自然界にない色に、なぜ魚は食ってくるのか
白いザリガニのニュースを読んで引っかかりました。自然界に珍しい色なら、捕食者は餌だと分からないはずではないか。調べたら、動物は餌の全体像を見ていませんでした。レッドヘッドやチャートに食ってくる理由も、同じ話につながります。
白いアメリカザリガニが岡山市の用水路で見つかった、というニュースを読みました。山陽新聞デジタルの記事です。5歳の子が父親との散歩中に見つけて捕まえ、科学館に寄贈した。同じ市内では6月に青いザリガニも見つかっていて、赤・青・白の3色がそろったとのことです。
引っかかったのは、専門家のコメントでした。岡山大学の中田和義教授(保全生態学)によれば、遺伝的な変異で生まれつき色素が少ない可能性が高く、白色は目立つので捕食されやすく、自然界で見られるのは珍しいとのことです。
読んでいて、疑問が2つ浮かびました。
1つめ。自然界に珍しい色なら、捕食者はそれを餌だと分からないのではないか。 見たことがないものを食べようとするでしょうか。
2つめ。ルアーにはレッドヘッドやチャートなど、自然界にありえない色があります。 それでもシーバスは食ってきます。なぜでしょうか。
この2つは、同じ話の裏表でした。
調べて書いた記事です。 水中で観察したわけでも実験したわけでもありません。動物行動学と魚類の視覚についての公開資料を読んで、疑問に対する説明を組み立てたものです。組み立ての部分は私の考えなので、どこが資料でどこが私の考えかを分けて書きます。
疑問1:目立つことと、餌に見えることは別です
まず、私の疑問の前提が間違っていました。
捕食は1段階ではありません。 少なくとも2つに分かれます。
| 段階 | 何が起きるか | 主に効くもの |
|---|---|---|
| 検出 | そこに何かがいると気づく | 背景とのコントラスト、動き |
| 識別 | 食えるものかどうか判断する | 形、動き、大きさ |
白が効くのは、1段目です。 背景が泥や石なら、白は明るさが大きく違います。遠くから見つけやすい。
そして2段目に進んだとき、白いザリガニはやはりザリガニの形をしていて、ザリガニの動きをします。 色以外は変わっていません。
つまり「珍しい色だから餌と認識されない」のではありません。珍しい色だから先に見つかる。見つかったあとは、いつもどおりザリガニと判断されるということになります。中田教授のコメントは、この筋で理解できます。
私の疑問は、捕食者が「餌の完成形」を頭に持っていて、それと照合していると考えていたことから出ていました。そこが違いました。
動物は、餌の全体像を見ていません
ここが今回いちばん面白かったところです。
動物行動学には生得的解発機構という考え方があります。コトバンクの解説によれば、ローレンツが提唱し、ティンバーゲンが英語名を付けた概念です。生まれつきの行動が、比較的単純な視覚などの刺激で引き起こされるという仕組みを指します。
引き金になる刺激をリリーサーと呼びます。ポイントは、リリーサーが対象の全体像ではなく、その一部分だという点です。
有名な例が2つあります。
セグロカモメのヒナ。 親のくちばしの先にある赤い点をつついて餌をねだります。ところが、赤い点だけを描いた棒を見せると、ヒナは本物の親鳥よりも熱心につついたとされています。親の顔も体も関係なく、赤い点という信号だけに反応していたわけです。
イトヨ(トゲウオの一種)。 Wikipediaの解説によれば、繁殖期のオスは縄張りに侵入する他のオスを攻撃しますが、その引き金は相手の腹が赤いことです。楕円形の単純な模型でも、下側を赤く塗れば攻撃されます。
魚の形をしている必要すらありません。
これで疑問1の答えの形が見えます。捕食者は「白いザリガニを見たことがあるか」で判断していません。 いくつかの特徴に反応しているだけです。だから、色が違っても反応は起きます。
疑問2:自然界にない刺激のほうが、強く効くことがあります
ここから2つめの疑問に入ります。
さきほどのイトヨには続きがあります。腹だけが赤い模型より、全身が赤い模型のほうが強い攻撃を引き出します。 自然界には全身が赤いイトヨなどいないのに、です。
