ルアーが飛ぶ距離を式で書く

投げたルアーがなぜその距離で落ちるのか。空気抵抗を入れた運動方程式を立てて、数値的に解くまでを追いかけます。飛跡シミュレーターの中身の解説です。

飛跡シミュレーターの中身の解説です。投げたルアーが空中でどう減速し、なぜその距離で落ちるのかを、式を立てて追いかけます。

この記事は調べて書いたものです。私自身が実験して確かめたわけではなく、流体力学の教科書的な値と、メーカーが公表している飛距離を手がかりに組み立てています。参考にした資料は末尾にまとめました。

まず、空気がなければどうなるか

空気抵抗を無視すると、話は高校物理です。水平方向には力が働かないので等速、鉛直方向には重力だけが働きます。

ここでルアーは質点、つまり大きさを持たない1個の点として扱っています。実際のルアーは129mmの長さを持ち、飛びながら回転もします。それでも質点として扱ってよいのは、重心の運動だけを見るなら、回転していてもいなくても軌道は変わらないからです。物体にかかる力の合計が重力だけなら、重心は必ず放物線を描きます。回転は重心のまわりで起きるので、重心そのものの動きには影響しません。

x(t) = v₀ cosθ · t
y(t) = h + v₀ sinθ · t − g t² / 2

v₀ は初速、θ は投射角、h は手を離した高さ、g は重力加速度(9.8 m/s²)です。

y = 0 になる時刻を求めて x に入れれば、飛距離が出ます。26g のミノーを初速30m/s、42度で投げたとすると、92.9m

実際にはそんなに飛びません。シマノが公表しているサイレントアサシン129Sの平均飛距離は71.3mです。差の20m以上が、空気に奪われていることになります。

この差がどこから来るのかを見ていきます。

回転すると、飛距離は短くなるのか

「重心の軌道は変わらない」と書きましたが、何を固定して比べるかで答えが変わります。

初速を固定して比べるなら、答えは「変わらない」です。真空中で初速30m/sの重心は、回転していてもいなくても同じ放物線を描きます。

ところが竿が与えたエネルギーを固定して比べると、話が変わります。回転にもエネルギーが必要だからです。回転のエネルギーは次の式で表されます。

K_rot = ½ I ω²

ω(オメガ)は角速度、I は慣性モーメントで、細長い棒が重心のまわりに回る場合は I = mL²/12 です。26g・129mmなら I = 3.6×10⁻⁵ kg·m²

竿が与えたエネルギーが一定なら、回転に回った分だけ並進のエネルギーが減り、初速が下がります。計算するとこうなります。

回転数回転のエネルギー全体に占める割合初速真空中の飛距離
0 回/秒0 J0%30.00 m/s92.9 m
10 回/秒0.071 J0.6%29.91 m/s92.4 m
20 回/秒0.285 J2.4%29.64 m/s90.7 m
30 回/秒0.641 J5.2%29.21 m/s88.2 m
50 回/秒1.779 J13.2%27.95 m/s80.8 m

並進のエネルギーは11.7 Jあるので、毎秒10回転しても0.6%しか取られません。回転そのものによるエネルギーの損失は、飛距離を1m縮める程度です。

一方、同じ回転が空気抵抗を通じて及ぼす影響は、けた違いに大きくなります。回転して横を向けば、受ける面積が8倍になるからです。次の節がその話です。

空気抵抗の式

物体が空気の中を進むとき受ける抵抗は、速度がある程度速ければ速度の2乗に比例します。

D = ½ ρ Cd A v²

記号の意味はこうです。

記号意味ルアーでの値
ρ空気の密度1.225 kg/m³(常温常圧)
Cd抗力係数。形で決まる無次元の数0.5〜1.3
A進行方向から見た面積3〜26 cm²
v速度0〜30 m/s

なぜ2乗なのかは、こう考えると腑に落ちます。速く進むほど、単位時間に押しのける空気の量が増え、しかもその空気に与える速度も上がる。量と速度の両方が効くので、掛け合わせて2乗になります。

