日本海はなぜ潮の満ち引きが小さいのか:出入口の海峡が、せまくて浅いから

日本海側の潮の満ち引きは、太平洋側の5分の1ほどしかありません。日本海と外の海をつなぐ4つの海峡が浅く、潮が出入りしにくいためです。瓶の口のような共振で計算すると、半日周期の潮は1割以下しか入りません。気象庁の潮位表から計算した全国の干満差で、海峡に近づくほど潮が大きくなる様子も確かめました。

この記事の見出し

日本海側の海では、潮の満ち引きがほとんど感じられない、とよく言われます。太平洋側で釣りをしている人が日本海側へ行くと、潮が引かないことに驚きます。

干満差ランキング:日本一は有明海。全国239地点を同じ基準で比べたでは、ほぼ同じ緯度の日本海側と太平洋側で、潮の動く速さに4〜5倍の差があることを確かめました。この記事では、その理由を確かめます。

調べて書いた記事で、地点ごとの干満差は、気象庁の潮位表から私が計算した値です。

先に結論を書きます

  1. 日本海側の干満差は、1日の平均で20センチ台です。大洗は104センチなので、4〜5分の1です
  2. 日本海は、4つの海峡だけで外の海とつながっています。その海峡はどれも浅く、いちばん深いところでも130メートルほどです。日本海の平均の深さ(約1700メートル)とは比べものになりません
  3. 海峡が浅いので、潮を起こすための大量の海水が、半日のうちに出入りできません。これが、干満差が小さい主な理由です
  4. 入口のせまい海は、潮を弱めます。瓶の口のような共振で計算すると、日本海の固有周期は2日以上になり、半日周期の潮は外の海の1割以下にしか入りません。潮位表でも、日本海の中の半日周期の潮は、対馬の南の1割ほどでした
  5. 海峡に近い場所ほど、干満差は大きくなります。対馬海峡に近い萩では56センチ、津軽海峡の函館では69センチでした

日本海側の干満差は、20センチ台

まず、どれくらい小さいのかを数字で見ます。干満差ランキングで、気象庁の潮位表(2026年)から全国239地点の1日の干満差の平均を計算しました。そのうち、日本海側の地点を北から並べます。

地点1日の干満差の平均 (cm)
稚内21.8
留萌20.7
小樽21.0
寿都18.5
深浦22.2
秋田22.9
新潟西港23.5
富山23.6
金沢23.8
敦賀23.5
舞鶴25.0
境21.8
(比べるための太平洋側)大洗103.7

北海道の北の端から山陰まで、1300キロ以上にわたって、どこも20センチ前後です。寿都の18.5センチは、全国239地点でいちばん小さい値でした。

日本海は、4つの海峡でしか外とつながっていない

海峡は、どれも浅い

日本海は、日本列島とユーラシア大陸に囲まれた海です。外の海とつながっているのは、4つの海峡だけです。

  • 間宮海峡:オホーツク海とつながる
  • 宗谷海峡:オホーツク海とつながる
  • 津軽海峡:太平洋とつながる
  • 対馬海峡:東シナ海とつながる

気象庁の日本海固有水の解説は、この4つの海峡の深さがいずれも200メートルより浅く、日本海は外の海との海水の入れかわりが表層に限られた、閉じた性質の強い海だとしています。

海洋化学者の蒲生俊敬氏の著書『日本海 その深層で起こっていること』を紹介した講談社の記事は、それぞれの海峡の深さを次のように挙げています。

海峡深さ (m)
間宮海峡約10
宗谷海峡約50
津軽海峡約130
対馬海峡約130
(比べるための)日本海の平均の深さ1,667

お風呂にたとえると

数字だけでは浅さがつかみにくいので、たとえてみます。

日本海を、深さ50センチの湯船だとします。平均の深さ1,667メートルを50センチに縮めると、同じ割合で、深さ130メートルの津軽海峡と対馬海峡は、湯船のふちに付いた深さ4センチのへこみになります。宗谷海峡は1.5センチ、間宮海峡は3ミリです。

深い湯船の、ふちのごく浅いところだけが、外とつながっている。日本海はそういう形をしています。

海峡が浅いと、なぜ潮が小さくなるのか

潮は、海水が流れ込んで起きる

潮が満ちるとき、その海の水面は上がります。水面が上がるには、どこかから海水が流れ込んでこなければなりません。潮が引くときは、逆に海水が出ていきます。

太平洋のような大きな海では、月と太陽の引く力で、海水が大きな波のように動き回っています。その波が海岸に寄せてきて、満ち引きになります。

日本海で満ち引きが起きるには、半日ごとに、日本海全体の水面を上げ下げするだけの海水が、海峡を通って出入りしなければなりません。

通り道が細すぎる

ところが、その通り道が細すぎます。同じ講談社の記事は、日本海の4つの海峡はどれも浅く、海水の通り道が小さいので、短い時間に大量の海水を通すことができない、その結果、潮による水面の上がり下がりがごく小さく抑えられてしまう、と説明しています。

