ロストした釣具はどうなるのか

根掛かりで切れたルアーは、そのあとどうなるのか。フックは数年で消えます。ボディとラインは消えません。素材ごとに何が起きるのかを調べ、量の資料も探しました。釣りの負の側面を考えるための材料です。

釣具店にいると時間を忘れます。棚を眺めているだけで楽しい。ただ、ここ最近その楽しさが素直でなくなってきました。この棚に並んでいるルアーのいくらかは、いずれ水の中に置き去りにされると思うからです。

もちろん私も根掛かりでロストしています。釣りに限った話ではないですが、自然を愛しているが故に自然を破壊しているという強烈な皮肉です。いっそ釣りをやめようかと考えたこともあります(残念なことに何事も100%全力で楽しめない性格なのです…)。

その気持ちを抱えたまま、素直に負の側面を調べました。

調べて書いた記事です。 自分で沈めたルアーを回収して観察したわけではありません。公開されている資料から、素材ごとに何が起きるのかを整理し、量に関する調査を探したものです。

先に言っておくと、この記事に救いはあまりありません。 ただ、考える材料を提供するのみです。

ロストで残るものを、素材ごとに分ける

ルアー1個を根掛かりで失うとき、水に残るものは1つではありません。

残るもの主な素材
ボディABS樹脂などのプラスチック。ハンドメイドなら木と塗料
リップポリカーボネートなどのプラスチック
ウエイト鉛、またはタングステン
フック鋼線。多くはメッキや塗装がされている
スプリットリング・ラインアイステンレスなど
ラインナイロン、フロロカーボン、ポリエチレン(PE)

素材ごとに、この先の運命がまったく違います。 まとめて「ごみ」と呼ぶと見えなくなるので、分けて追います。

短期:数年で消えるものと、消えないもの

フックは、数年で消える可能性があります

金属のうち、いちばん早くなくなるのはフックです。

海水中の鋼がどれくらいの速さで腐食するかは、資料があります。日本製鉄の技術情報によれば、海水中における鋼の1年あたりの腐食侵食度は0.06〜0.17mmの範囲で、平均0.12mm/年とされています。

フックの線径を仮に置いて計算します。表面から均等に減っていくとすると、半径ぶんが削られた時点で線はなくなります。

フックの線径(mm、仮に置いた値)線が消えるまでの年数(半径 ÷ 0.12mm/年で計算)
0.52.1
0.83.3
1.04.2

数年です。 ただし、これは単純化しすぎています。

年数を長くする方向の要因があります。フックの多くはメッキや塗装がされていて、それが残っているあいだは腐食が始まりません。また、海底の泥に埋まると酸素が届かなくなり、腐食は大きく遅くなります。淡水と海水でも速度が違います。

年数を短くする方向の要因もあります。同じ資料は、孔食(部分的に深く進む腐食)の侵食度は平均の数倍から十数倍に達するとしています。全体が消える前に、一点が細くなって折れるということです。魚に刺さる力を失うのは、線が消えるよりずっと早いと考えられます。

いずれにしても、フックはいつかはなくなるものの側にあります。

ボディとラインは、消えません

問題はこちらです。

ナイロン製の釣り糸が自然に分解されるまでの時間について、笹川平和財団の論考は、アメリカ海洋大気庁(NOAA)の資料を引いて600年以上と推定されるとしています。プラスチックの中でも特に長い部類だ、と。

600年という数字は実験で確かめられたものではなく、推定です。それでも、私たちが生きているあいだに消えないことは確かです。

ABS樹脂のボディも同じです。分解はしません。砕けて小さくなるだけです。

短期でいちばん危ないのは、絡まることです

素材が何年で消えるかという話より先に、もっと早く起きることがあります。

日本鳥類保護連盟はテグス(釣り糸)被害のページで、何が起きるかを説明しています。放置された釣り糸に野鳥が絡まると、丈夫すぎて鳥自身の力では切ることも外すこともできない。翼や足に絡まれば締め付けられて血流が止まり、その部分が壊死することもある。くちばしに絡まれば餌を食べられずに衰弱する。長い糸を引きずったまま飛んで、電線や樹木に引っかかって死ぬ例も確認されている、と。

