ウォブリングはスレやすいのか

ウォブリングはスレやすく、ローリングやシンペンはスレにくい。よく聞く話です。回避学習を扱った論文を5本読みましたが、この言い分に最も近い証拠は、ある論文が「未公表データ」として引用した一文だけでした。

ウォブリングはスレやすい。ローリングはスレにくい。シンキングペンシルはスレにくい

釣り場でよく聞く話です。確かめられているのかを調べました

調べて書いた記事です。実験はしていません。読んだのは査読論文5本で、末尾に挙げます。

直接調べた研究は、ありません

先に結論を書きます。ウォブリングとローリングを分けて、スレ方を比べた研究は見つかりませんでした

前編に書いたとおり、この2つはそもそも区別して観測できていません。体高という1本の連続した目盛りの両端にある呼び名で、境目がありません。分けて比べようがない、というのが実情です。

シンキングペンシルについても、研究がありません後編に書いたとおり、定常的な姿勢を取らないルアーは回流水槽の計測から漏れています。動きを測った研究すらないので、スレ方の研究があるはずもありません。

ただし、近い比較をした研究はあります。そこから何が言えるかを見ていきます。

いちばん近い証拠は、未公表データの又聞きでした

まず、いちばん近いものを挙げます。

Arlinghaus らが2017年に報告したパイクの実験は、実験の仮説を立てる根拠として、Cole らの未公表データを引用しています。オオクチバスを対象にした研究で、音を出すクランクベイトのほうが、音の少ないソフトプラスチックルアーより速く回避を学習されたという内容です。

強い刺激を出すルアーほど、避けられるようになるのが速い」という、釣り人の言い分そのものです

しかし、未公表データです。論文として公表されたものではありません。実験の条件も、何尾使ったのかも、どれだけ差が出たのかも分かりません。そして「音」であって「波動」ではありません

これが、探した範囲でいちばん近い証拠でした

実測されているのは「釣れ方が違う」までです

同じ Arlinghaus らの実験本体を見ます。設計が丁寧なので、詳しく紹介します

ドイツ・ベルリンの北東80kmにある25ヘクタールの湖で、1週間の釣獲キャンペーンを2回行いました。ボートの釣り人が、あらかじめ決めた30の地点をランダムに回ります。各地点には2種類のルアーを体系的に割り当てました。ソフトプラスチックのシャッドと、スプーンです

15分を1セッションとして、合計3232回。釣れたパイクは313尾でした。

釣り人の腕、ルアーの選択、場所の選択が結果に混ざらないように設計されています。「どのルアーがよく釣れるか」を、条件を揃えて比べた数少ない実験です

結果です。

  • 浅場のほうが、深場より釣獲率が有意に高い
  • ソフトプラスチックのほうが、スプーンより釣獲率が有意に高い
  • 7日間の経過とともに、釣獲率が有意に低下した
  • 釣れた魚の大きさは、ルアーの種類と無関係だった
  • ただし日を追うごとに小さくなり、大きい個体が先に釣られていた

ルアーの種類で釣れ方が違うことは、確かに示されました

ただし、7日間の低下について、論文はこう書いています。学習によるものか、あるいは捕獲・採集・リリースによるストレスで、釣られやすい状態から釣られにくい状態へ魚が移ったのか、どちらとも決められない

そして、低下の速さがルアーの種類で違ったとは書かれていません。論文が報告しているのは、全体の釣獲率の差と、全体の低下です。

論文自身の結論も控えめです。予測因子の説明力は中程度にとどまった。したがって、最も効くのは時間を投じることと、場所選びで遭遇確率を上げることであり、気象条件・時間帯・ルアーの種類による追加的な効果は中程度にすぎない

ルアーの種類は効く。ただし、時間と場所に比べれば小さい

人工ルアーではスレて、生き餌ではスレませんでした

もう1つ、古典的な実験があります。Beukema が1970年に報告したパイクの実験です。

水を抜ける池で、タグを付けたパイクを釣ります。スピナーまたは小魚の生き餌。釣った個体はすぐに池へ戻し、死亡率が低かったため、単位努力あたりの釣獲数をそのまま釣れやすさの指標に使えています

結果です。

  • スピナーに対する釣れやすさは、個体群のおよそ半分がその方法で釣られた時点で、非常に低い水準まで落ちた
  • 生き餌に対する釣れやすさは、スピナーで激しく釣っても、生き餌で釣っても変わらなかった
  • スピナーで同じ個体を2回釣るのは困難だった
  • 生き餌では、再捕獲数が「釣れやすさが変わらない場合の期待値」とよく一致した

