メーカーの公称飛距離は、釣り場で何割出るのか

ルアーのパッケージに書かれた飛距離は、自分が投げると何メートル出るのか。公称値のある10本を実際に測ったら、中央値で公称の0.64倍でした。測定条件を公表している会社と、していない会社があります。

この記事の見出し

この記事について

実測は自分でやったもの、メーカーの公表値と測定条件は調べたものです。差を作りうる要因の見積もりは、飛跡シミュレーターで筆者が計算しました。参考にしたページは最後に並べました。

リールのハンドル回転数から飛距離を測る記事で、その方法を書きました。出てきた数字を、メーカーが公表している飛距離と並べます。

3社で、公表の仕方がまるで違います

手持ちのルアーのメーカーを見ると、数値を出すかどうかも、条件を書くかどうかも、会社によって違いました。

メーカー数値測定条件
シマノ平均を公表。パッケージには5投の生データ書いてある。室内での無風状態。パッケージにはタックルも
ダイワ最大と平均を公表書いていない。当社テストとのみ
デュオ公表していない—

シマノは条件を書いています

熱砂ウィングビーム80HSの製品ページには、飛距離の測定条件として室内での無風状態と明記されています。平均飛距離97.7 mで、5投のうち2投が100 mを超えたとも書かれています。

5投という投数は、自分の測り方と同じです。そして室内なら、風で結果が動くことはありません。

エクスセンス サイレントアサシン129のページでも、平均飛距離70 mという数字に無風下という但し書きが付いています。

そしてパッケージには、もっと書いてありました。あとの節で扱います。

ダイワは条件を書いていません

モアザン スイッチヒッターの製品ページには、当社テスト飛距離として最大72.5 m、平均70.6 mと書かれています。最大と平均の両方を出しているのは親切です。

ただし、室内か屋外か、誰が投げたか、どのタックルかは書かれていません。

デュオは数値が見つかりませんでした

マニック135には、ジグミノーを凌ぐ遠投性能という説明はありますが、何メートルという数字を見つけることはできませんでした。

自分で投げると、公称の6割あまりでした

手持ちで公称値のある10本を、同じタックルで測りました。メーカーが公表しているのは平均なので、こちらも平均で比べています。

ルアー公称飛距離 (m、メーカー公表の平均)実測 (m、5投の平均)実測 ÷ 公称
シマノ サイレントアサシン80S52.041.60.80
ダイワ レイジーファシャッド70S71.454.50.76
シマノ シャローアサシン99F59.041.00.69
ダイワ レイジーファシャッド100S72.347.70.66
シマノ スライドアサシン100S69.045.00.65
ダイワ セットアッパー125S-DR77.048.90.63
ダイワ バーティスR98F67.242.60.63
ダイワ スイッチヒッター85S70.643.50.62
シマノ サイレントアサシン129S70.041.80.60
ダイワ バーティスR98F-SSR67.739.30.58

中央値は0.64でした。公称70 mと書かれていたら、自分が投げて出るのは45 m前後ということになります。

公称値のある10本について、自分の5投の最小から最大と平均、メーカーの公称値を並べた図

橙の菱形がメーカーの公称値です。10本のうち9本で、公称値が自分の5投のいちばん長い1投よりも遠くにあります。範囲の内側に入ったのは、サイレントアサシン80Sだけでした。

測ったのは2回の釣行に分かれています。風も立ち位置も違う日の値が混ざっているので、この表は1本ずつの優劣ではなく、全体の目安として読んでください。

そしてこの比は、甘く出ています。回転数から出てくるのは回収した糸の長さで、たるんだぶんだけルアーまでの距離より長くなります。測り方の記事に書いたとおり、ずれは必ず長い側にしか出ません。

筆者の場合、たるみを取るのに回す空回しは約1回転でした。そのぶんを10本すべてから差し引くと、中央値は0.64から0.63に下がります。公称との差は、この表が示すよりもわずかに大きいことになります。

この数字自体は驚くようなものではありません。釣行ログに書いたとおり全力では投げていませんし、シマノの条件が室内の無風なら、屋外で短くなるのは当たり前です。

面白いのは、そこではありません。

同じ比率で縮んでいません

10本の比は0.58から0.80まで開いています。全部が同じように6割あまりになるなら、公称値どうしを比べる意味はまだあります。実際には、そうなっていません。

いちばん近づいたサイレントアサシン80S(0.80)と、いちばん離れたバーティスR98F-SSR(0.58)では、縮み方が4分の1も違います。

公称値だけを見て「こちらのほうが5 m飛ぶ」と判断しても、実際に投げたときに順番が入れ替わることがあるということです。

会社ごとの傾向があるかも見ておきます。シマノの4本が0.60から0.80、ダイワの6本が0.58から0.76。きれいに重なっていて、会社で分かれてはいません。

メーカーの5投は、自分の5投よりそろっています

ダイワが最大と平均の両方を出していることから、ばらつきを逆算できます。

製品公称の最大 ÷ 平均
スイッチヒッター85S1.027
スイッチヒッター1051.041
スイッチヒッター(小型)1.029
レイジーファシャッド70S1.043
レイジーファシャッド90F1.022
レイジーファシャッド120F1.035
平均1.033

