似たルアーが並ぶのはなぜか:守れるもの、守れないもの
見た目もコンセプトも動きも似たルアーが並んでいます。真似が野放しなのかというと、そうではありません。制度が守る範囲がもともと狭いだけです。何が守れて何が守れないのかを調べました。
重心移動の特許を調べた記事で、重心移動システムの原典が1986年出願の実用新案だったことを確認しました。内部の機構は、権利で守ることができます。
では、それ以外はどうでしょうか。見た目、コンセプト、泳ぎ方。 店に並ぶルアーを見ると、この3つが似ているものがいくつもあります。真似が野放しなのかというと、そうではありません。制度が守る範囲が、もともと狭いのです。
調べて書いた記事です。私は法律の専門家ではないので、制度の枠組みと、公開されている解説の内容を紹介するにとどめます。個別の製品が権利を侵害しているかどうかの判断はしません。
4つの制度が、別々のものを守っています
まず全体像です。
| 守るもの | 制度 | 期間 | 登録 |
|---|---|---|---|
| 内部の仕組み | 特許・実用新案 | 特許は出願から20年 | 必要 |
| 見た目 | 意匠権 | 出願から25年 | 必要 |
| そっくりな模倣 | 不正競争防止法 | 発売から3年 | 不要 |
| 名前・ロゴ | 商標権 | 更新すれば無期限 | 必要 |
重心移動の特許を調べた記事で扱った重心移動システムは、1段目です。ボディの中で錘が動くという構造を権利にしました。
問題は、泳ぎ方を守る欄がないことです。
動きは、そもそも保護の対象外です
ウォブリング、ローリング、S字スラローム。ルアーの泳ぎ方には名前が付いていますが、これらを権利にすることはできません。
特許や実用新案が守るのは構造です。泳ぎ方は、リップの角度と重心の位置と浮力の組み合わせから生まれる結果であって、それ自体は発明ではありません。
不正競争防止法についても、裁判所が同じ趣旨を述べています。ある判決は、この規定について商品としての機能や効用をもたらすアイデアそのものを保護するものではないとし、機能と不可避的に結びついた部分で形が共通していても、それだけでは模倣とは言えないとしました。
つまり、同じ動きを出すために似た形になった部分は、法律上は真似されても仕方がないということです。
これは考えてみれば当然でもあります。ある形でしか出せない動きがあるとして、その形を独占できてしまうと、他社はその動きを一切作れなくなります。制度はそこまでは認めていません。
見た目にも、高いハードルがあります
見た目を守るのは意匠権です。ただし登録が必要で、新規性と、容易に創作できないことが求められます。
ルアーの多くは小魚を模しています。小魚の形は自然界にあるもので、誰でも思いつく。ミノーの形を少し変えただけでは、創作が容易だと判断される可能性があります。
さらに、意匠権には範囲が狭いという弱点があります。ある解説は、少しでもデザインが変わると類似の範囲から外れてしまうリスクがあると指摘しています。少し変えれば回避できてしまう、ということです。
登録までに半年から1年程度の時間と費用がかかることも挙げられています。製品の入れ替わりが速い分野では、登録が間に合わないこともあります。
登録なしで使える制度は、3年で切れます
意匠登録がなくても使える制度があります。不正競争防止法2条1項3号です。
他人の商品の形を模倣した商品を売る行為が不正競争とされ、差止めと損害賠償を請求できます。登録の手続きがいらないので、発売直後から使えます。
ただし期限があります。
不競法2条1項3号による商品の形態の保護は、「日本国内において最初に販売された日から起算して3年を経過した商品」については及びません
3年です。この趣旨について、先行者が投じた費用を回収するために必要な期間に限られる、という説明がされています。先に開発した人が投資を回収する時間は確保するが、それ以上は独占させないという考え方です。
3年を過ぎると、他の権利がない限り、そのデザインは誰でも使えるようになります。