低速では別の式(速度の1乗に比例)になりますが、境目はレイノルズ数という量で決まります。

Re = v L / ν
記号意味ルアーでの値
v流れに対する速さ30 m/s
L代表長さ。物体の大きさを表す寸法で、円柱では直径をとる0.020 m
ν空気の動粘度。粘りけを密度で割った量1.5×10⁻⁵ m²/s

L は「代表長さ」と呼ばれ、その物体の大きさを1つの寸法で代表させたものです。円柱や球なら直径をとる決まりになっています。ルアーの太さ20mmを使うと、

Re = 30 × 0.020 ÷ 1.5×10⁻⁵ = 4.0×10⁴

Re ≈ 4万です。

では、どこからが2乗の式でよいのか。目安はこうなっています。

レイノルズ数抵抗の性質
1 以下速度の1乗に比例(ストークス抵抗)。粘りけが支配する
1 〜 1000移り変わりの領域。式が単純にならない
1000 〜 3×10⁵速度の2乗に比例。この範囲では抗力係数がほぼ一定
3×10⁵ 以上境界層が乱流になり、抗力係数が急に下がる

円柱の場合、レイノルズ数が1000から3×10⁵の範囲では、抗力係数がおよそ1で一定になることが知られています(出典)。ルアーの4万はこの範囲の真ん中あたりに入るので、2乗の式を使って差し支えありません。

ちなみに上限の3×10⁵を超えると抗力が急に下がる現象は、ゴルフボールにディンプル(くぼみ)が付いている理由でもあります。わざと乱流を起こして、この低抗力の領域に入れているわけです。ルアーの速度では、そこまで届きません。

Cd と A —— ここがすべてを決める

抗力の式のうち ρ は定数、v は結果として決まる量です。ルアーの側で決められるのは CdA だけ。だからこの2つが飛距離を決めます。

しかも CdA は掛け算でしか現れません。つまり Cd × A という1つの量にまとめてよい。これを「抗力面積」と呼ぶことにします。

全長129mm・直径20mmのミノーで計算してみます。

進行方向に正対しているとき(細いほうを向けている)

A = π (D/2)² = π × (0.010)² = 3.14 cm²
Cd ≈ 0.5           流線形に近い物体の代表値
Cd × A = 1.57 cm²

横を向いているとき

A = L × D = 0.129 × 0.020 = 25.8 cm²
Cd ≈ 1.1           円柱を横から見たときの標準的な値
Cd × A = 28.4 cm²

18倍です。面積で8.2倍、そこに抗力係数の差が掛かります。

姿勢が乱れるとルアーが飛ばなくなるのは、この18倍のせいです。重心移動システムがなぜ必要なのかも、この数字が答えになっています。

抗力は重力より大きいのか

速度によります。抗力と重力の比を計算してみます。

正対しているとき

速度抗力 ÷ 重力
10 m/s0.04
20 m/s0.15
30 m/s0.34
40 m/s0.60

横を向いているとき

速度抗力 ÷ 重力
10 m/s0.7
20 m/s2.7
30 m/s6.1

正対していれば、投げた瞬間でも抗力は重力の3分の1程度です。ところが横を向くと、重力の6倍の力で減速することになります。

もう1つ、分かりやすい指標があります。終端速度です。落下する物体は、抗力と重力が釣り合ったところで速度が頭打ちになります。

v_terminal = √( 2 m g / (ρ Cd A) )

このミノーだと、正対時 51 m/s、横向き 12 m/s。横を向いたルアーは、時速43kmを超えて飛べない、ということです。初速30m/sで投げても、すぐそこまで落ちます。

弾道係数 —— 空気抵抗への強さを1つの数で

質量を抗力面積で割った量を、弾道係数と呼びます。

β = m / (Cd A)

これが大きいほど空気抵抗に強い。同じ抗力面積なら重いほうが、同じ重さなら抗力面積が小さいほうが有利、ということを1つの数にまとめたものです。

先ほどのミノーだと、正対時 166 kg/m²、横向き 9 kg/m²

シミュレーターでこの値を表示しているのは、姿勢や太さを変えたときに「空気抵抗への強さ」がどう変わるかを一目で見てもらうためです。

運動方程式を立てる

材料が揃ったので、方程式を書きます。抗力は速度と逆向きに働くので、速度ベクトルの向きに分解します。

速さを v = √(vx² + vy²) とすると、抗力の各成分は vx/vvy/v の割合で分配されます。

m dvx/dt = − ½ ρ Cd A v · vx
m dvy/dt = − ½ ρ Cd A v · vy − m g

風がある場合は、空気に対する相対速度を使います。追い風なら相対速度が下がるので抵抗が減る。水平方向の風速を w とすると、vxvx − w に置き換えるだけです。