日本野鳥の会は実際の被害報告を集めて公開しています。読むと具体的です。ルアー1個が水掻きと翼の2か所に引っかかって翼を広げることも歩くこともできなくなった鳥が救助され、翌日に死亡した。海岸のごみ拾い中に見つかったユリカモメは、片翼だけの状態で、そこにルアーの針とラインが食い込んでいた。

これは分解年数とは別の時間軸です。 数日から数週間で起きる可能性があります。

長期:数十年から数百年

ボディとラインは、消える代わりに小さくなっていきます

紫外線と波と摩擦で砕けて、やがてマイクロプラスチックと呼ばれる粒子になります。荒川クリーンエイド・フォーラムの解説も、釣具について同じ経路を挙げています。

鉛のウエイトは、また別です。 金属なので砕けてマイクロプラスチックにはなりませんが、消えるわけでもありません。水底に残り続けます。

鉛については、規制の動きがあります。欧州化学物質庁(ECHA)は2021年、狩猟用の弾丸と釣り用の錘・ルアーの鉛についてEU全体の使用制限を提案しました。国立環境研究所の環境展望台によれば、提案の中身は、釣り用の錘とルアーの鉛は50g以下で3年、50gを超えるもので5年の移行期間を経て禁止するというものです。

その理由として挙げられている数字が大きい。EICネットの記事によれば、ECHAは年間1億2700万羽以上の鳥類が鉛中毒のリスクにさらされているとし、規制が導入されれば環境中に放出される鉛が20年間で約170万トン減少すると試算しています。

この数字の大半は狩猟用の弾丸ぶんで、釣具がどれだけを占めるのかは、私が見た資料からは分けられませんでした。 ただ、釣り用の錘とルアーが規制の対象に名指しで入っていることは事実です。

日本でも釣り用の鉛に同様の規制があるのかは、確認できませんでした。「ない」と断定はできません。調べた範囲では見つからなかった、というだけです。

では、ごみの量はどれくらいなのか

ここがいちばん知りたかったところです。そして、いちばんはっきりしなかったところでもあります。

国の調査で「釣具」が数えられ始めたのは2023年から

環境省は全国の海岸で漂着ごみの組成調査をしています。令和5年度の取りまとめによれば、39都道府県・76地点で調査され、人工物の総回収量は87,725個・7,852kgでした。

そのうちプラスチックが個数で93%、重量で72%を占めます。さらに、漁具など海から来たものが個数で47%、重量で44%でした

注目したいのは、この調査で「釣具」が独立した品目になったのが令和5年(2023年)からだという点です。それ以前は漁具とまとめられていました。同資料も、比較ができないため令和4年ぶんは「その他の漁具・釣具」として統合して集計した、と書いています。

つまり、釣具が単独でどれだけ落ちているのかを国が数え始めたのは、ごく最近です。

数え始めた結果、釣具は上位に入っていません

令和5年度の数字を見ると、プラスチックごみ81,341個のうち、「その他の釣具」は上位20品目に入っていません。20位の品目が618個(0.8%)なので、それ未満ということになります。

上位を占めているのは別のものでした。

順位品目(プラスチックのみ、個数、令和5年度・76地点)全プラスチック個数に占める割合
1カキ養殖用まめ管(漁具)15,59419.2%
2カキ養殖用パイプ(漁具)11,08413.6%
3プラ製ロープ・ひも(漁具)10,12912.5%
4ボトルのキャップ、ふた9,69811.9%
5飲料用ペットボトル(1L未満)6,4307.9%

釣具は、海岸に流れ着くごみの主役ではありません。 主役は養殖資材とロープとペットボトルです。

ただし、この数字をそのまま「だから釣具は問題ない」と読むのは間違いです。 理由が3つあります。

理由1:沈んだルアーは海岸に来ません。 漂着ごみ調査は、浜に打ち上がったものを数えます。根掛かりで水底に残ったシンキングルアーやメタルジグや鉛のオモリは、浮かないので浜に上がりません。この調査は、ロストしたルアーの行方を測る道具として適していません。