同じ魚、同じ池、同じ期間です。違うのは何を見せたかだけ。

普通の餌と区別がつかないものは、覚えようがない」という説明が、ここから出てきます。ある論文はこう書いています。生き餌は自然な遊泳運動という刺激を出しており、それは通常の獲物を捕らえることと結びついた刺激で、人工ルアーとは明確に異なる

ローリングやシンペンは自然な動きだからスレにくい」という言い分は、この論理と同じ形をしています。理屈としては筋が通っています。

天然の川では、1回ではスレませんでした

ここで、日本の研究が入ります。

坪井潤一氏らが2002年に報告したイワナの調査は、北海道南部の4つの天然河川で行われました。

釣ったイワナと、電気漁法で捕まえたイワナを比べています。釣ったほうが「釣獲経験あり」、電気漁法のほうが対照です。全個体にタグを付けて放し、約50日後に釣りと電気漁法で再捕獲しました

釣り餌は市販の養殖ブドウムシ。針は渓流9号。釣獲個体282尾、対照376尾

結果です。

  • 針を飲まれて数分以内に死んだのは282尾中19尾。死亡率6.7%
  • 成長率に有意差なし
  • 再捕率は釣獲個体78%、対照74%。生残に差なし
  • 釣られやすさは、1回の釣獲経験に影響されなかった
  • 大型個体と、成長率の高い個体のほうが釣られやすかった

論文はこう結んでいます。釣られた個体は釣り針を学習するため釣られにくくなるという説、および釣られた個体はもともと釣られやすい個体であるため二回目も釣られやすいという説の、どちらとも異なる結果である

天然の川で、生き餌で、1回釣られただけでは、スレませんでした。Beukema のパイクが生き餌でスレなかったことと、向きが揃っています。

ただし論文は注意も添えています。多数回の釣獲経験がある場合には、学習の効果がみられる可能性もある

スレるかどうかは、魚の空腹度で変わりました

この記事でいちばん意外だったのが、これです

米山兼二郎氏らが1996年に報告したニジマスの実験は、絶食期間だけを変えて、学習が成立するかどうかを比べています

  • K群は入手直前まで給餌されていた個体。実験前の絶食は3日
  • Y群は入手7日前から絶食されていた個体。実験前の絶食は10日

同じ養魚場、同じ系統、全長177〜240mm。違うのは、どれだけ腹が減っているかだけです

釣獲と放流を繰り返し、どの試行で釣れたかを鰭の切除で記録して、統計的に判定しました。

釣られ易さの個体差釣り針の回避学習
K群 (絶食3日)あった成立しにくい
Y群 (絶食10日)なかった成立した

空腹だと、学習が成立します。満腹寄りだと、成立しません

論文の解釈はこうです。釣られにくい個体が、強い空腹のために警戒行動が薄れて釣り餌に食いつくようになり、結果的に群内の釣られ易さの個体差が消失した

言い換えると、満腹寄りのときは、慎重な個体はそもそも食いません。食わないので、釣られる経験もしません。釣られやすい個体だけが繰り返し釣られます

空腹のときは、慎重な個体も食います。そして全員が釣られる経験をして、全員が学習します。

今日はスレている」という感覚は、魚の空腹度によって、まったく違う中身を指している可能性があります

食欲は落ちていません。避けているのは特定の手がかりです

同じ実験から、もう2つ分かります。

1つめ。食欲は落ちていません。釣獲実験のあとにペレット餌料を投げたところ、釣獲経験の回数によらず、平均摂餌量に差はありませんでした。何度釣られた個体も、同じように食べています。

これは叩かれた場所の記事で紹介したマダイの研究と同じ結論です。別の魚種、別の研究室、20年以上離れた研究が、同じことを示しています。

2つめ。視覚で識別しています。論文はこう観察しています。投与餌には全個体がほぼ等しい活発な摂餌反応を示すのに、釣り餌には鈍い反応を示す個体がいた。釣られにくい個体は、釣り餌の直前でそれを回避した

接近して、触れる前に避けています。ニジマスは釣り餌を視覚によって好ましくない餌として学習するのだろう、と論文は書いています。

学習は9日半以上保たれる可能性があるとも報告されています。さらに孫引きになりますが、1回の釣獲経験でコイは1年以上、クロダイは8か月以上釣られにくくなるという記述もあります。

一方で、養殖されたティラピアのように、釣獲を経験しても釣り針を学習しない魚種もいるとされています。

では、何を手がかりに覚えているのか

ここまでで、魚が覚えている手がかりとして名前が挙がったものを並べます。

手がかり出どころ確からしさ
見た目米山ら1996 (ニジマス)査読論文で観察されている
ラインが付いていることマダイの回避学習の研究査読前の報告
Cole ら (未公表、Arlinghaus ら2017が引用)未公表データ
動き見つからなかった