なぜ解けないのか

この2本の式は、紙の上では解けません。理由は2つあります。

理由1: 式どうしが絡み合っている

真空中の場合を思い出してください。横方向の式には vx しか出てこず、縦方向の式には vy しか出てきませんでした。だから横のことは横だけで、縦のことは縦だけで解ける。これが「独立している」という意味です。横に速く投げても、落ちるまでの時間は変わりません。

空気抵抗を入れると、両方の式に v = √(vx² + vy²) が現れます。横方向の減速の式に、縦方向の速度が入り込んでいるわけです。

具体的に言うと、こういうことが起きます。急角度で投げて vy が大きくなると、v が大きくなり、その結果として横方向の減速も強くなる。縦の事情が横に影響する。だから片方だけを取り出して解くことができません。これが「絡み合っている」ということです。

理由2: 非線形である

「線形」とは、入力を2倍にすると出力も2倍になるという性質です。この性質があると、解を足し合わせたり定数倍したりできるので、数学的な道具がたくさん使えます。

抗力は に比例するので、速度を2倍にすると抗力は4倍になります。2倍ではなく4倍。これが「非線形」です。

線形なら、たとえば「初速20m/sの解」と「初速10m/sの解」を足せば「初速30m/sの解」になります。非線形だとそれができません。ひとつひとつの場合について、個別に解く必要があります。

この2つが重なると、既知の関数を組み合わせた形で答えを書き下すことができなくなります。

そこで数値的に解きます。やることは単純で、短い時間ずつ、力を計算しては速度と位置を更新していく

1. いまの速度から、抗力を計算する
2. 加速度 = 力 ÷ 質量 を求める
3. 速度 ← 速度 + 加速度 × Δt
4. 位置 ← 位置 + 速度 × Δt
5. 地面に着くまで 1 に戻る

これがオイラー法という最も素朴な方法です。シミュレーターは Δt = 1ミリ秒 で計算しています。

刻みが粗いと誤差が出るので、どこまで細かくすれば十分かを確かめました。

時間刻み飛距離十分細かくした場合との差
10 ms70.399 m19.5 cm
5 ms70.502 m9.2 cm
1 ms70.570 m2.5 cm
0.1 ms70.593 m0.2 cm

1ミリ秒なら誤差は2.5cm、飛距離70mに対して0.04%です。これ以上細かくしても意味がないので、ここで打ち切っています。

出てきた結果

以下の数値は、断りのない限り次の条件で計算しています。ラインとリールの抵抗も入れた値です。

26g / 初速30 m/s / 投射角42度 / 全長129mm / 太さ20mm / リップ1.5平方cm / PE1.5号 / スピニングリール

最適角は45度ではない

真空中なら、最適角は解析的に求められます。高さ h から投げる場合、

sin θ = 1 / √(2 + 2gh/v₀²)

h = 0 なら sin θ = 1/√2、つまり45度。手の高さ1.5mから初速30m/sで投げるなら44.5度です。

空気抵抗を入れると、数値的に探すしかありません。結果はこうなりました。

初速真空での最適角空気抵抗ありの最適角
20 m/s44.0°40.5°
30 m/s44.5°38.0°
40 m/s44.7°36.0°

速く投げるほど、最適角は下がります。 抵抗は速度の2乗で効くので、高く投げて滞空時間を延ばしても、そのあいだに減速してしまいます。滞空時間を稼ぐより、早く前に進めたほうが飛ぶということです。

同じ理由で、軽いルアーほど、太いルアーほど最適角は低くなります。初速30 m/sで、10gなら34.0度、26gなら38.0度、40gなら39.5度。太さでも変わり、直径12mmなら38.5度、32mmなら37.0度でした。空気抵抗に負けやすいものは、低く投げたほうが飛びます。