理由2:内訳が分かりません。 大分類の「釣具」は「釣りのルアー、浮き」「釣り糸」「その他の釣具」の3つに分かれますが、この3つはオプション項目で、すべての地点が記録しているわけではありません。ランキングに出てくるのはそのうちの1つです。釣具全体でいくつだったのかは、公表資料からは読み取れませんでした。

理由3:重さで割ると小さく見えます。 ルアー1個は20g前後です。漁網1枚やロープと比べれば軽い。重量比で小さいことと、生き物への影響が小さいことは別です。 フック付きのルアー1個が鳥1羽を殺す事例は、上で見たとおり報告されています。

世界の推計にも、大きな穴があります

漁具全体については、国際的な推計があります。同じ笹川平和財団の論考が紹介しているタスマニア大学のRichardsonらのメタ分析(2019年)によれば、漁網の5.7%、トラップの8.6%、釣り糸の29%が流失していると推定されています。

29%という数字は目を引きますが、これは漁業で使われる釣り糸(延縄など)の話で、レジャーの釣りの数字ではありません。 そのまま自分に当てはめることはできません。

そしてこの論文には、もう一つ重要な指摘があります。同じ論考によれば、過去の調査研究は欧州と北米に集中していて、日本で行われた研究は1件もなかったとのことです。

分からない、というのが現状です。

釣り人が拾った量なら、記録があります

数少ない実測が、日本鳥類保護連盟の「全国一斉テグス拾い」です。2025年の結果報告によれば、9地点・156名が参加し、回収したテグスの総量は567gでした。同連盟の換算では7,377mにあたります。

参加者1人あたりにすると、約47mです。

同報告には、テグス以外にルアー、ワーム、おもり、釣竿も回収されたと書かれています。また、ごみと一緒に回収したため分別できなかった事例や、手が届かず回収できなかった事例も報告されている、と。

156人が水辺を歩いて、7km分の釣り糸が落ちていた。 これが、私が見つけられたなかでいちばん実感に近い数字でした。

生分解性は、救いになるのか

なりません。少なくとも、期待するほどには。

これは私の意見ではなく、鳥を守る側の指摘です。日本鳥類保護連盟の同じページに、こう書かれています。数か月で分解される素材のテグスも開発されていて、根掛かりや枝がかりで回収できない場合には有効である。ただし、テグスが絡まったまま何か月も生き延びられる野鳥はほとんどいない、と。

分解に数か月かかる素材は、数日で死ぬ鳥を救いません。 素材の問題と、絡まりの問題は、時間の尺度が違うのです。

素材の側の動きが無意味だというわけではありません。値段の記事で触れたとおり、ダイソーは植物由来の酢酸セルロース樹脂を使ったルアーを出しています。ロストによる海洋ごみ問題への対応を理由として掲げた製品です。長期のマイクロプラスチック化に対しては意味があります。

ただ、短期の絡まりには効きません。 そこは分けて考える必要があります。

同じページには、もう一つ具体的な提案があります。バーブレスフック(返しのない針)を使えば、万一鳥が掛かった場合でも外れる可能性が高まる、と。

それで、釣りはやめるべきなのか

ここからは調べたことではなく、私が考えたことです。資料に基づく話ではありません。

まず、はっきりさせておきたいことがあります。やめれば、自分がロストする量はゼロになります。 これは間違いのない事実です。「釣り人がいなくなると自然を見る目が減るから、続けたほうがいい」という言い方を聞くことがありますが、そういう効果があるという測定を、私は見つけられませんでした。 自分に都合のいい理屈は、証拠がないうちは理屈として扱わないことにします。

そのうえで、私は続けることにしました。理由は2つです。

1つめ。 やるかやめるかの二択にすると、そのあいだにある幅がまるごと見えなくなります。 同じ回数釣りに行っても、失う量は何倍も変わります。あとで書きますが、そこには自分で動かせる余地があります。二択で考えると、その余地を使わないまま終わります。

2つめ。 この苦しさは、正しい反応だと思うからです。楽しさと加害が同じ場所にあるという事実に、無理やり折り合いをつけないほうがいい。 釣具店で素直に楽しめなくなったのは、事実に気づいたからです。気づく前に戻る方法はありませんし、戻る必要もないと思っています。