同じことがミヤコドリでも観察されています。この鳥は3個の卵を抱きますが、そばに5個まとめて置くとそちらに移ります。大きさが2倍、3倍というありえない卵を置くと、自分の本物の卵を無視してそちらを抱こうとします。
こういう刺激を超正常刺激と呼びます。東海学園大学の解説は、現実にありえない刺激によって、より強い反応が引き起こされることと説明しています。最大の反応を引き出す刺激は、現実にありうる範囲の外側に設定されている場合がある、と。
ルアーの派手なカラーは、この枠組みで説明できる可能性があります。 自然界にないから効かないのではなく、自然界にないからこそ強く効くという向きです。
ただし、これは可能性であって、実証ではありません。 ルアーカラーについて超正常刺激を検証した研究を、私は見つけられませんでした。
なぜ、そんな間違いが残っているのか
超正常刺激の話を読んで、次の疑問が出ました。ありえない刺激に強く反応してしまうのは、生き物にとって損ではないのか。 なぜ自然選択で消えていないのでしょうか。
これについて、示唆的な逸話があります。高校生物の解説記事によれば、ティンバーゲンの研究室では、窓際の水槽にいたイトヨが、外の道路を通る赤い車に向かって攻撃したという観察が伝わっています。
同じ記事が、そこに一言添えています。自然条件下でイトヨが生息する環境には赤い物がほぼないので、このような誤りは起こりにくい、と。
ここが答えだと思います。
自然界にない刺激への誤反応は、自然界にないからこそ、淘汰されません。 赤い車が池を横切ることがないなら、赤い車に突進する性質は生存に不利になりません。だから残ります。
つまり、こう言えます。「自然界にないから反応しないはずだ」という私の直感は、逆でした。自然界にないからこそ、反応してしまう余地が残っているのです。
同じ記事は、なぜ最も強い反応を引き出す刺激そのものが進化しなかったのかについても触れていて、信号として目立つ利点と、目立ちすぎて捕食者に見つかる不利益が拮抗しているという説があると紹介しています。分かっていないとも書かれています。
ここまでの整理
2つの疑問に、こう答えが付きました。
| 疑問 | 答えの形 |
|---|---|
| 自然界に珍しい白が、なぜ捕食される | 色が効くのは「見つける」段階。見つかったあとは形と動きで判断される |
| なぜ自然界にない色に食ってくる | 捕食者は全体像でなく一部の特徴に反応している。ありえない刺激がより強く効くこともある |
| なぜその誤反応が残っている | 自然界にない刺激への誤反応は、自然界にないので淘汰されない |
ここまでは、動物行動学一般の話です。 次に、シーバスと水中の話に移ります。
水の中では、そもそも色が違って見えます
ルアーカラーを考えるとき、陸上で見た色がそのまま水中の色ではないという点を先に置く必要があります。
水は光を波長ごとに違う強さで吸収します。Wikipediaの解説によれば、波長の長い成分から先に減衰します。赤、橙、黄が浅い部分で吸収され、青と紫がより深くまで届く。深い海が青く見えるのはこのためです。
ダイビングの解説はもっと直接的です。水中では青のフィルターを通して見ているのと同じで、真っ赤な鯛でも海の中では灰色がかって見える、と書かれています。
レッドヘッドの「赤」は、水中では赤くない可能性が高いということになります。
では、レッドヘッドは何として働いているのか。赤が暗く沈むなら、残るのは「頭が暗くて胴が明るい」という明暗の切れ目です。 色の対比ではなく、コントラストのパターンとして機能している、という読み方ができます。
これは私の解釈です。 レッドヘッドの効き方を調べた研究は見つけられませんでした。
魚の色覚は、種によって違います
そもそも魚に色が見えているのか、という点も確かめました。見えています。ただし、種によってかなり違います。
グローブライドが公開している研究者への取材記事に、具体例が挙がっています。網膜の細胞配列を調べる方法で分かることとして、こう書かれています。
- 浅い水深にいるメジナは紫外線が見える4色型
- もう少し深いところのイシダイは紫外線を見る細胞がなく3色型
- さらに深くなると緑と青しか届かないので2色型が多いと考えられる