リップは、姿勢が良いときだけ問題になる

ここは組み立ての途中で認識を改めたところです。

ルアーはテールを先端にして飛びます。重心が後ろに寄るので、重い側が先に進む姿勢で安定する。矢羽根と同じ理屈です。ラインがヘッド側に結ばれていることも、この向きを助けています。

ということは、姿勢が安定しているあいだ、リップは後ろに流れて後流に隠れます。シミュレーターでは、安定時のリップの抗力を4分の1に減らしています(この4分の1という値は仮定です)。

計算するとこうなりました。

リップの面積姿勢が安定姿勢が乱れる(70%)
なし47.1 m23.1 m
3 cm²44.5 m21.5 m
8 cm²40.8 m19.3 m

姿勢が良ければリップの差は6.3mありますが、姿勢が乱れると3.8mです。しかもその時点で、リップの有無にかかわらず半分以下しか飛んでいません。姿勢が崩れた時点で、リップの有無を論じる意味がなくなるほど大きな損失が出ている、と読めます。

太さがいちばん効く

断面積は直径の2乗で増えます。だから太さの影響は大きい。

直径飛距離
12 mm48.6 m
20 mm45.7 m
32 mm40.0 m

同じ重さ、同じ投げ方でも、太さだけで8.6m変わります

長さは、姿勢が乱れたときだけ効く

太さと違い、全長は姿勢が安定しているかぎり飛距離にまったく影響しません

飛行姿勢全長50mm129mm180mm
乱れなし45.7 m45.7 m45.7 m
乱れ20%40.6 m34.6 m31.7 m
乱れ50%34.9 m25.8 m22.3 m

乱れなしの行は、小数点以下まで完全に同じ値です。

理由は式の形にあります。姿勢が安定しているときの抗力面積は断面積 π(D/2)² とリップだけで決まり、そこに全長は現れません。全長が効くのは横を向いたときの側面積 L × D のほうなので、乱れがゼロなら出番がないわけです。

逆に言えば、長いルアーほど、姿勢を保てなかったときの損失が大きくなります。乱れが20%あるだけで、50mmと180mmで8.9m違います。50%なら12.6mです。

これは、重心移動システムが大型のルアーほど重要になる理由でもあります。短いルアーなら姿勢が多少乱れても損失は限られますが、長いルアーでは姿勢が崩れた瞬間に大きく失われます。

ラインの抵抗

飛んでいるのはルアーだけではありません。ラインも一緒に引き出されて、空気の中を進んでいます。

これをどう式に入れるか。厄介なのは、ラインの速度が場所によって違うことです。竿先のところではほぼ止まっていて、ルアーのところではルアーと同じ速さで動いています。

そこで、次のように単純化しました。

  • 引き出されたラインの長さは、竿先からルアーまでの直線距離とみなす
  • ラインの速度は、竿先の0からルアーの v まで一様に変化するとみなす

抗力は速度の2乗に比例するので、速度が0から v まで一様に分布する場合、長さ方向に平均をとると全体の3分の1になります。

Cd·A(ライン) = k × d_line × ℓ / 3

d_line はラインの直径、 は引き出された長さ、k は形を表す係数です。

この k は理論からは決まりません。ラインは風になびいて曲がりますし、進行方向に対してどれだけ斜めを向いているかで抵抗が変わるからです。そこで実測データに合わせて決めました

使ったのは、同じタックルでPE3号(0.285mm)と1.5号(0.205mm)を投げ比べた記録です。

ルアーPE3号PE1.5号
サスケ105(13g) 実測58.2 m63.3 m
同 計算58.9 m62.8 m
ジグ(30g) 実測92.1 m101.9 m
同 計算93.0 m99.7 m

(この段階ではリールとガイドの抵抗をまだ入れていません。それを加えた最終的な合わせ込みは次の節に載せます)

k = 0.08 としたところ、4点すべてが2.2m以内で合いました。この値をシミュレーターに入れています。

計算してみると、空中の抵抗だけでも小さくありません。26gのミノーを初速30m/sで投げる条件では、こうなりました。

ライン直径飛距離ラインがない場合との差
なし70.6 m
PE 0.8号0.148 mm65.0 m−5.6 m
PE 1.5号0.205 mm63.2 m−7.4 m
PE 3号0.285 mm61.0 m−9.6 m