適用にも条件があります。特許庁の解説や弁護士の解説によれば、対象はそっくりそのままの模倣です。加えて、機能を確保するために不可欠な形態は除かれます。この除外がある理由も説明されています。機能に不可欠な形を独占させると、他社が事実上その市場に参入できなくなるためです。
実際に起きること
人気の出たルアーによく似た安価な製品が別のメーカーから出て、話題になることがあります。ここまでの整理を当てはめると、論点は次のようになります。
発売から3年が過ぎているか。 過ぎていれば、登録なしで使える制度は適用されません。人気が出て模倣が現れるまでには時間がかかることが多いので、この時点で外れる場合があります。
形が実質的に同一か。 寸法や細部が違えば、そっくりそのままの模倣にはあたりません。実際、似ていると言われる製品どうしを詳しく比べると、頭部の形状や部品の有無が違っていた、という検証がしばしば見られます。
共通している部分が機能由来か。 錘に軟質の疑似餌を組み合わせて水を受けさせる、といった構成は、機能から決まる部分が大きくなります。この部分の共通性は、判決の考え方によれば模倣の根拠になりません。
意匠登録があるか。 意匠登録がされていて、その権利がまだ切れておらず、かつ相手の製品が類似の範囲に入る。この3つがそろえば、3年を過ぎていても差止めを求められます。ただし前述のとおり、意匠権の類似範囲は狭くなりがちです。
名前を使っているか。 商標は別の制度です。同じ名前を使えば商標権の問題になりますが、違う名前で売れば、この点では衝突しません。
これらを合わせると、制度上は問題にしにくい形になりやすいということが分かります。
つまり、どういうことか
守られていないのではなく、守れる範囲がもともと狭いのです。
| 守れるか | |
|---|---|
| 内部の仕組み | 守れる。ただし新規性が必要 |
| 見た目 | 守れる。ただし登録が必要で、範囲は狭い |
| そっくりな模倣 | 守れる。ただし3年 |
| コンセプト | 守れない |
| 泳ぎ方 | 守れない |
重心移動システムが例外的だったのは、新しい機構を作ったからです。動きでもコンセプトでもなく、内部の構造だった。だから実用新案で15年守れました。
逆に言えば、動きやコンセプトで勝負するメーカーは、制度に守られない場所で戦っていることになります。重心移動の特許を調べた記事で、小規模メーカーがアクションなどで勝負するのは自然な選択だと書きました。その領域は、真似されても法的には対抗しにくい場所です。
そこで取れる手は、限られます。ブランドを育てて商標で守るか、次を出し続けて先行し続けるか。制度の側から支えてもらえる部分は、多くありません。
確かめられていないこと
私は法律の専門家ではありません。 この記事は、公開されている解説と特許庁の説明を読んで整理したものです。個別の事例がどう判断されるかは、裁判所が決めることです。
ルアーの意匠登録がどれくらいあるかは調べていません。 登録されている例があるのか、どういう形状のものが登録されているのかは確認していません。
ルアーに関する裁判例も調べていません。 引用した判決は、ルアーではなく別の商品についてのものです。
続けて読むなら
- 重心移動の権利と独自性— 内部の機構の側。原典は1986年の実用新案で、2001年に満了していました
- 同じような形なのに、なぜ値段が10倍も違うのか— 真似ができる状況で、値段の差はどこから来るのか
- ロストした釣具はどうなるのか— 作られたルアーが、水中に残ったあとどうなるか
- 「良く釣れるルアー」の正体— 似たルアーのどれが良いかを、自分の釣果で決められない理由
使ったもの・参考文献
- Q9. デッドコピー商品への対策(特許庁)— 不正競争防止法による対策と期間
- 不競法における商品形態の模倣とは(契約ウォッチ)— 3年の期間制限と、その趣旨
- 商品形態模倣行為(弁護士法人クラフトマン)— 機能に不可欠な形態の除外と、その理由を述べた裁判例
- 商品形態模倣に該当する場合とは(BUSINESS LAWYERS)— 適用の要件
- デッドコピーからプロダクトを守る3年間の盾— 意匠登録にかかる時間と、範囲の狭さ