5投しても、最大が平均を3%しか上回っていません。

自分のデータで同じものを計算すると、最長が平均を8.6%上回っていました。5投そろった72回の測定の中央値です。

最大と平均の比から、ばらつきを出す手順

最大と平均の2つしか分からなくても、ばらつきの大きさを見積もることができます。

同じルアーを5回投げると、飛距離は毎回少しずつ違います。この散らばり具合が標準偏差です。そして5回のうちいちばん長い1投が、平均からどれくらい離れたところに出るかは、統計の表に載っています。正規分布から5個の数を取り出したとき、その最大値は平均より標準偏差の約1.16倍ぶん外側に来ます。

つまり、こう書けます。

最大 − 平均 ≒ 1.16 × 標準偏差

両辺を平均で割ると、左辺は公表されている2つの数字だけで計算できます。右辺の「標準偏差 ÷ 平均」が変動係数なので、

変動係数 ≒ (最大 ÷ 平均 − 1) ÷ 1.16

あとは数字を入れるだけです。ダイワの測定は、最大が平均の1.033倍なので、 0.033 ÷ 1.16 で変動係数2.8%。自分の測定は1.086倍なので、 0.086 ÷ 1.16 で変動係数7.4%になります。

パッケージに、5投の生データが載っていました

ここまでは逆算の話でした。ところがシマノのスライドアサシン100Sのパッケージには、5投ぶんの数字がそのまま印刷されていました。

1投目2投目3投目4投目5投目平均
74.168.367.171.564.269.0

計測条件は室内無風下。そしてタックルまで書いてあります。ロッドはエクスセンス S900MH/R、リールはステラ 4000XG、ラインはPE1.0号、リーダーは20lb。

製品ページより、パッケージのほうが情報が多いという状態です。

ここから標準偏差が直接計算できます。3.85 m、変動係数にして5.6%でした。

逆算の答え合わせができました

せっかくなので、さきほどの逆算をこのデータに当てはめてみます。

最大74.1を平均69.0で割ると1.073。そこから1を引いて1.16で割ると、6.3%。

実際の5.6%に対して、逆算は6.3%でした。1.13倍の過大です。5投という少ない回数から見積もっている以上この程度のずれは出ますが、桁を間違えてはいないことが確かめられました。

もう1本、5投が載っているパッケージがありました

シマノのカウンターウェイク120Fのパッケージにも、5投ぶんの数字が載っていました。

1投目2投目3投目4投目5投目平均
55.866.164.860.359.661.3

計測条件は、こちらも室内の無風状態です。ロッドはエクスセンス S S900MH/R、リールはステラ 4000MHG、ラインはPE1.2号の8本編み、リーダーはフロロカーボンの20lbと書いてあります。

標準偏差は4.17 m、変動係数にして6.8%でした。最大と平均から逆算すると6.7%で、こちらはほぼ一致しました。

筆者は10月2日に、このルアーをふだんの河川用タックルで投げています。5投は26.2 mから39.5 mで、平均32.8 m。公称の0.54倍でした。

3者を並べると

数字を出した者変動係数出どころ
ダイワ2.8%最大と平均から逆算
シマノ (スライドアサシン100S)5.6%パッケージの5投から直接
シマノ (カウンターウェイク120F)6.8%パッケージの5投から直接
自分9.6%73回の実測をまとめて計算

自分はシマノの1.4倍から1.7倍、ダイワの3.4倍ばらけています。

そしてシマノとダイワの差も小さくありません。同じ室内無風で測っているとしても2倍違います。ダイワは投数を公表していないので、5投より多く投げていれば最大値はもっと外側に出るはずで、同じ比ならさらに小さいことになります。

つまりダイワの2.8%は、そろっている側の下限と読むべき数字です。

投げているのが誰かも分かりません

ここまで条件の話ばかり書きましたが、もうひとつ大きな違いがあります。投げ手です。

シマノはパッケージにタックルまで書いていました。ロッド、リール、ライン、リーダー。ここまで書くのは親切だと思います。

それでも、誰が投げたかは書いてありません。ダイワは条件もタックルも書いていません。メーカーがテストとして測る以上、テスターなり開発者なりが投げていると考えるのが自然だと思いますが、ここは推測です。