空中の抵抗だけで6〜10m失われています。 細いラインが飛ぶというのは、確かに理由のあることでした。

ただし、空中の抵抗だけでは号数の差を説明しきれません。スピニングリールでPE0.8号と1.5号を投げ比べた別の実測では、平均52mと42mで10mの差が出ています。空中の抵抗だけで計算すると2.5mです。4分の1しか説明できていません。

リールとガイドの抵抗

足りない分はどこにあるか。ラインはスプールから引き出されるとき、静止した状態から一気にルアーと同じ速さまで加速されます。 その加速に必要な力は、反作用としてルアーを減速させます。

単位時間あたりに繰り出される糸の質量は λ v(λ は糸の線密度、kg/m)。それを速さ v まで加速するので、必要な力は次のようになります。

F = k_reel × λ v²

ここが効いてくる理由は λ にあります。線密度は直径の2乗に比例します。 空中の抵抗が直径の1乗に比例するのに対し、こちらは2乗。だから太くなるほど、こちらの効きが急に大きくなります。

ライン直径線密度
PE 0.8号0.148 mm1.25×10⁻⁵ kg/m
PE 1.5号0.205 mm2.40×10⁻⁵ kg/m
PE 3号0.285 mm4.64×10⁻⁵ kg/m

k_reel にはリールの機構やガイドの摩擦がまとめて入るので、理論では決まりません。2つの実測記録に合わせて求めました。

スピニングリール(9.8ftロッド、3000番、12cmミノー)

ライン実測計算
PE 0.8号52 m52.0 m
PE 1.5号42 m41.9 m

k_reel = 11.5、ルアー16g、初速34m/sで合いました。

ベイトリール(コンクエストDC201)

ルアーライン実測計算
サスケ105(13g)PE 3号58.2 m57.9 m
PE 1.5号63.3 m64.6 m
ジグ(30g)PE 3号92.1 m92.0 m
PE 1.5号101.9 m101.9 m

こちらは k_reel = 1.0 でした。

同じ式の係数が、リールの種類で10倍以上違います。 スピニングは固定されたスプールから糸が輪を描いて出ていくため、回転するスプールから直接引き出されるベイトより、はるかに大きな抵抗が生じます。よく言われる「スピニングは細い糸を使え」という話には、この差が効いていると考えられます。

リールの抵抗まで入れると、ラインによる損失はさらに大きくなります。26gのミノーを初速30m/sで投げ、スピニングリールを想定した場合です。

ライン飛距離ラインがない場合との差
なし70.6 m
PE 0.8号53.5 m−17.0 m
PE 1.5号45.7 m−24.8 m
PE 3号36.4 m−34.2 m

PE3号では、ラインまわりだけで34m失われる計算になります。 空中の抵抗による損失(9.6m)の3倍以上が、リールとガイドで起きていることになります。

なお、スピニング側の実測は3投ずつの平均です。個々の記録は0.8号が55m・55m・48m、1.5号が42m・40m・46mで、3投目どうしは48mと46mしか違いません。この差を10mと断定するには投数が足りません。 較正値も、その不確かさを引き継いでいます。

風 —— 3つの向きで効き方が違う

風は水平方向の2成分(前後と左右)として入れています。空気に対する相対速度を使うので、追い風なら相対速度が下がって抵抗が減り、向かい風なら増えます。

そして、ラインも風を受けます。ここが見落とされやすい点です。ルアーは1点ですが、ラインは竿先からルアーまで数十メートルにわたって空気にさらされています。しかも竿先の近くではラインはほとんど動いていないので、ルアー自身の速度では抵抗を計算できません。

そこで、ラインの各点が空気に対して持つ速度を積分しました。竿先で0、ルアーで v と速度が分布し、そこに風 w が重なるとすると、

∫₀¹ |t·v − w|² dt = |v|²/3 − v·w + |w|²

無風なら |v|²/3 に戻り、前に決めた「実効長は3分の1」と一致します。風があると、動いていない部分のラインまで抵抗を生みます。 それが第3項の |w|² です。

