潮汐シミュレーター:月の位置から潮を作る
月と太陽の位置を動かすと、潮の膨らみと潮位カーブがどう変わるかを目で見られる教材です。季節によって1日の潮の回数が変わる理由を、図で確かめられます。
日付と月齢と緯度を動かすと、潮の膨らみの向きと、そこから決まる1日の潮位カーブが変わります。理想化したモデルなので実際の潮位とは一致しませんが、「なぜ季節で潮の動きが変わるのか」を目で見て確かめられます。使い方は下の解説をご覧ください。
平衡潮汐論(海が地球全体を一様に覆い、陸地も摩擦もないと仮定した理想モデル)による計算です。実際の潮位は海の形や深さ、摩擦で大きく変わります。数値は相対値で、単位はありません。
見方
左の図は、地球を横から見たものです。アンバーの輪郭が潮の膨らみで、月の方向とその反対側の2か所がふくらんでいます(見やすさのため誇張しています)。白い破線の輪が観測地点の緯度の円で、赤い点が観測者です。時刻を動かすと、観測者がこの円を1周します。
右の図は、その観測者が感じる1日の潮位カーブです。アンバーの点が満潮で、赤い破線が現在時刻です。
「▶ 1日を再生」を押すと、観測者が地球を1周する様子と、潮位カーブ上の現在位置が連動して動きます。膨らみの近くを通るときに満潮になることが見て取れると思います。
試してみてほしいこと
1. 夏至の大潮と秋分の大潮を比べる
上のボタンで切り替えてみてください。秋分では月が赤道の近くにあり、膨らみが左右対称に並ぶので、2回の満潮がほぼ同じ高さになります。夏至では月が赤道から大きく離れ、膨らみが斜めになるので、観測者は「大きい膨らみ」と「小さい膨らみ」を通ることになり、2回の満潮の高さが揃いません。
これが日潮不等です。極端になると満潮が1日1回だけになり、これを1日1回潮と呼びます。
2. 小潮で逆になることを確かめる
「夏至の小潮」と「秋分の小潮」を比べると、大潮とは逆の結果になります。上弦・下弦の月は太陽から90度離れているので、太陽が赤道から離れる夏至には、月のほうは赤道近くにいるからです。
「大潮のほうがよく動く」は正しいのですが、2回の潮が揃うかどうかについては、季節によって大潮と小潮が入れ替わります。
3. 緯度を動かす
緯度を0度(赤道)にすると、月がどこにあっても2回の満潮が同じ高さになります。逆に緯度を上げていくと日潮不等が強くなり、70度あたりでは満潮が1日1回だけになります。日潮不等は、観測地点の緯度にも左右されます。
4. 太陽の効果を外す
チェックを外すと月だけの潮になります。すると満月・新月では振れ幅が小さくなり、上弦・下弦では逆に大きくなります。
つまり大潮と小潮の差は、月そのものではなく太陽を足すか引くかで生まれています。満月・新月では月と太陽が一直線に並んで力が足し合わされ、上弦・下弦では90度離れて打ち消し合う。太陽を外すとその足し引きが消えるので、大小関係がひっくり返るわけです。
5. 惑星を入れてみる
「惑星の効果を含める」にチェックを入れてください。 水星から海王星までの7つが計算に入ります。
カーブは変わりません。 変わったように見えないのではなく、実際にほとんど変わっていません。読み取り欄に「惑星を足したことによる振れ幅の変化」が出るので、そこで確かめられます。小数第6位で見ても、ほとんど0です。
チェックを入れると、下に惑星の表が出ます。その日の地心距離と、月を1としたときの起潮力の比です。日付を動かすと距離が変わり、比も変わります。金星がいちばん近づく時期でも、月の1万分の1台にしかなりません。
「惑星だけを拡大して見る」にチェックを入れると、右のグラフが惑星の寄与だけに切り替わります。 縦軸を自動で合わせるので、形は見えます。縦軸の目盛りが、月と太陽のときの何分の1かをグラフの下に出しています。
なぜこうなるのかは潮の満ち引きに、月と太陽以外の惑星は効いているのかで計算しています。起潮力は距離の3乗に反比例するので、質量がいくら大きくても距離で押し切られます。
このモデルの限界
ここで計算しているのは平衡潮汐論という理想モデルです。海が地球全体を一様に覆っていて、大陸も島もなく、海底との摩擦もない、という前提に立っています。
そのため、実際の潮位とは次の点で違います。
- 満潮の時刻がずれます。 実際には水が動くのに時間がかかるので、月が真上に来てから満潮までに数時間の遅れがあります(全国239地点の記事で測ったとおり、その遅れは場所によって1.8時間から10.4時間まで違います)
- 潮の大きさが場所で大きく変わります。 有明海のように共振で増幅される海もあれば、日本海のようにほとんど動かない海もあります
- 縦軸に単位はありません。 相対的な形だけを見るためのものです
このモデルが出す潮差は、月と太陽を合わせても53.6cmです。 実際の有明海は約5m、日本海側の穏やかな地点は20cm台。桁が違います。
その差を作っているのは、湾の形です。 湾には長さと水深で決まる固有の周期があり、それが潮汐の周期に近いと増幅されます。湾の形が潮差を決めるでは、この共振と摩擦を式で書き、湾の長さと水深を動かして増幅率を見られるようにしました。 ファンディ湾で答え合わせもしています。
陸地と摩擦をこのシミュレーターに入れない理由も、そちらに書きました。 一言でいうと、1次元でできることには限りがあり、地球全体でやるとシミュレーターの目的から外れるためです。
それでも、季節と月の位置から潮の「形」が決まるという骨格は、このモデルで説明できます。実際の潮位でどうなっているかは潮見アプリで、その理屈の検証はなぜ夏の大潮は夜に潮が動かないのかで扱っています。
計算について
- 月は黄道上を回るものとして扱っています(実際の月の軌道は黄道から約5度傾いていますが、話を単純にするため省いています)
- 潮位は、月と太陽それぞれについて起潮ポテンシャルの形 (3cos²ψ − 1)/2 を計算し、太陽を月の0.46倍として足し合わせたものです(ψ は天体の天頂角)
- 図の膨らみは、実際の比率のままでは見えないほど小さいため、誇張して描いています
- 惑星の位置は、JPL の Approximate Positions of the Planets の軌道要素からケプラー運動として計算しています。年は2026年に固定しています(日付のスライダーが通日だけのため)。質量は JPL の Astrodynamic Parameters の値で、惑星暦 DE440 によるものです
- 惑星の起潮力は、月と同じ形の式に、質量 ÷ 距離の3乗を月と比べた値を掛けて足しています。月の平均距離は384,400 kmとしました
- 潮の高さを式で書く:平衡潮汐論と、シミュレーターの中身でも計算の解説をしています。