そう考えると、6割あまりという比も、3倍というばらつきも、環境の差と腕の差が混ざった値になります。室内で無風だから縮まないのか、投げ慣れた人だから縮まないのか、このデータからは分けられません。

ロッドとリールの差は分かります。シマノのテストはエクスセンス S900MH/Rにステラ 4000XG、自分はシーバスハンターX 86MLにレガリス LT3000-CXH。ラインはどちらもPE1号でした。

ただ、そこから先を分けようと思えば、同じルアーを同じ日に上手い人と自分で投げ比べるしかありません。やっていないので、分かりません。

ただ、分ける必要があるのかとも思います。読者も自分も、テスターではありません。知りたいのは「自分が投げたら何メートル飛ぶか」であって、理想的な条件で理想的な投げ手が出した最大値ではないはずです。

そう考えると、公称値が自分の数字と違うこと自体は、メーカーを責める話ではありません。測っている対象が最初から違う、というだけのことです。

差を作りうる要因を、計算で見積もる

釣り人のあいだでは、「長いロッドのほうが飛ぶ」「細い糸のほうが飛ぶ」「向かい風だと飛ばない」といった話がよく出ます。どれがどのくらい効くのかを、飛跡シミュレーターで比べてみました。

基準は、26 gのミノーを初速22.5 m/s (時速81 km)、角度42度で投げた場合です。初速は、筆者のふだんの河川用タックルで測った39本にいちばん合う値です。決め方はルアーが飛ぶ距離を式で書く記事に書いています。このときの飛距離は42.7 mです。比の中央値が0.64なので、公称値に届くには、この1.6倍の66.7 mが要ります。

変えるもの飛距離 (m)基準との差
初速を1割上げる (24.75 m/s)49.1+15%
ロッドを8.6ftから9ftに (同じ振り方なら、先端の速さが4.7%上がる)45.7+7%
PE1号を1.2号に42.4−1%
投げる角度を42度から35度に41.6−2%
向かい風2 m/s40.9−4%
飛行中の姿勢が2割乱れる31.6−26%

糸の太さや角度、弱い風は、数%しか動かしません。公称値に届かせるには、初速を31.2 m/s (時速112 km) まで、4割近く上げる必要があります。シミュレーターの初期値の30 m/sは、シマノとダイワの公称値139通りにいちばん合う初速として決めたもので、この31.2 m/sに近い値です。

ここからは推測です。差の大部分は、この初速の違いから来ていると考えています。

1つはロッドです。長さだけで7%違います。メーカーのテストはMHのロッドで、筆者は86MLです。筆者のロッドは、20 gを超えるルアーでは曲がりすぎて投げにくく感じます。重いルアーほど、速さを乗せ切れていないのかもしれません。

もう1つは投げ方です。室内で足場がよく、飛距離だけを狙って全身で振る投げ方と、夜に立ち込んで、狙った筋に落とすことも考えて振る投げ方では、初速の1割や2割は違っても不思議ではありません。

次に効きうるのが、姿勢が乱れた投げの扱いです。2割乱れるだけで26%縮むので、とても大きく効きます。筆者の平均には、乱れた投げも全部入っています。メーカーが失敗した投げを除いているかどうかは、公表されていません。

測り方の違いは、差を説明する向きには効きません。巻き取った糸の長さで測ると、糸ふけのぶん長めに出ます。こちらが長めに測っているのに届かないので、本当の差はもう少し大きい側です。

まとめると、テスターのロッドと投げ方による初速の差が大部分で、そこに乱れた投げを含めるかどうかが乗っている、というのが筆者の見立てです。どれも測ったわけではありません。計算はルアーの形を1つに固定したもので、ルアーによって効き方は変わります。

何が言えるか

公称飛距離は、そのルアーが最もよく飛ぶ条件で測った値です。釣り場で出る数字ではありません。これは誇張ではなく、条件を書いているシマノを読めばそのとおりに書いてあります。

公称値どうしを横に並べて比べることもできません。縮み方が同じではないうえに、そもそも測定条件を公表していない会社があります。シマノの70 mとダイワの70 mが同じ条件で測られた保証はどこにもありません。

そしてばらつきが1.4倍から3.4倍違うということは、メーカーの数字は条件も投げ手もそろった状態で出ているということです。自分の釣り場に置き換えるなら、平均が公称の6割あまりにとどまるうえに、1投ごとの振れ幅も2倍近くになると考えたほうが実態に近いと思います。糸ふけのぶんを差し引けば、平均はもう少し下です。

だからといって公称値が無意味なわけではありません。同じメーカーの製品どうしを比べるぶんには、条件が揃っている可能性が高いからです。使えるのはそこまで、ということになります。

自分で測った数値はルアー実測に置いてあります。測り方は飛距離をリールの回転数で測る記事にあります。

使ったもの・参考文献