計算した結果です。26gのミノー、初速30m/s、PE1.5号、スピニングリール(k_reel = 11.5)の条件です。

飛距離無風との比横へのずれ
追い風 10 m/s52.2 m114%0 m
追い風 5 m/s49.7 m109%0 m
無風45.7 m100%0 m
向かい風 5 m/s40.2 m88%0 m
向かい風 10 m/s33.5 m73%0 m
横風 5 m/s45.2 m99%3.0 m
横風 10 m/s44.0 m96%7.2 m

向かい風10m/sで、飛距離は無風の73%まで落ちます。 追い風10m/sでは114%。同じ風速でも、向かい風で失う量のほうが追い風で得る量より大きくなっています。抵抗が相対速度の2乗に効くためです。

横風は、飛距離をほとんど削りません。 10m/sの横風で無風比96%です。そのかわり7m横にずれます。狙った場所から7mずれるのは、橋脚や明暗の境目を狙うときには致命的です。飛距離が落ちないぶん、ずれていること自体に気づきにくくなります。

このモデルが扱っていないこと

重心の位置そのものは、モデルに入っていません。 本来の因果は次のようになっています。

重心の位置 → 姿勢の安定性 → 受ける面積と抗力係数 → 飛距離
            ↑
       ここを測ったデータがない

重心を後ろに寄せると姿勢が安定する、という向きは確かです。しかし、「重心を何ミリ後ろにすると、乱れが何パーセント減るのか」を測った資料を見つけられませんでした。 メーカーも公表していません。

そこでこのモデルは、最初の矢印を飛ばしています。重心の位置ではなく、その結果である姿勢の乱れ具合を直接の入力にしました。シミュレーターの「飛行姿勢」スライダーがそれです。だから、重心移動システムの有無から飛距離を言い当てることはできません。 できるのは、姿勢がこれだけ乱れたらこれだけ飛ばなくなる、という対応を見ることです。

回転による揚力を無視しています。 回転そのもののエネルギー損失は、上で計算したとおり1m程度です。入れていないのは、回転が生む横向きの力(マグヌス効果)のほうです。野球の変化球が曲がるのと同じ原理で、ルアーでも軌道が上下にずれる可能性があります。これを計算するには回転数と回転軸の向きが必要ですが、飛行中のルアーについてそれを測った資料を見つけられませんでした。

なお、回転によって面積が変わる効果は、「飛行姿勢」のスライダーが大まかに代行しています。

リールとガイドの抵抗は、実測2件から求めた値です。 それぞれ別のタックル・別の測定者による記録なので、他のタックルにそのまま当てはまるとは限りません。またラインの垂れ下がりや、風でラインが弓なりになる効果は入れていません。

Cd を一定としています。 実際の抗力係数はレイノルズ数によって変わりますし、同じ太さでも丸みの付け方で変わります。

入れなくてよいと分かったもの: コリオリ力

ここまでは「分からないから入れていない」ものばかりでしたが、計算した結果として入れなくてよいと判断できたものもあります。地球の自転による見かけの力、コリオリ力です。

大砲の弾道計算では、コリオリ力を入れないと当たりません。ルアーではどうか。実際に組み込んで計算しました。

コリオリ加速度は 2Ω v で表されます。Ω は地球の自転角速度で 7.29×10⁻⁵ rad/s。水平方向の偏向には、さらに緯度の正弦がかかります。

f = 2Ω sinφ = 8.63×10⁻⁵ 1/s        (北緯36.3度)
加速度 = f × v = 2.59×10⁻³ m/s²     (v = 30 m/s)

重力の0.026%です。26gのミノーを初速30m/sで投げた場合の結果がこちらです。

投げる方位飛距離への影響横へのずれ
−0.18 cm0.57 cm
0.00 cm0.36 cm
西+0.34 cm0.57 cm
0.00 cm0.78 cm

最大でも1cm未満でした。方位によって東西で符号が変わるのは、東向きに進むと遠心力がわずかに増え、西向きだと減るためです。

大砲で問題になってルアーで問題にならないのは、効いている時間の差です。コリオリ加速度は小さいので、長く飛ぶほど効きが積み上がります。ルアーの滞空時間は3.4秒しかありません。

