研究は見つけられませんでした。
ルアーの着水の音を水中で測った資料を見つけられませんでした。音の大きさも高さも、ルアーの形でどう変わるかも、数字がありません。
ルアーが着水で作る泡の大きさが分かりません。泡の音の高さの表は、泡の大きさを仮に置いた計算です。
ルアーの表面がどれだけ水をはじくかを、私は測っていません。
シミュレーターの着水時の速さには、フェザリングが入っていません。
Jacobsen ら (2014) は、船の影響と釣りの影響を分けられていません。キャストだけで乱した実験は見つけられませんでした。
河口には、ボラが跳ねる音や、鳥が飛び込む音のように、もともと着水の音があります。魚がそうした音に慣れているのかどうかを調べた資料は見つけられませんでした。
続けて読むなら
| 記事 | つながり |
|---|---|
| ラトルの音は効くのか | スズキの仲間の耳が聞こえる音の高さと、大きな音に驚いたあと元に戻る実験 |
| 「殺気が出ると釣れない」は本当か | 魚が感じ取れる人の気配の1つとして、着水音の大きいキャストに触れています |
| 飛跡シミュレーター | 着水時の速さを出した計算 |
| 重いルアーほど飛ぶのか | 計算の条件を合わせた39本の実測 |
| 色が消える距離で、魚は何を頼りに餌を見つけているのか | 近くの水の揺れを感じる側線のこと |
使ったもの・参考文献
- T. T. Truscott, B. P. Epps and J. Belden (2014) Water entry of projectiles. Annual Review of Fluid Mechanics 46, 355–378— 着水で起きることの順番、空気の穴ができる条件、頭の形と穴の形、斜めの着水、水の性質の値。全文を読みました。リンク先は購読が必要です
- C. Duez, C. Ybert, C. Clanet and L. Bocquet (2007) Making a splash with water repellency. Nature Physics 3, 180–183— 表面だけが違うガラス球の着水の音、空気の穴ができる速さとその式、音が穴の閉じるときに出ること、穴が閉じるまでの時間、音の大きさが速さによらないこと。全文を読みました。リンク先は購読が必要です
- A. Prosperetti and H. N. Oguz (1993) The impact of drops on liquid surfaces and the underwater noise of rain. Annual Review of Fluid Mechanics 25, 577–602— 着水の音の主な出どころが泡であること、泡の大きさと音の高さの式 (Minnaert の式)、雨の水中音の高さ、界面活性剤で雨音が消えた実験。全文を読みました。リンク先は購読が必要です
- L. Jacobsen, H. Baktoft, N. Jepsen, K. Aarestrup, S. Berg and C. Skov (2014) Effect of boat noise and angling on lake fish behaviour. Journal of Fish Biology 84, 1768–1780— 湖、魚、乱し方、泳ぐ速さの変化、船と釣りの差、著者らの留保。全文を読みました。リンク先は購読が必要です
- 飛跡シミュレーター— 着水する直前の速さと角度。計算は
scripts/splash_numbers.mjsで、シミュレーターの計算をそのまま使い、条件は39本の実測に合わせたもの。泡の音の高さと、空気の穴ができる速さも同じスクリプトで出しました