対馬海峡を通るフェリーで流れを5年半測り続けた Takikawa ら (2005) も、海峡が浅くて幅がせまいために、潮の満ち引きで生まれる流れ(潮流)がとても強く、対馬暖流の流れに匹敵する、と書いています。せまい通り道を、潮のたびに海水が勢いよく行き来しているということです。

広い部屋の水を、細いストローで出し入れするようなものです。外の海が満ちて水面が上がっても、半日のうちにストローを通れる水の量は限られます。日本海の中の水面は、ほんの少ししか上がらないうちに、外の海は引き潮に変わってしまいます。

同じ紹介記事は、ある大潮の時期に、同じ青森県でも太平洋側の八戸では干満差が130センチあったのに、日本海側の深浦では20センチほどしか変わらなかった、という例を挙げています。

日本海の中で起きる潮も、小さい

もうひとつの理由もあります。

外から潮が入ってこないなら、日本海の中の海水に、月と太陽の力が直接はたらいて起きる潮はどうか。世界大百科事典の「潮汐」の項目は、日本海の潮はおもにこの、海水に直接はたらく力で起きていて、太平洋から伝わる潮の影響は少ない、としています。そして、日本海の大きさが小さいために、その潮差も小さい、と書いています。

月が海水を引く力は、地球全体で見て初めて大きな差になります。海が小さいと、その海の端と端で引かれ方の差が小さく、水面の傾きもわずかにしかなりません。湾の形が潮差を決めるで計算した、小さな湾ほど潮が増幅されにくいのと同じ考え方です。

入口のせまい海は、潮を弱める

湾の形が潮差を決めるでは、入口が広く開いた湾が、潮をどれだけ増幅するかを計算しました。日本海は、その反対側の極端な例です。入口がせまい入れ物は、潮を増幅するどころか、弱めてしまいます。ここからは、そのしくみを計算で確かめます。

瓶の口に息を吹きかけると鳴るしくみ

空き瓶の口に息を吹きかけると、ボーッと鳴ります。瓶の中の空気がばねになり、口のところの空気が重りになって、決まった周期で揺れるためです。この揺れを、ヘルムホルツ共振と呼びます。

日本海も、同じ形をしています。日本海の広い水面が瓶の中、海峡が瓶の口です。海峡の海水が重りになって、日本海全体の水面が上下する、決まった周期の揺れがあります。その固有周期は、おおよそ次の式で決まります。

固有周期 = 2π × √(日本海の面積 ÷ (重力加速度 × 海峡の断面積 ÷ 海峡の長さ))

海峡の断面積が小さく、長さが長いほど、固有周期は長くなります。

日本海の固有周期は、2日以上

式に入れる値は、次の資料から取りました。

値使った数字出典
日本海の面積約100万 km²国際深海科学掘削計画の資料
対馬海峡の幅・平均の深さ・長さ約180 km・約100 m・約330 kmTakikawa ら (2005)
津軽海峡の幅・深さ約20 km・約140 mKida ら (2016)
宗谷海峡の幅・深さ約40 km・約40 m同上

断面積は、幅 × 深さで見積もりました。対馬海峡が全体の8割を占めます。対馬海峡の寸法は、Kida ら (2016) では深さ約150 m・幅約150 kmと、少し違う値になっています。断面積にすると2割ほど大きくなりますが、固有周期は1割ほど短くなるだけで、結論は変わりません。津軽海峡と宗谷海峡の長さは、確かな値が見つからなかったので、50キロから100キロのあいだと仮に置きました。

計算すると、日本海の固有周期は47時間から56時間になりました。2日以上です。対馬海峡だけで計算すると75時間です。

固有周期より速く揺すると、ほとんど揺れない

ここで、湾の形が潮差を決めるで見た共振の性質を思い出してください。揺すられる周期が固有周期に近いと、揺れは大きくなります。

逆に、固有周期よりずっと速い周期で揺すると、入れ物はほとんど揺れません。重いブランコを、1秒に何回も小刻みに押しても揺れないのと同じです。

半日周期の潮(12.42時間)は、日本海の固有周期(2日以上)よりずっと速い揺れです。式で計算すると、外の海の潮のうち、日本海に入ってくるのは5〜8%ほどでした。1日周期の潮(約24時間)は固有周期に近いので、20〜35%ほど入ります。

しかも、固有周期より速く揺すられる入れ物は、揺する側と逆の向きに揺れます。外の海が満ちているとき、日本海の中は引いている、ということです。

潮位表で確かめる

この計算から出る予想は、3つあります。

  1. 半日周期の潮は、外の海の1割以下に弱まる
  2. 1日周期の潮は、半日周期の潮より通りやすい
  3. 半日周期の潮は、外の海と逆向きになる

気象庁の潮位表(2026年の1時間ごとの値)を、地点ごとに、半日周期の潮と1日周期の潮に分けて確かめました。分け方は、潮の周期ごとの成分を最小二乗法で当てはめる方法で、私が計算しました。