他の要因と並べると、桁の違いがはっきりします。

要因横へのずれ
横風 10 m/s720 cm
横風 5 m/s300 cm
横風 0.5 m/s(ほぼ無風)約 3 cm
コリオリ力0.57 cm

ほぼ無風と言える0.5m/sの微風でも、コリオリ力の5倍以上動きます。

もう1つの比べ方もあります。この記事で較正に使った実測は、同じ人が同じタックルで投げた3投が55m・55m・48mでした。投げるたびのばらつきが7mあります。 コリオリ力による0.57cmは、その1200分の1です。

このモデルで無視している効果のうち、大きさをはっきり計算できたのはこれだけです。姿勢の乱れやリップの後流については「分かっていない」としか書けませんが、コリオリ力については「計算したうえで、入れなくてよい」と言えます。

つまりこれは、飛距離を予測する道具ではなく、何がどう効くのかを見るための道具です。式の形から言えることと、実測でしか分からないことを、分けて考えるための下地として作りました。

おまけ: フックは飛距離を削るのか

この記事の計算は、ここまでルアーの本体だけを見てきました。実際にはトレブルフックが2つぶら下がっています。これがどれだけ効くかを計算しました。

フックを円柱の集まりとみなします。線径1mm、針先が12mm×3本、軸が10mmとすると、空気にさらされる線の全長は46mm。横向きの円柱として抗力係数を1.1とすると、

抗力面積(Cd×A)
トレブルフック 1個0.51 cm²
同 2個1.01 cm²
ルアー本体(進行方向に正対)1.57 cm²

フック2個で、本体の64%増になります。空気抵抗だけを見ればかなりの量です。

ところが飛距離への影響は、それほど大きくありません。フック2個ぶんの重さを2gとして計算しました。

飛距離
フックなし 26g45.7 m
フックあり 28g44.6 m
参考: 重さだけ2g増やした場合47.2 m

差し引き1.1mの損失です。抵抗が増えるぶんと、重くなって空気抵抗に強くなるぶんが打ち消し合います。弾道係数 β = m/(Cd A) の分子と分母が両方とも増えるので、比がそれほど動かない、と言い換えられます。

ちなみに、この記事でラインの係数を決めるのに使った実測は、わざわざフックを外して行われています。フックの向きや揺れで結果がばらつくのを避けるためだと考えられます。1mという値は、そうした配慮が必要な程度には効いている、ということでもあります。

おまけ: 雨の日は飛ばないのか、濡れた糸は飛ばないのか

ここからはシミュレーターに入れていない話です。式は立てられるものの、確かめるための実測データがないので、計算から言えることだけを書きます。

雨の中で投げると飛距離が落ちる、という感覚があります。原因になりそうなものを3つに分けて計算しました。結論を先に書くと、効いていたのは雨そのものではなく、糸が水を含むことでした。そしてそれは、雨が降っていなくても起きています。

雨粒がルアーに当たる力

飛んでいるルアーは雨粒を受け止め、それを自分と同じ速さまで加速します。その反作用で減速します。

空気中に浮いている水の質量濃度は、雨の強さ R を雨粒の落下速度で割って求まります。落下速度を毎秒6mとすると、

雨の強さ空気中の水の質量濃度空気抵抗に対する比
小雨(2 mm/h)9.3×10⁻⁵ kg/m³0.03%
本降り(10 mm/h)4.6×10⁻⁴ kg/m³0.15%
強い雨(30 mm/h)1.4×10⁻³ kg/m³0.45%
激しい雨(50 mm/h)2.3×10⁻³ kg/m³0.76%

バケツをひっくり返したような雨でも、空気抵抗の1%未満です。 空気そのものの密度が1.2 kg/m³なのに対し、雨粒の濃度はその1000分の1にも届きません。雨粒に押し戻されて飛ばない、ということはなさそうです。