- スケトウダラは緑だけの1色型
棲んでいる水深と水域に届く光に、色覚が対応しているという構図です。
シーバスがどの型なのかは、私は見つけられませんでした。 汽水域から海まで広く動き、浅いところにいる魚なので、届く光の範囲は広いはずですが、それは推測です。
ただし、色覚を持つこと自体は文献に書かれています。 岡本一・川村軍蔵・田中淑人 (2001)は、実験に使う魚の条件として専ら視覚に頼った行動をし、尚且つ色覚を有するスズキを選んだと書いていて、2本の文献を根拠に挙げています。同じ論文の考察には、スズキの分光感度のピークである463から494ナノメートル付近という記述もあります。青から青緑にあたる帯です。
この数字の出典は Tamura and Niwa (1967) とされていますが、原著と一致しません。本文を入手して確かめました。463〜494 nmは、この論文がL1型と呼んでいる応答の帯です。スズキではL1型は1件も記録されていません。スズキで記録された33件のうち28件はL2型で、その帯は525〜548 nm、緑にあたります。詳しくは魚は色をどう見ているのかに整理しました。
どちらの帯を採るにしても、型が何色型なのか、錐体が何種類あるのかは決まりません。
もう一つ、夜釣りをする者として外せない点があります。色を見る錐体細胞は、明るいところで働く細胞です。 暗くなれば働きません。夜のシーバス釣りで色がどう効くのかは、昼とは別の問題になります。 ここも私は調べきれていません。
チャートについて言えること、言えないこと
チャート(蛍光の黄緑)がなぜ効くと言われるのか。説明を組み立てることはできますが、裏付けは見つかりませんでした。
組み立てられる説明はこうです。水が長波長から吸収するなら、赤は早く消え、緑から黄の帯は比較的残ります。濁った水では届く光がさらに限られるので、残った帯で明るく光る色は、背景に対して目立ちやすい。
ただし、これは「見つかりやすい」の説明であって、「食ってくる」の説明ではありません。 上で見たとおり、検出と識別は別の段階です。チャートが検出を助けるとして、そのあと魚がなぜ口を使うのかは、また別の説明が要ります。
そして、この説明を検証した資料を私は持っていません。 ここは仮説として置いておきます。
スズキで色を比べた実験が見つかりました
チャートそのものではありませんが、スズキを使って擬餌の色を比べた実験があります。上で引いた岡本ら (2001) です。
スズキ10尾を屋外の水槽に入れ、背景色を白・赤・緑・青に変えながら、白・赤・緑・青・透明の5色の擬餌を同時に投入しています。食い付きの総数は525回でした。
結論はこうです。スズキが普遍的に選択する色を見つけることはできなかった。摂餌行動を誘発する背景色と擬餌色の普遍的な組み合わせは見出せなかった、と。
そのうえで、特定の水色における効果的な擬餌の色を見つけることは可能であろうと述べています。
つまり、どの水でも効く色はなかった。ただし水色ごとには決まりうる、という形です。
この記事が「チャートが効く」を仮説として置いたまま閉じたのは、正しかったことになります。 普遍的に効く色というものが、少なくともこの実験では見つかっていません。
ただしチャートは実験に入っていません。 使われたのは白・赤・緑・青・透明の5色です。蛍光色は含まれていません。
つまり、どういうことか
色は「餌に似ているか」で効いているのではなく、「見つかるか」で効いている可能性が高い。 これが調べた結果の私の理解です。
白いザリガニは、白いから餌に見えなくなるのではなく、白いから先に見つかります。ルアーの派手な色も、自然界にないから拒否されるのではなく、見つけやすい信号として働き、そのあとは形と動きが判断される。順番がそうなっているなら、2つの疑問は同じ答えを共有します。
ただし、ここから「だからカラーは効く」と言うことはできません。
「良く釣れるルアー」の正体で計算したとおり、2つのルアーの優劣を個人の釣行で見分けるのは、現実的に不可能でした。バイト率1.0%と1.5%の差を区別するだけで、2つ合わせて約15,500投が必要になります。カラーの差はおそらくもっと小さいので、必要な投数はさらに増えます。