地点場所半日周期の主な潮(M2)の振幅 (cm)1日周期の主な潮(K1とO1)の振幅の和 (cm)M2の満ちる時刻のずれ(度)
厳原対馬の南、海峡の外側49.116.4189
境日本海の中5.310.8357
舞鶴日本海の中6.012.2355
新潟西港日本海の中5.312.25
秋田日本海の中4.912.411
(比べるための太平洋側)大洗太平洋29.245.937

振幅は、潮の上がり下がりの片側の幅です。満ちる時刻のずれは、その成分がいちばん高くなる時刻を角度で表したもので、360度がM2の1周期(12.42時間)にあたります。

予想と比べます。

  1. 半日周期の潮は、1割ほどに弱まっていました。海峡の外側の厳原は49センチ、日本海の中は5〜6センチです。計算の5〜8%より少し大きいものの、同じ桁です
  2. 1日周期の潮は、半日周期より通りやすくなっていました。日本海の中では、1日周期の潮が半日周期の潮の2倍ほどあります。厳原では逆に、半日周期の潮が3倍大きい場所です。日本海側で1日1回の満ち引きの割合が大きいのは、このためだと考えられます
  3. 半日周期の潮は、外の海とほぼ逆向きでした。厳原の189度に対して、日本海の中は355度から11度で、ほぼ180度、つまり半周期ずれています。半日周期の潮について言えば、厳原で満ちているとき、日本海の中では引いていることになります

計算は粗いものですが、予想した3つの向きは、潮位表と合っていました。

海の面積や入口の幅を変えて、この計算を自分で動かせるようにしました。湾と海の共振シミュレーターの「入口が狭い海」で、「日本海」のボタンを押すと、ここで使った値が入ります。入口を深くしていくと、入口が太くなるほど潮が入りやすくなる様子も見られます。

この計算の限界

ヘルムホルツ共振の式は、日本海の水面が全体で一様に上下すると考えています。実際には、日本海は1,500キロほどの長さがあり、半日周期の潮の波の長さ(5,000キロほど)と比べて小さいとは言えません。また、日本海の中の海水に月と太陽の力が直接はたらいて起きる潮も、この式には入っていません。

1日周期の潮が日本海の中で計算より大きく残っているのは、こうした式に入っていないものが効いているからだと考えられます。太平洋側から津軽海峡を通って入る1日周期の潮は、厳原より大洗のほうがずっと大きいことも関係していそうです。ここは確かめていません。

海峡に近づくほど、潮は大きくなる

この説明が正しければ、外の海から潮が入ってくる海峡の近くでは、日本海の中より干満差が大きいはずです。全国の干満差のデータで確かめました。

対馬海峡に向かって

日本海の中から、対馬海峡のほうへ南西に進みます。

地点場所1日の干満差の平均 (cm)
境鳥取と島根の境21.8
浜田島根県の西部35.2
須佐山口県の北東部47.7
萩山口県の北部55.6
対馬比田勝対馬の北端73.1

対馬海峡に近づくにつれて、干満差は境の21.8センチから、対馬の73.1センチまで、3倍以上に大きくなっていきます。

津軽海峡に向かって

北では、津軽海峡に向かって並べます。

地点場所1日の干満差の平均 (cm)
深浦青森県の日本海側22.2
江差北海道の日本海側、海峡の手前27.3
松前北海道の南端、海峡の入口27.9
竜飛本州の北端、海峡の入口39.0
函館津軽海峡の中69.3

ここでも、海峡の中へ入るほど干満差は大きくなります。津軽海峡の中の函館は、日本海側の深浦の3倍です。

外の海から入ってくる潮は、海峡の入口では大きく、日本海の奥へ進むにつれて小さくなっていく。データは、その様子を示しています。ただし、この読み方は私の解釈で、潮が海峡を通ってどう伝わるかを、計算で確かめたわけではありません。

釣りにどう効くのか

日本海側でも、潮が止まっているわけではありません。1日に20センチほどは動いています。ただ、干満差ランキングで見たとおり、潮の動く速さは太平洋側の5分の1ほどです。

太平洋側の釣りでよく言われる「潮が動く時間を狙う」は、日本海側では効き方が小さいと考えられます。潮のほかの条件、たとえば風や地形、ベイトの動きのほうが、相対的に大きく効くはずです。これは推測です。

海峡の近く、たとえば山口県の北部や対馬、津軽海峡の周りでは、同じ日本海側でも干満差は大きくなります。日本海側で潮を気にするなら、まず自分の釣り場の干満差を潮見アプリで確かめるのがよいと思います。

確かめられていないこと

ヘルムホルツ共振の計算は、粗い見積もりです。津軽海峡と宗谷海峡の長さは仮に置いた値で、日本海の水面が一様に上下すると考えています。

海峡に近づくほど潮が大きくなる理由は、データからの私の解釈です。潮が海峡を通ってどう伝わるかを計算したわけではありません。

海峡の深さは、解説記事の値です。海峡は場所によって深さが変わるので、「いちばん浅いところ」「平均の深さ」など、資料によって値が違います。

干満差は、気象庁の潮位表の2026年の推算値から計算しました。実際に測った潮位ではありません。

続けて読むなら

使ったもの・参考文献