湿った空気

直感に反しますが、湿った空気は乾いた空気より軽くなります。水の分子(分子量18)が、置き換わる窒素や酸素(平均29)より軽いためです。

空気密度(20℃、1013 hPa)
乾燥1.2038 kg/m³
湿度100%1.1933 kg/m³

0.9%軽くなります。空気抵抗もそのぶん減るので、飛距離は7cm伸びる計算になりました。有利ではありますが、測れる差ではありません。

ラインが濡れる

残るのがこれです。そして、ここだけがはっきり効きます。

PEは編み込み構造なので、素材の隙間に水が入り、外側にも水の膜が付きます。この記事では素材の充填率を75%として計算してきました。残り25%の隙間が水で満たされ、外周に10マイクロメートルの膜が付くとすると、

ライン乾いた線密度濡れた線密度増加
PE 0.8号1.25×10⁻⁵ kg/m2.15×10⁻⁵ kg/m+72%
PE 1.5号2.40×10⁻⁵ kg/m3.87×10⁻⁵ kg/m+61%
PE 3号4.64×10⁻⁵ kg/m7.13×10⁻⁵ kg/m+54%

線密度が増えれば、スプールから糸を引き出す抵抗 F = k_reel × λ v² はそのまま比例して増えます。26gのミノーを初速30m/sで投げ、スピニングリールを想定した場合の飛距離です。

ライン乾いた状態濡れた状態
PE 0.8号53.5 m47.2 m−6.4 m
PE 1.5号45.7 m39.1 m−6.7 m
PE 3号36.4 m30.1 m−6.3 m

どの号数でも6〜7m落ちます。 号数を1段細くして得られる差(0.8号と1.5号で約8m)に匹敵する大きさです。

しかもこの計算には、濡れた糸がスプール上で互いにくっつく効果が入っていません。実際にはこれも抵抗を増やすので、損失はもう少し大きくなります。

ただし、これは「雨の日の損失」ではありません

ここまで書いて、話がおかしいことに気づきました。釣りをしていれば、雨が降っていなくてもラインは濡れます。 ルアーは水面に落ち、巻いてくる過程でラインは水を通ります。1投目こそ乾いていても、2投目以降は濡れた糸を投げていることになります。

つまり上の表が示しているのは「晴れと雨の差」ではなく、完全に乾いた糸と、完全に濡れた糸の差です。実際の釣りは、最初の1投を除けば、ほぼ右側の列で行われています。

この違いは、較正のしかたにも関わります。k_reel を決めるのに使った実測は、いずれも実際に釣り場で投げた記録です。そのときのラインが乾いていたのか濡れていたのかは、記録から読み取れませんでした。 もし濡れた状態で測られていたなら、k_reel の中にすでに水の分が入っていることになり、そこへ上の計算を重ねると二重に数えてしまいます。

したがって上の6〜7mという値は、乾いた糸と濡れた糸を比べたときの上限として読むのが正確です。実際の釣行でその差を体感する場面は、1投目とそれ以降の比較くらいしかありません。

では、雨は何を変えるのか

濡れることが晴れでも起きるなら、雨に固有の影響は何か。3つ考えられます。

スプールの奥まで濡れる。 晴れの日に濡れるのは、実際に投げて水に触れた分だけです。スプールの内側に巻かれたままの糸は乾いています。雨なら全体が濡れるので、遠投して糸を深くまで使うときに差が出ます。

ガイドが濡れる。 水滴が付いたガイドを糸が通ると抵抗が増えます。この記事では計算していません。

降り始めが最も変わる。 乾いた状態から始められないので、1投目から濡れた糸の条件になります。

いずれも量を計算できていません。「雨の日は飛ばない」という感覚に対して、この記事が答えられるのは「濡れた糸は乾いた糸より6〜7m飛ばない」というところまでで、その先は分かっていません。

まとめ

要因飛距離への影響
乾いた糸 → 濡れた糸−6.7 m(ただし晴れでも起きる)
雨粒がルアーに当たるほぼ0
空気が湿る+0.07 m

雨粒がルアーを押し戻して飛距離が落ちる、ということはありません。 効いているのは糸が水を含むことですが、それは雨に限った話ではありませんでした。

なお、PEが実際にどれだけ水を保持するかを測ったデータは持っていません。 隙間の25%が満たされ、10マイクロメートルの膜が付くという仮定から計算した値です。増加率54〜72%という数字は、この仮定に依存します。仮定を確かめられていないので、シミュレーターには入れていません。

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使ったもの・参考文献