「効く仕組みが説明できること」と、「実際に効いていること」は別です。 この記事でできたのは前者だけです。
それでも、収穫はありました。自然界にない色を使うことは、生き物の仕組みから見ておかしなことではないと分かりました。私は今まで、派手なカラーをどこか後ろめたく思っていました。魚をだます度合いが強い気がしていたからです。 実際には、レッドヘッドもチャートも、イワシに似せた精巧なカラーと同じ土俵にいます。どちらも「餌そのもの」ではなく、いくつかの信号を出しているだけです。
確かめられていないこと
ルアーカラーについての実験研究は見つけられませんでした。 この記事で使ったのは、動物行動学一般の概念(生得的解発機構、超正常刺激)と、水中の光の減衰と、魚類の色覚の一般論です。それをルアーに当てはめたのは私です。
シーバスの色覚の型は分かりません。 種ごとに違うことは資料にありますが、シーバスについての記載は見つけられませんでした。
夜間に色がどう効くかは調べていません。 錐体細胞が明るいところで働く細胞であること以上のことは扱えていません。
レッドヘッドが明暗のコントラストとして働いているという説明は、私の解釈です。 検証した資料はありません。
チャートの説明も仮説です。 濁った水で緑から黄が残りやすいという光学の話と、それが釣果につながるという話のあいだは埋まっていません。
イトヨが赤い車を攻撃したという逸話の一次資料には当たっていません。 高校生物の解説記事に紹介されていたものです。
白いザリガニが実際に捕食されやすいかどうかのデータは見ていません。 中田教授のコメントを引用しただけで、白い個体と通常個体の生存率を比べた調査は探していません。
引用したニュース記事は配信サイトのものです。 時間が経つと読めなくなる可能性があります。
続けて読むなら
- ルアーカラーは効くのか— 色を比べた研究3本と、色を替える行為そのものの効果。うち1本はスズキを使った水槽実験です
- 色が消える距離で、魚は何を頼りに餌を見つけているのか— 色が届かない距離では何が働いているか。視覚が効く範囲は1m前後でした
- 魚は色をどう見ているのか— シーバスが何色型かを見つけられなかった、と上に書きました。その続きです
- 派手な魚は、なぜ捕食されないのか— 目立つかどうかは、模様そのものではなく見る側の目の粗さと距離で決まる、という研究
- 結局どのカラーを選べばいいのか— 色の話の結論。計算できる性質だけで総当たりしました
- 水中カラーシミュレーター— 水深と距離と濁り方を決めると、その条件で色がどれだけ残るかを計算します
使ったもの・参考文献
- 岡本一・川村軍蔵・田中淑人「異なる背景色におけるスズキのルアー色の選択」(日本水産学会誌 67(3), 449-454, 2001)— スズキが色覚を有すること、背景色によって選ばれる擬餌の色が変わること、普遍的に効く色は見つからなかったこと。分光感度のピークを463から494ナノメートル付近とする記述もありますが、出典として挙げられている Tamura and Niwa (1967) の本文とは一致しません
- 白いザリガニ発見 遺伝的変異の可能性、岡山市の施設で展示(山陽新聞デジタル)— この記事のきっかけ。中田和義教授のコメント
- 生得的解発機構(コトバンク)— ローレンツとティンバーゲンによる概念の説明
- 超正常刺激(Wikipedia)— イトヨの赤い模型、ミヤコドリの巨大な卵
- 超正常刺激(東海学園大学)— 現実にありえない刺激がより強い反応を引き起こすという定義
- スマホがやめられないのは意志の問題じゃない(note)— セグロカモメのヒナと赤い点の実験
- 【高校生物】生物の生活②(note)— イトヨが赤い車を攻撃した逸話と、自然環境に赤い物がほぼないという指摘
- 減衰(Wikipedia)— 水中では波長の長い光から先に減衰すること
- ダイビング講座:光の吸収と散乱— 真っ赤な鯛が水中では灰色がかって見えること
- 魚たちは、私たちと同じ色を見ているのだろうか(グローブライド)— メジナ、イシダイ、スケトウダラの色覚型の違い