動きを手がかりに覚えたという報告は、見つけられませんでした

これは「動きでは覚えない」という意味ではありません。調べられていない、という意味です

「スレる」は、2つの別物を指しています

もうひとつ、整理しておきたいことがあります。

釣り人が「スレる」と呼んでいるものには、少なくとも2つの仕組みが混ざっています。そして、この2つは強い刺激に対して逆の予測を出します

「スレる」の中身仕組み強い刺激だとどうなるか
釣られた経験による回避学習目立つ手がかりほど、危険と結びつけやすい速くスレる
繰り返しによる順応弱い刺激ほど、早く無視されるようになる遅くスレる

このサイトでも、2つを分けずに書いてきましたリアクションバイトの記事で扱ったのは順応、叩かれた場所の記事で扱ったのは回避学習です。

どちらの仕組みが効いているかで、答えが逆になります。そして、どちらが効いているかは分かりません。

交絡が大きすぎます

仮に「ウォブリングのほうが釣れなくなる」という観察が正しいとしても、説明は他にもあります。

1つめ。使用者が多いだけかもしれません叩かれた場所の記事に書いたとおり、シーバスではウォブリング系が多数派です。同じ数だけ投げれば同じようにスレるものが、投げられている数が違うだけという可能性があります。

2つめ。そもそも寄せる力が違います。弱い動きのルアーは、遠くの魚を反応させる力が小さい。バイトが少ないことを「スレていない」と読むことはできません

3つめ。使う場面が違います。シンペンは食わせの局面で投入されることが多く、投入されるタイミングそのものが選ばれています

4つめ。分母を数えていません「良く釣れるルアー」の正体に書いた問題です。「スレた」という判断は、たいてい投数を数えずに下されています

そもそも、学習ですらない部分があります

無視できない数字があります

バルト海南部の沿岸で、部分的に保護された区域と釣りが自由な区域を比べた2024年の調査によれば、保護区のパイクは開放区の2〜4倍の密度で、釣りの少ない区域のほうがルアーに積極的でした。

ただし、釣獲率の差のうち「ルアー警戒」で説明できたのは、およそ3分の1です

残りの3分の2は、単に魚が少なかったということです。これはルアーの動きとは無関係です。

それで、どうするか

スレやすさの順位は分かりませんでした

それでも、実践の指針は変わりません。叩かれた場所の記事に書いた「その場所で多数派になっている刺激から外す」は、順位を知らなくても成り立ちます。どちらがスレやすいかではなく、その場所で何が多数派かで決めればいいからです。

そのうえで、この記事を書いて考えが変わったことが2つあります。

1つめ。魚の空腹度を、スレとセットで考えるようになりました。米山らの実験が示したのは、同じ「釣れない」でも、中身が2通りあるということです。満腹寄りなら、慎重な個体が最初から食っていないだけ。空腹なら、全員が食って全員が学んだあと。前者なら、時間を置けば同じ魚が食います。後者なら、同じ手は通じません

2つめ。「時間と場所」の重みです。Arlinghaus らの結論は、ルアーの種類より投じた時間と場所選びのほうが大きいというものでした。ルアーの選択に費やす思考時間には、上限を決めたほうがよさそうです

分かっていないこと

ウォブリングとローリングを比べた研究は、ありません。この記事で紹介したのは、スピナーと生き餌、スプーンとソフトプラスチックという、はるかに粗い比較です。材質・音・光り方・沈下速度・フックの数が同時に違っています

大きく違うものを比べて差が出たことは、小さく違うものでも差が出る根拠になりません

シンキングペンシルの研究は、動きについても学習についても見つかりません

Beukema 1970 と Arlinghaus ら2017 は、抄録と論文の前半しか読めていません。どちらも購読が必要で、結果の詳細と統計処理は確認していません。

Cole らの研究は未公表データです。論文にはなっていません。孫引きの孫引きです。

対象魚がすべて違います。パイク、イワナ、ニジマス、フナ、マダイ、オオクチバス。シーバスの研究は1本もありません

そして、坪井らと米山らは逆の結果を出しています。天然のイワナは1回ではスレず、養魚場のニジマスは1回でスレました。天然か養殖か、河川か実験池か、期間が50日か数日か。どれが効いているのかは分かりません

スレる」の2つの仕組みのうち、どちらがどれだけ効いているかも分かりません。順応と回避学習を切り分けた研究は見つけていません。

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使ったもの・参考文献