ただし、これは私の場合であって、正解ではありません。 やめるという判断も、同じくらい筋が通っています。

自分で動かせる部分

最後に、実際に効きそうなことを、効き方の大きさが分かるものから並べます。

ラインを残さない。 ルアーを失うとき、一緒に残るラインの長さは自分で決められる部分があります。結束が弱くて高切れすれば数十mが残り、リーダーの結び目で切れれば1m前後で済みます。残る量が数十倍違います。私の場合はラインシステムの各箇所での強度を一度測定し、それに基づいてラインの太さやノットの種類を決めており、ルアーがロストする際はスナップの結び目で切れるようにしています。 上で見たとおり、鳥にとっていちばん危ないのは糸です。定期的に巻き替えて、ラインの傷を点検する。これがいちばん効果の大きい行動だと考えています。

根掛かりを減らす。 失う個数そのものを減らす方向です。底の形が分からない場所で底を舐めない、レンジを上げる、といった判断で減ります。どれだけ減るかは、場所と釣り方によります。

回収を試みる。 ルアーリトリーバーで取り返せることがあります。取り返せれば、水に残るものはゼロになります。

バーブレスフックを使う。 上に書いたとおり、鳥類保護連盟が挙げている方法です。魚のバラシが増えるという代償はあります。

古いラインを持ち帰って、回収に出す。 使用済みの釣り糸を回収してアップサイクルする取り組みが出てきています。2026年4月には、回収した釣り糸を対馬の漂着ごみと混ぜてカラビナにする製品が販売されました。捨て方の選択肢は増えています。

落ちているものを拾う。 テグス拾いのような活動があります。自分が落とした量と、拾った量は別々の数字であって、差し引きゼロにはなりません。それでも、拾った分だけ水辺から減ります。

まとめ

素材ごとに時間の尺度がまったく違いました。

残るものどうなるか時間の尺度
フック腐食して消える。ただし刺さる力を失うのはもっと早い数年(線径0.8mmで約3.3年の計算)
ボディ・リップ分解せず、砕けてマイクロプラスチックになる数十年から数百年
ライン分解しない。NOAAの推定では600年以上数百年
鉛のウエイト消えない。水底に残る事実上、永久
絡まりによる被害鳥が動けなくなる、餌が食べられなくなる数日から数週間

いちばん短い時間で起きるのが、いちばん取り返しのつかないことでした。 600年より、数日のほうが重いということです。

量については、正直に言えば分かりませんでした。海岸のごみとしては釣具は主役ではなく、しかし沈んだルアーは海岸の調査では数えられません。 日本での研究は見つかりませんでした。国が釣具を独立した品目として数え始めたのは2023年からです。

釣具店で素直に楽しめなくなったことについては、そのままでいいと思っています。楽しいことの一部が誰かに負担をかけているという居心地の悪さは、消すべきものではなく、持っておくものだと考えています。

確かめられていないこと

自分でロストしたルアーを追跡したわけではありません。 この記事の内容は、すべて公開資料からの整理です。

フックが消えるまでの年数は、私の計算です。 使ったのは鋼一般の海水中の腐食速度で、フックの線径は仮に置いた値です。メッキの有無、泥への埋没、淡水か海水か、孔食の起こり方によって、実際には大きく変わります。桁の感覚をつかむためのものとして読んでください。

釣り糸600年という数字は推定です。 実験で確かめられたものではありません。引用元は笹川平和財団の論考が引くNOAAの資料です。

釣具が海洋ごみに占める割合は分かりませんでした。 環境省の漂着ごみ調査は海岸に打ち上がったものを数える方法なので、沈んだ釣具は入りません。海底ごみの調査で釣具がどう扱われているかは調べていません。

「釣り糸の29%が流失」は漁業の数字です。 レジャーの釣りには当てはめられません。

日本の釣り人が年間どれだけロストしているかの推計は、見つけられませんでした。 私が探した範囲では存在しません。

日本に釣り用の鉛の規制があるかどうかは確認できていません。 見つけられなかっただけで、ないと断定はできません。

タングステンのウエイトが環境中でどうなるかは調べていません。 鉛の代わりに使われていますが、その毒性や挙動については扱えていません。

続けて読むなら

使ったもの・参考文献